57 趣味は自由ですからね
私が目覚めるとここは孤児院の中庭です。
あれから、かなりの時間が経ったはずなので、もう真夜中なのですが……そう言えば、彼はどこに?
一緒に転移させられたみたいなのですが見当たりません!
周りを必死に探しましたら、幼い少年が茂みに倒れています。まさかこの子がカインなのですか?
抱きあげて、よく見ると彼の面影を感じます。
すると少年が目を覚まして、私を見つめています。間違いありません……この瞳は間違いなく彼と同じです!
「お姉ちゃんは誰?」
「私はセリスと申します。君の名前を教えてくれますか?」
「僕は……そうカインと言います。だけど名前以外は何も思い出せないみたいなのです……どうしょう……」
「どこかに行きたい所はありますか?」
「何も思いつかないけど……お姉ちゃんと居ると安心出来るのです。もしかして、僕の本当のお姉ちゃんなのですか?」
「違いますが、君が望むのなら、お姉ちゃんになっても良いですよ」
「じゃあ、僕のお姉ちゃんになって下さい!」
そのまま優しく抱き締めてあげました。どんな形でも彼を助けてくれた事に感謝します!
「でも、ここはどこなんだろう……」
「私のよく知っている場所ですから、安心しなさい。これから、お世話になる人を紹介しますので、ちゃんという事を聞くのですよ?」
「はい! セリスお姉ちゃん!」
彼の手を引いて、夜分遅くですが扉をノックすると院長先生が出てくれました。
お屋敷の人達が、私が戻らないから、足取りを調べに来たので、私の事が心配になって、いままで起きていたそうなのです。
「こんな時間に申し訳ありません」
「貴女の顔が見れて私も安心出来ましたので、気にする必要はありません。ギースさん達が貴女が居なくなったと言って必死に探していましたので、心配していたのですが、どこに行っていたのですか? それにその髪はどうしたのですか? あんなに大事にしていたのに……」
「皆さんのお蔭で、私は助けてもらいましたので、安心して下さい。何があったのかは言えません。先生にお願いがあるのです。この子の面倒を見てもらえないでしょうか?」
「よい目をした少年ですね。お名前を言えますか?」
「えっと……カインと申します。ここがセリスお姉ちゃんのお家なのですか?」
「そうです。私はお仕事があるので、一緒に居られません。会いに来ますので院長先生の言う事をしっかりと聞くのですよ?」
「はい、わかりました! でも、なるべく沢山会いに来てくださいね!」
「随分と素直で物わかりの良い子ですね。わかりました。この子は責任を持って育てますので、貴女は安心してお勤めをして下さい」
「では、私は戻らないといけないので、良い子でいるのですよ」
「はい! いってらっしゃい、セリスお姉ちゃん!」
そのまま別れてお屋敷に戻る事にしました。これで良いのです。
きっと私が取る行動がわかっていて、孤児院に転移させたと思います。パーティーを組んでいるわけでもないのに転移させれるのですから、あれが本来の力なのですね。
ノア様はあの時に魂の半分がもう足りないと言っていたので、きっと失ってしまった分だけ子供になってしまったと思うのですが、それだけでも奇跡です。
私が無理を言ってお願いしたのですが、世界の輪を乱すと言っていましたのはどういう事なのでしょうか?
もしかしたら、カミラさんなら知っているかもしれませんが、大事な事は制限が掛けられているらしく話す事は出来ないみたいです。こないだ、この世界の神の座の話していたので、もしかしたら聞く事が出来るかも知れません。
私の髪が肩口までになっていたので、先生も驚いていました。お母さんとお揃いの大事な髪でしたが、これで彼の人生を取り戻せるのですから、後悔はありません。
私は元々野党に襲われた商家の娘でした。
お父さんと店の人達は、私とお母さんを逃がす為に留まって戦っていましたが、戻ってこなかったので、殺されてしまったのでしょう。
行く当ても無く困っていた私達母娘を助けてくれたのが院長先生でした。
お母さんは元々体の弱い人でしたが、孤児院の家事などを手伝っていました。
私は踊りなどを少し習っていたので、自分なりに練習をして劇団で使ってもらえるようになると、少しづつだけど稼いだお金を孤児院に渡していました。
私がそれなりに活躍出来るようになった頃にお母さんが突然亡くなってしまったのはショックでした。
病気に掛かっていたらしいのですが、私や院長先生に迷惑が掛けたく無かったので黙っていたのです。
後で知ったのですが、お母さんの病気を治すにはとても大金がいるらしくて、お父さんがこの王都に来たのもその病を治すお金の目処が付いたからだったそうなのです。
私が髪を大事にしていたのは、お母さん譲りの綺麗な髪だったからです。
何も残っていなかったのですが、私にとってはお母さんとの大事な繋がりを示す形見に思っていたのです。
そう言えば、お母さんがよく話してくれたのを思い出したら、私も母娘だったと実感しました。
お父さんは、お母さんに一目惚れしたとか言って、特にその美しい髪に惚れたとか毎日口説いていたらしいです。
お母さんは体が弱い方だったので、村では裕福なお父さんには不釣り合いと言って断り続けていたらしいのですが、押しに負けて結婚したそうです。
私が彼を好きになってしまったのは、きっとお母さんに似たのかも知れませんね。
いま思うと転移された場所の近くにお母さんの墓があったはずです……私の思い出の地とノア様は言っていました……あんな事を言ってますが、あの方はお優しい方です。
次に行く時は、お母さんにこの髪の事を言わないといけません。
この恩に報いる為にも、私はこれまで以上にノア様とシノア様に仕える事を誓います。
まずは、お屋敷に戻ったら、シノア様に御迷惑を掛けた事を償わなければいけません……私とカインの為に耐えて下さったのですから……。
何やら抱きかかえられている見たいですがどうなったのでしょう?
気が付くとギースさんが私をお姫様抱っこで、お屋敷の通路を歩いている時でした。
こうして見ると隻眼ですが中々渋いおっちゃんです……ちょっとかっこいいと思ってしまいました。
もしかしたら、私の好みは年配のおっちゃんなのかも知れませんね……。
「お目覚めになられましたか、御屋形様!」
その台詞を聞いた瞬間に一気に私の心が波のように引いて行きました……その年で中二病とか痛すぎます……。
「セリスが見当たりませんが、戻って来ているのですか?」
「セリスの姉さんは、ノア様がどこかに転移させたらしいので、直に戻って来るとの事です」
「そうですか……なら、問題有りません。あれからどうなったのか聞きたいのですが、こんな時間ですので、明日にでもシズクに聞きますか」
シズクの姿がありませんが、どこに行ったのかな?
「宜しければ私が説明できると思いますが、如何致しましょう? 私もあの場に居合わせましたので」
そう言えば首を刎ねられた時に、カチュアさんが見えた気がしますね。
(御屋形様が首を斬られた時から、見ていましたのでシズク様と同じ説明は可能です)
(!? どうして、カチュアさんが念話が出来るのですか! もしかして……シズクと同じレベルの誓約魔術を受けたのですか?)
(私は、見てはいけない物を見てしまったので、死なない代わりに受け入れる事になりました)
(シズクからどうなるか聞きましたか?)
(はい……私の自由は全て御屋形様の物と聞きました……これからは、ご自分の手足のように使って下さい)
(いや、別にそこまで考えなくてもいいからね?)
(後ほど早速あの後の事をお話ししますので、わ、私の胸で宜しければ揉みながら聞いて下さい……)
(……どうして、カチュアさんの胸を揉む話になっているのですか!)
(誓約魔術を受けた時にノア様が私の胸を揉みたいと仰ったので、シノア様も御所望かと思ったのですが、違うのですか?)
ノアは一体何をしでかしているのでしょうか?
これでは、私に変な性癖があると勘違いされてしまうではないですか!
確かに毎日のようにカミラのけしからん物はつい揉んでますが……あれは私の意思とは関係無く手が勝手に動いているだけなのです!
はい、嘘です……自分に無いから、せめて堪能しているだけです。
(それは、ノアだけなので、普通に話しを聞かせて下さい!)
(わかりました。それでは後ほどに)
(あと、その御屋形様と呼ぶのは、止めて下さい……普通に名前で呼んでくれる方が良いのですが……)
(御屋形様が望むのであれば、そうしたいのですが……この服装の時に設定を違反すると私はシズク様からお仕置きをされてしまうのです……)
(はぁ……まさか、またお尻叩きですか?)
(それも選べますが普段の時とこの念話の時だけはシノア様とお呼びしますので、お許しください……)
また設定ですか……すると多分ですが、残りの選べるお仕置きとは鞭打ちと拷問しか無いので、お尻叩きが一番ましな罰なのですよね。
「では、ここまでで良いので、カチュアさんは私の工房の休憩部屋に行きましょうか」
ギースさん達とは別れて、カチュアさんと私の工房の並びに作った休憩部屋に行くと、サテラがソファーに寝転んで、お菓子を食べながら寛いでいます。最初はエルナが居ると勘違いするぐらい同じ事をしていますよ。
「シノアちゃん、おかえりー。いきなりレベルが一気に上がったんだけど、何を狩って来たの?」
「レベルですか?」
「そうだよ? 60も増えるから、高レベルの魔物でも大量に狩ったのかと思ったのですが?」
「はぁ!? そんなに一気に増えたの!?」
急いで、久しぶりに自分を見て見ると……。
名称:シノア
種族:見た目は人
年齢:不要
職業:不要
レベル:148(+1000)
技能:初級槍術 初級体術 初級精霊魔術 上級火魔術 中級水魔術 中級風魔術 中級級土魔術 中級雷魔術 初級聖魔術 初級闇魔術 初級重力魔術 転移魔術 中級錬金魔術 最上級誓約魔術 初級武器創製 中級料理人 鑑定 気配感知 危険感知 並列思考 魔術並列起動 魔力索敵 魔力操作 魔力感知 魔力管理 鑑定偽装
固有能力:精霊の加護 紅玉の魔眼 反転 吸収 英霊召喚 次元収納 ?の加護 ?の使徒 眷属召喚
おかしいでしょ?
いままで苦労して上げていたのに一気にレベルが148になっています!
そして、使えない力が増えているのはガルドから奪ったからと思いますがどうなっているのでしょうか?
あと、指輪が無いけど鑑定偽装が増えていますので、これで誤魔化せという意味なのでしょうね。
「これ、どうなっているのですか?」
「御屋形様が宜しければ、その事についても私に説明が出来ますが……」
「ここでなら、シズクも居ないのですから、名前で呼んで下さい!」
「しかし……この忍び装束の時は……」
「なら、それを脱いで話して下さい」
「これを脱ぐと……私は下着姿になってしまうのですが……」
めんどくさい服ですね……しかし、下着姿で説明させるのは流石に可哀想ですが……そうだ!
「では、これに着替えて下さい」
「これですか!? まさかまた着る事になる事になるなんて……」
いつかのペンギンの着ぐるみです。
返すのを忘れていて、私の収納にしまったままでしたから、丁度良かったです。
またとか言っていますがきっと試着をさせられていたのですね。
嫌がっているという事は、私の感性は間違っていなかったと認識出来ました。
手慣れた様子で着ていますが……改めて見るとすごく笑えるのですが!
「ちょっと、なにそれ! この時代では、そんな服が流行っているのですか! これは、戦闘の相手を笑わせて油断を誘う装備なのですね! それにしても……ぷぷぷっ……悪気は無いんだけど、許してね!」
失礼な事に、サテラは必死に笑うのを堪えています。完全に面白がっていますよね?
カチュアさんは、美人のお姉さんのイメージなのですが、それがペンギンの着ぐるみを着ているのですからギャップが激しすぎます!
これをまともに見るのは、私でもそろそろ限界なので、無理です!
「……話をさせてもらっても良いのでしょうか?」
「ぷっ! もうだめ! あははははは! ごめん、カチュアさんが着ると笑いが止められません!」
私まで笑ってしまったので、すぐに脱いで下着姿になってしまいました!
「もう……この姿の方がましなので、このまま話させてもらいます……」
ちょっと笑い過ぎたので、なんか泣きそうです!
悪いと思いつつ心を読ませてもらいましたが、もうお嫁に行けないとか明日から痴女とか言われるに違いないとか心で泣いてました。
流石に可哀想すぎますのでも着替えてきてもらいましょう。
「待っているから、好きな服に着替えてから話を聞かせて下さい。私服でしたら、設定とか関係ないからいいでしょ?」
「ぐす……それでは、少しだけお時間を下さい。急いでお気に入りの服に着替えてきます」
そう言うと忍び装束を素早く着こんで出て行ってしまいました。ちょっと悪い事をしてしまいましたね。
「それにしても、この時代は平和になっているので、あんな面白い服があるんだね。ところで、その笑わせる服を私も着てもいいかな?」
「構いませんがこれはシズクの世界のコスプレとかいう服の1つなので、この世界の文化ではありませんよ」
「なるほど、シズクちゃんは異世界人でしたね。私もシズクちゃんの世界に行ってみたいです。このお菓子とかもあちらの世界の物と聞きました。向こうの世界は物が溢れているのですね」
「サテラの時代の時はお菓子とか無かったの?」
「ただの甘い蜜の塊とかしか無かったし、甘味に分類される物は王族とか貴族しか食べられなかったよ? 昔はパンが主流でしたので、ご飯だって、初めて食べました。甘みがあって美味しいので、お肉と一緒に食べると最高ですね! こんなに美味しい物を食べたのは初めてだったから、シノアちゃんが帰ってくるまで色々と食べまくっていたのです。しかし、この体って、どんだけ食べてもマナにしかならないから、便利ですね」
もし、サテラに新しく職業とか付けれたらも食道楽が確定ですよ。
話し終えると着ていた私服のドレスをスパッと脱いで、紐みたいなパンツ1枚になってしまいました。喜々として着ぐるみを着ています。
きっと、エルナが居たら淑女のなんたらとか絶対に言ってきますよ。
「さっきは笑っていたけど、この着ぐるみとかいうのは、意外と快適ですね! 地味に高い防御が付与してあるので、実戦向きですよ。ちょっと足捌きがしにくいのが欠点ですが、これ良いですね。私もシズクちゃんにもう少し足が自由に動かせる物を作ってもらいましょう」
「堕天使のコスチュームとかいうのは、どうしたのですか?」
「あれは、もらって収納にあるから、今度お見せしますよ。中々私に似合っていると思いますので気に入りました!」
「どんな服なのか楽しみにしていますね」
そう言えば、カチュアさんってどこに住んでいるのでしょうね?
ちょっと意識してみると……なんかすごく少女趣味全快の景色が見えるのですが……そして鏡に向かって変なポーズを決めているのは当然カチュアさんなのですが……向こうの世界のアイドルとか呼ばれる歌う事を専門にしている人の服なのですが……カチュアさんのような大人の女性の人が着るにはいささか問題があると思うのですが、まさかあれでここに来るのでしょうか?
見なかった事にしてもう少し待っていましょう……。
サテラが着ぐるみのままで、お菓子を食べながら寝そべり始めると、扉が開いてカミラまでやって来ましたよ。
「貴女が戻ったと聞いてずっと寝室で待っているのに全くこないから、多分ここで何かしていると思ってきましたが……サテラさんは、どうしてその格好に……」
「カミラちゃんですか。先ほどカチュアちゃんが着てたのですが、私も着てみたいと思って着ています。実に笑える服でしたが、着てみると意外と快適で、気に入ったので着ているだけです」
「そうなのですか……きっとシズクさんと意見が合うかも知れませんね……」
何か嫌そうな表情をしています。きっと、シズクの趣味を理解する同志が増えたので、頭が痛いと思っているのでしょう。
あんなに笑っていたのに、とても気に入って、着ぐるみを着たまま、自然にお菓子を食べながら寛いで受け答えをしています。何となく向こうの世界のダメな人に見えます。
ノアが向こうの世界の娯楽にどっぷりと浸かっていますから、その影響のせいでカミラは毎晩泣いていると言っていましたからね。
「セリスさんが居ませんが、どうなったのですか? それにレベルが急激に上がったのはどうしてなのかしっかりと説明して下さいね?」
「詳しい内容はこれからカチュアさんに聞く予定なので、一緒に聞けばわかると思います。セリスは無事なので、直に帰ってくるとの事です」
「カチュアさんに聞くって……シノア、貴女まさか死んだのですか!?」
「いや―、ちょっと人質を取られて抵抗出来なかったので、体中を滅多刺しにされてしまったのですよ。とどめに首まで刎ねられてしまったので、そこから意識が無かったから、どうなったかを聞きたいのですよ」
「首を刎ねられたのも問題なのだけど、普通はそんな滅多刺しにされたら瀕死か重傷なのに。シノアちゃんが不死身なのは知っているけど、そんな軽い感じで話されると全く重い話にならないね?」
「サテラもその体の時は同じなのですから、怪我すればわかりますよ? この体の最大の欠点は痛みなのですからね」
「そうなのですか? 私はまだ怪我とかした事が無いので、さっぱりわかりませんが?」
「森で魔物と戦っていた時に怪我とかしなかったのですか?」
「あの程度の魔物の攻撃なら、余裕でかわせます。それに私が着ている『スピリット・オブ・ガーディアン』は、精霊王の加護があるから、魔法だってほとんど防いでしまうので、かなりの上位魔法か私のミスティルテイン級の武器じゃないと傷を付ける事は無理でしょうね」
「あのエロドレスがそんなにすごい物だったのですか!」
あの胸元とかあちこちが開いてるエロドレスがそんなに素晴らしい物だなんて、私の考えを訂正しないといけません!
「エロドレスって……まあ、間違ってはいないけど、あれのお蔭で私は滅多に怪我とかしません」
「そうなのですか……そんなすごい防具があれば、私も悪夢の激痛から解放されるのですね……あのエロドレスを私も欲しいです!」
「シノアちゃんにあげた服の中に同じ様なドレスが有ったでしょ? 何も加護が付いていないけど、あれに精霊の加護を籠めれば良いんだよ?」
「そう言えばありました。あれは私が着る事を拒否している感じがして、着る事が出来なかったので、収納の中で眠っています。何としても私も手に入れたいのですが、どうやって加護を籠めるのですか?」
「拒否されているのは、シノアちゃんが認められていないからだけです。精霊王に関渉するには精霊魔術を昇華している人に道を開いてもらうしかありません。とりあえず着る事が出来ればシノアちゃんの側にいつもいる風の精霊に協力してもらえばかなり良い防具になりますよ?」
「私の側にいつも居る精霊って、もしかして、しーちゃんですか!?」
「うん、本人がそう言っていますね。シノアちゃんと話がしたいみたいですが、シノアちゃんの精霊に関渉する力がほとんど失われてしまったので、会話が出来ないと言っています」
「私の側に居てくれたのですか……サテラには見えるのですか?」
「精霊の加護は無いけど、『スピリット・オブ・ガーディアン』の持ち主なので、精霊に関渉する権限が私にはあるのですよ。シノアちゃんには精霊の加護があるのですから、本来なら関渉出来るはずなんですが、どうも封印されているみたいですね」
「そんな事までわかるのですか……それにしても封印されているって……きっとノアが何かしているに違いありませんね。カミラ、そうですよね?」
「知りません。そんな事より簡単に死んでしまうなんて……貴女の魔法を上手く使えば何とかなったのでは……悪知恵は働くのに……」
絶対に知っているのに知らないとか恍けてますよ!
あの場面で私にどんな魔法を使えと言うのですか?
その悪知恵で、絶対にカミラを泣かせてあげますよ!
「セリスが酷い目に遭っていたから……」
「この際ですから、はっきりと言っておきますが、私とセリスさんは貴女が滅びない限りは不死身なのですから、人質などには値しませんので、もし何かあっても必ず一緒に攻撃して下さい」
不死身だから一緒に殺せとか言い出しましたよ!
間違ってはいませんが、そんな簡単に実行したくないのですが……。
「もしそうなったとして、すごく痛い思いをするんだけど、カミラは耐えられるの?」
「そんな事になった自分の落ち度なので、耐えますが……出来れば即死させてもらうと助かります……人が死ぬような状態になれば、しばらくは意識が無くなるので痛みとは無縁になるはずですから……」
「どっちにしても、セリスがカインさんの為に耐えていたんだから、カインさんを見殺しには出来ないので無理でした」
「では、貴女がエルナ様に使った幻影の魔法を使えば良かったのでは?」
「あれは、一度に1人にしか使えないし、相手が望む幻覚を見せるだけなので、違う事を考えていたら、騙せませんよ?」
「半端な幻覚ですね……では、いつも嫌がらせに使っている相手を拘束する魔法を使えば良かったのでは?」
「嫌がらせって……『アース・バインド』は、私には足を固定する程度しか応用が出来ないし、『ホールド・パーソン』は人型に3体までしか同時に出来ないので、相手は7人も居たから、足りません」
「そう考えると貴女の魔法って、半端な物が多いですね……基礎能力を満たしていないから、範囲が増えないのですね……」
ちょっと!!!
私が一番気にしている半端な事を指摘されましたよ!
私だって、圧倒的に相手を圧倒したいのですが、どんなにマナを籠めてイメージしてもそれ以上は反映されないんですよ!
ちなみに、キャロが『アース・バインド』を使うと、5人ぐらいまでなら全身を拘束出来るのですが、私が1人に使っても足しか固定出来ません!
要するに、使えるけど私には適性か才能が無いのですよ……まさに器用貧乏の見本です!
「私が半端なのは理解していますが、誰かに言われると腹が立つのですが?」
「あっ……そんなつもりで言ったのではないのですが、ごめんなさいね」
「いまさら謝っても絶対に許しません! しばらくはアルコール禁止です! 何があっても撤回しません! カミラが隠れて上物のお酒を毎日飲んでいるのは知っているのですからね!」
「何で知っているのですか! あれはマナの変換効率が良いので、撤回して下さい!」
「何を変換効率とか言い訳しているのですか? マナに変換される時の満足感が良いから、アル中みたいに止められないだけなのに、そんな嘘を吐いたって、感情が揺れまくっているのですからバレバレですよ! とにかく、主をこきおろした罰は受けて貰います!この件については、反論は認めません!」
「そうなのですが……文句が言いたいのにこれ以上は言えません……言葉を封じるとか卑怯ですよ!」
すごく悔しそうですがこないだの仕返しもできたので、しばらくは目の前で飲みまくってあげますよ!
とても気分が良くなりましたよ!
アイリ先生とは違う意味で面白い存在になりそうです!
カミラが何か言いたそうですが、面白いのでさらにからかおうと思ったら、扉が開くと少女趣味で固められた大人の女性が入って来ました。明け方とはいえ本当にその格好で来るとは勇者ですね。
「お待たせしました。シノア様の前に出るので、お気に入りのを着てきましたが、如何でしょうか?」
サテラが自分も着てみたいと思っているのは見てわかりますが、カミラは冷めた目で見ています……当然カミラはどんな服か知っているのでしょうね。
私も知っているのですが、この世界ではサテラの反応が正しいのかも知れませんね。
「少し派手というか……いつものカチュアさんのイメージからは想像が付かない斬新な服ですね?」
「シズク様に色々と試着させてもらいましたが、これが私の好みに合ったので、いただきました。昔から、密偵の為の修行ばかりでしたので、このような服は憧れていたのです」
「そうなのですか……それは良かったですね……同じ子爵家のカミラもどう思いますか?」
「この世界には無い斬新な衣装と思いますが……少し派手な感じがしますが、似合っていると思いますよ……多分……」
「お褒めに与り光栄です! それと私は、ミレディア家とはもう無縁なので、貴族ではありません」
「えっ! この前オリビアとも何か話をしていましたよね?」
「あれは、私は死んだ事にして下さいとお願いしたのです。あんな詰まらない家には帰るつもりはもうありません」
えっ!
オリビアから聞いていましたが、本当に貴族を捨てて、シズクの趣味に恭順するとか道を間違えていますよ?
「ですが……家に戻れば貴族のお嬢様なのですよね?」
「ミレディア家は、長男以外は密偵としての修業をさせられて各地に飛ばされるのです。私は修行と称して大事な初めても捨てさせられましたし、殿方の相手をして情報を聞き出す事も教えられましたので、あんな家には未練など全くありません」
大事な物を捨てさせられたと言っていますが、シズクみたいに大事な物でも捨てられた経験があるのですね?
殿方の相手とかいうのは、飲むのに付き合う事ではないのでしょうか?
それなら、私でも出来そうですね。
「やっと自由を手に入れたのですから、私は大恋愛をして優しい旦那様と幸せになりたいのです」
いや……シズクに関わっている時点で、もう無理だと思います。
「では、ナッシュさんなどは、歳も近いし、優しい笑顔の美形なので、良いのではありませんか?」
「ナッシュですか……あいつは顔だけで、中身は腐っています」
あいつ呼ばわりで腐っているとか言ってますよ!
「本人は気付かれていないと思っていますが、セリスさんに惚れているみたいなのです……」
「へー、セリスってモテますねー」
「女性の私から見ても魅力的な女性と思いますが、あいつはセリスさんにお願いして冷めた目で罵ってもらって怪我を治してもらっているのです。あの男を寄せ付けない目で見られると心が満たされるとか言っている変態です。セリスさんは優しいので要望を聞いて実行していますが、かなり引いていると思います」
あの爽やかな美形のお兄さんが、実は訳のわからない性癖の持ち主の変態だったなんて……カチュアさんには悪いんだけど、四天王って、みんな残念な人しか居ないですよ!
私の認識が、御庭番四天王から、残念四天王になってしまいました……私の知り合いって、みんな何か性格に欠点があるのですが、もしかしたら、私がおかしいのでしょうか?
「それは良いとして、私もその衣装が欲しいです! 覚えましたので、今度シズクちゃんに作ってもらいますよ!」
ペンギンの格好で、カチュアさんのヒラヒラ衣装が欲しいと言っています。
カチュアさんと違って、サテラだと似合って可愛いと思います。
「サテラさんは、私と趣味が合いそうです。私の部屋にまだありますので試着してみませんか?」
「それは嬉しいですね! 明日にでも時間がある時に声を掛けて下さい! この屋敷に居る時は、ここか食堂にいますので、待ってますよ!」
うーん……サテラも確実にシズクの仲間になったようです。
しかも、暇な時は食べてばっかしのようですが、大昔の英雄で、敵対する国に恐れられていたと言っても誰も信じないと思います。
あの日記の内容からは、全くかけ離れた人物ですよね?
そろそろ時間も厳しいので、手早く聞いてしまいましょう。
「かなり話が逸れましたが、そろそろ私が死んだ後の話を聞かせて下さいね?」
「畏まりました。それではあの後は……」
ふむふむ。
やはりノアが殺してしまいましたか。
しかも、首なしで行動出来るとか、もしかして、痛みとか感じないのですか?
もし、そうだとしたら、ノアだけ痛覚無効とかズル過ぎます!
セリスとカインさんの話を聞いていると、人の生死でも司る力でもあるのかも知れませんね。
そして、ノアが使った最後の魔法が原因で私のレベルが一気に上がったのですね。
あの屋敷に居た者全ての生命を灰になるまで奪ったらしいのです。
シズクとカチュアさん達も同じパーティーに居たので、カチュアさんのレベルも130近くまで上がったそうです。
何名かに調べさせたらしいのですが、屋敷に居たマクガイア子爵家の者達や仕えていた騎士に住み込みの下働きの者から、捕まっていた奴隷の人達まで、全て死に絶えていたというより居なくなっていたそうです。
屋敷の範囲内の生命を感じる物は草木に至るまで全て枯れ果てていて、残っていたのは、無機物の鎧や年数の経ったような衣服に、本人だったと思われる灰だけしか無かったらしいです……どんな魔法を使ったのか知りませんが恐ろしい力ですね。
しかし、無関係の人まで、屋敷に居たというだけで、容赦なく殺してしまうとか手加減とか全くありませんね。
「それだけ大量に殺してしまったので、私達のレベルが一気に上がったのですか……地道に魔物を狩るより早いですね」
「ちょっと、シノアはノアさんがやった事とは言え沢山の人を殺してしまった事に何も思わないのですか!?」
カミラが焦ったように私に聞いて来ますが……私の答えは……。
「セリスに手を出したのですから、仕方ないのではありませんか? 私はあのような者達を生かしておくつもりはありませんよ? まあ、関係無い人達は気の毒でしたが、きっと高レベルの騎士達を狩ったのが大きいのでしょうね。ダンジョンで魔物を狩るより悪人でもまとめて狩った方が効率が良いかも知れませんので、悪意の感情を持っている者は狩ってしまおうかな?」
「シノア! お願いだから、そんな考え方をするのは止めて下さい! やっぱり私が付いて行くべきでした……人を……人間を糧にするような考え方をお願いですからしないで下さい!」
私を抱きしめて泣きながら、お願いして来ます。改めて思うと何故私は人を狩りたいと思ったのでしょう?
ガルドみたいな奴は殺してしまえば良いと思っていました。関係ない人を殺す気は無かったのですが、別に構わないと思う私がいます。
抱き締めながら泣いているカミラの暖かい感情に触れていると、先ほど言った事が間違っていると思えて来ます。
「ごめん……でもカミラの心に触れていると私の考えが間違っている気がしますので、もう言わないと思うけど。どうしてあんな事を言ったのか、私にもよくわからないのですが……」
「やっと……やっと、私の思いが貴女の心に少しだけ届いたようです。これからは、どんな事があっても貴女からは決して離れません!」
「それは構いませんが、悪戯しても許して下さいよ?」
「その時は、ちゃんと叱ってあげますので、心配しないで下さい」
上手く悪戯を認知させようと思ったのですが、ダメだったようです。
これからもカミラの子守り生活が継続されるみたいです。




