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黒の一号・終章  作者: 凡仙狼のpeco
『愛媛隕石篇』
17/58

第16節:とばっちり

『どうなりました?』


 通信ごしにニーナに問い掛けた呑気な声は、ケイカのものだった。


「流石ねん、ケイ。ドンピシャのタイミングよん」

『よく分からんねんけど、何がどないなってるん?』


 ミツキもケイカと一緒にいるみたいだが、彼らは事情を知らないようだった。

 コウは、ジンとアイリを置いてこちらに歩いてくるハジメに目を向けながら、ニーナに問い掛ける。


「何て言って呼んだんですか?」

「ジンが馬鹿な事をしてるから、超特急で止めに来て、って伝えて貰ったのよん。トーガがピンチなのん! っていうオマケつき」

「……ただの嘘じゃないですか」


 その言い方では、アイリが『花立がまたジンに酒でも飲まされてる!』等の勘違いしていた事は確実である。


「失礼ねん。実際にピンチになったわよん? 流石にコウ君が本気になったら、トーガと私の二人がかりでも止めるのは難しいしねん」


 ウィンクするニーナに、コウは心の底から脱力した。

 その中には、ジンとハジメが死ななくて良かった、という安堵も含まれている。


「ニーナさんは、アイリが間に合わなければ動くつもりだっただろう。偶然とはいえ君もいる。……ニーナさんには、アイリが見えていたんだろう。視野の広さは《黒の装殻》随一だからな」


 ニーナは、花立の言葉に軽く肩を竦めた。


「……許可を出したのはお前たちか」


 そこで、傍に来たハジメが花立とニーナに目を向けて口を開いた。


「ジンの中にある想いを本物にするのに、必要な事だったのよん」

「始めから奴の心を疑ってはいなかった。俺は情でジンを選んだ訳じゃない」

「分かってないわねん。〝ジンが〟自分でもそう思えるかどうか、が大切なんじゃない」

「……俺も、奴には必要な事だと判断した」


 ハジメは少し黙ってから、うなずいた。


「そうかも知れん。決戦を前にして、何のために戦うのか、という理由は……過去に縛られていたあいつには、見えていなかったようだ」

「ジンは、ちょっと不器用すぎるのよねん。抱え込んだものをもて余して、それが苦すぎて捨てたいと思っても捨てれなくて……本当は、誰よりも戦うために甘くて優しい理由を欲していたのに、抱えたものが苦すぎて、自分でも分からなくなってたのよん」

「……ジンさんが?」


 コウにとってジンは、いつも明るく、前向きで。

 悩みも苦境も、平然と笑い飛ばすような人だと思っていた。


 フラスコル・シティでも。

 【黒殻】の戦闘員だった時も。

 四国でも。


 ジンはいつも、コウに笑顔で手を差し伸べ、大丈夫だと笑ってくれていた。

 

「……俺、少しも気付いてませんでした」

「コウには、弱い自分を見せたくなかったんだろう」


 不意に、ハジメが口を挟む。


「ジンは、素直に慕ってくれる君と、飾らないアイリを気に入っていた。ジンにとっては、そんな君達が嬉しかったようだしな」

「だから、自分を責めなくていいのよ、コウくん」


 ニーナは、笑顔でコウの額を指でつついた。


「誰にだって、色んな顔があって当然なのよん。コウくんに見せたジンの顔だって、嘘じゃない……ジンがコウくんに見せる顔が本物だって、コウくんがそう思ってあげる事が、大事なの」

「……はい」


 と、コウが答えたところで。


『結局、だから何がどないなってるんよ?』

『さぁ……』


 通信の向こう側で、事情が全く呑み込めていないミツキとケイカが首を傾げていた。

 

※※※


「なんでこんな事したのさ?」


 改めてアイリが問うと、ジンはぼそぼそと答えた。


「……お前やコウに、死んで欲しくなかったからだ」

「どういう事?」


 よく意味が分からず、きょとんとするアイリに、ジンは呻くように言葉を続ける。


「アナザーやオーファンをハジメさんが倒せば、お前らは死ぬんだろ。……俺には耐えれないと思った」


 どうも、ジンの悲壮感と自分の温度が食い違っている気がしたアイリは、何かを喋っているコウたちに通信を繋いだ。


「ねぇ。もしかして、誰もジンにあの事教えてないの!?」


 遠くで振り向いたコウたちは顔をを見合わせてから、口々に言う。


「ハジメさんとアイリにしか伝えてないよ」

「……ニーナには言ったが」

「ヤヨイには伝えたわねん」

「俺は、お前から聞いた」

『俺はおかんから聞いたで』

『私も一緒に聞いた』


 アイリは呆れて言葉も出なかった。

 そんな事をしてるから、ハブられたジンがバカな事をしたんじゃないだろうかと。


「―――もしかして、《黒の装殻(シェルベイル)》って仲悪いの?」

「「「「『『誰かがジン( さん)には言ってると思ってた』』」」」」


 ―――こいつら。


 アイリは思わず頬をひきつらせるが、ふと自分も同罪である事に気付き、それを誤魔化すために咳払いを一つする。


「あのね、ジン」


 アイリがゴウキの裏技を話し始めると、ジンは徐々に顔を強張らせてから、今度は段々顔を赤く染めていった。

 全てを聞き終えたジンは、俯いて肩を震わせたかと思うと、こちらに近づいてくる面々に向かって怒鳴る。


「テメェら、絶対わざとだろ!? なぁ!? 特に花立さんとニーナ姉ぇ!!」

「……黙秘する」


 ジンの叫びに、花立は目を逸らし。


「ああん。お姉さんを疑うなんて、ジンはいつの間にそんなコになっちゃったのかしらん。悲しいわねん」


 わざとらしく涙を払う仕草をしながら、ニーナが答える。


「クソ、バカにしやがって……!」


 そんなジンの姿が普段の自分と重なって、ふと哀れになったアイリはジンの背中に手を当てた。


「仕方ないよね。ずっと思ってたけど、ジン、バカだもん」

「お前それはフォローのつもりか!?」


 うがぁ! と頭を掻きむしるジンの様子がおかしくて、アイリは思わず吹き出した。

 

「笑うんじゃねーよ!」

「だって僕、ジンにはやられっぱなしだし。こういう姿は貴重だよね。ちょっと面白い」

「ぐ……」


 フラスコルシティで司法局の勤務時間連れ回したり、クリスマスに仮装させたりした事を思い出したらしく、ジンは押し黙った。


「ちょっとはスッキリしたでしょん?」


 ニーナの問い掛けに、ジンは押し黙った後。


「……伍号装殻も一号装殻もボロボロだぞ。どうすんだよ、コレ」

「今から直すのよん。決まってるじゃないのん」


 コウとアイリの肩を抱きながら、ニーナが言うと。


「……今から?」


 時刻は深夜である事をARで確認したコウが、眉をしかめる。


「細かいのは、君たちとハジメたちのコアリンクで自然治癒して貰って、その後おっきな傷は私とコウくんで手分けして直すのよん♪」

「朝まで掛かると思いますが」

「そうねん。一人でやるつもりだったから助かるわん!」


 嫌がる素振りを見せるコウに、ニーナはいつもの笑顔で平然と言った。


「……俺も付き合うのか」

「当たり前でしょん? ジンのは外付けだけど、ハジメのは体の中なんだから」

巨殻(ギガンテス)も損傷してるんだが」

「直さなきゃどうしようもないわね」


 呻くハジメに、ジンも恐る恐る訊ねる。


「フィッティングは?」

「直す間だけ仮眠してて良いわよん!」

「マジかよ……」


 花立は、どんよりする男たちを尻目に、アイリに目を向ける。

 どことなくホッとした様子なのは、絶対にアイリの見間違いじゃないはずだ。


 何年も一緒にいる内に、花立のポーカーフェイスの中に感情を読み取れるようになって来ているアイリである。


「俺たちは、お前のコアリンクが終わったら帰って寝るぞ」

「そうだね!」


 アイリも徹夜はゴメンである。

 一も二もなく同意した。


「って、ちょっと待てよ花立さん! あんたも許可したんだから共犯だろ!? 付き合えよ!」

「断る」

「……総帥命令だ」

「本条……喧嘩を売ってるのか?」

「あらん。誰が帰らせるって言ったのかしらん?」


 ニーナは花立に対して首を傾げた。


「《黒の装殻(シェルベイル)》が二人も動けない間に、もし襲来体が襲って来たら大変でしょん? 私とコウくんは修理するんだから、当然、護衛して貰うわよん!」

「―――ッ!」

「嘘でしょ……?」


 アイリにとっては完全にとばっちりである。


『なんか終わったっぽいし、寝よや』

『そうね』


 安全圏にいるミツキとケイカが、そそくさと通信を切る音が、まるで断頭台の鐘のようにアイリの耳に響いた。


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