第7話
部屋を暗くした女の顔は、愁いを帯びていた。
自分が何者かと、幾度となく自問し続けた事か。その答えは、まだ出ていなかった。自分が自分でない事が女を落ち込ませる。
自分が必要とされていない事は理解していた。必要なのは、女の自分ではなく男のキリアであり、祖国でもグラディアでも同じである。
「私はなんなの?」
口に出しても答えは返ってこない。
女として必要として欲しい。
心の奥底にある思いは、危険であり一族郎党を路頭に迷わせるとわかっていた。全てを捨てられれば、どんなに楽な事だろうと思う。
「シーリィさま?」
部屋が暗い事で、男は躊躇うように声をかけていた。手に蜀台を持ち扉の所に立っている男は、長年オディス家に仕えてくれる影の一族の長であり、屋敷の執事権護衛でもある。
返事がない事で男は、ゆっくりと部屋の中に足を踏み入れ、女に近付いて行った。蜀台の灯りに照らされた女の顔を見た男が足を止めた。
「どうか、なされましたか?」
「テイガン。私は……なんなのだ?」
「シーリィさまは、シーリィさまです」
そんな言葉を聞きたい訳ではない女は、首を振っている。
「必要とされるのはいつもキリアで、シーリィは必要とされない。私は……」
「シーリィさま……」
テイガンにとっては、シーリィは仕えるべき主であり、その自分が何を言っても意味はないと分かっていた。主の心を救えるのは自分ではなく、主を必要と言ってくれる者以外はいない。
シーリィにとって祖国は、生まれた国でしかないと思っていた。ただ、そこには一族がいる。シーリィが祖国に縛られている理由は、それだけだった。
もし、一族がいなければシーリィにとって、国は意味の無いものになっていたはずである。自分を偽ってまで、国に関わる事が苦しく狂おしいほどになっていた。
だからと、思う。
自分を自分のまま必要としてくれる者がいれば、祖国からの呪縛を解く者がいれば、居るはずがないと半ば諦めてはいたが、いるのなら自分の全てを賭けてもいいと決めていた。




