ガルド鉱山組合
闇の中で俺と黒ずくめの男が向かい合って立っていた。
男は構えもせず手をだらんと下に垂らし、手には何も持っていない。
俺は余裕を持って剣を構え、必殺の一撃を男に放った。
男は避けもせず剣は胸に深々と刺さった。
勝った
そう思った瞬間、胸に激痛が走り膝をついてしまった。
胸を見るとさっきまで男に刺さっていた剣が深々と刺さている。
俺は目の前の男を見る、すると男は俺の顔をしていて笑っていた。
ガバっとベッドから飛び起きる、腰を低くして手刀を構え、あたりを見渡す。
見慣れた部屋に居るのがわかって、夢を見ていたことにやっと気づいた。
止めていた息をゆっくり吐き出す、構えを解き、力を抜いてベッドへ腰掛けた。
窓の外をを見る、夜明けにはまだ時間があるようだ。
のどが渇いて焼けるようだ、無性にコーラが飲みたくなった。
日本に居た頃、朝はいつもコーラを目覚まし代わりに一缶飲み干し、会社に行く支度をしたものだ。
異世界にはもちろん無いので、ペットボトルを出して水を飲もうとした。
薄暗い部屋の中でキャプをひねる。
プシュッ
(うん?)
更にひねる。
プシュゥ~
ペットボトルから明らかに空気の抜ける音が出た。
ペットポトルをテーブルに置き、急いでリュックからランプを取り出す。
ランプの明かりをつけてペットボトルを見た。
テーブルの上には、細かい泡がとめどなく出ている琥珀色の液体が、二リットルのペットボトル満タンに入って鎮座していた。
緊張で少し震えながらペットボトルを掴む、注ぎ口に鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。
(これ、コーラじゃね?)
鑑定!
[異世界のボトル…… レベル2 念じると清浄な水と冷えたコーラが無限に湧き出てくる魔法具]
(うをおおお、まじかあああ~)
リュックからコップを取り出す、はやる気持ちを抑えつつ、コーラをコップに注ぐ。
あわててしまって、泡を出しすぎて溢れてこぼれそうになる。
口をコップに持っていってすばやくすすった。
(うめええええええっ)
一気にコップのコーラを飲み干す。
「ゲブゥ~~ゲブッ」
はしたない音が部屋に響き渡った。
気がつけばペットボトル半分ぐらい一気に飲んでしまった。
しかし念じると水とコーラが出るって意味がわからん。
とりあえずペットボトルを持って、水、水、水と念じる。
一瞬でコーラが満タンの水になった。
おお、すごい。
今度はコーラ、コーラ、コーラと念じる。
また一瞬でコーラになった。
俺はこの世界で生きていける自信がついた!
コーラがあればどんな辛いことでも耐えられる気がする。
気がついたら涙を流していた。
昨日の夕食時の不安も、悪夢を見たこともすべて忘れて、朝の身支度をする。
フル装備に身を包み、リュックに荷物を全部入れて、忘れ物が無いことを確認して、足取り軽く一回に降りていった。
「おはようございます」
カウンターに居た、ベアトリーチェさんに挨拶をする。
「おはようございます、トーヤ様」
ベアトリーチェさんが優雅に答える。
「おはよう、アンナさん、ソフィアちゃん」
酒場にいる二人に笑顔で声をかけた。
「おはようございます」
「おはようごさいますっ」
二人揃って返事を返した。
「トーヤさん昨日はごめんなさい」
「ごめんなさい」
二人が謝ってくる。
「ああ、そのことはもう忘れよう、俺はなんとも思ってないからね。逆に心配してくれて嬉しかったよ」
笑顔で二人の謝罪を受けた。
「なんかトーヤさんすごく機嫌が良くないですか」
ソフィアちゃんがニコニコしながら聞いてくる。
「なにか嬉しいことあったんですか?」
アンナさんもつられて笑いながら聞いてくる。
「そうだなぁ、一番欲しいものが手に入ったんだよ」
おれは心底嬉しそうに笑った。
「なんですかそれって」
「おしえてくださいっ」
ふたりとも俺の笑顔につられて、満面の笑みだ。
朝から酒場は明るい雰囲気に包まれたのだった。
「それじゃ、行ってきます。帰りはあさって、遅くても三日後には戻りますのでよろしくおねがいします」
「トーヤさん無茶はしないでくださいね」
「トーヤさん、気をつけてくださいねっ」
「ご武運をお祈りしています」
「自分の道を信じるんだよ、君なら出来る」
エルフ親子に見送られて、ガルドの北の鉱山へ出発した。
北の門はちょうど開くところだった。
北の山には様々な金属が取れる鉱山があり、多くの働き手を養っている。
いつもならば鉱山へ向かう坑夫たちの長蛇の列が、北の門から続くのが見えるのだが、今日に限ってはいつもの半分以下しか居なかった。
坑夫に混じって鉱山に向かう、一時間ほど歩いていくと山の麓に小さな建物が見えて来た。
坑夫たちは建物には入らず、横を通って裏手に消えていった。
窓から中を覗くといかついオッサンがテーブルの周りに数名、椅子に座っていて大きな声で話しをしていた。
俺はドアを開け、オッサン達に聞こえるように声を張り上げた。
「すいません! 魔物討伐の依頼書を見てきたんですが、担当の方いますか!」
一斉にこちらに顔を向けるオッサン達、鋭い眼光が俺を睨んでいた。
「なんだ、やけに早いな。ギルドのねぇちゃんは依頼書の掲載は、今日からって言ってたはずなんだがな」
一番扉に近いヒゲモジャのオッサンが、椅子から立ち上がりながらこちら
に来る。
「昨日ギルドが終わる直前に、職員の人が掲示板に貼っていたのを見て早めに来たんです」
ギルドに迷惑がかかりそうだったので、適当な嘘を言ってみた。
「しかし細っこい体した冒険者だな、そんなんで大丈夫なのかね。まあいいだろ。俺はグスタフだ、案内するからついてこい」
俺を一瞥して坑夫達が歩いていった裏手にズンズン行ってしまった。
慌てて後を追いかける、途中で追いついて歩調を合わせた。
「俺トーヤです、よろしくお願いします」
自己紹介を慌ててした。
「だいぶ礼儀正しいじゃねえか、この前まで潜ってた冒険者とは偉い違いだな」
指名依頼の冒険者のことかな、彼らは何をしているのだろう。
「依頼内容は依頼書に書いてある通りだ、他に質問はあるか?」
歩きながら依頼の説明をしてくる。
「依頼内容は大体わかっているのですが、坑道で見つかった価値のあるものの所有権は誰にありますか?」
アイテム見つけても没収されたら困るから、ここはしっかり決めておきたい。
「組合の施設のもの以外なら、全部お前さんのものだ、好きにして構わんよ」
よし、アイテム取り放題だな。
「あと、魔物討伐と書いてありましたが、何を持って討伐したと決定するんですか?」
「そうだな、魔物が発生した原因を特定して、原因の排除をしてもらいたいな」
「かなり曖昧な定義ですね、魔物のボス的存在などがいれば、話が早いんでしょうけど」
魔物の発生が収まらなければ、討伐達成にならないということなのかな。
「まあ浅い層の魔物を、討伐してくれるだけでも助かるから、気楽にやってくれ」
グスタフさんは、あまり俺に期待をしてなさそうだな。
「死なないように気をつけます」
「他にはあるか」
「報酬の金貨一枚から、と言うのはどういう意味ですか」
「ああ、あれか。あれは魔物の強さがまだ完全に解ってないから、とりあえずってことだ」
残念そうに頭を振った。
「指名依頼で冒険者が潜っているって聞きましたが、彼らはどうしているんですか?」
「さあ、わからんな。一昨日から戻ってきていない、生きているのか死んでいるのか、サッパリ分からんよ」
冷めた口調で興味なさそうに言い放つ。
「あんちゃんも、やめるなら今の内だぞ、無理に潜ってゾンビになんてなられたら、それだけ厄介事が増えるんだからな」
完全に期待はずれの素人冒険者と決めつけたグスタフさんは、興味なさげに歩く速度を早めた。
暫くついていくと山の麓にトンネルが見えてきた。
丸太で木組みしてあるトンネルは、人が立ってやっと歩けるほどの高さだ、地面にはレールが敷かれている。
トンネル入口の横に石のプレートがあり、『ガルド第一坑道』と掘ってあった。
入口の前には坑夫らしき男が一人と、冒険者風の男が四人いて、トンネルの方を見ていた。
「ご苦労さん、変わりないか?」
坑夫の青年にグスタフさんが話しかける。
「今の所変わりありません」
グスタフさんと青年が話している間も、冒険者風の男共は警戒を怠らないでいた。
「それじゃ、後のことはこのトマスに任せたから、わからないことはこいつに聞いてくれ。あんちゃん、死なない程度にせいぜい頑張ってくれよな」
グスタフさんが俺のお尻を一発思いっきり平手で叩いた、
絶対防御が働いて、グスタフさんが手を抱えて痛がっている。
「意外と頑丈なやつだな」
眉間にシワを寄せて手をさすりながら、もと来た道を帰っていった。
「トマスです、よろしくお願いします」
青年は右手を出して挨拶してきた。
「トーヤです、こちらこそよろしくお願いします」
こちらも右手を出して握手をして、深々と腰を曲げてお辞儀をする。
突然の丁寧な挨拶についサラリーマンの癖が出て丁寧な挨拶をしてしまった。
「そんな丁寧な挨拶をされると、恐縮してしまいますよ」
やや苦笑いを浮かべてトマスさんが軽くお辞儀をした。
「はは、つい癖が出てしまったようです」
頭を掻きながら言い訳をした。
「私は普段は鉱山で技師をしているのですが、今は魔物が現れた原因の調査を任されています。リップマンさん! ちょっと来て下さい!」
自己紹介をしながら手招きで冒険者の一人を呼ぶ。
背の高いガッチリタイプの冒険者が他の三人の冒険者と一言二言話してから、こちらへ歩いて来る。
「呼んだかい、そろそろ交代の…… ってそいつが交代要員の冒険者か?」
リップマンと呼ばれた男は、何か勘違いをしているようだ。
「いえ、残念ながら彼は探索者ですよ。募集をかけていた討伐依頼に応募してくれたのです」
「か~ まじかよ! やっと休めると思ったのによぅ」
残念そうに天を仰いでいる。
「トーヤです、お世話になります」
警備用員みたいだから仲良くしていこう。
「おう、リップマンだ、よろしくたのむぜ」
手をガッチリ握って力強く握手してきた。
「何かあったら力になるぜ、遠慮なく言ってくれよなっ」
それからリップマンさんが離れて行って、トマスさんが迷宮の説明を始めた。
「僕から少し坑道の説明をさせてもらうよ」
ノートを出してデータを見る。
「現在ガルド鉱山組合所有の第一坑道が魔物の出現に伴って魔物の巣窟になっています。鉱山の中を魔物が徘徊しているので、鉱石の掘削作業が中断され、業務に多大な損害が出ている状況です。そこでベテラン冒険者に指名依頼を出して、鉱山の探索をしてもらっていたのですが、一昨日から冒険者の帰還が皆無になってしまい。再調査を冒険者組合に依頼させてもらった次第です」
一気に言い切ったトマスさんが満足そうにしている。
「坑道の浅い層は弱い魔物しか居ないとのことですが、下層部は現在どういった状況なのでしょうか?」
トマスさんに合わせて少し硬い言い回しをしてみた。
「良い質問ですね! 先のベテラン冒険者は、鉱山の上層部の探索を完了しています。行方不明の件は下層を探索しようと潜った直後に起こったと報告を受けています」
トマスさんは、難しい言い回しに食いついてきて、興奮気味に説明を続ける。
面倒くさくなってきたので、砕けた口調で質問した。
「トマスさん、とりあえず坑道を見てきていいっすか?」
「どうぞ行ってきて下さい」
元気を無くしたトマスさんはノートを閉じて悲しそうに言った。
「トマスさん、中で宿泊できる施設などはありますか?」
だめもとで聞いてみた。
「宿泊できるか分かりませんが、休憩所がメイン坑道の終点付近にありますよ。そこからすぐ奥に行った所に、下層へ行くためのはしごがあります」
「ではいってきます」
気合を入れて坑道に入っていった。




