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27話 不死の王

 小瓶が割れると、黒い液体が意思を持っているかのように動いた。

 広がり、うねり、波打つ。


 やがて、どんどん膨張していく。


「こいつは……」

「ははは! こいつも私の研究の成果さ!」

「なにをした?」

「いいだろう。なにが起きたかわかないまま死ぬのはかわいそうだから、教えてあげよう」


 ドランは笑う。

 狂気に包まれた笑みを見せている。


「こいつは、不死の戦士の元というべきものだ。決して死ぬことはなく、粉々にしても、燃やしても再生する。そして、周囲の生き物、魂を取り込みつつ成長して、やがて世界全てを飲み込む究極の不死生物……不死の王だ!」

「また厄介なもんを……」


 膨張しているのは、さきほど倒した不死の戦士の残骸を取り込んでいるからだろう。

 すでにニメートルほどの大きさに。


「ははは! 怖かろう、恐ろしかろう。私をバカにした罰だ。共に死んでもらうぞ」


 共に、ということは、ドランはコイツの制御はできないのだろう。

 俺達もろとも、ここで死ぬつもりか。


 ま、そんなことはさせねーけどな。


 ミリー、シェリア、エリン……他、倒れて動けない人や、街の人は俺が守る。


「さて……なら、まずは」


 さきほどと同じ魔術を使う。

 黒い球体となった不死の王を切り刻み、燃やし尽くす。


 しかし……


「無駄だ! 無駄なのだよ、なにをしても、そいつを滅ぼすことはできない!」


 炭になったはずなのに、そこからでも再生をしてしまう。

 なんていう生命力だ。


 こんな化け物、三十年前は存在していない。

 さすがに驚くな。


「さあ、私と一緒に死のう! そして、永遠に一緒になろうではないか!」

「お断りだ、ボケ。誰が、てめーみたいなきもいヤツと一緒になるか。アホ。鏡見てから言えや。一昨日出直して来い」

「……」


 散々に言われて、ドランが絶句した。


 それを見たシェリアやミリーが、同情するような目に。


「さ、さすがに今のは……」

「うーん、悪い人とはいえ、同情しちゃいますね」


 二人共苦笑していた。


 そんな中、エリンが焦る。


「そのような話をしている場合ではありません! 今すぐに逃げないと!」


 不死の王は再び成長して、三メートルほどの大きさに。

 このままでは屋敷を突き破り、そして、街の外にいる人を襲い始めるだろう。


「でも、どうにかして止めないと……」

「お嬢さま、気持ちはわかりますが、これはもう……」

「私達の手にあまるかも……極天十騎士レベルでないと、さすがに……」


 みんな、一様に暗い顔に。

 絶望の未来しか想像できないのだろう。


 ったく、なんて顔をする。


「おい、ミリー」

「は、はい?」

「お前は、俺を信じているか?」

「え?」

「俺を信じているか?」

「それは……はいっ、もちろんです! 世界中で誰よりも、一番に、アリアちゃんのことを信じています!」

「なら、信じろ」

「あ……」

「こんなヤツ、俺がどうにかしてやるよ」

「はいっ!!!」


 さて。

 あそこまで啖呵を切った以上、さっさと片付けないといけないな。


 俺は不死の王と向き合う。


 両手をかざして、体中のマナを収束。

 とっておきの魔術を行使する。


「闇よ広がれ、漆黒よ走れ、全てを飲み込み全てを無に返せ、その行き先は零という虚無なり、魂の根源から全て消滅しろ」


 とっておきの五重詠唱の魔術。

 その威力は絶大。


 物理的なダメージでも精神的なダメージでも、どちらを与えるわけではない。

 対象の存在を世界から抹消する。

 いくつかの制限はあるが、ほぼほぼ防ぎようのない、文字通り必殺の一撃だ。


 不死の王は蜃気楼のように揺らいで、そのまま消えた。


「ば、ばかな……」


 今度こそ、全ての手を封じられたドランは、唖然としつつ、その場に膝をついた。

 そんなドランに、


「終わりだな?」


 俺は、不敵に笑うのだった。


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