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本当にお宝だった

 天童智也、十八歳(三十二歳)、異世界生活五日目で初の寝坊をしてしまいました。

 昨日酒場でオッサン相手に、深酒をしたのが敗因であります。

 現代日本だったら、上司から雷が落ち、部下の冷たい視線で一日生きた心地がしないだろう。

 でもここは異世界、寝坊しても、一日寝ても、ズーと寝ていても怒られない。

 好きなときに食べ、好きなときに寝て、好きなときに仕事する。

 お天道さまはもうとっくの昔に顔を出していて、ガルドの住人の大半は仕事に精を出しているはずだ。

 

 けだるくベッドから這い出て出かける用意をする。

 まず桶に水を張り顔を洗う。

 次に歯ブラシを出して歯を磨く、磨きながら窓の外を眺めると、せわしなく人々が往来していた。

 異世界に来る前は俺も地べたを這いずり回ってヒィヒィ働いていったっけな。

 でも今じゃ優雅に重役出勤だ、もちろん世間体なんて考えは異世界には一切ない。

 まっとうに金さえ稼げれば何をしていてもいいのだ。


 桶の水をトイレに捨ててスッキリする。

 そうだ今日は仕事を休みにしよう、部屋に戻ると新しい服に着替え、大型ナイフを腰に差した。

 革鎧は付けないで身軽な格好で部屋を出た。

 絶対防御があるから付けようが付けまいが変わらないからね。


 一階にゆっくりと降りてゆく、今日の朝ごはんは何かな? ウキウキしながら酒場に降りた。


「おはようソフィアちゃん」


 元気な顔を見ながら挨拶をする。


「あ、おはようございますっ」


 ソフィアちゃんはニコリと微笑み掃除の手を止めた。


「ソーヤさん今日はずいぶん起きてくるのが遅かったですね」


「たまにはこんな日もあるよ」


 余裕で応えた。

 ソフィアちゃんがにっこり笑うと掃除を再開した。

 あれ? 何時も「朝食をお持ちしますね」と言ってっくれるのに今日に限って言ってくれないな。


「え~ゴホン、今日は朝ごはんは何かな」


 何分も待っていても一向に話しかけてくれないから、思わず朝食の催促をしてしまった。

 すると、ソフィアちゃんは不思議な顔して言い放った、


「ソーヤさん、朝食は夜明けから三時間までのオーダーですよ?」


「ああ、そうだったね、うっかりしてたよ」


 思わず知ったかぶりしてしまったが、聞いてないよ~。


「そろそろ出かけようかな」


「いってらしゃいっ、気をつけてくださいね」


 元気に送り出してくれた、お腹空いたな。




 朝食を食べそこねた俺は、空きっ腹を抱え街をさまよっていた。

 ギルドのある広場まで来た所、美味しそうな串焼きの肉を売っている屋台を見つけた。

 一口大に切った大きめの肉を木の串に刺し、タレにつけてあぶり焼きした肉は、肉汁がコンロの炭火にしたたっていて、食欲をそそる香りが辺りに漂っていた。


「一本ください」


 迷わず注文する。


「へいっ、まいどあり!」


 強面のオッサンが串焼き肉を手渡してくる。

 一口頬張る、すると肉汁があふれ出し口の中に香辛料の爽やかな香りが広がる。

 熱々の肉はプリプリの歯ごたえだが固くはなく、よく味が染み込んでいて美味しい。

 気に入った俺は、三本完食し、保存食用に十本追加注文した。

 一本五アルとやや高めの値段だが、その価値は十分にあった。

 焼き上がった串焼き肉を葉っぱでくるんでもらってリュックに入れる。

 いつでも焼きたての串肉が食べられると思うと、探索時の昼食の楽しみが増えた。


 広場を少し戻り、『イリーナの魔法屋』へ足を運ぶ。

 扉を開けてあいかわらず暗い店内に入って行った。

 

「こんにちは、今日も来ましたよ」


 すっかり常連になってしまった俺は、暗い店内をイリーナさんの所へ近づいていった。


「今日は何を持ってきたんだい、見せてみな」


「今日は三つあるんですけど。指輪と魔石と、もう一つはよくわからない箱です」


 勝手に椅子に座り、リックの中から金の指輪と[ゴブリンシャーマンの魔石]と小さな箱をテーブルの上においた。


「魔石の鑑定料は無料だが、指輪と箱は鑑定料を一つに付き最低銀貨二枚、中身が価値あるものだったら二割もらうけどいいかい?」


 結構高いな、でも鑑定してもらわないと本当の価値がわからないから仕方がないか。


「はい、お願いします」


 料金を了承してうなずいてみせると、イリーナさんが鑑定版を取り出し、魔石を板の上に乗せた。


「あまりいい石ではないね、銀貨五枚でなら買い取ってもいいよ」


 いい魔石でもないのに銀貨五枚の価値があるのか、魔石の希少性に驚いた。


「それでいいです、ありがとうございます」


「お次は指輪だね」


 鑑定版をしまい指輪をテーブルの中央に置くと、手を指輪の上にかざしヒラヒラと動かし始めた。

 聞き取れないくらいの小さな声で呪文を唱える。

 手のひらから光の粒子が指輪に注がれた。


「残念だがただの金の指輪だよ、金の含有量がんゆうりょうが少ないから買い取りは銀貨二枚だね」


「そうですか、それも買い取って下さい」


 ただの金の指輪なんて持っていても仕方がないので、イリーナさんに処分してもらう。


「さて、最後はこの箱を鑑定しようかね」


 箱をテーブルの中央に置く。


「見つけた時に開けようとしたんですが、びくともしなかったんですよ」


 少し苦笑いを浮かべながら、発見時の事をイリーナさんに言う。


「未鑑定の物をむやみにいじりまわすのは感心しないね、罠が張ってあったら最悪死んでしまうよ」


 すこし怖い顔で睨まれてしまった。


「以後気をつけます」

 

 たしかに軽率な行動だったな、気を引き締めよう。

 イリーナさんは箱に視線を戻し、手を上にかざしてヒラヒラと動かし始めた。

 箱の上に光の粒子が降りかかる、呪文を唱え終わると、カチッと音がして箱の蓋が少し開いた。


「よし、これで安全にひらくよ、トーヤが見つけたものだから自分で開けてみな」


 すげ~、この人鍵開けまで出来るのか、俺は小さくうなずくとゆっくりと箱の蓋を開けた。

 中に入っていたのは金貨二枚に親指大の赤い魔石だった。


「おお、この箱はなかなかの当たりだよ」


 イリーナさんがニヤリとした。


「金貨が入っているなんてびっくりですね」


 俺も興奮して手を叩いて喜んだ。

 その後は、赤い魔石を鑑定してもらった、金貨一枚の価値だった。


 鑑定料金の内訳は、指輪が銀貨二枚、箱が中身の二割で銀貨六十枚。

 魔石は二個とも売った。

 儲けの方は銀貨で二百四十五枚だった。

 結果的に大儲けできた。

 所持金は金貨三枚と銀貨五枚、30500アルになった。




「最近鉱山に魔物が出たっていう話知っていますか?」


 お茶をご馳走になりながら、鉱山の噂話を聞いてみる。


「ああ、そのことなら知っているよ、町の北の鉱山に現れたって話だろ? 最初は良かったが、この頃は敵が強くて探索が進んでないそうだよ」


 イリーナさんの耳にも鉱山の噂は伝わっているようだ。


「俺も鉱山に潜ろうと思っているんですよ」


「そうかい、でも無茶な探索はやめなよ、命あっての物種って言うからね」


 少し心配な顔をしてアドバイスしてくれる。

 

「ありがとうございます、その言葉、肝に銘じますよ」


 心配してくれることが嬉しくて笑顔で答えた。


「未鑑定のアイテムは全部持ってくるんだよ、あたしが鑑定してあげるからね」


 死なずにアイテムを持ってくれば、イリーナさんも儲かるってことか。


「そうだ、鉱山に潜るならこれを買っていかないかい?」


 椅子から立ち上がると、陳列棚からはがきサイズの板を持ってきた。


「これは魔導地図板と言って、周りの地形を写してくれるスグレモノの魔道具だよ」


「なんかすごく鉱山探索に便利そうですね」


「そうだろう? 今なら銀貨二十枚でいいよ」


 セールストークが抜け目ないな。


「わかりました、買わせていただきます」


 代金を払い魔導地図版をリュックに入れ店を後にした。




 ギルドでも鉱山のこと聞いてみようかな、広場に向かって歩き始める。

 ギルドの扉を開け中に入ると、タルトちゃんがカウンターの上にダランと伸びていた。

 ギルドには人の気配はなく、タルトちゃん一人がいるだけだった。


「こんにちは暇そうだね」


 俺が声を掛けると猫耳をピンッと立てて起き上がった。


「あ、トーヤさんこんにちわぁ」


 話し相手が現れて嬉しそうだ、しっぽがゆらゆら揺れている。


「タルトちゃん一人だけなの?」


 いくら人が来ない時間帯とはいえ、ひとりでは大変ではないか。


「そうなんですよぉ、タルトは一人でもだいじょうぶなんです!」


 力こぶをつくるポーズをするが、細い腕では頼りなさそうだ。


「フローラさんとベルターさんはどうしたの?」


 頭をいい子いい子したいけど、おさわり禁止だからグッと我慢をする。


「おねぇちゃんは休憩ですよ、主任は練習場の後片付けです」


 ベルターさんは、昨日俺がやらかした尻拭いをしているのか、ちょっと心が痛んだ。


「トーヤさんは、今日はどういった御用ですか?」


 仕事モードに入るタルトちゃん、かわいい。


「魔物がガルドの鉱山に出現したって小耳に挟んだんで、情報を仕入れに来たんだよ、なんでもいいから教えてくれないかい」


 本来の目的を思い出して、あまり期待せずに聞いてみた。

 あまり公にしないで鉱山を探索しているのだから、ギルドで情報は期待できそうにない。


「鉱山ですかぁ、それなら魔物討伐のクエストが出てますよ」


 書類の束を引っ張り出して探し始める。


「あ、あったこれです」


 一枚の紙をこちらに差し出してきた。


[魔物討伐依頼 場所…… ガルド炭鉱 目標…… 魔物の討伐 報酬…… 金貨一枚~ 期間…… 無期限 ランク資格…… なし 依頼者…… ガルド鉱山組合]


「明日から張り出す予定なんですよぅ、トーヤさんには特別に見せちゃいます!」


 にっこりと笑って得意そうなタルトちゃん、かわいいけど守秘義務とかどうなってるんだろう。


「魔物が出現した当初はぁ、ベテラン冒険者さんが指名依頼で探索していたのですが、あまり成果が出なくなってきたので、冒険者さん全員に開放するらしいですよ」


「どんな魔物がいるか分かるかい?」


 魔物の強さを事前に知っているのは大事だ。


「浅い層は弱い魔物しか出ないらしいですけど、下の方は冒険者さんが帰ってこないのでなんとも言えないですねぇ」


 サラッと恐ろしいことを微笑みながら言うタルトちゃん…… おそろしい子っ。


「それなりに広いのでぇ日帰りでは浅い階層しか探索できないのです。指名された冒険者さんは、ポーターを雇って大量の荷物を運搬しながら、キャンプ地を作って探索しているようですよ」


 結構大掛かりに探索しているようだな。


「ありがとう、明日鉱山の方に行ってみるよ」


「それじゃクエスト名簿に名前を書いておきますねぇ、鉱山で居なくなったらすぐわかりますから」


 また怖いこと言ったよ、タルトちゃんの意外な一面を見てしまって、慌ててギルドを後にした。

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