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黒の一号・終章  作者: 凡仙狼のpeco
『愛媛隕石篇』
19/58

第18節:VSテータ・コピー(前編)

 ―――徳島エリアにて。


「ルナ。第二部隊が押されてる。ちゃんとやって」

「分かってるわよ! 第二部隊後退! 第一・第三部隊で挟撃!」


 彼女たちが指揮しているのは、タランテール00の部隊だった。

 《白の装殻(クルセイダー)》の空中戦型装殻である『ロッカス・プサイ』を纏うリリスと『ロッカス・ラムダ』を纏うルナはツーマンセルを組み、空中から部隊の指揮を取っていた。


 二人が装殻の上にさらに鎧うオリジナル・ガンベイルは、彼女らの唯一の攻撃手段であるブレード・スラスターの増設と数が増えた武装を制御する補助頭脳、そして滞空・航続距離を重視したブースト・コアとスラスターを備えたもの。


「―――させない」


 指揮をとる為に動きの鈍ったルナを空中型の襲来体が襲おうとするのを、リリスは即座に射出した旋回能力重視のブレード・スラスターで阻む。


「ちょろちょろと……鬱陶しいのよ!」


 第ニ部隊が危機を脱すると、ルナが同様にブレード・スラスターを射出して空中型を殲滅し始めた。

 攻撃特化の、直線加速機動を得意とするブレード・スラスターを避けきれずに貫かれた空中型が、次々と砂になって崩れ落ちる。


 元々、紙装甲の空戦型である彼女たちは、攻撃と防御の二体一組で運用する事を想定されていた。


 リリスが守り、ルナが倒す―――和解して本来の戦術を取り戻した彼女らは、今、その力を遺憾なく発揮していた。

 にも、関わらず。


「想定以上に、数が多いわね……!」


 襲来体の群れは、途切れる事を知らないかのように、倒しても倒しても次々と増援が現れる。

 ルナの呟きに、リリスはニーナから送られてくるデータに目を走らせた。


「境界線上の襲来体駆除システムは正常に動いてる……この数は、おかしい」


 実際、途中までは散発的だった襲来体の出現頻度が、いつの間にか大軍勢を相手にしているかのような状態になっている。

 リリスの呟きを聞きつけたのか、地上でタランテール00部隊と共に遊撃として襲来体を相手にしていたミチナリが通信越しに話しかけてきた。


『ライン上に広がっていた襲来体の出現方向も、一定化している。この状況には向こう側で覚えがあるな』

「ええ。アナザー、もしくはコア・コピーが駆除システムのラインを越えた可能性がある。……この感じは嫌い」

『俺が切り込む。援護を―――』


 と、ミチナリが口にしたところで、リリスのサーチ機能に反応があった。


『警告.高出力霊子反応.照会……形状:白銀の執行者(ベイルドパラベラム)捌式変異型(テータ・オーバードライブ)

「……何ですって!?」

「マズい……」


 超高速で空中を駆ける光点が、見る見る内にこちらへ迫ってくるのがリリスの目に映った。


『下へ降りてこい、リリス、ルナ。三人で相手をする!』

「「了解」」


 部隊の指揮権を第一部隊長、副隊長に移したルナとリリスは、下に現れたエータに向けて降下した。


 二人がいたのは、旧市街区の上空。

 眼下の無人化した街並みの中に、巨大な装殻がいた。


 両肩には本体に匹敵するサイズの反応装甲で覆われたランチャーパック搭載の大型スラスター。

 手には長大な突撃槍、前腕にはタンク型の機関銃、背部バックパックには、これも大型のスラスターと両脇にスナイパーライフルとバズーカが備えられている。

 広域・大規模戦闘における強襲・制圧のみを目的として建造されたミチナリのオリジナル・ガンベイルだった。


 量産型ガンベイルの基礎となったものでもあり、運搬形態への可変能力を備えている。

 頭と胴体は元々の《グリズリア・エータ》のものであるため、まるで人型ハンガーの中心にエータをジョイントしたような形状だ。


「来るぞ!」


 空を見上げるエータの声と共に、会話を交わす間もなくレーダーマップ上の光点が自機の位置と重なった。

 ヒュゴウ! と風を巻く音と共に姿を見せたのは、六対のフェザースラスターを備えた装殻者。

 両腕と融合した二本の長大な刃を携え、頭部を覆うのはヘッドギアのみで、晒された素顔は彼女達がよく見知ったものだった。

 しかし同時に、『彼』ではあり得ない笑みを、その装殻者は浮かべた。


「『私』の言った通りだな。小賢しい策だったが、私自身が赴けば問題ない、という話だ」


 襲来体は、元は一つの存在である。

 擬似的な自我を持つコア・コピーはアナザーの思考をトレースしており、アナザーと他のコア・コピーも含めた全てを一人称で呼称する。


零式(ニヒル)のコピー……この間の黒の一号のような、外見だけの存在かしら?」

「いいや、ハズレだラムダ。この肉体は零式コアを移植する前の正戸アイリをコピーしたもの。殺さずとも、人体情報さえ得られればこの程度の事は可能……零式コアなしで力を発揮するために装殻者に負担を強いていたようだが、私には関係がない。零式と同程度の能力を持つ襲来体の誕生、という訳だ」

「よく言うわね。たかが戦闘力をコピーしただけでマサキと同等の力を得たつもり?」

「マサキの強さは、心の在り方と共にある。それは、他の装殻者も同じ」

「貴様は、所詮ただのコピーに過ぎん」

「ならば殺してみせるがいい。貴様ら如きに出来るのならな!」


 テータ・コピーは嘲笑い、両刃をしゃらん、と擦り合わせて三人に襲いかかろうとしたが。


『斉射!』


 不意に、鋭いハスキーボイスが全周波通信より聞こえ。




 テータ・コピー に向けて、上空から殻弾の雨が降り注いだ。




「ぐぅ……!?」


 テータ・コピーはとっさに刃と背部のフェザー・スラスターを盾にそれを防いだが、代わりに地面に叩き落される。


「あれは……」


 エータの声と共に上空を見上げたリリスは、無数の灰色の装殻者と、白い外殻を持つ捌式、そして数機の『青蜂』が上空に豆粒のように位置している数十の輸送機から降り来るのを発見した。


「日本政府軍……?」


 リリスの呟きに答えたのは、白く塗られた『青蜂』の一機だった。

 大太刀を携え、他の装殻者に先んじてリリスらの元へと降り立つ。


「久しぶりだな、《白の装殻(クルセイダー)》ども。随分と押されているようじゃないか」

「誰よ、あんた」


 リリスの呼びかけに、白い『青蜂』の装殻者は、地面に大太刀突き立てた。


「ふん。この大太刀に見覚えがないのか? 私は政府司法部副部長、兼、陸軍特務隊総括を務める者」


 『青蜂』の装殻者は女性だった。

 そして、傲岸不遜にリリスたちを見回す。


「貴様らにはこちらの方が通りが良いだろう……元【黒の兵士(シェルアシスト)】副長、空井カヤだ」


 それを聞いたルナが、息を呑んだ。


「空井カヤ……!?」

「王鬼の左腕か」


 ミチナリの呟きにうなずいたカヤは、起き上がったテータ・コピーに目を向けながら、宣言した。


「政府軍総督命令により、貴様らを援護する」

 


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