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地獄の鍛錬が始まったことにより、俺の穏やかな生活は終わりを告げた。
毎日走っては倒れ、走っては倒れの繰り返し。そしてそれを軽々と成し遂げてしまうサムさん。
早三日目にして、俺の心はぼろ雑巾のようにズタズタになっていた。
それに加え、身体中から激痛が走っている。
俺は机に突っ伏してうなだれていた。
「鍛錬が此処まで辛いとは思わなかった…」
「鍛錬の場所についた時にはもうダウンしてるだろ?まだサクラは鍛錬をやってないぞ」
「あっ、サムさん。お帰り」
俺は朝の鍛錬から帰って来たサムさんに挨拶をした。
「昼の鍛練には参加するんだよな?」
サムさんは早朝から昼にかけてと、昼から夕方にかけての1日二回の鍛錬を行っている。
俺は朝の方はやっていない。参加するのは昼からなのだが、正直後悔している。
「…ガンバリマス」
「お、おう、頑張れ…」
俺が死んだ目で応えると、少し引きながらもサムさんが応援を返してくれた。
すると、チェルが昼時なのにも関わらず帰ってきた。
「たっだいまー」
「おう、お帰りチェル」
「あれ?いつもは夜遅くに帰ってくるのに…どうしたんだ?」
「買い出しに行かなきゃいけないから、早めに帰ってきたんだよ」
「なるほどな、買い出しか」
買い出しという言葉に、俺は密かに胸ときめかせた。
鍛錬のように辛くなく、暇な時間を潰すことができる夢のような行為。
興味が無いはずがない。
「ありゃ、もう買い出しの日になったのか。何時もより速くないか?」
「うん、サクラがいるから食料の消費スピードがいつもより速いんだ」
「ああ、そういうことか」
「そういうこと。昼ご飯食べたら出発するから」
チェルがそう言うとサムさんは、机の上にチェルと俺の分のポトフを置いた。
「ほら、昼飯だ」
「昼にポトフって…いただきます」
チェルは少し顔をしかめてから、ポトフを食べ始めた。
「そうだ、サクラも買い出しに来る?あっサムおじさん、おかわり」
「おう」
サムさんがポトフを追加でついだ。
「俺も行っていいのか?」
「もちろん。あっ、おかわり」
「ああ」
ポトフをまたチェルの所に追加でサムさんがついだ。
「じゃあ一緒に行こうか。おかわり」
「わかった」
「サムさんは行かないのか?」
「うん、鍛錬があるからってあまり一緒には行かない」
「おかわりだ、受け取れ」
「ありがと」
「そう言えば、買い出しってどこに行くんだ?」
「んっと、近くの村だよ。おかわりお願い」
「あそれっ」
「村に名前はあるのか?」
「うん、スパーズ村っていうんだ」
「おかわりだ」
「ども」
「スパーズ村かぁ」
「おかわりいるか?」
「うん、これで最後にしとく」
「わかった」
そして、チェルは昼飯を食べ終えた。丁度俺もそのときポトフを食べ終えたので、二人で外へ向かった。
「ん?ちょっとまて。ポトフ何杯食べた?」
「えっと、八杯かな?」
「多くね?」
「チェルは俺より大食いだからな。行ってらっしゃい」
「行ってきまーす」
そうして、サムさんから衝撃的な事実が告げられた。
───
──
─
「着いたよ、ここがスパーズ村」
「へぇ、ここが…」
その村は森を抜けた先の開けた平原にあり、村の中は柵で囲まれていた。
「大きな村だな」
「そうだね、街とかと比べると全然だけど、それでも三百人位はいるんじゃないかな」
「三百人か…」
「まあ、顔見知りは三十人程度だけどね」
そういって、チェルは村の方へ歩き始めた。
「これからどこに行くんだ?」
「道具屋、まずは薬草とか矢とかを買っておくんだ。特に薬早は腐っちゃうから」
「なるほど」
そこから暫くして、“道具屋”という看板がかかった木造の家が見えてきた。
入り口は扉がなく、その周りに“村での売り上げNo.1の道具屋!”だとか、“商品が全品村の最安値です!”とかの広告がびっしりと貼ってある。
「ここが道具屋。店主はちょっと頭のネジが外れた人だけど気にしないで」
そうチェルが道具屋の前で一旦止まって俺に忠告して来たので、俺はわかったといって頷いた。
それを見てチェルが中に入って行くので、俺もそれに続いた。
すると、俺達に気がついて店の奥から15才位の若い女性が此方に来た。
「いらっしゃいませー!スパーズ村売り上げNo.1!ここは道具屋エミシィですよ!」
「売り上げNo.1って本当なのかチェル?」
「うん。スパーズ村唯一の道具屋だから…ナンバーワンというよりオンリーワンだね」
「はっはっは、モノは言い様だよ!久し振りだねチェリー!」
「久し振り、エミシィ」
エミシィと呼ばれたその女性にチェルは、少し嫌な顔をしてそう返した。
「エミシィって自分の名前を店に付けてるんだな。あと、チェリーってチェルのことか?」
「そうだよー!君は誰?チェリーの愛人?」
「違うよ、居候。サクラっていうんだ」
「へぇ、サクラかぁ。あっ、そうだ!ちょっと待ってて」
そういうと、エミシィはカウンターに積み重ねられた紙を漁り出した。
「なあ、チェル。この村の人って全員こんなのなのか?」
「大丈夫、この子だけだから」
暫くして、エミシィが一枚の紙を持ってきた。
「みてこれ!」
それをチェルが受け取り、読み上げる。
「えっと、指名手配サクラ・ソウマ。特徴は黒髪黒目。生け捕りのみで、捕まえたものはアルキセルド国までって…アルキセルドって隣国の?」
「そう!サクラって名前で思い出したんだけど…どう見ても黒髪でも黒目でもじゃないしね」
エミシィがこっちの方を見て、言った。
「俺の他にもサクラなんているんだな」
「ボクも驚いた。でも、エミシィが言った通りサクラには関係ないよね。サクラって名前はボクがつけたんだし」
チェルはそう言ったが、俺は関係無いと言う言葉が、納得出来なかった。
「…サクラ?どうしたの?」
「いや…何でもない」
しかし、その言葉が間違っているという筈も無い。
俺は変な違和感を抱えながらも、気にしないように心がけることにした。




