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ひとつ、ふたつ、みっつと数える間に腕を縛って、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ、やっつ、ここのつ、と数えてから浮き出た血管に針を刺す。それだけで幸せになれるんだから、つくづく私と言うのは安い女だ。正確には刺すだけじゃ無くて、様子を見ながらその針をぐりぐり動かしたりもするけれど、その労力分の人件費を計算に入れたって大した違いは無い。百円の価値があるかどうか。確か今円高とかニュースで騒いでたから、多分私ちょうど一ドルくらいだと思う。
まあ私の値段とかそんなことは割とどうでもよくて、大切なのは血液だ。血液。そう、今私が自分の腕から抜いている血液。この血液には主に四つの働きがある、と言うのが私の持論。
一つ目は栄養とか酸素とかを身体中に運び、代わりに組織から出る老廃物を回収すること。二つ目は体温とか塩分とか水分とか、色々調節すること。三つ目は傷口で固まって菌の侵入を防ぐこと。
この三つの働きは理科の授業とかで普通に習うだろうけど、四つ目の働きは教科書なんぞには乗って無い特別な役割だ。そう、特別な。
体内から流れ出ることによって気持ちを落ち着けること。
それこそが血液の最大の働きなのである。
私が初めて自傷と言われる行為に触れたのは、確か小学六年生の頃だった。気がする。確証は無いけれど。理由は確か「漠然とした憧れ」とかだったっけ? 何かリスカとかかっこいいし、リスカ中毒少女とかマジ憧れるじゃん的な。リスカの何がかっこいいと思ったのかはとっくに忘れてしまってもう覚えていないけれど。要するに私はバカだったわけだ。罵ってくれ、感じるぜ。
まあそんなノリでリスカに憧れて私もやったろやないかって感じになったんだけど、流石の私でもいきなりカッターナイフで切り裂くのは怖かった。だから初めはまち針で引っ掻いて傷をつけた。手首を、では無い。手首を傷つけるのは動脈を切ってしまう気がして怖かったから、手の甲を。痛くは無かった、もともと痛覚は鈍かったから。一度引っ掻いただけじゃ傷って言えるようなレベルの傷にはならなくて、同じ場所を何回もカリカリと引っ掻いた。みみず腫れになった。初めはそれだけでハイ終了、大満足。
けれど、何回目かの自傷行為の時に加減を間違えて血を出してしまってから私は貪欲になった。チクリとした痛みを感じて慌てて確認する私、そして溢れて球を作る血液。赤くて黒い血液。私は惚れた。ラヴ。血液に魅せられたのだ。ラヴ&ピースならぬラヴ&ブラッド。それからは憑かれたように自傷行為に励んだ。おそらく自慰行為の数倍は軽く。
貪欲になった私が待ち針なんかでエクスタシーを感じられる筈も無く、すぐに凶器はカッターナイフへと変貌を遂げた。そして傷口も手の甲から腕へと。未だに手首は怖くて切れないけど。
そんなこんなで、もともと鈍い痛覚は鍛えられてさらに鈍くなっていく。切ったって痛くないからさらに切る。するとまた痛覚が鈍くなる、そうなったら切ったって全然痛くないからまた切る。ループしていると何だかそれが嬉しくなってまた切る。その繰り返し。
さらには瀉血なんかにもハマってしまって。ネットで買った駆血帯(あの採血とかの時に巻かれるチューブ)で縛った腕にネットで買った注射針を突っ込んで台所にあるボウルに血を溜めて。ボウルに溜めた血を眺めるのは堪らない。だって、本当に美しい色をしてるんだから。それだけじゃ無い、血が抜けた後のフラフラ感がこれまた堪らないんだ。セックスなんかよりよっぽど気持ちいいんじゃ無いだろうか。セックスやったこと無いから分かんないけどさ。
とにかく、こんなふうにして私はいつ嫁に出されても恥ずかしくない立派なメンヘラ女となったのでした。めでたしめでたし。




