荒野の死闘
勢いよく坂を駆け上がり、小高い丘の上に到着する。
眼前には開けた荒野が広がり、右にアトラルト王国を南北に分断する大アルパス山脈が、左に広大な魔の森が見えた。
ガルドへ続く平坦な道を『魔の森の騎士団』が行軍をしているのがはっきりと見える。
殿に騎馬兵が数体いて、その前に荷馬車の列が続いている。
少し離れて一般の兵士たちがゆっくりと行軍していた。
ギリギリ目視できる所に騎馬隊がいて、全体的に間延びした行軍だった。
圧倒的に敵の数が多い、今までの比ではなく一人で闘いを挑むのが馬鹿らしいほどだった。
(怖気づいてどうするんだ、俺がやらないとみんな悲しむことになる!)
勇気を振り絞って丘を駆け下りていった。
デコボコの悪路を風のように疾走する、不思議と体が疲れずむしろ体から力が溢れてくるようだ。
三分ほどで一キロの距離を詰め、最後尾の騎士にウィンドカッターをお見舞いする。
複数の騎馬兵の首が派手に空中に打ち上がり、開戦の狼煙を上げる。
見える範囲の相手戦力を全て倒した所で、ウォーターボールを荷馬車にめがけて連射した。
連続した大きな爆発音が辺りに響き渡り、敵襲を知らせるラッパの音が鳴り響く。
破壊された荷車の間をすり抜けながら、輸送兵や救護兵を手当たり次第に剣で殺害していく。
必死に逃げ惑う輸送兵を追い掛け、首をはねる。
突然の襲撃に棒立ちになっている救護兵の身体を剣で突く。
今までやってきた悪行の報いを受けさせなければ気がすまなかった。
道の前方から黒塗りの防具をつけた兵士たちが駆けつけてきた時には、荷馬車の周りにはおびただしい死体が転がり、この世の地獄と化していた。
「なんじゃおまえは! 魔の森の騎士団にこんな事してただで済むと思ってるんか!!」
あごひげがむさ苦しい背の低い男が、チンピラ口調で威嚇をしてきた。
シュッと剣を一閃して顔を斜めに切り上げる、顔半分を斬り飛ばされ男がその場で絶命をする。
後続の兵士たちが一瞬腰を引かせたが、次の瞬間一斉に襲いかかってきた。
フレイルを振りかぶったドワーフが奇声を上げて正面から攻撃してくる。
横合いから背の高い騎士がロングソードを大ぶりに振りかぶり、渾身の力で俺の頭に叩きつけてきた。
兵士たちの後ろを見ると弩兵が、兵士の隙間を狙って俺に矢を射掛けようとしている。
小柄な背の低い兵士にいつの間にか後ろに回り込まれ、大型のダガーを首元に突き入れられた。
ガキンと音がして、すべての攻撃が俺の絶対防御に阻まれる。
淡く青白い半透明のバリアが俺の身体を包み込み、あらゆる攻撃を弾き返した。
正面のドワーフの眉間にに剣を突き入れる、身体をブルッとした後で膝から崩れ落ち正座した状態で下を向いて事切れた。
左手を横に渾身の力で開き、盾を背の高い騎士にぶつける、シールドバッシュがきまって後ろの兵士達を巻き込みながら爆散した。
驚愕した顔でその場に固まっている小男をファイアーボールで消し炭にする。
弩兵は矢を射掛ける前にパネルランスの餌食になって、数人の兵士とともに奇妙なオブジェとかした。
「魔法使いだ! 気をつけろ!」
誰かが叫び、俺の周りの空間が五メートルほど空く。
「大盾を持ってこい! 四方から押しつぶすぞ!」
飛び込んでくる兵士を一撃で葬り去り、死体の山が俺の周りに出来上がっていく。
圧迫感を感じて振り返ると、人の高さと同じぐらいの大きな盾が俺めがけて押し付けられた。
三方向から盾で押し付けられるが、絶対防御が働いているので押し負けはしない。
攻めあぐねている間に盾に四方を囲まれてしまった。
「野郎ども押しまくれ!」
指揮官の号令で二方向から強い圧力を感じ、バリアが輝きを増した。
普通の人間なら絞られて血のジュースが出来るほど圧力をかけられるが、まったく効かない。
それどころか考える時間が出来てありがたいくらいだった。
しかし俺と一緒に押し付けられている死体たちはその限りではなく、俺の周りで不気味な音を立ててプレスされていった。
(騎士隊は今どこに居るのだろう)
周囲に兵士はたくさんいるが、騎士たちの姿があまり見えない。
一抹の不安を覚えた俺は、この囲いから出ることにした。
「ファイアーボール」
右手を下に向け足元で爆発させる。
打ち上げ花火の要領で盾内の爆風に乗って空高く飛び上がった。
素早く行軍の前方を見る、すると先頭付近で騎士たちが陣を構えていた。俺がいた所をぐるっと兵士たちが囲っていて、少し離れた所に騎士たちが居る。
地面に落ちながら、今の状況を整理した。
地上に密集している兵士たちめがけて盾を構えて急降下する。
シールドバッシュを決めて十数人が爆散する。
要するに兵士達をある程度排除しなければ、騎士たちの居る陣へはたどり着けないということか。
ここまで非戦闘員を含めて六十人位倒したが、敵はまだまだたくさん居る。
密集隊形に一番効く魔法を食らわせてやろうかな。
「ファイアーウォール」
眼の前二十メートル前に全力でファイアウォールを唱える。
間髪入れずに左回りに回転しながら追加で呪文を三回唱えた。
四方で大爆発音がして天高く炎の壁が出現する。
炎の壁に囲まれ俺と共に百名以上の兵士が内側に取り残された。
炎に焼かれ次々に倒れていく兵士達、直撃を受けた兵士は一瞬で消し炭になり、運良く呪文を避けられた兵士も強烈な放射熱で、身体から煙を吹いてのたうち回っている。
(今の攻撃で確実に百名近く葬ったな)
しかしここからがファイアーウォールの恐ろしいところだ、竜巻が発生して更に多くの兵士を焼き尽くすはずだ。
案の定四方の壁から炎の手が生えてきて辺りを蹂躙し始める。
兵士達は逃げ場のない炎の檻の中を断末魔を上げながら右往左往するだけだった。
立っているのが俺だけになり、唐突に炎が消えた。
視界に入ってくる兵士はごく僅かで五十人はいないだろう。
今の攻撃で百数十人が消し飛んだ計算になる。
改めて中級魔法の恐ろしさを実感した。
「あああああ~ あああああ~」
一番近くに居る全身の皮膚がめくれ上がり火傷で赤く腫らしている大柄な男が、言葉にならない音を口から吐き出した後、仰向けに倒れ動かなくなった。
(この場で無傷なのは俺ぐらいじゃないか?)
ファイアーウォールの熱も、絶対防御が完全に遮断して一切熱くない。
動ける兵士達は俺の姿を見つけると、我先に騎士たちのもとへ逃げていった。
見晴らしが良くなり、遠くに騎士たちが見えて、ゆっくりと近づいていった。
騎士たちの陣に五十メートル程近づいたところで、陣の中から一人の騎乗兵がこちらに駆け寄ってく来た。
半分ほど距離を詰めて止まり、こちらに話しかけてきた。
「こちらはカリヨン・フォン・ビスマルク様の使者である! 貴殿と話がしたい」
俺は無言でうなずき、剣を鞘に収めた。
騎士が馬をゆっくりとこちらに近づけ俺の前まで進んでくる。
「貴殿の武勇あっぱれである、カリヨン様は貴殿を召し抱えても良と思っておられる。カリオン様の温情に感謝して、武器を捨て頭を地面につけるのだ。返答はいかに!」
俺を馬の上から見下ろし、失礼な言い分を好き勝手に垂れ流す騎士、何しに来たのかわからないな。
軽く切れた俺はこの場にふさわしい呪文をお見舞いしてやった。
「俺の答えはこうだ!」
パネルランスが馬諸共騎士の身体を串刺しにする、一瞬で数百の鋭利な槍に貫かれた使者は絶命した。
パネルランスが消えて死体が地面に横たわる。
俺は何事もなかったかのように騎士の遺体を跨ぎ陣を目指して歩き出した。
死体を跨いだのを合図にしたかのように、一斉に矢が騎士陣営から放たれる。
当然ダメージは受けない、抜剣し盾を構えて、さらなる攻撃に備えた。
ゆっくりと陣営に近づいていくと、黒いローブを着た一人の男が前に出てきた。
男は魔法陣を展開して手を高く掲げた。
なにか大きな攻撃呪文が来るのかと身構えたが、何も起こらない。
しばらく相手の出方を見ていると、後方から何やら複数の足音が聞こえてきた。
振り返ってみると三メートルをこす巨人が三体こちらに向って突進してっくるところだった。
更に後方ではひっくり返った荷馬車から鉄格子の檻が転がり落ちていて、その中から巨人が出てくるところだった。
[フォレスト・ジャイアント…… 深い森に生息する巨人、身長が高く恐るべき腕力を持っている。知能が低く使役にはむいていない、呪文耐性があり中途半端な攻撃魔法は通用しない。 超回復]
あのローブの男は魔物使いだったのか、魔の森の騎士団も結構芸が多彩じゃないか。
ウィンドカッターを先頭の巨人にお見舞いする。
風切り音を出して巨人の頭に直撃し、巨人が頭を大きくかきむしった。
パックリと切り裂かれた傷口は、すぐさま泡立ち再生されてしまった。
俺の攻撃が効かないのを見た騎士団は、歓声を上げて士気を高めた。
先頭の巨人が三メートル手前でジャンプをする。
ジャンプ力はなかなかの物で、足を揃えて俺を踏み潰しにきた。
上段に構えたミスリル剣を高速で振り下ろし、巨人の正中線に沿って左右に切り分ける。
見事に真っ二つに斬り別れた巨人の断面では臓物がまだ生々しく動いていた。
遅れてきた三体の巨人もミスリル剣の敵ではなく、一振りごとに手足が落ち、その場に転がった。
ミスリル剣で太い首をはね飛ばす、さすがの巨人も首をはねられては回復はできず、光の粒子になって消えていった。
ゆっくりと騎士陣営を振り返ると、騎士たちは散会して三隊に分かれていた。
中央に騎士三十名、歩兵四十名で構成された本隊。
左右に騎乗兵のみでランスを掲げている部隊が各十名。
最終決戦は基本の戦闘になるようだった。
中央の歩兵部隊の一部が呪文の詠唱を開始する。
聞き覚えがある旋律はマール村で聞いた合唱魔法に似ていた。
呪文はそれほど時間がかからず完成し、その場の騎士や兵士たちの武器がうっすらと輝き出した。
号令とともに歩兵が怒号を響かせて、武器を掲げて突進してくる。
そのなかには近接戦闘に不向きな弓兵や、火傷でボロボロの兵士も見受けられ、歯を食いしばって味方についてきた。
俺対兵士達が中央で激突する、兵士達の武器は強化の呪文が施されたようで、威力切れ味とも数段増していた。
しかし俺の絶対防御の壁は厚く傷一つ付けられない、確実に一人ずつ息の根を止めていき、残りはまともに動けない重度のやけどを負った兵士だけになった。
火傷の兵士を無視して本隊を攻撃をしようと思った時、敵の本隊から複数の光の玉が俺めがけて直進してきた。
光の玉はマール村で見た合唱魔法で、本体の騎士たちが複数個唱えたものだった。
俺を中心に連続して大爆発が巻き起こる。
動けない兵士達が巻き添えになって死んでいった。
(仲間を巻き込むなんて下衆な奴らめ!)
絶対防御の光が強烈になり、象形文字も最高潮に荒ぶっている。
魔の森の騎士団の手段を選ばない攻撃に心の底から怒りが湧いてきた。
騎士本隊の攻撃に気を取られていると、蹄の音と共に左右から騎乗兵がランスを構えて突進してきた。
二列縦隊で間隔を開けた騎乗兵は、俺やかろうじて生き残った火傷の兵士を一緒くたにランスの餌食にしていく。
統率の整った騎乗兵は、俺を中心にして何度も攻撃を仕掛けてきて、俺以外は立っている人間はいなくなった。
強化されたランスの攻撃が体に当たり、身体が小刻みに上下左右に弾かれる。
正直面倒くさくなった俺は、自分の周りにパネルランスを敷き詰めた。
そこに何も知らない騎士たちが全速力で突っ込んでくる。
当然地面から生えた槍に馬諸共身体を貫かれ、次々と即死していく。
どこに逃げてもパネルランスは設置してあり、あっという間に騎馬隊の串刺しが完成した。
残る魔の森の騎士団は三十名ばかり、最後の決戦を前にリュックからコーラを取り出しグイッとラッパ飲みをした。
唖然と見ている騎士隊、よもや一人の人間に総勢三百人の軍隊が壊滅されるとは思わなかったのだろう。
騎士を倒してマール村に早く帰ろうと思っていると、先程のローブの男が懐から特大の魔石を取り出し呪文を詠唱し始めた。
今までよりも複雑な旋律は、高度な魔法が施行されるのが確実にわかり、少し警戒を強める。
じゅもんを唱え終える瞬間、男は自分の胸に短刀を突き刺し心臓をえぐり取った。
その心臓はまだ動いていて一鼓動ごとに血を吹き出している。
その生き血が魔石に掛かり、眩しい光と共に砕け散った。
男は満足そうな笑みを顔に貼り付けて絶命した。
天空から光が一筋落ちてきて、俺の目の前の地面に落ち広がる。
そのまばゆい光の渦に、盾で目を塞ぎ一瞬固まってしまった。
次の瞬間横腹に強い衝撃を受け、五メートルほど吹き飛ばされ地面に頭から突っ込んだ。
絶対防御が青白く強い光を発し、象形文字が目まぐるしく結界の上を走った。
光の渦はまだ収まっておらず、中の様子をうかがい知ることは出来ない。
しかし確実に今までとは比較にならない強者が、光の渦の中に居ることは明らかだった。




