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生まれ変わったのですよね?  作者: セリカ
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90 夜の秘密


 早速外に出掛けようと思ったのですが、気付けば夕方でしたので、少し早目の食事にして、明日から行動を開始する事にしました。

 アルカードさんが用意してくれたこの宿は、一階は食堂も営業しているそうなので、カミラと2人で向かう事にしました。

 その間にアルカードさんが必要な物を用意してくれるそうなのですが……カミラは自分の衣類などは持参していたのですが、私は何も持って来てないのです。

 一応、アルカさんの方の姿でお願いしておいたのです。私の衣類を用意してくれるそうなのですが、お屋敷の監視をしているので私が好んで身に付ける物も把握していると言われた時は、性別が無いとはいえ、複雑な気分になりました……。

 いつもはシノアの収納に荷物を預けていますので、私にも収納の能力が欲しいと、この時は強く思いました。



 カミラと2人で適当に食事を注文して、私はお金を持っていない事に気付いたのです!

 いつもシノアが全て用意してくれるし、支払いなども全て済ませてくれるので、お金など持ち歩いた事などありません。

 シノアと出会う前もリンが全てしてくれていたので、早くも私は危機なのではないでしょうか?

 カミラもそのような事はしているところは見た事がないので、もしかして2人ともお金を持っていないのでは……。

 お金に関しては、この大陸で通貨が統一されているので、持っていれば問題は無いのです。アルカードさんがお金を持っていれば良いのですが、戻って来るまでは席も立てないですよね?


「あの……先ほどから、何か考え込んでいますが、どうかなされたのでしょうか?」


 カミラが私に気付いて声を掛けてきてくれましたので、一応聞いてみる事にしました。


「カミラは、お金を持っていますか? 私は恥ずかしい事に何も持たずに来てしまったのです。それ以前に全てシノアに預けてあるので、よく考えたら、肝心な物が何も無いのです」


「エルナ様、安心して下さい。お金に関しては、私は自分で管理していますので問題はありません。それよりも食事が終わったら、まずは着替える事をお勧め致します。先ほどから、そのドレス姿は少々ここでは浮いていますので……」


 そう言われてみれば、お屋敷でいつも着ている動きやすい物なのですが、確かに他のお客さんと比べるとドレスなどを着ているのは私だけです。

 いま気づいたのですが、カミラはちゃっかりと動きやすそうな冒険者の方が着るような服装をしています……気付いていたのなら、教えてくれても良かったのに……。


「お金の事は安心しましたが、どうしてカミラだけ、いつの間にか着替えているのですか?」


「……エルナ様に目的を聞いた時に、動きやすい服装にしましょうと提案したのですが、頷くだけで何か考え事をしていましたので、その時に着替えました」


 あの時は、シノアの事にしか考えていなかったのです。


「私が気付くまで教えてくれれば良かったのに……」


「アルカードさんが移動の手配をしている時にも確認しましたが、妄想の世界に浸っていたみたいなので、私は諦めたのです」


「私は妄想などはしてはいないと思いますが?」


「……自覚が無いのかも知れませんが、エルナ様はたまにあちらの世界に浸って何か楽しんでいるみたいなのですが……その……涎を垂らす癖だけは止めた方が良いと思います……私がショックを受けた原因なのですが……」


 ……私がシノアを手籠めにしている時の妄想が漏れていたなんて……最後に小声でショックとか言っていましたが、どうしたのでしょうね?

 しかし、これからは、人前では妄想に耽るのは控えないといけませんね。

 いまの話がお母様の耳に入ったら、だらしないなどと言われて、また淑女の何たるかをくどいぐらいに聞かされてしまいます。

 自分だって可愛い物には目が無いのに、私だけ叱るなんて理不尽と思います。

 私がぶつぶつ言っている間に料理が来たので、まずはお腹を満たす事にしましょう。



 初めて食べる異国の料理です。少し味が薄めですが、それなりに美味しいと思いました。

 ただ、シノアの作ってくれた物に比べると物足りないのです。

 シノアは、料理に関しては、常に研究をしていますので、シノアの作ってくれた食事に慣れてしまった私の味覚は、他の食事では満足が出来なくなってしまったのです。

 食後には必ず甘い物を出してくれるのですが、ここでは無理ですよね……早くもシノアの料理が恋しくなって来ました。

 私達が食べ終わる頃を見計らって、男性の方達が声を掛けて来たのです。見た感じはこの国の冒険者の方に見えます。


「お嬢さんたちはここでは見かけないのですが、他の国からお見えになったのですか?」


「ええ、少し観光に来たのです」


「宜しければ、私達が明日にでも案内をします。お近づきの印にこの後一杯いかがでしょうか?」


「申し訳ありません。みだりに殿方と飲む事は禁じられていますので、せっかくの申し出なのですが、辞退させていただきます」


 そこそこ美形の方ですが、背後に居る3名の方達はいかにもいやらしそうな目で私達を見ています。

 私とカミラを酔わせて、如何わしい事でもするつもりなのでしょうか?

 

「お前が断られるなんて、珍しいな。もしかしたら、彼女達は俺のような男らしい方が好みかもしれないぜ!」


「私の連れがそう言っていますが、私では力不足ですか?」


「申し訳ありませんが、そのどちらでもありませんので、ご遠慮させていただきます」


「せっかくの出会いなのですから、少しぐらいは御一緒しても良いではありませんか?」


 しつこい方ですね……私は男性には興味が無いし、この手の方達のような社交界の下らない男性の誘いを散々聞いて来たので、聞き飽きているのです。

 貴族のパーティーの時は公爵家の名前があるので、私にしつこく迫る者などいなかったのです。どうしましょう。

 私には、シノアのように相手を見る力は無いのですが、何となく私よりもこの方達は弱い気がします。

 斬り合いになった場合だと、私の愛剣のくーちゃんがないので素手になってしまうのですが、私に戦えるのでしょうか?

 ……そうです!

 私には剣が無くても普通の方よりも身体能力が上だし、マナで更に強化すれば、その辺の冒険者の男性にだって腕力で負ける事はありません。

 ここは1つシノアを見習って勝負でもして、お引き取りをしてもらいましょう。

 シノアは、いつも男性の方に言い寄られると、必ず飲み比べをして圧勝しています。

 私は、余りアルコールには強くないので無理ですが、一度で良いので、シノアが酔い潰れているところが見たいです。

 そしたら、私が心を籠めて介抱してあげれるのに、あの飲んべのギムさんですら負けてしまうのです。

 あまり介護する妄想に耽っていると、またカミラに注意されてしまうので、まずはこの方達を追い返してから、部屋で続きを想像する事にします。


「では、私と力比べをして勝つ事が出来たら、御一緒させていただきます。私達をエスコートするのですから、当然強い方なのですよね?」


「お嬢さんが私と力比べをするのですか? その美しい細腕で私に勝てるとは思えないのですが?」


「では、そちらのテーブルで、手を組んで、相手の手の甲を先に付けた方が勝ちで良いでしょうか?」


「どうも本気のようですね。その美しい手を傷付けないように勝たせていただきますよ」


「お気遣いありがとうございます。でも、本気で挑む事を忠告しておきますね」


 相手の方はやれやれと苦笑しつつも勝ったつもりでいますが、腕力に関しては、私達のメンバーの中では私が一番強いのです。

 クロード殿下は、お試しで相手をした時に手首を折ってしまったので、それ以来は絶対に私と力比べをしょうとは致しません。

 さて、この殿方はどのくらいの強さなのか、少し楽しみになって来ました。

 手を組んで用意出来たところで、カミラに合図をしてもらって始めます。私の手をまさぐるように握るのはちょっと止めて欲しいですね。


「それでは、カミラが合図をしたら、始めましょうね」


「いつでもいいよ」


「はぁ……エルナ様も下らない事をしょうとしていますが、やり過ぎないで下さいよ。では、始めて下さい」


 カミラのやる気の無い呆れ声で始めましたが、この方は何をしているのでしょうか?

 私は特に力を入れていないのに、全く動かないのですが?

 クロード殿下の時は、私が更に強化しないと押されてしまったのですが、それともこの方はまだ力を出してないのでしょうか?

 私が不思議そうに見ていると、余裕の表情が消えて真剣な顔をしていますが?


「おい、ソル。いつまでそのままなんだ? 早くその嬢ちゃんを負かしてしまえよ。いつまでも自分だけその柔らかそうな手を味わっているなんて言うなよ?」


「わかっているんだが……ピクリとも動かないんだよ……まるで、石像でも相手にしているみたいなんだ……これでも全力なのに何故なんだ?」


「はぁ? おいおい、何を言っているんだ? こんなどこかのお嬢様がそんなに強いわけはないだろう?」


「もしかして、これが全力なのですか? 私はまだ何も力を入れてないのですが。ひ弱な方ですね」


「クソ……どうなっているんだ!」


「どうも限界のようですから、私も少し力を入れますね」


 私が力を少し籠めると、相手の手が叩きつけられたみたいで、手の甲を押さえて転がっています。


「ぐぉぉ……俺の腕が……右手の感覚が無いんだが……いまので俺の右腕が駄目になったぞ……この女は化け物か?」


「私を化け物呼ばわりとは失礼な方ですね。私が努力した結果なのですから、貴方の鍛錬が足りないだけですよ?」

 

「馬鹿な……俺はレベル60もあるし、それなりの実力もあるのに、こんな小娘より劣るというのか?」


 あら、私よりもレベルの時点で半分以下だったのですね。

 確か私のレベルはこの前にシノアに聞いた時はレベル139だったと記憶しています。

 化け物の次は小娘扱いになりましたが、最初の紳士的な態度が崩れました。こちらが素のようですね。


「私の勝ちのようです。ご不満でしたら、まだ続けますか?」


「よし、俺がやる」


 今度は筋肉隆々の方ですね。

 これは、先ほどとは違って私も本気の方が良いかもしれませんね。


「では、お受けしますが、これで負けたら納得して下さいね?」


「俺は、この中では一番力自慢だから、あいつとは違うぜ。いい手をしているな……勝った時が楽しみになって来たぜ」


 この方も私の手をいやらしく揉んでます。後で、お風呂に入って、しっかりと汚れを落としたいと思います。


「はぁ……まだやるのですか? 私はどうなっても知りませんからね。では、始めて下さい」


 呆れながらもカミラの合図と同時に私も力を少し籠めましたが、先ほどと同じで、大して強く無いので動きませんね……でも力を入れてなかったら、少し押されていたと思いますが、どうしましょう?


「馬鹿な! 俺がこんな小娘と互角だと!」


 この方は、もしかしたら手を抜いているのでしょうか?

 この状態で互角なのでしたら、まだ力を温存しているのですね?

 それでしたら、私も本気を出さないと失礼に当たるので、真面目にする事にしましょう。


「まだ本気を出されていないようなので、私も本気で挑ませてもらいますね?」


「この娘は何を言っているんだ? 俺はもう全力……」


 右腕にマナを集中すると一気に押し込んでしまいました。勢いがあったのでテーブルを突き破ってしまいましたが、これはどちらが弁償する事になるのでしょう?


「おっ、俺の腕が!」


 よく見ると相手の方の腕が変な方向に曲がっています。大丈夫ではないみたいです……少し力を入れ過ぎてしまったようです。


「申し訳ありません。少し力を入れ過ぎてしまったようなのですが、大丈夫でしょうか?」


「大丈夫なわけがないだろう! なんなんだお前は! 人間の娘に化けた魔物か!」


「失礼な方ですね。私は普通の人間の女性です。貴方が男性の癖に貧弱なだけなのではないのですか?」


 初めて魔物扱いをされましたので、私は少し気分が悪くなって来ました。

 少しだけ普通の人よりも身体能力が高いだけなのに、酷い言われようです。


「声を掛けただけなのに、俺とソルの腕を壊しやがって、治療費を払ってもらおうか!」


「どうして私が治療費を請求されなければいけないのですか? それに私はお金など持ってはいません」


「金が無いのなら、お前の連れを寄越しな! お前のような化け物はごめんだが、そいつも中々いい体をしているから、慰謝料も込みで相手をしてもらおうか」


 私を化け物呼ばわりして、代わりにカミラを要求して来ました。カミラの胸を見ていますが、それは私とシノアの物なので、誰にも渡しません。


「エルナ様、もう勝負が終わったのでしたら、その者達は無視して、部屋に戻りましょう。ついでにエルナ様が壊したテーブルの弁償とお支払いの方は済ませておきました」


 いつの間に支払いをしたのか気付きませんでしたが、テーブルを壊したのが私の責任になっています!

 あの人が軟弱でなければ壊れなかったのに……。


「おい! 何をそのまま去ろうとしてやがるんだ! お前がこの化け物の保護者なら責任を取るのが当たり前だろう!」


「はぁ……勝手に怪我をしたのに。立派な鎧を着ている方もいますが、私達のような小娘にそのような言い掛かりを付けるなんて、この国の者達は程度が低そうですね」


 カミラの発言に、今まで傍観していた他の者達も立ち上がりました。騒ぎが広がっていますが、良いのでしょうか?

 よく見れば、一般客よりもそこそこ出来そうな冒険者が多いようです。


「俺はそいつらとは関係無いが、いまの言葉はちょっと面白くないな」


「私達が絡まれているのを面白そうに見ていたのですから、同列と思われても仕方がないと思いますが?」


「中々気の強いお嬢さんみたいだが、それはここにいる奴らを敵に回す事になるぜ?」


 カミラが何か言う度に次々と私達の敵が増えていくのです。流石にこの人数を素手で相手にするのは、私はちょっと厳しいと思うのですが……。


「どうせ貴方達は口で言っても納得しないと思いますので、私がまとめて相手をしてあげます。ここではお店に迷惑が掛かるので表で相手をしますが、もし私を負かす事が出来たら、私を自由にしても構いません」


「ほぉー、小娘が大きく出たな。面白い! ちょっと相手をしてやるか。リック、お前たちのお蔭で、今晩の楽しみが出来たから感謝するぜ」


「では、表に行きましょうか」


 カミラが外に出て行くと、私にちょっかいを掛けて来た人達以外の者達が出て行きましたが……。


「お嬢さん、あの娘はちょっとまずいぞ。こんな事になってしまったが、あいつらは下っ端とはいえテンプル・ナイツの一員なので、最低基準がレベル100以上だから、俺達よりも確実に強い」


 私に最初に声を掛けて来た、確かソルさんという方が警告してくれましたが、テンプル・ナイツとは何なのでしょう?


「そのテンプラ・ナイツとは何ですか?」


「この国の女神様の直属の騎士団だよ。それと何となく馬鹿にしている呼び方をしているが、あいつらの耳に入ったら、確実に不敬罪で捕まってしまうぞ」


 私の微妙な言い間違いに気づくとは、この方は意外とちゃんと話を聞いています。

 テンプラとは、シズクちゃんの世界の食べ物らしいのです。小麦の衣を付けて揚げると美味しいと聞きました。食べてみたいと思っていたので、つい間違えてしまいました。


「てっきり貴方達も一緒になって、私達に如何わしい事でもすると思っていたのですけど?」


「確かにその気はあったが、この国では、あいつらに逆らったり、関わる奴はいないよ。そいつの妹だって、泣き寝入りしているからな」


 私に治療費を請求してきた方ですか。

 気まずそうにしていますが、少し同情したくなって来ましたので、これ以上なければ先ほどの言葉は忘れても良いと思っています。

 しばらくするとカミラが戻って来たのです。それほど時間は経っていないのですが、早いですね。


「カミラ、どうなったのですか?」


「軽く相手をして、納得して帰ってもらいました」


「まさか、君1人であいつらを倒してしまったのか?」


「私は、攻撃などはしていません。彼等は襲い掛かって来たのですが、私が躱すと衣服が細切れになってしまったので、大事な所を隠してどこかに行ってしまいました」


 外は暗いとはいえ、着ている物を奪ってしまうなんて、カミラも容赦がありませんね。

 自宅がどこか知りませんが、羞恥プレイをさせるなんて、まるでシノアみたいな事をしています。

 シノアを襲った殿方は必ず衣服を全て奪われてしまうので、本人は知らないのですが、噂では脱衣ハンターとか言われているのです。


「衣服だけを切り刻むなんて、どうやったのですか?」


「私は何もしていません。勝手に脱げたのすから、私の目が穢れただけです。最近の殿方は礼儀がなっていませんね」


「カミラがシノアと同じ趣味なのが良く分かりました。お願いがあるのですが、彼らの腕の怪我を治してあげて欲しいのです。カミラなら出来ますよね?」


「この者達をですか? お言葉ですが、この者達は勝手に迷惑を掛けて自滅しただけですが?」


「そうなのですが、私にはそれ程悪い方には思えないのです。怪我をさせたのは私に間違いはないので、治癒をしてあげて欲しいのですが、ダメですか?」


「エルナ様に頼まれたのでは仕方ありませんね。不本意ですが今回だけですので、次に同じ事になっても治しませんからね。それにしてもどうして私が聖魔術が使える事がばれてしまったのかしら……」


 ぶつぶつ文句を言いながらも2人の怪我を治してくれました。

 セリスさん程ではないですが、カミラもいつの間にか聖魔術が使えるのですから、私と違って適性があるのは羨ましいです。

 以前でしたら、セリスさんの回復してくれる優先度は私とカミラが高かったのですが、途中からカミラを回復させる優先度が下がったので、観察をしていたら、カミラが自力で治している所を見たのです。私に見られている事に気付いていないみたいですね。

 カミラはしっかりしているように見えますが、ちょっとドジな所がありますから、観察していれば意外とミスが多いのです。

 シノアに厳しくしているみたいですが、シノアを見つめる目はセリスさんと同じぐらいの感じがしますので、私は強力なライバルと思っているのです。


「怪我を治してくれてありがとう。そして、君達に迷惑を掛けてしまった事は申し訳なかった」


「俺もあんたを化け物呼ばわりして済まなかった。しかし、そんな細腕にどこにあんな力があるのか今でも信じられないな……」


「それは、乙女の秘密です。私の愛の成果とでも思って下さい。このぐらいの事が出来ないと私の思いが届かないのですよ?」


「随分と力のいる愛なのですね……貴女の想い人は余程力強いのですね……」


「いえ、腕力だけなら、私の方が既に上なのです。たまに抱き締めすぎると骨まで折ってしまうので、力を抑えるようにしていますが、酔ってしまうと抑えが効かないので手加減が出来ないのですよ?」


「それは……相手の方も大変ですね……負けて、この程度で済んだのは幸運なのかもしれないな……」


「最後の方が聞き取れなかったのですが何でしょうか?」


「いえ、自分には貴女を飲みに誘う資格などなかったと思ったところです」


 私はシノアと一緒の時しかアルコールは飲まないと固く誓っています。

 どうも私は酒癖が悪いそうなのです。酔っぱらってしまうと目が離せないとの事なので、私の酔った姿を所を見せるのはシノアの前だけにしているのです。


「私としては、寝る前に飲むのも控えて欲しいのですよね……シノアが居ないと抱き殺されるのは私なのですから……」


 カミラが何か小声で言ってます。寝る時にシノアがいないと寂しいので一杯だけ飲んで気を紛らわせているのです。


「それでは、そろそろこの辺でお暇しますので、失礼させていただきます」


「俺達も行くが、奴らに目を付けられたと思うので、なるべくこの辺りからは離れた方が良いから、別の区画に早めに移動するといいぞ。あいつらは納得するまで、執拗に嫌がらせをしてくるからな」


 リックさんは、確か先ほど妹さんが被害に遭ったと言っていましたので、彼らに良い印象を持ってないのですね。

 せっかくアルカードさんが用意してくれた宿ですが、早々に変えた方が良さそうです。

 

 部屋の方に戻ると、アルカードさんが女性の方のアルカさんの姿で待っていました。


「お帰りなさいませ。入浴の用意は出来ていますので、お1人づつお使いになって下さい」


「この部屋にはお風呂まで備え付けてあったのですか?」


「エルナ殿も我が主と同じで入浴がお好きと思いましたので、完備している宿を選んだのです。着替えも全て用意して来ましたので、ごゆっくり寛いで下さい」


 そう言って私に着替えなどの一式を渡してくれたのですが……どうして私がお気に入りの物ばかりなのでしょうか? 

 しかもシノアをからかう時に着ている露出の多い物なのですが……。


「あの……アルカードさんじゃなくて、いまはアルカさんでしたが、これを選んだ理由を聞いても良いでしょうか?」


「我が主に想いを馳せている時は、それをお召しになっている確率が高いからです。ここに来る前にシノア様の事ばかり考えていたと思いましたので、間違いはないと思いました」


「もう1つ聞きたいのですが……私が夜にシノアにしている事を知っているのですか?」


「眠っている時の事ですか? シノア様とカミラ殿が休眠状態になると行動している事でしたら、全て把握しておりますので、抜かりはありません」


 そんな事まで監視しているのですか?

 シノアは一度眠ってしまうと絶対に決まった時間までは、起きないので悪戯し放題なのです。

 どうしてかわからないのですが、カミラも目覚めないので、夜のベットの中では私の時間なのです。

 アルカードさんは、お屋敷の全てを把握していると言ってましたが、まさかそんな事まで把握しているなんて予想もしていませんでした!

 これがリンやお母様にばれたら、私は終わりです!


「アルカードさん……その事を知っているのは……」


「私以外にいません」


「お願いがあるのですが、どなたに聞かれても決して誰にも口外はしないで下さい」


「エルナ殿の我が主に対する想いは理解していますので、決して漏らしたりはしません。ご安心下さい」


「ありがとうございます。あれは想いを確認する為には仕方ないのです」


 アルカードさんに先に約束をしておけば問題はありません。

 どんな事があっても先にした約束を優先してくれるので、素晴らしい悪魔の執事さんです。

 例外としては、アルカードさんが知らないシノアの事を餌にすると、そちらを優先してしまうのですが、今の所は私ぐらいしか情報を持っていないので、安心です。


「エルナ様、いまのお話は私も少し気になったのですが、一体何をなされているのですか?」


 ここには、カミラも居るのですから、当然のように聞いて来ます。どうやって誤魔化しましょうか?


「何もしていませんよ? たまに夜中に目が覚めると2人の可愛い寝顔を眺めているだけですよ?」


「以前にシズクさんが作ってくれた寝間着のボタンがずれていた事があるのですが。まさかとは思いますが、私はエルナ様を信じても良いのですよね?」


「勿論ですよ? 何を疑っているのかわかりませんが、私は2人を観察しているだけです。シノアは可愛く眠っていますが、カミラは表情の変化が激しいのですけど、どんな夢を見ているのですか? 何かに耐えているかと思えば満ち足りた表情もしていましたよ?」


「そ、それは……済みません。申し訳ないのですが、夢の中の話を語るのは控えさせてください……あんな事は話せません……」


「シノアの手を握っている時は、確実に何か夢を見ているみたいですが。いつも思うのですが、どうしてシノアの手を握っているのですか?」


「それは……そうです! 実は、海の件で助けられて以来、シノアの手を握っていないと不安になってしまう癖がついてしまったので、無意識に手を握ってしまうのです!」


「そうなのですか? それでは、カミラもシノアに特別な好意を寄せているのですね? 普段はシノアに厳しい事を言っていますが、眠る時だけ素直になっているのですね?」


「違い……もうそうです。私は、シノアに触れていると心が休まるのです! もうこの話は終わりにして、お先に入浴なさって下さい。私は少しアルカードさんとお話をしたいと思います」


「カミラも普段から素直になる事をお勧めしますよ? では、お先に入らせてもらいますね」


「はぁ……私は普段から素直なのですけどね……」


 危ない所でした……2人とも、眠っている時はどんな事をしても決して起きないので安心していましたが、そんなミスをしていたとは思いませんでした。

 カミラは隠し事が多いので、ちょっと答えにくい事を質問しまくれば、必ず話を切り上げようとしますから、多くの手札を持っている私の方が有利なのです。

 いつも誤魔化していますが、シノアがカミラの特別な存在になっている事は明白です。

 私は心が広いので、多少の浮気は許しますが、私の知らない者でしたら、使いたくはないのですが、権力もばれないように使うつもりです。

 一度、無理を言ってシノアをお茶会に連れて行った時に、私のシノアに触れたり気を引こうとして話しかけた殿方にはしっかりと制裁を与えておきました。その者達のお蔭で、シノアが貴族のお茶会やパーティーの類には絶対に行かないと言い出してしまったのです。

 私としては、可愛らしくおめかしをしたシノアを社交界にデビューさせたかったのですが、参加した回数だけダンジョンに行く時は私が留守番するならと条件を付けられてしまったのです。

 初めは冗談と思っていたのですが、一度本当において行かれたので、抗議をしたら……「約束をしたのにエルナは私に嘘の約束をしたのですか? 私が大好きなエルナが私を騙す訳がありませんよね?」と、言われてしまいました。

 普段は私のお願いには最後は必ず折れてくれるのですが、約束に関しては、決して妥協をしてくれないので、シノアの社交界デビューは残念ですが諦めました。

 シノアをとても自慢したかったのですが、最初に連れて行った時も「ここは余り私にとって気持ちの良い所ではないですね……」と言ってました。シノアは他人の機微に結構敏感なので、あの場の雰囲気が好きではないようです。

 私も、言い寄って来る者達が好きではありませんので、積極的に行きたいとは思っていません。


 用意されていた浴槽には、1人しか入れないのですが……近い内にシノアとしっかりと密着して入りたいと密かに決意しました。

 これだけ狭ければ密着する以外は入れないのですから……。

 私は楽しい妄想をしながら、入っていたので、のぼせてしまったらしく……気が付くとベットに眠っていたみたいですが、どちらが私を着替えさせてくれたのか悩みます……。

 


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