第十三話「邂逅:前編」
化け物とエルフの間、そこに黒い男がいた。
化け物からすると何かが光ったと思ったら
そいつは突然現れた。
真っ黒な外套に身を包んだ男
全身真っ黒で、癖のある髪も黒色だ。
ブーツも、ズボンも、インナーも
片手には彼の身長にも届きそうな銀色の棒を右手で持ち、
突如として現れたその男は
目がくらんだエルフの腹をその棒で思いっ切り突いた。
それによって
外套がマントの様になびき、袖がめくれ、前腕が露になる。
鍛えられ、太くなった手首、筋肉の筋が浮き出る前腕
その腕によって突き出された長い棒は的確に
エルフの女のみぞおちを突き刺し、
「ごはぁ」
そして、そのまま後ろに吹き飛ばした。
凄まじい速度で建物にぶつかったエルフは
壁を破壊し、がれきに埋もれて見えなくなった。
それを確認すると
その男は化け物の方を向き、顔を見せた。
口角の吊り上がった笑顔、
人を馬鹿にして、あざ笑ういたずらっ子のような顔で、
尖った歯がのぞいている。
癖のある黒髪に、若々しい顔、金色の眼
顔立ちは良いが、その笑い方のせいか
悪人面に見える。
その男が手を広げ、化け物に会釈し、
「よお! 初めまして、
俺の名はテオ、テオ・クラーク
あんたと同じお尋ねもんだ。」
そう高らかに言い放ち、
「なんて呼んだらいいのかは知らんが、
あんた! 俺と一緒に来ねえか?」
手を前に差し出してきた。
「ここにいても騎士がわんさか寄ってきて面倒くさいだけだ
俺と来てくれれば、ひとまずここは切り抜けられるぜ?
どうだ」
手を差し出された化け物はその大きな管を
くねらせて不思議そうにしている。
そして、突如、黒い化け物の体が崩れた。
泥のように崩れていく黒い体
その中から現れたのは
ルーカスだった。
びりびりに破けたシャツにぼろぼろのジーンズ、
使い古したスニーカー
坑道にいた時の彼が、よりぼろぼろな姿で黒い泥の中から中から出てきた。
ただ、違うのどぼとけのあたりが先ほどの化け物の黒を残していることだろう。
それを分かっていたかのように、テオと名乗る男はルーカスに近づいてくる。
背丈はルーカスよりも10cmほどは小さいであろう
その男が歩いてくる。
彼に敵意はないのだろうが、
ルーカスは彼を完全に警戒し、ずっと睨むように彼を見ていた。
「おいおい、そんな警戒すんなって
どうだ? 俺と来る」
そう言って手を出そうとしたその男は、突然後ろを向いた。
そこへ矢のように飛んできていたエルフの攻撃を受け止めるために
「まだ、人が喋ってんじゃねえか」
「指名手配犯が粛清騎士の前にノコノコ出てきといて
無事で済むと思ってんのかい!」
銀色の棒と剣がぶつかる。そう見える。
二人の足が地面にめり込み、二人の力が拮抗する。
その均衡を破ったのはテオの方だった。
少し、テオがエルフを押す。
そして、片手で棒を持ち、もう片方の手のひらを彼女に向けると
彼女との距離がまた離れていった。
「くっ!」
そして、強い衝撃が加わったのか、
一気に離れて、飛ばされる。
エルフの体が浮き、地面と離れてしまった足をどうにか着地させた
彼女の下には銀色の棒が迫っていた。
テオの手による突き
まっすぐ迫ってくるそれをエルフは主事に体勢を立て直して、
懐に潜り込むように避け、剣を突き立てようとした。
「おっと」
その剣先が触れようとした時、テオの体が消え、
彼女の背後に現れる。
そして
「おら!」
脳天をかち割るような上からの振り下ろしを行う。
だが、それは空を切り、地面の石版を砕いた。
エルフが横に跳び、それを避けていたのだ。
そこへまたテオが棒を横なぎにふるうが、それも空中に鮮やかに飛び上がり回避する。
そこからは似たような攻防の繰り返しだった。
テオが棒の先を使って、リーチを活かし、攻撃を繰り出す。
突き、払い、振り下ろす
それをエルフが避け、反撃に転じるとそれをテオが消えてしまう。
そんなやり取りが数秒続いた。
それを見ていたルーカスは奇妙な感覚に襲われていた。
(なんで、俺はあんなのを目の前でやられて、あの風圧と衝撃音にさらされて
なんともないんだ? 怖くないんだ?)
彼の目には彼らの動きがよく見えた。
逆に、飛び散る砂塵の方がスローモーションのように動いているように見える。
床の破片が彼に飛んできても痛くもない。
いや肌にあたらない。
(俺に魔力がある?)
自分の体の異変に驚きながらも彼らの戦いを見ていると、
テオが懐からおもむろに何かを取り出した。
警戒し、守りを固めるエルフ
しかし、その防御の穴を突くように何かが当たる。
それはテオが持っていた物から出てきた火の玉
鎧を黒く焦がし、エルフを後ろに押す。
(銃!?)
ルーカスが見たのはテオの手に握られた拳銃のような機械だ。
薬莢はないのだろう。
それらしきものはでていない。
代わりに拳銃自体から少し煙が上がり、また銃口の先からオレンジ色の光がまた現れる。
テオが引き金を引き度にそれは発射され、
エルフの方に向かって飛んでいく。
だが、もうエルフはそれを見切り、左右に動き、
剣で受け止め、被弾を回避する。
段々と拳銃から出る煙が増していき、
引き金を引いても何も出なくなった。
「あ~あ」
かちゃかちゃとからの銃のトリガーを引くテオ
残念そうに拳銃をもとの場所にしまうと、
中段で身構えているエルフの方に向かって
手を向けて、
「まだこっちの方がいいらしい」
指を鳴らした。
その瞬間、彼女の近くにあった小さい火の粉が
バチバチと火花を散らし、大爆発を起こした。
立ち込める爆炎と煙、
彼女の姿が見えなくなるほどの煙があがり、
爆音はルーカスの耳に耳鳴りを起こした。
そんな時、彼の目の前には突如また、テオが現れた。
「さあ、どうする?」
そういって手を前に出してくる
「俺と手を取ってくれればひとまずいったん安全な場所に行ける。
いったん来てくれないか? 話したいことがあるんだ」
ためらうルーカス、手が動きそうでうごかない
その男は彼の方へその悪そうな笑顔を浮かべながら
じっと手のひらを向けて待っている。
(・・・・・)
その手をルーカスはとった。
瞬間、彼らの視界は全く別のものに変わった。




