67 気合って重要ですね
サテラが連行されたので一気に静かになりましたが、ステラさんが何か聞きたそうにしていますね。
積もる話もあると思いますので、先に戻ろうと思いましたが、ステラさんだけで帰ってこれるかな?
「それではそろそろ戻るとします。私とセリスは先に戻りますが、ステラさんはお屋敷の場所は覚えていますか?」
「シノアちゃん達は戻ってしまうのですか!? うちは……帰れる自信がありません……」
「2人で話がしたそうでしたので、私が聞くのも何ですから、先に戻ろうと思ったのですが、サテラがどのくらいで帰してもらえるかですね」
「気が変わりましたので、サテラは今晩から預かります。私生活だけなら、あの子を維持するマナはどのくらい持つんですか?」
「私のレベルが高くなりましたので、魔術とか使わなければかなり持つと思います。以前は減ってくると抱き着いてマナを持っていきましたが、検証した事はありませんのでわかりません」
突然抱き着いて来て「マナちょ!」とか言って持っていきましたからね。
サテラの事ですから、半分を切る前に補充していたはずです。
「でしたら問題有りませんので、今晩はみっちりとお話をする事にします」
何を話すのか知りませんが、あのサテラが素直になるのですから、ちょっと様子が見たい所ですが、ばれたら理不尽な目に遭いますからね。
「良かったら、シノアちゃん達も聞いていて下さい。どうして、うちがサテラちゃんに謝罪しているかもわかると思います」
「ステラさんがそう言うのであれば、一緒に聞かせてもらいます」
私も書き換えられている過去の歴史がわかるので、聞きたい所でしたのですよね
「それで聞きたい事があるのですが、あれからモミジちゃんや孤児院の子達はどうなったのでしょう? うちの全ての英霊さんに守ってもらうようにお願いしたのですが、もうみんないないのでわからないのです……」
「貴女が助けれなかった子も私が全て助けましたので大丈夫です。あの子達の子孫はギルドや私のお店にみんな居ます。あのアホの手下達は貴女の英霊達に全て始末されてしまいましたので、私は保護するだけでした」
「そっか……良かった……ルドがサテラの孤児院を消してしまうとか言い出すので、こっそりとみんなを召喚して、助けに向かわせたのが無駄にならなくて良かったです……」
「しかし、英霊も無しでよくサテラに勝てましたね。サテラが召喚していれば貴方達は確実に全滅していましたよ」
「サテラちゃんは召喚しないで単騎で挑んできました。恐らく私と同じ事をしたと思うので、呼べなかったのだと思います。何だかんだ言っても考える事は同じだと思うので……」
「私が駆け付けた時には、モミジから英霊達が守ってくれたとしか聞いてませんからね」
「うちはクロノス様が天魔族を滅ぼそうとしていた張本人とも気付きませんでした……そんな事も知らないで、お母さんを殺した相手に仕えるなんて……エレーン様に最後に教えてもらうまで気付かないなんて、うちはとんでもない馬鹿です」
「あいつはかなり計算高い者でしたからね。戦略の面でも裏で確実に相手の戦力を手段を問わずに削って行くので、私はあまり好きになれませんでした。ですが、ヴァルザードは中々の人格者でしたから、私も協力したのです。流れで行けば彼が主導権を握るのが面白く無かったのかも知れませんが、あのまま進めていれば、彼が後継者になれたと思います。残念ですが、私も直前まで気付けなかったのであまり自分を責めてはいけません」
「目覚めた時に私の中にクロノス様の力が残っていたのですが、倒されたのではないのてすか?」
「残念ですが取り逃がしてしまったのです。現在も探していますが、未だにわかりません。ヴァルザードも生きていますが、彼はもう自分には資格がないと言って、とある場所に隠居しています」
「ヴァルザード様も生きておられるのですね……今更うちが謝ってもどうにもなりませんが、会う事が出来るのでしたら、謝罪がしたいです……命じられたとはいえ、他の使徒の方を倒すのに協力したのは間違いではありません。可愛がってもらったのに申し訳ない気分で一杯です……」
「主には強制力があるので、従ってしまうのは仕方ありません。それに彼はそんな事を気にする者ではありませんので、もし会えたら気軽に挨拶でもしてくるでしょう」
「エレーン様はヴァルザード様がどこに居るのか知っておられるのでしたら、教えて欲しいのです。ダメでしょうか?」
「いずれシノアちゃんと必ず出会うはずですから、共に行動すれば会う事が出来ます」
「わかりました! じゃ、うちはこれからもシノアちゃんと一緒にいる事にします!」
「そうすると良いでしょう。それに貴女は誰かが面倒を見ていないと、必ず何かしでかしますからね……」
「エレーン様まで、うちの事をそんな風に言うなんて……うちは立派な大人の女性なのですから何でも出来ます!」
「そうなのですか……では聞きますが、自分できちんと服が着れるようになりましたか?」
「あぅ……ボタンとか紐を結んでもらえば出来ます……」
「持ち物の管理はちゃんと出来ていますか? 貴女はすぐに騙されて誰かにお金はあげてしまうので、持たせてもらえなかったですよね?」
「だって……困っている人がいたら助けてあげないといけないと思って、話を聞くと今すぐに必要なお金が……という不幸なお話を聞いたら渡しているだけですが……いまの持ち物はシノアちゃんとシズクちゃんに全て渡しましたので、もうポーションしかないので大丈夫です!」
「貴女は未だに騙されている事に気付いていないのですか……モミジが持たせたお金をすぐに誰かにあげてしまうから、どうしたら良いか相談されていたのですよ? その時に調べたのですが、当時はお金に困ったら貴女にお涙話をすれば寄付してくれる便利な使徒様なんて言われていたのです。当然ですが嘘なので、全て飲み食いや博打に使われていたのですよ?」
「そんな……皆さんは病気の家族を助けたいとか、明日の食事もないほど困っていると言っていたのに、嘘だったのですか!?」
「確かに酒場の飲食代とギャンブルという病気に使っていましたので、物は言いようですね。貴女の言う立派な大人の女性の価値観は間違っています」
「……」
「シノアちゃん、どのくらいステラがダメな子かわかったかと思いますが、見捨てないで面倒を見て上げて下さいね」
まさかそこまでダメな人とは思っていませんでした。
着替えは来る前に手伝ったので理解しましたが、まるで子供に着せているようだと思いました。
食事をすれば、言いたくないのですが、みっともないし……何年生きているのか知りませんが、サテラとの差が激しすぎます。
雰囲気的に同じ方法で何度もお金をせびられたようですが、当時から使徒なのに便利な貯金箱とでも思われていたみたいです。どうして疑問に思わなかったのでしょう?
あれですよね、大きな子供と思えば良いのです。
生まれて15年ぐらいの私の方が十分に大人の女性ですね。
「大丈夫です。戦闘の方は頼りになるみたいですから、ダンジョンでは期待してます」
「ありがとうシノアちゃん! うち頑張るから見捨てないで下さいね!」
「私が学園に行っている昼間はセリスに任せますので、色々と教えてあげて下さいね」
「畏まりましたシノア様。しかし、話を聞く限り少し不安になりますが……いざとなったらキャロに投げてしまいますか……」
「そうなると昼間はセリスちゃんと同じメイドさんを頑張るのですね? きっと優秀なメイドさんになって見せますので宜しくお願いします! 最後の方が聞き取れなかったのですが、キャロちゃんがどうしたのですか?」
「いえ何も言っていません。頑張って色々と覚えて下さいね」
いつの間にかセリスが背後に居たので、丸投げしましたが……セリスが不安に感じるとか面白そうですね。
いつまで面倒を見るかはキャロに従っていればわかりますが、そのうちにアイリ先生に丸投げされそうですね。
しかし、アイリ先生に投げてしまったら、サボる事を覚えてしまいそうな気がするのですが……。
それから他愛のないお話をしてから、戻りました。サテラが居ないので、私が最初に面倒を見ていたのですが……早くも食事の時にめんどくなってきました……貸した服にスープをこぼすは袖で口元を拭くので汚しまくっています……サテラが見たら激怒しますよ。
疲れてきたのでエルナに任せたら、面白がって餌付けしています。
そのままお風呂に入れるのも任せたのですが、もしかしたら子供の面倒を見るのはエルナが適任かもしれませんね。
翌日、なんか疲れているセリスにステラさんを任せて学園に向かったのですが、道中でアイリ先生のお土産の催促がうざいです。
地下のガーディアンのゴレームを倒しただけですから、当然何もアイテムの類はありません。
それどころか、私がマナポーションを飲みまくったので赤字です。
自分で作れるので大した問題では無いのですが、材料を考えると揃える手間が面倒なのですよね……まだ作れない貴重な完全回復のマナポーションも少し使ってしまったのも痛いところです。
それでも欲しがるので、代わりに罰をプレゼントしてあげました!
久しぶりに禁止事項の誓約を掛けたので、後で泣き付いて来るのが楽しみです。
何をしたのか必死に聞いて来ます。そのうちに分るとだけ言って、無視しておきました。
特に授業を受ける気にならなかったので、学園長のエレノアさんへ先生達の賄賂を渡した後に適当にお喋りしていたら、軽くノックだけしてアイリ先生がやって来ました。そろそろ我慢の限界だったみたいですね。
「いまは授業中と思いますが、アイリ先生どうかなされたのですか?」
何も知らないエレノアさんは普通に聞いていますね。
「学園長、失礼します……ここにシノアさんがいると聞いたのですが……いた! シノアさん! お願いですから解除して下さい!」
「解除とは何ですか? そう言えばシノアさんに隷属しているのでしたね」
「もう我慢するのがつらいので解除して下さい! 次からは無い時はおねだりしないと誓いますから、お願いします!」
「うーん……何を解除するのか私にはわかりませんので、何がどうなったのかをはっきりと言ってくれないとわかりませんよ? エレノアさんもそう思いませんか?」
「そうですね……しかし苦しそうなのですが、どうしたのですか?」
「今朝の事なのに知らないわけないじゃないですか! 2人の時なら何でもしますので、いまはとにかく解除して下さい!」
「ダメです。ここで言わないのでしたら、教室に戻ってから言わせますが、どうしますか?」
「生徒の前で言わせるなんて酷すぎます!」
「では、早く言ってください。私がこの手の事に絶対に妥協しないのは、もう知っていますよね? むしろ逆らえば逆らう程条件が厳しくなっていきますよ?」
「……出来ないんです」
「何が?」
「用が足せなくて苦しいのです! どんなに頑張ってもダメなんです! もうこれで許して下さい!」
「そうなのですか。でもちょっと誠意が足りませんね? 反省してない証拠です」
そう言うと必殺技の土下座をして口調が大人しくなりました。
「申し訳ありません。欲をかいた私を許して下さい……」
「素直なアイリ先生は好きなので解除しますが、ついでにここでしますか? トイレまで耐えられないのでしたら、入れ物は作ってあげますが、どうしますか?」
「耐えられますので、それだけは許して下さい……」
「はい、解除したので大丈夫ですよー」
土下座しているアイリ先生の首筋に触れて解除してあげると、よろよろと立ち上がって、出て行きました。トイレまで耐えれるのかな?
なんかエレノアさんの様子がおかしいのですが、どうかしたのでしょうか?
せっかく面白い物を見せてあげたのですから、以前の件もあるし、共感してくれると思ったのですが?
「あの……アイリ先生はいつもあんな事をされているのですか?」
「罰の事ですか? たまに調子に乗っている時にしています。最近は土下座が得意になってきましたので、そろそろ趣向を変えてみようかと思うのですが、何かいいポーズとか知っていますか?」
「そのような事は知りませんが……ちょっとアイリ先生に同情したくなってきました。私もサラ様に色々とされましたが、ここまでの仕打ちは無かったので……」
「この学園では、アイリ先生以外にはフリーク先生も得意ですよ?」
「えっ!? あの威厳の塊のような人が土下座などするとは考えられませんが……」
「先ほど渡したしフリーク先生にあげるその育毛ポーションの為なら、威厳など捨てて私に土下座していましたね」
「これは育毛剤でしたのですか……そう言えば最近は髪が濃くなっていたので、少しだけ若返った印象を受けていました。髪の為ならプライドも無力ですね……」
「エレノアさんもサラさんの事以外で何か悩みがあるのでしたら、言ってもらえれば何か対策を考えますよ?」
「最近は肌の手入れが大変ですが、貴女にそれを解決してもらうと、私も土下座する羽目になりそうなので怖いのですが……既に私は貴女のくれるワインが無いと、耐えるのが大変なのです……」
「お肌ですか……ここにサラさんに頼まれて作った美容液なる物があります。使用すると肌の潤いを長時間保てるので、貴族の御婦人方にも好評らしいですよ?」
「それは見た事があります。シノアさんが作っていたのですか……私には高くてちょっと買うのを躊躇っていたのです。普及品も売っていますが、効果がかなり違うみたいですね」
「あーあれは商品の差が良くわかる方が良いと思って、半分以上薄くしてありますからね。ちなみに、これはサラさんが使っているのと同じ純度が高い物ですが、今回は特別に無料で進呈しますので、どうぞ使って下さい」
「良いのですか!? 値段が10倍も違うかなり高価な物なのですが……」
「私が作っている物ですから、実質無料みたいな物ですからね。ちょっと材料を集めるのがめんどいだけですが、気軽に作れますから問題有りません」
「では……お言葉に甘えて使わせていただきますね。サラ様にお会いする度に羨ましいと思っていましたので、とても嬉しいです」
「お世話になっていますから当然ですよ」
はい、次からはこれが欲しくなってしまって、ますます私の言う事を聞くしかない状況になるだけです。
買えない事は無いと思いますが、一般に販売している物と比べたら差は歴然なのですから、もうこれしか使いたく無くなりますので、無理して買う事になるでしょう。
人は一度上がってしまった生活水準を下げる事は中々出来ませんからね。
そうせざるをえない状況ならともかく、あと少しで届く事なら簡単に誘惑に負けてしまいます。
ましてや……私みたいな小娘の要望を聞くだけで無償で手に入るのですから、些細な事として平然と実行します。
エレノアさんも土下座が得意になる日が来そうですね。
ちょっと散歩しながら校庭を歩いていると、ユリウス達がいますが、教師がいないのです。自主練なのかな?
「こんにちはー。久しぶりだけど、ダンジョンの進行具合は順調ですか? 今日はてっきり潜っていると思ったのですが?」
「やあ、久しぶりだね。君が学園に来るのは最近は珍しいね。ダンジョンの方はもう少しで35階層に行けそうだよ。一緒に組んでいる別のパーティーの人が急用が出来たらしいので、明日から行くよ」
階層の方もそうですが、地味にレベルが上がっていますので、頑張っていますね。
しばらく見ない内に男らしくなったというか、以前と違って余裕のようななものを感じます。
「以前よりも動きが良いですね。いま剣で戦ったら、私が負けてしまいそうです」
「オリビアの紹介で、君の所の道場に通わせてもらって指導もしてもらっているので、少しは自信が持てるようになったけど、君に勝てるとは思えないな。未だに道場で叩きのめされているんだけど、あの人達に1本でも取れるようにならないとね」
「シズクの道場に通っているのですか……あそこはちょっとおかしいので、無理しない方が良いですよ?」
「そうかい? 皆さん良い人だし、魔術に関しても色々と教えてくれるので助かっているよ。ただし、知らない魔法を教える条件が御庭番に入る事なので、僕ら学生は無理だけどね」
「絶対に入ってはいけません! あそこはシズクの趣味の巣窟です。入ったら最後、わけのわからない修行が待っていますので、ダメですよ!」
帰ったら、ユリウス達が望んでも断るようにきつく言っておきましょう。
王位の選定までにユリウス達が痛い人達になってしまったら困りますからね。
「そっ、そうなのかい? 君が止めるのなら皆にも言っておくよ。実戦的な指導をしてくれるので、良い人達と思うんだけどね……」
「魔法でしたら、私が教えますので、御庭番だけは止めましょう。ミヨナさんが聖魔術が使える魔術師なのは知っていますが、他にいますか?」
「ジュリアが火魔術得意なんだけど、中級の魔法が中々習得出来ないんだよね。彼女の家は伯爵家なんだけど、家庭の事情もあるので、高額な魔法を買っても適性が無かったら無駄になるから買いずらいんだ。僕らのパーティーの火力を上げる為にダンジョンでの収入を使っているけど、最近続けて失敗したから遠慮気味になってしまってね」
「2人だけなのですか? ユリウスも聖魔術が使えるみたいですが、あとの2人の方は良いのですか? オリビアは火魔術が使えるのは知っています。初級から上がりませんが、ある程度は使えてましたね」
「マークとダインはある程度の魔術は使えるけど、基本は剣だからね。臨海学校の件以来、どちらも使えるように鍛錬しているよ。僕は確かに聖魔術の適性はあるみたいだけど、魔術のスクロールはもう少しゆとりが出来てからかな」
「何も習得していないのですか?」
「いくつかの初級の物は試したんだけど、僕には習得出来なかったんだよ。世話になっている身としてはこれ以上は自力で何とかしないとね」
うーん……これはエルナの逆のタイプなのかも知れませんね。
エルナも、かすり傷も治せない『ヒール』以外に他の回復系が習得出来たら、私は安心出来るのですけどね。
それにしても、ユリウスは王子なのに努力する姿勢には好感が持てるのですね。
まあ、物は試しでユリウスに使わせてみましょう。
「ちょっと試しにこれを使ってみて下さい」
「これは何の魔法なんだい? 魔法の種類によっては初級でも結構高額だからね」
「大丈夫です。私が作った物ですから、タダみたいな物です。習得用のスクロールは、シズクに頼まれて大量に在庫があるので問題有りません」
「それならありがたく使わせてもらう……使えるようになったけど、これって!」
「おめでとうー! これでユリウスも治療が出来るようになりましたよー」
「『ヒール』の魔法なんだけど。治療系は初級でも結構高額で販売されているのに。いいんだろうか……」
「そんな事より、今まで魔法を使っていなかったんだから、マナがすぐに枯渇してしまいます。今日から頑張ってマナを増やして下さい。オリビアに短期間で増やせる方法を聞けば教えてくれますよ。初級だけど私が教えた便利な魔法が覚えれたのですが、持続にマナが必要なので気合で増やしていましたからね」
「ここは素直に喜んでおくよ。僕がちゃんと使えるようになれば、ミヨナの負担が減らせそうだよ」
「ミヨナさんは範囲回復とか使えますか?」
ユリウスの後ろに従者のように控えているから声を掛けましたら、ユリウスに許可を求めている感じなのですが。
「ミヨナ。シノアの質問に答えてあげてね」
「はい、ユリウス様。お久しぶりですシノア様。遅くなりましたが、海では助けていただいてありがとうございました。範囲というのはパーティー全体の事なのでしょうか?」
「そうです。個別に回復するより楽ですよ。ちょっとマナの消費が増えますが、戦闘中は特に重宝すると思います。その口ぶりですと使えないみたいですね。これをちょっと試してみましょうか?」
「お気持ちは嬉しいのですが、先ほどユリウス様が仰った通り回復系は高めに販売されていますし、そのような全体の魔法は簡単には売ってもらえないと思います」
「まあ、試してみましょう。これは『サークル・ヒール』という魔法です。効果は術者のマナの総量に比例しますので、ある程度ないと効果はいまいちなのです。でも、最大の長所として、一度使えば持続時間が長いので、疲労が溜まり難いのです。勿論ですが、パーティーメンバーの怪我も同時に癒してくれます」
「全体を癒す魔法は知っていましたが、そのような魔法があったのですね」
「ただし、術者を中心にある程度の範囲内にいないと対象になりませんし、余りにも大きな怪我の場合は個別に癒した方が良いです。メンバーの人数に比例して癒す速度が落ちてしまうからです。術者が多くのマナを籠めた場合は全体的に早く癒せますが、マナの消費が大きくなってしまいます」
「私の知っている範囲回復魔法は、パーティーメンバーの体力を回復させる物なのですが、そこまで強力な物は私の手持ちでは無理かと思います」
「お金は要らないので、取り敢えず試してみましょう。成功したら他に他言しないと約束してくれればいいです。ミヨナさんが知っている方のスクロールも差し上げますので、どちらかが習得出来たらお得ですよ」
「しかし……」
かなり遠慮していますね……私だったら、ラッキーと思って全て貰ってしまうけどね。
先ほどのユリウスみたいに、教えずに使わせてしまえば良かったかも?
「せっかくの申し出なのだから、受け取るといいよ。いずれ彼女の恩義に報いる事が出来るようになれば良いと思うよ」
爽やかな好青年が言うと、説得力がありますね。
迷っていましたが、受け取る気になったようです。
「それではご厚意に甘えて使用させてもらいます」
「ついでにもう1つもどうぞ」
ミヨナさんが順番に使用すると、両方とも無事に習得出来たようです。
今さら思うのですが、どうして魔法の習得方法がこの方法に限定されているのでしょうね?
稀に本人が強く思うと習得している物もあるのですが、魔術を普及させない枷でもこの世界にはあるのでしょうか?
ノアの嫌がらせなのか、沢山の相手を私に殺させる為なのか知りませんが、私が使える魔法を誰もが使えたら普通に恐ろしいのですけどね。
「シノア様、ありがとうございました。これは少しですが購入の為に貯めていた物なので貰って下さい」
「いや、それは他の物に使うと良いですよ。ユリウスと道場に行っているのでしたら、シズクに何か防具かアイテムでも作ってもらうと良いですよ。シズクの趣味に付き合えば、無償でくれるか格安で作ってくれるはずです。おまけでこの杖もあげます」
「とても力を感じる杖なので、貰うのは気が引けるのですが……これ金属の部分は全てミスリルではないでしょうか!?」
「キャロの特訓の時に使わせていた物なのですが、周囲のマナを集めて増幅させる能力があるのです。魔術の威力が使用するマナ依存になるので、マナを抑えたりすると杖に集まったマナが散ってしまうという欠点があります。常に普段以上で魔法を使う事が要求されますが、その代わりに杖に貯まった力は必ず上乗せされます」
「これが特訓用なのですか? 普通に強力な武器と思うのですが……」
「キャロには常に全力で魔法を使わせる前提で作ったのですが、あんまり多用するとすぐにマナが枯渇してしまいます。今までのと持ち替えて使う事をお勧めします。マナの集まり具合は杖についている宝玉の色でわかりますので、使って試して下さい。ちなみに、どうしてマナが減り易いかというと、マナが貯まっていない状態で使うと最低限増幅されるマナを本人から補おうとするからです。そのことに注意してください。ミスリルは有り余っているので気にしないで下さい」
キャロが毎日欠かさずに作っているので、まだいっぱいあります。
うちのお屋敷の人達の武器が、もう少しで全部入れ替わってしまいますよ。
ギムさんにも定期的に渡しているし、シズクなんか編めるように糸ぐらいに細く錬成して欲しいと注文を付けて来るぐらいです。
ミスリルって、強度的にも悪くないし、魔術と相性が良いから付与とかしやすいのですよね。
私が趣味で色々と作っていますから、ネタの武器がいっぱいありますよ。
「魔法ばかりか、こんな強力な杖までいただいて、ありがとうございます」
「ミヨナの支援が強化されると、僕達も助かるので、君には感謝しかないよ。あまり伯爵には迷惑を掛けれないからな。これでもう少し稼げそうだよ」
「34階層まで来ているのでしたら、それなりに稼げると思うのですが、他に使っている物でもあるのですか?」
「それは君達が飛び抜けて強いだけで、普通はもっと苦戦するし、装備の手入れやアイテムなどの補充をしたらそんなに残らないよ。オリビアがかなり支援してくれているからここまで来れたけど、無かったら無理だよ。今では兄上達と一緒に探索出来るようになったので、人数でカバーしているからね。特に収納持ちがいるのは大きいよ。3人とか少数で攻略していた君達が異常なんだよ?」
言われてみれば……シズクとセリスの3人の時は、疲れ知らずの快進撃でしたからね。
私とセリスはマナさえあれば永久に行動可能だし、シズクはおかしな固有能力のお蔭で常に元気でしたからね。
装備に関しても、武器は私が作れるし、防具はギムさんがくれたから、苦労というものがありません。
おまけに、魔術に関しては私自身が書庫みたいな存在ですから、習得用のまっさらなスクロールだけで済みます。
アイテムなども収納に沢山作って持っています。特にあの頃は錬金魔術で試行錯誤していましたので、在庫で溢れている状態ですね。
「そういえば、他の方達はいないのですか?」
「オリビアは家の方に用事があるとかで戻ったし、マークとダインは新しい剣を見に出かけたはずで、ジュリアは多分いつもの場所で魔術の特訓をしていると思うよ」
「では、剣はこの2本を渡しておきます。ユリウスにあげたのとはちょっと違う2本ですが、効果は使って確認して下さい。ジュリアさんにはこのスクロールを渡して下さい」
そう言って、ユリウスに2本の剣と中級火魔術のスクロールを3枚渡しました。
「こんなに貰ってしまって、いいのかい?」
「彼等だけ何も上げないのはパーティーの連帯感が悪くなってしまうし、みんな強化出来れば心強いでしょ? ちなみに、オリビアは私とお屋敷でよく会っていますので、結構強化されているでしょ?」
「そこまで気を使ってもらうのも申し訳ないが、ありがたく受け取らせてもらうよ。確かにうちのパーティーで一番強いのは彼女だからね。あの剣がいつから炎の魔剣になったのかは教えてもらってないからね」
「あー、あれですか。あれはオリビアに教えた魔法で『フレイム・エンチャント』を使っているからですよ。自分の武器に炎の付与を与え続けるのですが、マナを籠めた分だけ炎の温度が上げれるのです。属性だけの維持でしたら少しで済むのですが、高温度を維持するのにマナを結構使うんですよね。ついでに魔法が通りやすいように、私がちょっと剣を改造しましたので、オリビアのマナ次第ではゴレームとかバターみたいに斬れると思いますよ」
「なるほど……だから強い敵と戦った後は結構疲労していたんだね。特に怪我もしていないのにちょっと不思議に思っていたんだよね」
「それと大会の時にエルナが着ていた服に近い物を着ていたでしょ? あれは反射の付与がしてあるんです。あの服はマナを吸収して防御するので、相手に攻撃されても大抵の攻撃は弾けるけど、マナがどんどん減って行きますから、精神的な疲労がきついはずですよ?」
「それじゃ、彼女は武器と防具の両方にマナを使い込んでいるのか……よくそれだけの維持が出来るな……」
オリビアは、キャロより酷い特訓をしていますからね。
いつも優雅にお茶とか飲んでいるけど、本当は精神的な疲労がいつも激しいはずなんだよね。
最近になってやっと普通の生活が辛うじて出来ていると言ってました。オリビアって根性があるので、すぐに楽をしてサボろうとするエルナに少し分けて欲しいぐらいです。
「まあ、かなり過酷な訓練をしていますので、あまりお勧め出来ませんが、マナを増やすのには有効的です」
「僕もこれから増やそうと思っているんだけど、一応聞いても良いかな?」
「オリビアの雰囲気というか、何か変化に気付いてますか?」
「変化ね……僕は特にわからないんだけど……ミヨナはわかるかい?」
「オリビア様は、最近は複数の指輪を付けるようになりました。以前はそういった物を付けたりする方ではありませんでした。でも、ダンジョンに行かれるときには、それらの指輪は1つ残して外しています」
こういう事は同じ女性の方がやっぱり気付きますね。
「ミヨナさんが気付いたその指輪なのですが、身に付けると常にマナを吸い上げて外部に放出してしまう物なのです。なので普段のオリビアは常にマナが殆ど無い状態なのですが、気合で学園に来ているのですよね。精神的にはかなりつらいはずですよ?」
「それって……魔力封じの枷みたいな物だよね?」
「あれは、付けられると周囲のマナを遮断して、魔術の行使を阻害する効果があります。大抵の人は魔術が使えない状態になってしまいますが、強靭な精神力があれば、魔術を使えない事はありません。あちらは自らの意思で外せませんが、あの指輪は自分の意思で身に付けれるように細工はしてあります。後は、一度身に付けるとその人物にしか反応しないようになってますので、盗まれて誰かに使おうとしても反応しないようにしてあります」
あんな物が私に付けられたらお終いなので、再利用が出来ないようにしておかないと、もしも盗まれて私やセリス達に使われたらとんでもないことになります。
一度カミラにプレゼントと称して付けさせたら、しばらくして体調に変化があるのに気付いて、指輪を外そうとしたのです。手を掴んで外せないようにして、倒れた所についでに悪戯したら後でめちゃくちゃ叱られました。、
「ちなみにオリビアは2つも付けていますので、付けて少ししたらマナが枯渇状態になっているはずです。1つでも付けていると常に魔法が使いにくくなるぐらいの精神的な状態になるのですから、2つも付けたら普通の人なら気分が悪くなって寝込んでしまいますよ?」
「普段の彼女からはそんな雰囲気は感じられないのに、すごい精神力があるんだね」
「試しに2人も付けてみますか? いま丁度2つ在庫で持っていますので、どうぞ」
2人に渡すと躊躇いながらも身に付けると……。
マナが少なそうなユリウスは気分が悪そうですね。
「これを付けたら気分が憂鬱というか精神的に何か疲労して来るんだが……ミヨナは平気なのかい?」
「常に魔術を使っている感覚がします。このまま身に付けていれば、魔法を使うのが困難になると思います」
ミヨナさんは魔術師なので、しばらくは余裕がありますから、枯渇させるには何か魔法でも使わないと時間が掛かるでしょうね。
「ご希望なら、そのまま差し上げますが、付けている間はマナが回復しないので注意して下さい。ダンジョンに行く場合は、前日の寝る前に外すのを忘れると大変な事になりますからね」
「オリビアは2つも付けているのに普通に生活しているとか、尊敬するよ。訓練には良いと思うんだけど貰っても良いのかい?」
「オリビアは意外にも気合と根性があるからですよ。その指輪は既に2人のマナにしか反応しません。使わない場合は別の物に錬成し直すので問題はありません。あと不要になったら、破壊するか、私に渡してくれれば元の材料にしてしまいます。誰かに知られて悪用されたら、2人の拘束が簡単になってしまうので、絶対に無くしてはいけませんよ?」
「そう言われると確かに危険だよね。オリビアはダンジョンに行く時はどうしているんだろう? 貴族の屋敷に忍び込む者は滅多にいないと思うが、万が一があるからね」
「オリビアはカチュアさんにいつも預けていますね。あそこに奪いに行くのはかなり危険ですからね」
「それなら、僕もギースさん達に預けて行く事にするよ」
どこかに保管するよりは安全かも知れませんね。
今のあの人達を見ていると元暗殺者や密偵とは思えないのですが、信頼は出来ると思います。
ユリウスは貴族の屋敷に忍び込む者なんていないと思っていますが、密偵とか日常茶飯事ですよ。
確かカチュアさんが80人にお尻を叩かれたとか言ってましたから、それだけ侵入者がいたという証拠です。
最近では、アルカードが見ていますから、多分気付かれずに殺されている人もいるかも知れませんね。
一応、ギースさん達に引き渡すように言ってありますが、何となく使える人以外は間引きされていそうです。
この間も「穢れた魂の持ち主はシノア様に仕えるのは相応しくないと思いましたので、処理しておきました」とか言ってました。処理って、絶対に殺していますよね?
アルカードが監視しているから、その辺の使徒が忍び込んでも、多分倒されてしまうと思います。
例外なのはエレーンさんとかアルちゃんぐらいと思いますが、エレーンさんは問題無いとしてアルちゃんはどうなってしまうのかな?
取り敢えず授業を受けても仕方ないので、買い物でもして先に帰ってしまいましょう。
カミラ辺りに見つかると、無理矢理にでも授業を受けるはめになりますからね!




