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世界の理 その1

俺が教室についたのは

1時間目の体育が終わった休み時間だった。


江良の席を見ると、たこ焼きキャラの人形が

ついたカバンがある。今日は学校に来ているようだ。


生徒たちが次々と教室に帰ってきた。

廊下から江良の笑い声が聞こえる。



「私の方が遠くまでボールが飛んだので、私の勝ちです」


「いえ、何度も申し上げている通り、

 あれはバスケットボールといって、

 遠くに投げるのではなく、かごに入れた方が勝ちなのです」


「負け惜しみですか、貴方らしくもない。おほほほほ。」


江良が三条に勝ち誇り、上機嫌で教室に入ってきた。

そして俺の姿を見つけると、待ってました!とばかりに

ズイズイ近寄ってきた。


「やっと来たのね!

 さっそくですが私の武勇伝を聞きたいでしょう?」


「いや、別に。。。それよりも話があるんだが」


「私の武勇伝を聞きたいわね?」


別にタイムリープをしたわけではない。

江良が何度も「自分の話を聞け」と繰り返しているのだ。



これ以上、同じセリフをリピートされるのはウザい。

さっきの事件で満身創痍なのだが、少しだけ話を聞いてやることにした。


「わかった。で、どうしたんだ?」


「やっぱり聞きたいのね。

 そんなに聞きたいなら聞かせてあげるわ」


本当に面倒くさい奴だ。


江良が体育のバスケでいかに活躍したか、

延々と聞かされたのだが、

どうも、話の内容がよく分からない…。


試合中、ボールを受けとって、

いかに自分が遠くに投げたかばかりを繰り返すのだ。


俺は三条に目を移した。

紅い瞳が、俺の視線からそれていく。



明らかに俺たちに関わるのを避けている。。。


しかし、諦めたように、

ため息をひとつつくと、詳細を説明してくれた。


三条いわく、こうだ。


バスケの試合中、江良にボールが渡ると何を勘違いしたのか

すぐに全力で遠くに投げてしまうらしい。


江良がさっきから「ボールが遠くに飛んだ」と

繰り返していたのは、このことだ。


時には人にぶつけることもあり、

とても試合にならなかったそうだ。


江良の謎の行動(本人はバスケと思っている)で、

クラスの女子は疲れ切っている。


三条も江良のマイペースにまきこまれ、

すっかり疲労困憊の表情だ。


(三条、たしか君はガーディアンのエースだろ?

 初めて会った時の凛々しさはどこへ行ったんだ?)



「それでも、江良さんは凄いですわ。

 私たちの常識を超えた活躍には目を見張りましたわ。」


三条は悟りを得た僧侶のような表情で、江良を褒めたたえた。


サラリーマンが接待ゴルフで「部長、ナイスショット」と

声をかける時は、こんな感じなんだろう。


「三条さん、お疲れ」


俺は心の底から三条に同情した。

きっと朝から江良に振り回されていたのだろう。

サラリーマンなら一杯おごりたい気分だ。



「ところで、天野くん、何か言いかけていましたが…」


おっと、三条くんナイスなフォローだ。


さすがエース級の戦士。

俺がさっき話をしようとしていたのを見逃しておらず。

話すきっかけを与えてくれたようだ。


「ちょっと、今ここでは話せないことなんだ。

 授業が終わってからで・・・」


「さっさと話しなさいよ。これで大丈夫でしょ。

 きっと何か面白い話よね」


教室の風景が止まった。


江良が興味津々な眼で俺を見ている。

待つということができない。なんて気が短いやつだ。




ん?ちょっと待て。


その前に、なんで

江良と三条は仲が良いんだ?


江良は俺に「ガーディアンには気をつけろ」と言っていた。

お前ら敵同士じゃないのか?


しかも、さっきから三条が江良の執事のように振舞っている。


「俺の話の前に、ちょっと気になるんだがいいか?

 三条は江良とどういう関係なんだ?

 前もミア様と言ってたろ」


「天野くん、このお方のことを知らないの?」


「この前、本人に聞いたけど、

 自分は自分だって言うだけなんだよ」


隣で江良が、俺の背中を鉛筆で突っつきながら

さっきの話を早く聞かせろと催促している。


今、こいつは無視で良いだろう。



「江良って、何者なんだよ」


「私たちの遥か上位の存在、神様のおひとりです。」


「「「 神様ーー? 」」」

「神様なんか本当にいる訳ないだろ」


「天野くん、ここで死にたいですか?」


三条の瞳が紅く燃え始めた。

や、やばい。こいつが本気の時の目だ。


「すまない。本当なんだな。わかったよ。

 だからその目は止めてくれ」



「ん?どしたの?

 早く、話を聞かせなさいよ」


「そうですね、ミア様。

 天野くんの話を聞くんでしたね」


三条の表情が執事モードに変わった。


あんなに強い三条が敬うぐらいな奴だ。

江良は本当は凄い奴なのかもしれない。


そういえば、前にいた変な奴らも膝まづいていた。


<<< 本当に神なのか? >>>


そうだとしたら、触らぬ神に祟りなしだ。

江良の事を深堀するのは止めておこう。



俺は気を取り直して、

2人に今朝起きた襲撃事件を話し始めた。


もちろん、三条の前なので時間を巻き戻した事は秘密だ。


最後まで聞き終わると、まず江良が口を開いた。


「そいつらは死神の手下ね。

 もうそろそろ出る頃と思っていたわ」


江良は、天使もどきの襲来を

暑くなったので蚊が出たぐらいの反応を見せた。


「そうですね。長い間こちらの世界では、

 大きな戦争が起こっていないと聞いています。

 死神が動き始めてもおかしくありませんね」


三条も、表情を変えずに淡々と話す。


「二人とも何を言ってるんだ?

 うちの生徒も犠牲になったんだぞ」


「ヒカルが知らないのも当然ね。

 三条さん、後で説明してくださる?」


「はい、ミア様。かしこまりました」


周囲の背景が変り、生徒たちが動き始めた。



なんだ、それだけ?


こいつは自分に興味がない話だと、

さっさと話を打ち切ってしまうらしい。


しかも、あとの処理は三条に丸投げだ。

本当に江良が神ならば、きっと「わがまま神」か

「きまぐれ神」という名前がお似合いだ。



チャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。


「お昼休みに化学室で待っています。そこでお話ししましょう。」


三条はそう告げると、赤い髪を揺らしながら席に戻っていった。




昼休み、

俺は学食でカレーライスを食べ終わると、

急いで化学室へ向かった。


江良を見ると、

まだ焼きそばパンをむしゃむしゃ食べている。


目が合うと「早く行け」とばかりに左手で追い払うポーズを見せた。

何だかあいつ、キャラ変わってきていないか?



学食から化学室までは、

50メートルの渡り廊下を歩き右に曲がり、

第二校舎の中にある。


俺は長い廊下を歩きながら、三条とのバトルを思い出していた。


(まさか襲って来ないよな)


少し怖さもあるが、どちらかというと、

三条の唇の感触が俺をモヤモヤさせる。


あれから2人だけで会うのは初めてだ。

俺は少し緊張して化学室へ入っていった。



部屋に入ると、

フラスコが並ぶ化学準備室から三条が出てきた。

休み時間に自習していたのか白衣を着ている。


「思ったよりも早かったですね」


「話の続きが気になったんだ」


本当は三条と二人で会うのが楽しみでもあった。

が、それは言えない。


「ミア様は?」


「まだ、焼きそばパンを食べてる。

 早くいけ、と、言われたから置いてきた」


俺は、江良の真似をしながら説明した。


三条がクスリと笑う。


(へー、三条もこんな表情をするんだ)


三条はうなづくと黒板の前に歩いていき、こちらを向いた。


「わかりました。では少し長くなりますが、先ほどの件を説明しますね」




「まず、この世界の理からお話しします。」


そういうと三条はチョークを掴み、黒板に絵を描き始めた。


彼女がこちらを振り向くと、キラキラと鮮やかな髪が翻る。

不覚にも俺は目を奪われた。


三条が描いた絵は世界地図のようだが、

俺が知っているものではない。


それは三重の円に囲まれた世界で、

一番中心の輪の中に俺が知る世界地図が収まっている。


よく見ると、外側の二つの円の中には大陸がいくつもある。


「この世界はこのように3つの世界で構成されており、

 それぞれ神族、眷属、ヒト族の世界と呼ばれています。」


「世界の外には、別の世界があるというのか?」


「半分正解で、半分が間違いよ」



ガリレオの時代に「本当は地球は丸いんよ」と言われた人は

今の俺と同じ気持ちになっただろう。


しかし、俺はいま、非日常の日々を過ごしている。

これまでの事件やバトルが、三条の話に信ぴょう性を持たせたのである。


もしかすると、

三条の白衣も説得力を持たせるためのものだろうか。


それにしても白衣姿が似合う奴だ。実にけしからん。


俺が緊張感のない妄想をしている中、三条の説明は続けられた。

゜*。,。*゜*。,。*゜*。,。*゜*。,


今回もお読み頂きありがとうございます。


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