18話 ドラン・グレスハイド
その後、シェリアやエリンに色々と手配してもらい、盗賊団を全員街へ連れて行き、騎士団に引き渡した。
騎士団は、国の法や街の秩序を守る存在。
冒険者は、民の依頼を引き受ける存在。
それぞれに担当が異なるのだ。
それから、俺達はローゼンベルグ家へ。
今回のことに関して、シェリアの両親からは何度も頭を下げられて、感謝された。
貴族がそう簡単に頭を下げるべきではないのだが……
しかし、少しくらいはそんな人がいてもいいだろうと、好感を持つ。
せめてものお礼として食事をいただき、そのまま屋敷に泊まる。
そして翌日。
これからのことを話し合うため、俺とミリーは、シェリアとエリンとの作戦会議を開くのだった。
「とはいえ、なかなか良いアイディアは出てこないな」
作戦会議を始めて一時間ほど。
これだ! というような打開策が思い浮かばない。
相手がやり手の貴族となると、打てる手が限られてくるんだよな。
しかも、現時点で、かなり後手後手に回ってしまっているせいか、八方塞がりな状態だ。
ここから正攻法で逆転となると、かなり難しい。
「……ミリーが言ってたように、やっぱ、物理的に叩きのめすか?」
「「えぇっ!?」」
シェリアとエリンが、マジですか!? というような感じで驚きの声をあげた。
「冗談だぞ? 冗談だからな?」
「そ、そうだよね、冗談だよね……」
「アリアさんの冗談は心臓に悪いです……」
二人が安堵する中、
「……絶対、本気だったと思うんですよね」
ミリーだけが、的確に俺の心を言い当てていた。
侮れないヤツ。
「実際、物理的に叩き潰すことが一番確実だ。再起不能なまでに叩けば、二度とちょっかいを出されることはない。ただ、今の段階でそれをやれば、悪役になるのは俺達だ。だから、叩くだけの正当な理由がほしーな」
盗賊団はドランに雇われたことは確実なのだが、連中は最後まで口を割らなかった。
見上げた忠誠心……というよりは、秘密を喋り、後で消されることを恐れたのだろう。
「なにかしら良い具合に、ドランの悪事の証拠でも転がりこんでこねーかな? あるいは、そのチャンスが転がり込んでくるとか」
「さすがにそれは難しいでしょう」
エリンが苦笑した。
その通りだと、俺も苦笑する。
そんな時、慌てた様子でメイドが部屋に入ってきた。
「し、失礼します!」
「どうしたの?」
「そ、その……ドラン・グレスハイドさまがいらっしゃいました」
「「「えっ」」」
――――――――――
「やあ、シェリア嬢」
客間に移動すると、ドラン・グレスハイドの姿があった。
でっぷりと肥えた体を、たくさんの宝石で着飾っている。
華やかさ、優雅さとは皆無で、とことん趣味が悪い。
「……ごきげんよう、ドランさま」
シェリアは努めて冷静に、丁寧にお辞儀をした。
後ろに控えるエリンは、このようなヤツにお辞儀など、と言いたそうな顔をしている。
「突然すまないね。シェリア嬢が賊に襲われたと聞いて、いてもたってもいられず……大丈夫だったかい? 怖い思いをしなかったかい?」
「だ、大丈夫です。この通り、怪我一つしていないので」
ドランに手を握られて、シェリアの顔がひきつる。
それに気づいているのかいないのか、ドランはどこか恍惚とした表情で、シェリアの手を撫で続けている。
この反応、もしかして……?
ロリコンではないと聞いていたが、そうではなくて、マジもののロリコンなのではないか?
そうだとしたら……やりようはあるな。
「よかった。キミは私の婚約者だからね。事件を聞いた時は、何事もないようにも、ずっと女神に祈り続けたよ」
「いえ、あの……私はドラン様の婚約者というわけじゃあ」
「ふふふ、照れなくてもいいよ。シェリア嬢と私は結ばれる運命にあるのだからね」
おっさんが頬を染める姿はキモい。
が、これで確定した。
演技をしているようには、とてもじゃないけれど見えない。
コイツは本物のロリコンで、シェリアをマジで好いている。
ローゼンベルグ家に色々と嫌がらせをしているのは、財産と権力が目当てというのもあるが、それ以上に、シェリアが目的なのだろう。
彼女を手に入れるために、ここまでのことをしているのだろう。
とんだド腐れ野郎だ。
「おや? そういえば、そちらの二人は誰かな?」
ドランの視線が俺達……というか、俺に固定された。
ねっとりとした感じで、舐められるような性的な視線だ。
ここまで露骨に感情を表現する男も珍しい。
「こちらは、アリアさんとミリハウアさんです。実は、先の事件で……」
「はじめまして。私は、アリア・テイルといいます。先の事件で、シェリアさまと同じく盗賊に襲われていたところを、エリンさまに助けていただいたのです」
「「っ!!!?」」
突然、人が変わったような台詞を紡ぐ俺を見て、シェリアとエリンが大きく驚いた。
ミリーは……理由はわからないけど、おしとやかなアリアちゃんも、それはそれで良い! という感じで興奮していた。
俺のことは気にするな、と三人にアイコンタクトを送り、ドランとの会話を続ける。
「おお、そうだったのか。それはさぞ怖かっただろう。もしも私がその場にいれば、キミを守ってあげられたのに」
「まあ、なんて頼もしいのでしょう。ドランさまにそう言っていただけると、とても心が安らぎます」
「うむ、うむ。アリア嬢は話がわかる子のようだね」
「話、ですか? よくわかりませんが……ドランさまが、とても素敵な方で、すばらしい紳士であることは理解いたしました」
「はっはっは、そこまで言われてしまうと照れてしまうね。うむ。しかし、気に入ったな。キミほど聡明で、美しい子は見たことがない。まるで天使のようだ」
仮にも、自称婚約者の前で他の女を口説くなよ。
しかも幼女を。
呆れ果てるものの、その心を表に一切出すことはなく、俺は演技を続ける。
「天使だなんて、そんな……そのようなことを言われたら、照れてしまいます」
「ふむ、恥じらう姿もたまらないな。どうだい? よかったらこの後、私の屋敷に来て話をしないかね?」
よしキタ!
コイツが生粋のロリコンなら、絶対に俺を誘ってくると思った。
そのために、あえてこのような演技をしたのだ。
これで、合法的に屋敷に入ることができる。
そして隙を見て、悪事の証拠を探すことにしよう。
「はい、私でよろしければ喜んで」
「うむ、うむ。では、さっそく行くとしようか。シェリア嬢、婚約についての話は、また今度でいいかい?」
「え? あ……はい」
「では、アリア嬢、行こうか」
「はい!」
俺は従順でおとなしい幼女を演じて、ドランの問いかけに笑顔で頷いてみせた。
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