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evil tale  作者: 明間アキラ
第二章 「変身」 ー第二地区襲撃編ー
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第十三話「邂逅:中編」

テオとルーカス、彼らが現れたのはある部屋だった。


飾り気のない壁、床には散らばった白い紙に本

汚れたサラと洗ってないコップが乱雑においてある背の低い机に

所々破れている革製のソファや一人用のソファがおいてある。


向こうにはキッチンがあるが、見る気はしなかった。


「おっと、わりい、忘れてた。」


そう言って苦笑するテオは

指をそれっぽく動かすと皿や本、書類たちがひとりでに動き出した。


すべてがキッチンや本棚、机の一か所にに集まり、重なっていく。

テオはそちらの方を見て、指を動かしていた。

水が出ている音が聞こえることから遠隔で洗っているのだろうか


机の上にあったゴミも動かして、すべてゴミ箱に飛んでいった。


「すまん、すまん、どうぞ座ってくれ」


そういって彼は冷蔵庫に歩いていく。

しばらくすると魔法による掃除が終わり綺麗で殺風景な部屋が出来上がった


「まだあったかな・・・」


彼は何かをつぶやきながら

冷蔵庫から瓶を取り出し、机に持ってきた。


「これ飲むか?」


そう言って差し出してきたのは

『サイダー』と書かれた瓶だ。


一瞬驚いてしまうルーカスにテオは饒舌に語り始めた。


「そいつは知り合いが作ったもんなんだけど、サイダーって言うらしい。

甘いし、酒じゃないから炭酸なのに酔わねえ。結構いいもんだぜ」


そう言って自信満々にサイダーの入った瓶を差し出してきた。


ルーカスを恐る恐るそれを取り、飲む。


(うわ、ほんとにサイダーっていうかラムネだなこれ)


もうここで十八年いるのだからそれより前の記憶になるのであろう

その感覚を思い返す。

久々にその甘ったるい炭酸水の記憶が蘇ってくる。


(本当に甘いな、こんなに甘かったか? でも、うまいな)


ごくごくと飲むルーカスを見て、ご満悦のテオは

向かい側のソファに腰掛けた。


「気に入ってもらえて何よりだ。

俺も好きなんだよ、それ」


嬉しそうに笑うテオ


「ほんじゃあ、本題に入るか」


そういって真面目そうなトーンに切り替え、

背もたれに預けていた体重を前に倒し、

開いた足に肘を乗せながら話し始める。


「改めまして、俺の名前はテオ・クラークだ

あんたは?」


「ルーカス」


「そうか、ルーカスか」


テオの目線がルーカスの顔にちらっと行った後、元に戻る。


「そうだなあ、何から話したもんか

まあ、説明する時間もない。


俺はあんたをスカウトしたいんだ。」


(は?)

二人の間に沈黙が走り、

彼の顔に疑問が浮かぶ。


が、テオは気にせず話す。


「まず、あんたは『騎士を相手に暴れる魔獣青年』

俺からはそう見えたんだが、間違いはないか?」


「多分、そう・・・」

(よくわからんのだが・・・)


唐突に連れてこられた彼の頭は混乱しているが、

テオはそれらをすべて無視し、そのまま話始める。


「そうか。なら、端的に話そう。俺の部下になってくれないか?」


顔に不愛想ながらも疑問を浮かべるルーカス


「ええ~と、俺らは、まあ、テロリスト、革命家、政治犯・・・・のどれかに入るだろうな

それに協力してほしい、ほら、もうお互いに取り返しつかんだろ?」


指を折りながら物騒な名前を挙げていくテオ

ためらいがちに言っているようなそうでもないような


「そりゃあ・・・そうだが・・・」

(その言い方で加わる奴いるのかよ)


疑問を持つルーカスはまた無視され、そのまま話は続いていく。


「あんたは今何が起きてるかはわからないだろうし、説明する時間はない。

俺があんたに提案できる選択肢は・・・・四つだな」


親指を追って、四本指を立て、手を前に出すテオ

数に合わせて、指の数を変えて喋り続ける。


「一つは、ここでさよなら。別に俺はあんたを捕まえる気はない。

これからいう三つのどれもが嫌ならどこかへ逃げてくれていい。


二つ目は、ここで待っててもらうこと。俺であんたを保護しようと思えばできんことはない。

仲間と要相談だろうし、あんたの希望がわからんから、どうなるかはよくわからんが

一応それをあんたがそれを望むなら、できるだけ応えよう。

もっとも、ここが騎士にバレてないって保証はできんし、

ここから逃げられるとそこまではさすがに関与できない。


そして、三つ目四つ目は俺たちと協力することだ。

これからここに二人、人が来る。

そいつらと協力してある場所を襲撃してほしい。


違いはそれから先も俺らと組むかどうかだ

ここ限りでも確実に本拠地まであんたを持って帰る口実はできる。


それからも協力してもらえるなら俺らの軍隊にあんたを迎え入れる

秘匿性の高い部隊に入ってもらうからあんたのアレも問題ないはずだ。


どうだ? これのどれを選ぶ」



ルーカスは黙り、上を向いた。

天井を仰ぎ見て、動かなくなった。


「・・・・・・・」


「どうだ?」


「ちょっと」


「ん?」


「待ってくれ。頭が追い付かん」


「おお、そりゃ悪い」


テオは目の前のサイダーに手を付け、飲みながら

ルーカスの回答を待っている。



(情報が多い・・・っていうか俺は今どうなってんだ・・・・)


目覚めて、すぐよくわからない奴に殺されそうになった後

自分が化け物になっていた。


そして、なぜか革命家を名乗るヤバそうな人物に

スカウトを受けている。


サイダーを飲んで、落ち着いてしまったこともあり

大量の情報が一気に流れ込んでくる


(選択肢は四つ・・・・)


「なあ」

ルーカスがそう口を開く。


「ん? どうかしたか?」


「こっちからも聞いていいか?」


「ああ」


時計をちらっと見るテオは、ちらちらと周りも確認した後、


「いいぞ」


そう言った。


質疑応答の始まりである。


「ここはどこだ?」


「第二地区首都ラベン」


「なんで俺がここにいるかわかるか?」


「5、6時間前にコリン採掘場から列車で護送されてたそうだが、あんたは知らなかったのか?」


「・・・・そうか、知らなかった。」


(どうなってんだ?)


「詳しい事情は知ってるのか?」


「理由とかはよく知らん。あんたがいた役所に用があったから目をつけてた。

そしたら、何やら荷物が運ばれてきてそれがコリン採掘場から来てた。

んで、その荷物が役所を粉々に粉砕した。

俺が知ってんのはそれだけだ。」



「なんで、俺を勧誘しようとしたんだ?」


「強い人材はいくらいてもいい。

状況から見て、あんたは孤立してそうだったし、

裏切りの可能性も低い上に、あの粛清騎士とやりあえるだけの戦闘力があった

だから勧誘した。」


「殺人とかは気にしないのか?」


「俺たちだって人ぐらいもう殺しただろうぜ」


「それはどういう意味だ?」


「俺にも仲間がいて、 

あんたが暴れたのとほぼ同じぐらいの時間

他の地区ではもう行動を起こしてる。もう犠牲は出てるだろう。

人殺しがダメならそもそも、こんなことしねえよ」


「そうか・・・・襲撃っていうのは?」


「粛清騎士たちの基地、そこを叩く。

詳細は二人が来てから話す。

まあでもあんたのやることは、多分施設ごと破壊する勢いで暴れてもらうことだけだが」


「・・・・・・」


「もう終わりか?

アイツら遅いから、まだちょっとは答えられるが」


彼はそう淡々と答える。

どんなに答えづらそうだと思うようなことで

すらすらと雑談でもしているみたいに。


「あともう一ついいか?」

「ああ」


「なんで、俺みたいな奴に声をかけたんだ?」

「言ったろう、強い奴がたりないって」



「そういう意味じゃなく、

俺は、魔獣に見えるんだろう?

普通は暴れる怪物に声をかけたりしない」


下を向きながらそういうルーカスに

テオはまた饒舌に語り始めた。


「ああ、そういうことか

実を言うとな?

俺も役所の中の出来事は把握してる。

話の内容まではつかめなかったが、あんたが区長に爆破された後、

あの化け物になったことは見た。

それに」


「それに?」


サイダーを飲み、息を吐いた後、続きを話すテオ


「魔獣ってのが人を襲う理由は、二つ。食いたいか邪魔だったから

騎士だけ狙い撃つように攻撃して、民間人には目もくれない

ってことは理性があるってことの証拠だ。

話し合いの余地ぐらいはあっただろう。」


「・・・・そうかい

変わってんだな、あんた」

 


「正気で革命なんかするわけないだろ?

犯罪者だろうが、魔獣だろうが、何だろうが、使えるもんは全部使う。

準備は万端のつもりだが、不測の事態はいくらでも起きるのさ


あんたが戦ったあの騎士はエミリーっていう。

このあたりじゃ、有名人の粛清騎士で、何人もの上位クラス犯罪者を捉えてきた女、

しかも、10年もあれやって生き残ってる超手練れだ。


それを相手にしてあんたは戦ってた。

そんな戦力、こんな状況じゃ、持っとくに越したことはないね。


まあ、それに、あんたを倒して騎士から逃げるくらい訳はない。

こんなんでも、俺も名の通った魔術師なんでね」


狂気的に、にこやかに、笑う彼の笑顔の裏に強烈な圧を感じるルーカス


(さっきのエルフとコイツ、明らかに俺があったことのある奴らとは違う

具体的に何かが見えるわけじゃないが、前にいるだけで全身の毛が逆立ちそうだ

多分これがクラス4ってことか)


クラス4、この国の基準において、最高ランクの魔力量と出力を持ち

全人口の1%のもいないとされる天才たち


この国においてこれに生まれるだけで騎士でくいっぱぐれることもなく

そこらの魔獣に殺されることだってない


そんな生まれながらの超人とルーカスは初めて出会った。


「それで、どの選択をするんだ?」


「俺は・・・・」


ルーカスは天井を再び見る。顔を上に向けて、考える。


(すべての意味がわからん。

こいつ頭がいいのか、狂ってるのか、せっかちなのか、それとも全部なのか、

話は早いし、何かが欠落してる、

俺も人のことは言えんが、何か・・・・魔王みたいな奴だ。)


さっきまでのあの凄惨な悲劇がもう遠い過去のようで、

マリとの思い出も、記憶に霧がかかったようにぼんやりとしてくる。


冷静なった今、

採掘場から離れ、化け物になって人を殺した自分に居場所はもうないのではないか

と彼は思い至る。


(俺にやることなんてもうないな、帰るようなところは・・・ない)


目の前には

黒一色で、邪悪に笑う、小さくも大きな男


それに時間をおいて向き直る。


「ひとまず・・・協力する」


「おお、そうか、ならよろしく」


再び手を前に差し出してきた。

その手を取り、二人で握手をする。


「ここは協力して、あんたらの本拠地ってとこに行かせてほしい

そこで、今後も協力するか決めたい」


「なるほど、わかった。」


話しが終わり、一息つくと

ドアが開いた。


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