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 3日目の朝、事件は起きた。それは日比谷達がダンジョンに行ってから暫くたったぐらいの時だったか。俺が魔法を使う練習をしようとした時、物理チームの方が騒がしくなっていた。


「高良と渡辺が手合わせするってよ」


 それが聞こえた途端、俺は物理チームの方へ走った。それに気がついたエリーさんが驚いた表情をした。


「ちょっと!いきなりどうしたんですか!?」


 物理チームの所につくと、クラスメイト達が円を作っていて、その中心辺りに高良と渡辺が立っていた。二人の手には木刀が握られていた。もうすぐ始まるらしい。俺は、クラスメイト達の少し前まで出る。なにかがあったら直ぐに止められるように。

 残念ながら俺に今すぐ止めることは出来ない。口で言って止まることはないだろうし、今無理やり高良を魔法で倒しても、後々俺が不利に高良が有利になるだけだ。だが、どちらにせよ止めない訳にはいかない。

 アルベルトさんがいたら、アルベルトさんが先に止めていただろうが、日比谷達についていったので今はいない。

 俺が今出来ることは止めるタイミングを見計らうだけなのだ。それにしても、高良の野郎、とんだ下郎だな。


「渡辺ぇ、観客も出来たことだしそろそろ始めるかぁ?勇者じゃなぁい時点でお前生きる価値なんてねぇんだよ!」


 そういって高良は笑う。それに対して渡辺の表情が曇る。


「…」


「なんか言えよ?つまんねぇじゃねえか?オラ、始めんぞ!」


 高良は渡辺へ乱暴に木刀を振るう。それを渡辺は木刀を使って防ぐ。だが、明らかな力量差に吹き飛ばされ、2mくらい地面を転がってしまった。そして、渡辺は身体の至る所を擦りむいた。それらの傷口から血が滲み出す。


「うぅ…」


 手合わせとして、渡辺は傷つき過ぎていた。もう、手合わせなんか続けるような状態じゃない。痛みに慣れていない人だと、立ち上がるのも辛い、そんな状態だった。


「ぶぁはっ、ははははっ、渡辺雑魚すぎかよ!くは、ははは!ほら、立てよ!まだまだ始まったばかりだぞ?」


だが、高良はまだ続けるらしい。これ以上やるなら俺は止めに入る。怪我をさせた時点で俺が高良に対して実力行使をしても問題ない。

 立ち上がった渡辺に高良は木刀で攻撃しようとする。そこに俺が割って入った。


「これ以上動いたら魔法でお前を倒す」


「…佐倉、お前…またイジメて欲しくなかったらそこをどけ!邪魔なんだよ!」


 間に入った俺に、高良は木刀を当てようとする。それをよけ、俺は水魔法を使い高良の全身を濡らす。全身だからその分使うMPも多いが、問題ない。


「佐倉てめぇ、こんなへなちょこ魔法で俺を倒そうとしてたのか?守られる方が雑魚だったら守る方も雑魚って、くだらねぇっ、はは、馬鹿じゃねえの?」


 そういって、高良は余裕の表情を浮かべる。


「佐倉くん…なにやってるの…?やめて…」


 渡辺にそう言われるが無視して続ける。俺は、笑未だ笑っている高良の木刀を握った。これを観ているクラスメイト達は高良と同じように笑っていたり、困惑していたり、俺にも軽蔑の表情を向けたりしていた。


「…なんだよ?」


 高良がそう俺に聞くがそれも無視する。そして、木刀を思いっきり引っ張って高良に近づき身体に触れる。バカにしているのか?という顔をしている高良に容赦なく、雷魔法を流す。

 

「ぐぇわばばばばば!!」


 高良が白目を向き奇声をあげて、倒れる。そして、二、三度痙攣すると動かなくなった。勿論殺してはいないが、周りは騒然となる。俺は、クラスメイトに聞こえるように、作り笑いをしながらこう言った。


「ハァー、すっきりした。」


 クラスメイトに怯えの表情が混じり始める。それに追い討ちを掛けるように言う。


「…なに見てんだよ?ゴミクズども。お前らも死にたいのか?コイツみたいに」


 当然のことだが、高良は死んでいない。だが、クラスメイト達に対する脅しとしては問題ないだろう。俺はその怯えに拍車をかけるよう、さらに脅す。


「ストレス発散になるからな、いくらでもかかってこいよ?なんなら渡辺に手を出してもいいんだぜ?コイツに手を出した奴を止めたってことになって、悪いのはお前らになるからな、今回みたいに」


 これで渡辺への静止力になるだろう。俺は最後に高笑いをして、訓練所から去っていった。


──────

────

──


 はぁ…、恥ずかしい!中二病が再発したような感覚がしたよ!再発してないよな…?黒歴史が蘇ってくる。ああああ!

 …まあ、それは置いといて、出来れば永遠に忘れていたいが…、この事件でクラスメイトと特に交流がない俺は、完全にヤバい奴だと思われただろう。クラスメイトには、俺がそこそこ強いと錯覚させることも出来た。

 強いのならすぐさまダンジョンに放り込まれる、となりそうだが、実際俺が使ったのは初歩的な水魔法と雷魔法だけだ。スキル自体ならそんな強くもない。だから、国からすればただの危険人物だ。ダンジョンに放り込んでレベルと経験を積ませるより、まだ訓練させておいてレベルが低いままにした方が良いと思われるだろう。

 だから、俺がダンジョンに入るのは遅くなる。国から処分されるという危険性もあるが、俺は高良を殺しちゃあいない。しかも、勇者という立場だ。その危険性は低いだろう。

 いいタイミングで、渡辺への静止力をかけることが出来た。それにしても、渡辺の怪我は大丈夫だろうか?

2018/9/3

投稿ペースを変更致しました。詳しい理由は活動報告に記載しています。投稿ペースは毎日15時→毎週日曜日15時に変更です。

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