買い物
情報も収集したのでやることもなくなってしまった。
明日から鉱山に潜ることになるなら、いろいろ買い物をしておいたほうがいいかな。
まず市場に向かう、寝袋や、キャンプセットを買わないといけない。
食べ物は携帯食ならリュックに入れて持っていけるけど、それだけでは味気ないのでいろいろ調達しよう。
時刻は三時を少し回ったところだ、相変わらず人で賑わっているな。
市場の一角にある道具屋に行く。
道具屋はしっかりとした木造の平屋で店先に日用品が所狭しと陳列してあった。
店の中に入ると窓が大きく開いていて、思ったよりも店内は明るかった。
「いらっしゃい、うちは日用品なら何でも売ってるよ、何か買ってってくれ」
道具屋の親父が俺に気づき近寄ってきた。
「鉱山に潜ろうと思うのだが、一式見繕ってくれないか」
キャンプなんてしたことがないので、親父に丸投げする。
「いいぜ、まず基本の物からだな、コップに皿に鍋にフライパンも必要だな。フォークにナイフ、フライ返しにおたま杓子、コンロを忘れちゃいけねえな」
どんどん道具を選んでいく親父、頼もしい限りだ。
「あんちゃん、コンロは普通のやつと魔導コンロがあるけど、どっちにするんだ?」
「魔導コンロってなんだ?」
「魔導コンロってのは魔石を燃料にして、半永久的に火を出す調理器具だよ。値段はそれなりだが、普通のコンロみたいに燃料を持っていかなくて済むし、なにより火を起こすのがボタン一つで出来るすぐれものなんだ」
何やら便利そうだな。
「いくらするんだ?」
「普通のコンロは燃料一回分を付けて銀貨一枚、魔導コンロは銀貨三十枚だよ、高いけど長く使えばもとは取れるよ」
結構するな、でもお金は結構持っているんだよな。
「この魔導コンロは、近くで魔法屋をやっている錬金術師の婆さんが、作って卸してくれているヒット商品なんだよ。今まで壊れたこと無いから買って損はねぇよ」
むむ、錬金術師の婆さんには心当たりがあるな、イリーナさんの作ったものなら買ってみようか。
「わかった、魔導コンロを買うよ」
「まいどあり! あんちゃんいい買い物したよ」
親父は高い道具が売れてホクホク顔だ、その後も細々したものを選んでもらった。
「親父、テントと寝袋でいいやつなにかないか?」
「あんちゃん、鉱山に潜るのにテントなんていらねえだろうよ」
親父が呆れ顔で俺を見る。
「おれは誰かに見られるような所では寝れないんだよ」
都会ぐらしのサラリーマンは、ホームレスなんてやったこと無いんだよ。
「まああるにはあるが、値が張るぜ」
押し付け上手な親父にしては、どうも歯切れが悪いな。
親父は後ろの行李から小さな箱を引っ張り出してきた。
「これは魔導ハウスっていうものだ、箱のボタンを押すと小さな小屋が現れるっていう代物だよ。錬金術師の婆さんに無理やり買わされたんだが、高すぎて誰も買わないから、今じゃ行李の肥やしなんだ」
イリーナさん押し売りもやっているのか……。
「ちょっと店の前で開いて見せるから見てくれ」
親父が道の上に箱を置き、周りに人が居ないのを確認してボタンを押す。
十秒ぐらい経った次の瞬間、物置みたいな小さな家が出現した。
窓がついていてドアがあり土台もしっかりしている。
中に入ると天井は立っていても圧迫感はなく、床は板張りでたたみ二畳ぐらいの広さがあった。
窓にはガラスがはまっていて、壁やドアも頑丈にできている。
煙突も付いていて簡易的な暖炉まで設置してあった。
一目惚れで欲しくなってしまった。
ひと通り見た後、親父がドアに付いているボタンを押すと、また小さな箱に戻った。
「気に入ったよ、いくらするんだ」
ひと目で気に入り、親父に値段を聞く。
「買ってもらえるんなら大負けに負けて金貨二枚で売らしてもらうぜ」
金貨二枚、日本円に換算すると二百万円、性能は申し分ないしお買い得だな。
「よし、買った!」
気合を入れて叫んだ。
「まいどあり! あんちゃんいい男だよ!」
不良在庫が売れて親父が踊り喜ぶ、物資の精算を親父に頼んだ。
「雑貨が全部で銀貨五枚、魔導コンロが銀貨三十枚、魔導ハウスが金貨二枚、合計で金貨二枚と銀貨三十五枚だ」
お金を払い、宿屋に持ってきてもらうことにした。
無限収納のリュックの存在はできるだけ秘密にしたいからね。
親父は最後に寝袋をおまけにくれた、よっぽど魔導ハウスが売れて嬉しかったようだ。
「ところで親父、なんで魔導ハウスって売れないんだ、そこいらへんの空き地に立てて住めば、狭いけど安く自分の家が建てられるんじゃないか?」
素朴な疑問を親父に聞いた。
「馬鹿言っちゃいけねぇよ、ガルド周辺の土地はすべて伯爵様の財産なんだよ、勝手に家なんて建て定住したら、すぐ捕まって縛り首になっちまうよ」
なるほど、この世界は民衆は土地を持てないのか、店なんかは権利をかってるのかな? まだまだ知らないことだらけだな。
道具屋を出た後に青空市場で野菜や肉類、調味料を大量に買って宿屋に帰宅した。
井戸端で行水をしてさっぱりして、アンナさんに挨拶をすると荷物が届いていると教えてくれた。
道具屋の親父が部屋に届けてくれたらしい。
部屋は物で溢れかえり足の踏み場もないほどだった。
片っ端からリュックに詰め込み、あっとゆう間に片付いた部屋で夕食までの時間を潰した。
夕日は城の尖塔を朱く染めていた。
人々が家路に急ぎ、教会の鐘が夜の訪れを知らせていた。
一階に降りるとベアトリーチェさんとアンナさんが酒場の開店準備をしていた。
アンナさんが椅子をテーブルから降ろし配置している。
「手伝うよ」
てもちぶたさだった俺は、近くの椅子を降ろしテーブルの位置を直した。
「トーヤさんはお客さんなんですからゆっくりしていて下さい」
アンナさんは困った顔で、でも少し嬉しそうに言った。
「魔物が鉱山に出現したらしいんだよ、だから明日から鉱山に潜るつもりなんだ、何日か外泊するかも知れないので、よろしくお願いします」
世間話に明日からの予定を話す。
「鉱山に魔物ですか、あまり危ないところには行かないほうがいいんじゃないですか?」
心配そうにこちらを見るアンナさん。
「まあ、明日は様子見で浅い階層しか行かないつもりだから、魔物も弱いやつしか居ないんじゃないかな」
ちょっと心配させてしまい、申し訳ない気持ちになった。
「あまり無茶なことはしないでくださいね」
「だいじょうぶ、これでも俺強いんだよ?」
安心させようと少しおどけてみた。
「そう言って戻ってこない冒険者の方をいっぱい見てきたんです。だからくれぐれも慎重にお願いしますね」
逆に不安にさせてしまったようだ、「わかりました」と言って席についた。
「おまちどう様です」
夕食を待っているとベアトリーチェさんが運んできてくれた。
「ベアトリーチェさんに持ってきてもらうと、更に美味しくなる気がするんですよ、ありがとうございます」
本心から真剣に言う、はたから見れば口説いてるように見えるが、崇め奉る女神様に対する感謝の気持ちなのだ。
「まあ、トーヤ様は本当にお上手ですのね」
花が満開に咲いたように微笑む女神様を見て癒やされた。
今日の夕食はおかずが一品多かった。
朝食を食べそこねたぶんおまけしてくれたのかな。
メインはピグフェロのステーキで、らくに三百グラムはあり食べごたえがありそうだ。
もう一品にビーフシチュー的な物がついてきた。
肉はなんだかわからないが、見た目はビーフシチューそのもので、ほろほろに柔らかい肉が舌の上でとろけていった。
パンと一緒に食べると、すごく合っていていくらでも食べられそうだ。
コンソメスープも美味しくて、パンを三つおかわりしてしまった。
ワインを飲んで夕食の余韻を楽しんでいた所に、アンナさんとソフィアちゃんが来た。
「お食事中もうしわけありません、ちょっといいですか?」
姉妹揃って深刻な顔をしてテーブルの前に立つ。
「立ち話も何だから座らない?」
二人は静かに椅子に座った。
酒場の常連のオッサン達も何事かとこちらに注目している。
「お姉ちゃんにさっき聞いたんですけど、トーヤさん鉱山に潜るって本当ですか?」
ソフィアちゃんが言うと、周りのオッサン達がざわめき出した。
「あんちゃん、そりゃぁやめたほうがええよ」
酒をおごってやったことのあるオッサンが、横から口を出してきた。
俺はソフィアちゃんを見てオッサンも見る、深刻そうな二人を見て回りを見渡した。
酒場の人達はみんな俺を、かたずをのんで見ている。
「話がよく見えないんだが、鉱山に潜ってはだめなのか?」
困惑の表情でアンナさんを見た。
アンナさんも真剣な表情でまっすぐこちらを見ている。
「私噂を聞いたんです。鉱山に潜った人が誰ひとり出てこなくなったそうなんです」
ソフィアちゃんが眉間にシワを寄せて手を強く握っている。
「ギルドで行方不明者が出ているのは聞いたけどそんなに深刻なのか?」
タルトちゃんはそんなに深刻そうには言っていなかった、俺に嘘をついているのか? そんな子には見えないが。
鉱山組合がなにか隠しているのか? ここ一日で事態が深刻になった可能性もあるな。
「鉱山で働いている俺の知り合いが、悪魔が出たって言ってたよ」
後ろで話を聞いていて若者が、不安そうに口を出してきた。
「そういえば知り合いの冒険者もここ数日見てないな、居なくなる前に鉱山で一儲けするって息巻いてたが」
戦士風の冒険者が後をつないだ。
みんなの話をまとめると鉱山はやばいことになっている可能性があるということだな。
「みんなの話はよくわかった、でも俺は鉱山に入るよ」
きっぱりと断定する。
「でも! あぶないですよ!」
アンナさんが思わず叫んだ。
「俺は冒険者なんですよ、危険は承知しているんです。それに自分の目で見ない限り進退の判断はしません」
「私は……」
アンナさんはさらに何か言いかけた。
「お前たち、彼は本当の冒険者なんだ、それ以上言ってはだめだ」
アンナさん達の後ろから高身長の整った顔をした偉丈夫が言い放った。
[トリスタン…… 平民 料理人 レベル18(エルフ・男・43歳)・スキル…… 上級剣術 上級弓術 初級格闘術 中級薬師]
「お父さん……」
姉妹が男を見て黙り込んだ。
「初めて顔を合わせるねソーヤ私はトリスタンだ、いつも料理を褒めてくれてありがとう」
「トーヤです、御厄介になってます」
出された手を堅く握る。
「娘たちが余計なことを言って悪かったね」
申し訳なさそうにこちらを見た。
「彼は覚悟をした男なんだ、他人がとやかく言えるような中途半端さをもって、冒険者をやっているわけではないんだよ。分かってあげなさい」
静かに娘たちを諭す。
周りを囲んでいた男たちも一人、また一人と自分の席に帰っていった。
「トーヤさんごめんなさい」
「ごめんなさい」
二人共納得はしてないが、これいじょう言うことを諦めたようだった。
「さあ、仕事に戻りなさい」
トリスタンさんは優しく姉妹の背中を押した。
「トーヤ、娘たちを許してやってほしい、本当に優しい子たちなんだよ」
「わかってますよ、心配してくれてうれしいですよ」
「そう言ってくれるとありがたいよ、では私も仕事に戻るよ」
もう一度握手をして厨房へ戻っていった。
俺がいると場が白けてしまうので、早々に部屋に戻った。
部屋に入り暗闇でショートソードを構える。
ゆっくりと素振りをする、そしてすばやく剣を振り抜いた。
俺は生きて戻ってくる。
静かに夜が更けていった。




