「ナナヤの夢」
夢で見たような奇妙な世界があった。
その世界は、入院患者用の病室のようで、とても狭く、とても小さいものである。床も壁も天井も全て灰色の世界の中にあるベッドで、少女は誰かが泣いている声で目覚めた。
「どうしたの? 泣いてるの?」
彼女が呼びかけると壁の向こうで泣いていた声は息を呑んで止まり、静かになる。
「もしもーし、大丈夫?」
再度呼びかけると、壁の向こうから可愛らしい少女の声が返ってきた。
「あ、あなたは誰……?」
「お、大丈夫そうだね。ボクはナナヤっていうんだ。キミは?」
「私は……ナナ」
「ナナ、ね。これからよろしくー」
それからは興奮するナナをなだめつつ、自分の置かれた状況を確認するために互いに質問をし合う。ナナはそのことをとても喜んでいるようだった。
そして明かりが消えて夜になると、ナナの方からうめき声が聞こえた。
「ナナ、眠れないの?」
「……ごめん。起こしちゃった?」
「いや、ボクも起きてたからいいよ。苦しそうな声がしてたけど大丈夫?」
「うん。私が今まで何をしていたか思いだそうとするんだけど、そうすると頭が痛くなって……」
無理だよ。だって、そう作ってないんだから。
「……ナナヤ?」
「なんでもないよ。ねえ、ナナ。眠れないならお話してあげようか」
「お話?」
「そう。悪い魔女によって白いお城に閉じこめられた女の子のお話さ」
Z・Z・Z
レイを殺した後、ボクは外に出てみた。
レイが破壊するはずだった外の世界を見てみたかった。
ナナとボクが守った世界を見てみたかった。
でも、お城の外には、何もなかった。
ただ荒野だけが広がっていて、どこまで行っても誰もいなかった。何年も、何十年も、何百年も探した。だけど、誰もいなかった。
もうとっくに、世界は滅んでいたのだ。
彼女が手を下すまでもなく、世界は壊れていた。
レイが封印をどうにかしようとしている間に、外の世界が滅ぶに十分すぎるほどの時間が経っていたのだ。
原因は分からない。
分かる必要もない。
仕事で見ていたあの街は、あの世界は、ただ夢の力を忘れないようにするための映像だった。実際には、誰も殺せていないし、何も壊せていなかったのだ。
だって、もう何もないんだもの。
もう誰もいないんだもの。
この世界の物語は、もう終わっているんだもの。
でもいいんだ。
ボクには、ナナだけがいれば。
他には何もいらない。
この壁の向こうに、ナナだけがいてくれればいいんだ。
夢の中なら、いつでも会えるから。
夢の中なら、何度でも会えるから。
「昔々、あるところに……」
この夢だけは、ずっと覚めないように……。
この夢だけが、ずっと続くように……。
目覚まし時計のスイッチは、切っておこう。
これにて、九十五個目の狂った目覚まし時計は完結です!
ここまでお読み頂き誠にありがとうございます!(`・ω・´)ゞ




