「変わらないね」「…誰?」
―涼子Side
明日の成人式に参加するため、実家に帰ってきた。
せっかくだから、懐かしさに浸ってみるか。と散歩することに。
(一月の夜に外に出るもんじゃないな…)
始めは、久しぶりに地元の景色を見ながら歩くのも懐かしくて楽しいなと思っていたけど、10分ほど歩いて、自分の行動を後悔した…。
(小学校見たら帰ろ…)
懐かしい気持ちで小学校を眺めながら、明日は誰に会えるかなと考えていると、名前が呼ばれた。
声がした方を見ると、手を振りながら男の人が近づいてきたけど、薄暗くて顔が見えない。
それでも名前を呼ばれたので、寒くて組んでいた片腕を軽く上げて、一応手を振り返した。
「涼子久しぶり! 誰か分かる?」
ニコニコと子どもみたいに笑いながら私に問いかけるその人は、ゆるっとあったかそうなコーディネートで、赤く染めた髪を立て、耳はピアスだらけ。アクセサリーもジャラジャラ着けている。
まあ、似合ってるけど。
(? こんな知り合いいたかな? でも、どっかで見たような気も……)
「もしかして…○○くん?」
「ブブー」
(違う…そもそも○○くんは高校が一緒だったから、こんなとこにいるわけないか……)
「じゃあ、○○だ」
「ちがうよ~」
それから、その顔に近い男子の名前を挙げていったけど当たらない。
(…面倒くさ。そもそも私に話しかけてきそうな男子なんていたっけ?)
目の前で楽しそうに笑うのを見て、当たらないし、寒いしでだんだんイライラしてきた。
「誰?」
「え~?本当に分かんないの? 暁翔だよ!」
「暁翔!?」
(暁翔って言ったら、あの小さかった?小猿みたいな男子じゃなかった?
でも、言われたら面影はあるかも…)
暁翔とは小学校と中学校が一緒だった。何度か同じクラスになったこともある。
中学の時はヤンチャなグループにいて、そんなに接点もなかったと思うんだけど……
「…背、めっちゃ伸びたんだね」
中学の時は私とほぼ変わらなかったのに、今では頭一個分違う。
(まさか、暁翔を見上げる日が来るなんて…)
「中学卒業して一気に伸びた。どう?かっこよくなった?」
得意げな顔で一歩近づくと私を見下ろしてきた。
くしゃっと笑うと、切れ長の少し垂れている目はなくなり、綺麗に並んだ歯が見える。
じーっとその顔を見ていると、まだあどけなさが残る笑顔が、中学の時の笑顔と重なった。
(……こんなに身長伸びてたらわからんわ。小さいイメージしかないし)
「はいはい。そうだね。じゃ」
誰だか分かったことだし、寒いから帰ろうと暁翔に背中を向けようとした時、肩を掴まれ戻された。
「ちょっと待ってよ! 俺、涼子のことすぐ分かったんだよ。すごくない?」
目をキラキラさせて、「褒めて」とでも言っているような期待に満ち溢れている顔。
「……ホント、よく分かったね。すごいね」
「でしょ? 嬉しい?」
「うん。ありがと。それじゃ(寒い、早く帰りたい)」
「ねえ!今から飲みに行かない?」
「はぁ?(いきなり何言ってんの?)」
「いいじゃん!久しぶりに会えたんだし!」
「いや、それなら他の人誘ったら?」
「ん~…他は何回か飲んでるし、涼子と飲んでみたい! みんなには明日会えるし」
「私とも明日会えるよ。大丈夫、暁翔が誘ったら男子でも女子でも来てくれるって。だから私は帰る」
帰りたい私と、なぜか私と飲みたいと言う暁翔とのどちらも引かない戦いをしていると、暁翔のスマホが鳴った。
「ちょ、待って。拓也だ。もしもし」
この隙に帰ろうと思ったけど、腕をガッシリ掴まれて離れられなかった……。
電話の相手は中学の時、いつも暁翔と一緒にいた拓也で、飲んでいるのか声が大きく、私にまで聞こえてくる。
『暁翔。お前が来るの遅いから、俺たちもう飲んでるぞ~。お前も来るって言ったら女子も来てさ~』
『暁翔~早くおいでよ~』
何人かの女子の声が聞こえると、なぜか焦ったように私を見てきた。
「あっ、いや、俺ちょっと…」
(約束忘れてたのかな? まあ、飲む相手いるみたいだし、それならこのまま帰っても大丈夫だよね)
腕を掴まえていた力も少し弱まったのでスッと抜け出し、電話で話している暁翔に向かって、小声で「それじゃ、明日ね」と言って、軽く手を振って背を向け歩き出した。
(それにしても、意外な人に会ったな~。めっちゃ変わってたし。明日みんなに会えるのが、さらに楽しみになってきた)
―暁翔Side
明日の成人式の前に地元の仲間で飲もうということになって向かっていると、小学校を懐かしそうに眺めている人に目が行った。
(あれは……涼子か?)
中学の時と変わらない、肩より少し長い黒髪ストレートの髪型。
少し化粧はしているけど、遠くからでもすぐにわかるほど見た目は変わっていない。
俺はあの時から20㎝も背が伸びたし、髪も赤く染めている。
顔立ちだって、骨格だって男の子から、男になった。
(気付くかな)
ちょっとワクワクして話しかける。
「涼子久しぶり! 誰か分かる?」
あの頃は同じ目線だったのに、今はすごく小さく見える。
涼子は少し驚いた顔で俺をじっと見た。真っ直ぐ見られて、少し恥ずかしくなった。
少し考えると俺に気付いたのか、「あっ!」という表情をした。
(おっ!分かったか!)
「もしかして…○○くん?」
「(全然分かってないじゃん。誰だよそれ)ブブー」
全く知らない人の名前を出されてヘコんだ。
まあ、中学の時と比べたら俺も成長したから一発では分かんないか。と思ったけど、その後も全然当たらない……
(そんなに俺って印象ない?小中一緒で、かなり目立ってたと思うんだけど…)
「誰?」
とうとう俺の名前は出ず、マジで分からないという顔で涼子が少し苛ついた声で聞いてきた。
「え~?本当に分かんないの? 暁翔だよ!」
名前が出てこなくて内心かなりショックだったけど、それを隠して笑いながら答える。
(名前言っても思い出せなかったら、さすがに泣くぞ…)
「……暁翔!?」
(めっちゃ驚いてる。…ってことは、覚えてたか。よかった~)
「…背、めっちゃ伸びたんだね」
「中学卒業して一気に伸びた」
一歩近づいて、ほぼ真上から見下ろすと、涼子は俺の顔をじーっと見上げた。
(ん?もっと恥ずかしがると思ったのに。それになんか……)
自分で言うのもなんだけど、昔から顔がよくて、背が伸びる前は可愛いとかっこいい半々くらいで言われていた。
でも背が伸びて、顔つきも体つきも変わってからは、圧倒的にかっこいいと言われる。
たまに声かけられたり、チラチラ見られたり、俺が近づくと照れたり笑ったりする女子が多い。それなのに……
無表情で見られて、こっちの方がなんか恥ずかしくなってきた。
「どう?かっこよくなった?」
「はいはい。そうだね」
ドキッ(え…。それは、かっこいいってこと!?)
軽くあしらうような言い方だったけど、なんか嬉しかった。
「じゃ。」
(ちょ…もう帰るのかよ)
帰ろうとする涼子の肩を掴まえて、また俺の方を向かせる。
「ちょっと待ってよ! 俺、涼子のことすぐ分かったんだよ。すごくない?」
「……ホント、よく分かったね。すごいね」
すごいね。って言われて、なんだかパアッと気持ちが明るくなった。
「でしょ? 嬉しい?」
「うん。ありがと。それじゃ」
またすぐ帰ろうとする涼子を動かさないように、肩を掴んでいる手にグッと力を入れる。
「ねえ!今から飲みに行かない?」
「はぁ?」
それからも俺が一言言うと、返事をしながら帰ろうとする。
(なんでそんなに帰りたそうにするんだよ…)
ぶっちゃけ、小学生の時から俺はモテた。彼女が途切れたことはない。
今まで、俺が誘った女の子は嬉しそうにしてたのに……
涼子も俺も一歩も引かないでいると、着信が入った。
「ちょ、待って。拓也だ。もしもし」
拓也の声がバカデカくてスマホを耳から少し離す。
『暁翔。お前が来るの遅いから、俺たちもう飲んでるぞ~。お前も来るって言ったら女子も来てさ~』
『暁翔~早くおいでよ~』
(そうだった こいつらと飲むために向かってたんだった…)
「あっ、いや、俺ちょっと…」
チラッと涼子を見ると、少し首を傾げてニコッと微笑むと小声で「それじゃ、明日ね」と言って、軽く手を振ると、振り返りもせず遠ざかって行った。
「―おい!聞こえてんのか?」
「最悪のタイミングでかけてくんじゃねえよ!」
何も知らない拓也にキレて電話を切った。
「はぁー…」
ため息をつき、その場にしゃがみ込む。
(中身も全然変わってない…。もっと話したかったのに……)
さっきまで涼子を掴んでいた手を見てギュッと握った。




