38 ペット?を確保しました
事前に学園に申請したので今回は滞在期間が長かったのですが、お屋敷に帰ると普通に迎えてくれました。
残念な……公爵家お嬢様のエルナの事もあるので、もっと心配しているかと思っていました。
サラさんにその辺りの事を聞くと……。
「エルナに持たせたブレスレットに変化が無かったから、無事だと思っていたのですよ?」
そう言って、サラさんも腕に付けているブレスレットを見せてくれました。エルナの物と同じですね。
珍しくアクセサリーを付けていると思ったら、片方の持ち主が死んでしまったりすると輝きを失うというアイテムらしいです。
でも、死んでしまったら、手遅れでは?
「それだと、死んだ事しか確認が出来ないのでは?」
「危険な事をしているのですから、死んだりしたら自己責任です。冷たい言い方ですが生死だけ確認はしたいのです。それにシノアちゃん達が居るから、安心していました」
「なるべく危険な事は避けているつもりです。どんな事があってもエルナ達は守り抜きます」
「本人が好きで一緒に行動をしているのですから、みんなで頑張って下さいね。私も若かったら、付いて行きたい所です」
そのまま軽くお話しをしましたが、ここまで信用されているのですから、絶対に死なせませんよ。
その後、少し開けてからダンジョンに行く事にしました。
キャロには申し訳ないのですが、頑張ってマナを増やしてもらう為に、メイドさんの仕事もあるのに、寝る前に一仕事増えましたけどね。
シズクは、「衣装が出来るまで、お休みでお願いします!」とか言って、ギムさんの工房にある自分の趣味部屋に籠ってしまいました……あの服を作る気なのかな?
中庭で戦闘に使えない魔法のお試しをしていたら、キャロがえらく慌てて来るのですが、どうしたのでしょうね?
「シノア様! 私、こんなに頂けません!」
はぁ?
何を?
護身用の短剣と魔力が増幅する杖しかあげてないような?
しかも、現在は私の収納の中にあるし
「私、何かあげましたか? 寝る前に鉱石を作ってとしか頼んでいませんよ?」
キャロには、寝る前に『クリエイト・オア』という魔法を最大で使うように指示しています。
マナの許容量アップの為に寝る前に使う魔法として教えましたが、これが中々いい魔法なのです。
術者のレベルと籠めるマナに比例して、鉱石を作り出せる魔法です。
寝る前なので、意識を失う寸前まで籠めてと頼んだので、一回使ったら、直ぐに眠ってしまうぐらい疲弊していましたね。
私も武器の補強用の材料にちょこちょこ使っていますが、いまのキャロが作り出せるのがなんとミスリルなのです!
大きさは小石程度なのですが、こないだまで魔術も知らない人が作れる物ではないですよ。
ミスリルの価値を知らないから、毎朝必ず私に渡して来ますので、非常に助かります。
ちょっと、成長したらどこまで土魔術を極めれるのか楽しみです。
ちなみにこの魔法を使える人は、私とキャロだけになります。
お姉ちゃんに聞いたので間違いありません。
すごく懐かしむように語ってくれましたが「その魔法を使える者は、もうこの世界には存在しないので、シノアちゃんだけです」と、以前に教えてもらいましたからね。
現在、私の全マナを使って小粒のオリハルコンが作れますので、こまめに作って貯めていますが、これを1人の時にやってしまうと動けなくなってしまうので、あんまり出来ません。
セリスが居る時にマナポーションを飲みまくれば良いのですが、あればっかし飲んでると飽きるから……。
「先ほど、セリスさんから、今回の分け前と言って金貨を沢山もらいました。こんなに頂けません! 私のお屋敷でのお給金を遥かに越えています!」
えっ……そこは、喜んで黙って懐に入れてしまうのではないでしょうか?
私だったら、お酒かお菓子に全部使って、収納してしまいそうですね。
コツコツとお金も貯め込んでいますが、最近は貯めるのも飽きてきたので、好きな物を買いまくっています。
「いつもセリスにお任せしているので、素材やドロップした物が高く売れたのでしょう。ちょっと贅沢が出来るので、良かったですね」
「こんなに頂いても私は怖くて使えません! セリスさんに聞いたら、シノア様がお決めになった事なので、聞いて来なさいと言われたのです。ダンジョンに行く度にこんなに頂いていたら、私は駄目になってしまいます……」
「お金は、有っても困る物じゃないと思うし、それで6等分のはずなので、正当な報酬ですよ?」
「私は、こんなに金貨をもらったのは生まれて初めてです……持っているのがもう怖いです……持って歩くわけにもいかないし、部屋に置くのも怖いのです……」
「では、私が預かって置きましょうか? お話しをしましたが私の収納には、ほぼ無限に入るので、シズクとエルナの分は預かっていますがどうしますか?」
エルナは要らないと言っているけど、一応は分けて持っています。
シズクには大金を与えるとろくな事をしないので、適当にお小遣いを渡す程度にしていますがカジノで儲けているらしいので、多分貯め込んでいますね。
カミラは、最初は躊躇っていましたが、いまはコツコツと貯めていて、無駄遣いもしないので、結構持っているはずです。
「申し訳ありませんがそれでお願いします!」
そう言って差し出された袋を受け取るとすごく安心した表情になりましたが、お金を渡して安心するとか、アイリ先生に見習って欲しいですね。
明日、学園に行ったら、最初に何を言うか大体想像できるからね。
「欲しい物があったら、言ってくれれば直ぐに渡すから、我慢しないで、欲しい物は買うといいよー」
「以前のお屋敷よりもお給金も良いし食事も美味しい物を頂いて、服なども色々と買ってもらえたり作ってもらえているのですから、私は満たされています。こんな事を言うのは不敬に当たりますが、あの事件のお蔭で私は今、幸せなのです」
「いや、キャロは私にほぼ全てを支配されてしまっているので、幸せとは言えないのでは……」
「でも、シノア様は、一度も私に強要をした事はありませんよね?」
最初にお風呂に一緒に入る事を命令したような?
「特にする必要が無いだけですから、今後はわかりませんよ?」
「いいえ、シノア様は決して無体な命令はしないので、むしろ守っていただけているので、安心出来ます」
「まあ、キャロがそう思っているのでしたら、私は構いませんが、実はこのレベルまでの支配をすると解除の仕方がわからないのですよ」
「構いません。もし今後ですがそのような目に遭いそうになってもシノア様より上の支配が出来る人はまず居ないので、私は奴隷に落ちなくても済みます。私の知り合いに何人も奴隷にされてしまった子がいましたので……」
「この国では、そんなに奴隷にされる人が居るのですか? たまに事情を聴いて気の毒な人をこっそりと解放してあげていましたが」
「生活の為に子供を売ってしまう家庭は地方にはあります。綺麗な子だとお金持ちの方や貴族様に買われてしまう事も珍しくはありません。私は、友達が売られたのを知って怖くなって、旅の冒険者の方に付いて行って王都に来たのです」
「その売られてしまった友達が王都にいるのでしたら、内容によっては助けてあげますよ?」
「……あの子とは王都で再会しましたが、とある貴族様の妾になっていました。綺麗な衣装で着飾って、私を汚い物でも見るようになっていました……一言、お金が全てとだけ私に教えてくれました……思いやりのある子でしたが、何があったのかはわかりませんが人をあそこまで変えてしまうのなら、生きて行けるだけで十分だと思ったのです」
「そうですか……でも、あの事件の時は、特別手当が出ると言っていませんでしたか?」
「実は、お金では無いのです。お恥ずかしい話なのですが……紅茶をお出しした時に誤って、お嬢様のドレスを汚してしまって、その件を帳消しにしてもらうのが特別手当になっていたのです」
あの痴女になった巻き髪女ですか。
キャロをこちらに引き取ったら、「そのような者は居ない」とか私が「下賤の者を拾って来て、慰め者にしている」とか言っていた時は、首を刎ねてしまおうかと思いましたよ。
もしかしたら、わざとキャロに失敗をさせてやらせたのかも知れませんね。
キャロの性格からして、自分から引き受けるとは思えないし、セリス達が動かなくてもエルナが黙っていないので、問題になりますから切り捨てるつもりだったのかも知れませんね。
「キャロがお金に対する考えはわかりました。私がちゃんと貯めておきますので、安心して下さい」
「ありがとうございます。それでは、仕事に戻りますので失礼致します」
改めて考えるとお金で、人は変わるのですね。
そう考えるとアイリ先生は、すごくましな気がしてきましたよ。
翌日に学園に行くとアイリ先生が希望の眼差しで私を見ているのですが、何を期待しているのでしょうね?
放課後にいつもの場所で2人になると……。
「シノアさん! やっと来てくれて嬉しいです!」
すごく嬉しそうですがどうやっていじめてあげようかな―。
「今回はゆっくりと出来たから、50階層まで一気に行けましたよ」
「おめでとうです! 流石はシノアさんです!」
「そんなに喜んでもらえると照れますね―。では、今日はする事があるので、もう帰りますね?」
いきなり表情が変化しましたね。
いつものお土産は?と言った感じですね。
「待って下さい! いつものお土産は、もしかして無いのですか? 実はもうお財布が寂しくて……」
「アイリ先生は、私に借金があったのを忘れてしまったのですか? 今回は、それで差し引きゼロにしようと思っていたので、無しです。借金は完済しましたので、おめでとうございます」
なんか口をぱくぱくしていますがどうしたのでしょうね?
「……貸して下さい……」
「えっ? 何をですか?」
「お金を貸して下さい……」
「えっ? まさか続けて借金の申し込みですか? せっかく借金が無くなったのに?」
「もう、給料日まで本当に無いんです……」
ダンジョンに行っている間に何か有ったのでしょうか?
ちょっとくらいなら、蓄えがあるはずですから、まったく無一文では、ないはずですよね?
「アイリ先生、正直に答えて下さいね? 残りのお金はどうしたのですか?」
「……それは……その……」
「私は、強制的に話させる事も出来るのですが出来ればしたくないので、自分の意思で答えて欲しいのです。内容によっては助けてあげますよ?」
頭を抱えながら必死に考えています。毎回のように同じ事をしていて進歩がありませんね。
違う意味でお金で人生が変わってしまってます。
「絶対に誰にも話さないと約束してくれますか?」
「いつもアイリ先生の懺悔は聞いていますが、一度も誰にも話した事はありませんよ?」
こんなネタの塊の人を世間に広めたら面白みが減ってしまいますよ。
「実は……バーで知り合った男性に貢いでお金が無くなってしまったのです……詐欺師と知った時には全て失ってしまったのです……」
……はぁ?
どうして全てなのですか?
今回は極め付けですが……アホですか?
「ちなみにどんな流れだったのですか?」
「1人で飲んでいたら、身なりの良い美形の男性が優しく話しかけてくれて、一目惚れしたと言って結婚を申し込まれたのです」
大体、いきなり結婚とかどこかの貴族のパーティーなら、下らない口上でも言って求婚する話は聞いた事がありますが……展開がおかしいでしょ?
「それで、会話もすごく弾んで、相性が良いと思って……7日目ぐらいの時にちょっとお金が必要と言ったので……どうせ一緒になるのだからと……言われた金額を何とか作って渡したのです……」
……こんな典型的なちょろい方法に引っかかるとか、どんだけ間抜けなのですか?
詐欺師なんだから口が上手いのは当たり前ですが、上手い具合に全財産を引き出しましたね。
「それで、お金を渡したら、次の日からお店に来なくなって……知り合いに聞いたら……有名な詐欺師で、私のような独り身の女性ばかり狙っている常習犯だったらしいのです……」
まあ……1人寂しくバーで、飲んで居たら良いカモですからね。
アイリ先生は、どう見ても騙し易そうですからね。
「何とかお金を作ったとか言っていましたが、貯金していたお金だけで足りなかったのですか?」
「いつかのオーダードレスとか、貴金属も全て売って……大事なワインも全て……必死に守ったワインが……」
これは、しっかりとアイリ先生がどのくらい資産を持っているか下調べしてから、騙していますね。
バーなんかで、飲んでべらべらと自分の事を喋っているから、調べるのは簡単だったんでしょう。
毎回、笑わせてくれますが本当に飽きさせない人ですね!
おっと、ここで得意技の土下座をしましたよ。
「お願いします! もう2日前からお金が無くて、困っているのです! 学園のお昼以外は何も食べていないしワインも飲んでいないのです! 私にはシノアさんにしか頼る人がいないのですから、助けて下さい!」
おおっ……まさかそこまで、むしられていたのですか。
ワイン大好きでアル中に近いのに飲んでないとか、すごいですね。
珍しくお昼の食事をおかわりをしていたのは、そういう事でしたか。
助けてあげるのは簡単ですがどうしましょうね……絶対に反省とかしないと思うけど、また何かしでかしてくれると面白いから良いんですけどね!
そうだ!
良い事を思いつきましたよ!
「アイリ先生、もうこの際ですから、私のお屋敷に引っ越して来ましょう! そうすれば、食事には困りませんよ? ワインだって、いっぱいあるから毎日飲めるし、お風呂もすごく快適ですよ?」
「公爵様のお屋敷ですよね? 私のような一介の教師が行くのは恐れ多いのですが……」
「レートさんとサラさんには、私が話をしますので、問題有りません。アイリ先生には、お屋敷でやって欲しい事があるので、それを引き受ければサラさんは確実に許可してくれますよ!」
「私に出来る事などあるのでしょうか?」
「ええ、丁度良い仕事があります! どうしますか? このまま給料日まで、禁酒状態で、お昼しか食べられなくて、何も買い物も出来ない生活を送るのに比べたら、最高の待遇だと思いますよ?」
「すごく魅力的なお話しですが……シノアさんの好条件のお話しには、何か必ず落とし穴がある気がするのですが……」
余計な知恵が付きましたね……素直に「はい」と言えば良いのに!
誘惑に弱い癖に変な警戒をするようになりました。
ちょっと何とかして、唆さないと……。
「では、私がお金を貸しても良いですが、その代わり給料を貰ったら返してもらう時に利子が5割増えますからね?」
「どうしてそんなに利子が増えるのですか! 普通にお金を貸してくれる所でもそんな暴利は無いですよ!」
「では、そちらで借りますか? 私が思うにアイリ先生の事ですから、学園の教師が借りるのは体面が悪いから借りてなかったのではないのですか?」
「ううっ……そうです! もし、ばれてしまったら私の世間体が悪くなってしまうからです!」
「では、エレノアさんに借りるとか? もしかしたら、無利子で貸してくれるかも知れませんよ?」
「無理です……ちょっと私が調子に乗って色々としてしまったので、助けてくれるどころか仕返しされてしまいます……他の先生も多分無理かと……」
そうでしょうね。
調子に乗って、こき使ったりしていましたから、絶対に仕返しされますよね?
さあ、ここまで分るように説明したのですから、私のお誘い以外に道は無いのですよ。
交渉とは、相手に選択肢を選ばせない事なのです。
初めから、道は一つしか無いのですから、残りの選択肢は、絶対に選ばない物を用意するに決まっています。
アイリ先生の人生は既に詰んでいるので、私を楽しませる為に素直になる方が楽ですよ。
「もう一つだけ道がありますよ?」
「それは何でしょうか……」
「私の知り合いに奴隷を扱っている人が居るのですよ」
「まさか……」
「アイリ先生の支配権をその人に売れば、いい値が付くと思いますので、その売り上げの半分はあげますので、残りの半分は頑張って働いて返せば完済した暁には自由にもなれますよ? ただし、教師じゃなくて愛人とかを強制されるかも知れませんね……アイリ先生は、おめかしすれば綺麗ですからね。どうしますか?」
本当は、このレベルの支配権とか、私には移せないけどね!
「嫌です! 初めては、未来の旦那様と決めているのに愛人なんて絶対に嫌です! それでしたら、シノアさんにどんどん借金した方がましです!」
えっ――!
絶対にお屋敷に来るように仕向けているのに借金を選ぶとはね。
しかも、私にどんどん借金とか言ってますがそれは、返す気が無いと言っているのと変わりませんよ?
「あれも嫌これも嫌と……さらには私に借金しまくるとか、ちょっと甘く見てますね? では、返す時は10倍に変更しますので、それでも良いですか?」
「10倍とか、悪魔ですか! 最初から貸す気が無かったのですね! 酷いです!」
「そろそろ素直に私の提案を受け入れた方がアイリ先生は幸せになれますよ?」
土下座しながら、頭を抱え込んでいます。
更に悶えながら考えていますが見ていて、とても面白いです!
まだ悩むとか、無駄な抵抗をしていますが、初めから道は一つしか無いのですから、この辺で妥協しないと余分な特典が増えるだけなのにね。
「わ……わかりました……シノアさんの提案に従います……その代わりに絶対に助けて下さいよ!」
やっと認めましたか。
抵抗すればするほど私が喜んでいる事に気付かないとね!
ネタとして、私の眷属にしたいと最近になって、本当に思うようになってきました。
「大丈夫です。さあ、立ってアイリ先生の荷物をまとめに行きましょうね? 持ちきれない分は、私の収納に入れますので、完全に引き払いましょうね!」
それから、アイリ先生の荷物を全て回収して、大家さんに話を付けて後にしましたが。
「私の住み慣れた部屋が……」
私の後を付いて来るアイリ先生は、何度も住み慣れた建物を見ていましたがもう二度と戻れないと思うので、しっかりと思い出として心に焼き付けておくと良いですよ。
それから、荷物を全て私の収納にしまって(逃げれないように没収しました)サラさんにお話を付けてお屋敷に連れてきました。
「先生がうちに来てまで、勉強を教えて頂けるなんて、あの子も喜びますよ! しかもシノアちゃんのメイドまでしたいなんて、働き者なのですね!」
「えっ……それは……」
「そうなんですよ! ダンジョンに滞在とかして、エルナの成績を落としたくないので、無理にお願いして来てもらったのですよ! それとお屋敷に普段いる時は花嫁修業を兼ねて、家事なども学びたいという事なのでぜひメイド見習いをしたいとの希望なのです!」
「私は、感心しましたよ。教師の仕事をしながら、私の娘の為に来て頂いただけではなく、花嫁修業の一環として、メイドもしてみたいなんて、今の人には出来ない事です!」
「えっ……ええ……シノアさんの提案なのですが……」
「私からも、お手当てを出させてもらいますので、どうか宜しくお願いしますね!」
「良かったですね! これで充実した生活も送れるし、学園の給料とは別にお手当ても貰えるから、結婚資金も貯めれますから、良い事尽くめですね!」
「そ、そうですね……こちらこそよろしくお願いします……」
サラさんとお話を付けてから、セリスの隣の部屋に荷物を出してあげましたがなんか怒っていますよ?
「何をするかは聞いていませんでしたがエルナさんの勉強を見るのは良いとして、シノアさんのメイド見習いって、何なのですか! 花嫁修業とか……騙されたばかりなのに酷いです!」
「勉強の件は後で、エルナに話しますので、しっかりと教えてあげて下さい。ここに居る間は、私のメイドとして、夜遊びをさせない為です」
「夜遊びって……私の楽しみのバーに行く事ですか?」
「そのバーで騙されたのですから、もう行きたくないでしょ? それにいまは行くお金も無いし丁度良いので、しばらくは真っ当な生活をして下さい」
「私の唯一の楽しみが……別に普通の生活だと思うのですが……」
この人は、本気で言っているのでしょうか?
普通の人があんな所に毎日も通ったら、お金が持ちませんよ?
私の賄賂で金銭感覚が狂ってしまったので、この辺りで少し修正しておかないともっと深みに墜ちるに決まっています。
「あそこは、結構なお金が無いと毎日通うとか普通は出来ません。とにかく学園以外は、ここでしっかりと働いて下さい。キャロはいますか?」
「お呼びでしょうか。シノア様」
私が屋敷にいる時は大抵は、側に控えています。
セリスは、地味にリンさんと買い物とか使用に出かけるので、今はキャロが私の専属みたいなものですね。
「アイリ先生を制服に着替えさせてエルナの部屋に来てもらいたいので、案内してあげて下さい。私は先に行ってエルナとお話しをしてきます」
「畏まりました。それでは、先生はこちらのメイド服に着替えて下さい。サイズはお聞きしていましたので、これで問題は無いと思います」
「これに着替えるのですか……ちょっと可愛い服ですが私には似合わないというか……スカートが短いです……」
「シズクが考えた私に仕える人専用のメイド服らしいです。リンさんも違うバージョンの制服でしたね」
シズクが色々とスケッチをして、お屋敷のみんなに見てもらったら、いくつも良いと言われたので、仕える人とか就いている仕事別に制服を一新したのですよね。
騎士団に用がある子のメイド服なんて、かなりエロ可愛い制服なのに意外と人気があるのですよね。
シズク曰く「メイド服は正義ですね」とか言っていましたがあの服を着てれば正しいのでしょうか?
「キャロも着ていますが可愛いと私は思いますよ? あと、メイドのお仕事の方は、キャロに全て一任しますので、しっかりと躾けて構いませんので、決して甘やかさないようにして下さいね。それと先生なんて呼ぶ必要はありませんのでキャロの後輩扱いで、構いません」
「畏まりました。先生……じゃなくて、アイリ。早く着替えないと案内が出来ませんので急いで下さい。今日中に教えれるだけしっかりと教えます」
諦めて着替え始めましたがなんかぶつぶつ言っていますね。
「私……これから、どうなってしまうのかしら……昼間は学園で、帰ったらメイドの仕事とエルナさんの勉強を見てたら、自由とか無いのでは……」
ある訳ないでしょう?
目を離すと何かに溺れるに決まっています。
年下の子の後輩になってしまった事にもショックみたいですね。
どこで飴を与えると効率的に喜ばせる事が出来るのか、考えるが楽しみです。
さて、エルナの部屋に行きますか。
「あら、シノア。出掛けて来るから遅くなるのではなかったのですか?」
寝そべってお菓子を食べていますがリンさんに見つかったら、説教されてしまいますよ?
「また、そんな恰好でお菓子なんて食べているのを見つかったら、知りませんよ?」
「大丈夫です。リンはセリスさんと買い物に出かけていますので、暗くなるまでは戻って来ませんよ?」
カミラとオセロなんてしていますが、勘でやっているのにエルナって意外と強いのですよね。
シズクが教えてくれた向こうの遊びなのですが、結構頭を使うゲームのはずなのに私達の中で一番強いのが納得出来ません。
状況を見て見ると……ほぼ詰んでいますね。
必死にカミラが考えていますが、これを逆転するのは無理だと思います。
「今日は、エルナに改めて紹介をしたい人を連れて来たのですよ」
「私にですか? また、可愛い子でも保護して来たのですか? シズクちゃんのような子だと良いですね!」
「エルナの為になる人ですよ……サラさんにも了承済みなので、これから楽しい生活が送れると思います」
「私の為ですか? お母様も了承済みというのが引っかかりますが、何なのでしょう?」
「シノア様、遅れて済みません。アイリを連れてきました」
キャロが連れて来てくれたようです。
扉を開けて部屋に来ると可愛らしくなったアイリ先生が居ます。
「えっ? アイリ先生、どうしたのですか? しかもキャロと同じメイド服を着ていますが……なんと言いますか騎士団の方達がすごく喜びそうですね……」
必死にスカートの裾を押さえていますが激しい動きをするとパンツが絶対に見えるのですよね。
シズクもお屋敷では、着ていますが例の魔法を使っているので、絶対に捲れません。
セリスは、共通バージョンのを着ているので、普通の丈です。
珍しく必死に抵抗したので、認めてあげました。
「シノアさん……これは、恥ずかしいのですが……」
「アイリ。その服装の時はシノア様と言うように教えたはずです。次に……」
「ああ、構いません。アイリ先生は学園での事もありますので普段通りに呼んでもらった方が良いと思います。学園で様付けで呼ばれたら、私の変な噂が増えるだけなので」
「畏まりました」
キャロは素直なので、助かります。
「それで、その制服を着ているという事は、アイリ先生は、シノアのメイドになってしまったのですか?」
「それもそうですが今日から、お屋敷でエルナの勉強も見てくれる事になったのですよ! これで、成績が落ちたりする事は無いですから、安心ですね!」
「ここでも勉強をするのですか? 私はたまに自主的に勉強をしている時もあるので、大丈夫ですよ?」
「カミラに宿題をやらせていたのを私は知っているのですが?」
「そんな事はしていませんよ! カミラも何か言ってあげて下さい!」
「それは……申し訳ありませんエルナ様……」
「無駄です。疲れていたカミラに栄養剤と言って、少しだけアルコールを混ぜた物を飲ましたら、素直に教えてくれましたよ」
「エルナさんは、宿題をカミラさんにさせていたのですか? ちょっと教師としては、見過ごせませんね……」
「違うのです! たまたま今回だけ、お願いしただけなのです! いつもはちゃんと自分でしています!」
嘘はいけないですね……今回じゃなくてダンジョンに行くようになってから、ほとんど頼んでいるのを聞き出しましたからね。
「エルナ。カミラは酔って、うっかりと全て話してくれましたので、駄目ですよ? この事は、サラさんにも教えたので、アイリ先生の件を快く承諾してくれたのですよ?」
カミラは私に目で話が違うと訴えていますが、後でエルナに理不尽なお仕置きでもされて下さい。
「お母様にまで!?」
「エルナが模試で、5位以内に入るまでは、厳しく教えても良いと許可も得ていますので、お屋敷に居る時は、しっかりと勉強が出来ますね!」
「5位とか厳しいです! せめて10位にして下さい! それなら、以前は取れていました!」
「交渉はサラさんとして下さい。ささ、お菓子とゲームは片付けて、夕食の時間まで、しっかりと勉強をして下さいね?」
「お母様と交渉なんて、無理です! シノアが私をいじめます!」
「エルナの成績を落とさないようにと私の心遣いを心外ですね……もう決まった事なので、頑張って下さいね!」
いつかの仕返しがやっと出来ましたよ。
エルナには体罰より、この手の方法の方が効きますからね。
エルナの事は大好きですが、それとこれとは別ですからね。
「私はどう致しましょう……」
「カミラは好きなようにすれば良いと思いますよ?」
「勿論、カミラは私と一緒に居てくれますよね? カミラが口を滑らせなけれはば良かったのですから……私は、信じていますよ?」
「わかりました……私もご一緒に勉強をさせていただきます……」
悲しいかな……エルナのお願いは断れないので、一緒に勉強をする事になってしまったようです。
これ以上は、私に何か言ってくるに決まっていますので、さっさと撤退しました。
以前にエルナがメイドの時にしてくれた仕打ちは私に対する愛の鞭とか言っていましたので、私のお礼のお返しをしないといけませんよね?
私は、受けた事に対してはいつか必ず仕返しをすると決めていますので、こんな楽しい事は仲の良い友達でも譲る事が出来ません。
これで、堕落した教師も更生出来るし、サボっていたエルナの勉強も捗るので、色々と問題が解決するはずですから、私って良い事をしましたね!
私の名前はキャロ。
貧しい田舎町に生まれた何の取り得もない娘です。
上に姉と下に弟が居ましたがある日に姉が領主様の3男の方と大金を盗んでどこかに居なくなってから、私達の家族の不幸の始まりでした。
姉の賠償金代わりに領主様の館で無償で働く日々が続きましたが、盗人の身内としての生活は耐えがたい物でした……。
ある日に私を気に入った領主様のお客人に私を売らないかと両親に話が来たのです。逆らえるまでも無く少しでも楽になるのならと私の身売りが決まりかけていたのです。
その話を聞いた私は両親に売られる前に地方の村から、王都に逃げ出して来ました。
偶然にも立ち寄った冒険者の方が良い方でしたので一緒に連れて行ってもらえましたが、いま考えると騙されて奴隷に落とされるか売り飛ばされてもおかしくはありませんでした。
領主様のお屋敷で働いていた事もありましたが下働きしか出来ない私でしたから、冒険者の方が依頼されていた貴族様のところでメイドを募集していたので、面接をさせてもらいましたら、そのまま採用されました。
公爵様のお屋敷で、住み込みで働けるのは、私には幸運でした。
生活にも慣れて4年ほど経った時ですが、公爵様にお茶をお出しした時に訪問されてきた貴族様と一緒にいた女性を見て驚きました。
村で私と仲良くしていた子なのですが、その容姿を気に入られて貴族様に買われた子です。
あちらも私に気付いたようで、私が退出する時に少しお庭を見たいと言って、私が案内する事になったのですが、2人になった時に最初に聞いた言葉が……。
「貴女もここに売られてきたの? 私程じゃないけど貴女も中々綺麗だし相手にするのに丁度良さそうね?」
私は聞き違いかと思いました。
彼女はとても思いやりのある子で優しい子でしたので、そのような事を言うなんて信じられませんでした。
私の事を話すと詰まらなそうにこれまでの経緯を教えてくれました。
先ほどの貴族様に散々弄ばれ自殺を考えた事も有ったそうですが、自分に夢中になっている貴族様を逆に虜にして、自分を売った両親を貴族様に頼んで奴隷に落として、第二夫人にまでなったそうです。
それからは、貴族様を飽きさせないように上手く誘惑しながら、贅沢な暮らしをしているそうです。
私がつい随分と変わってしまった事を口にしてしまった時に自分の美貌を使って貴族に適度に媚びていれば貧しい生活をしなくても済むと言って、お金があれば全て上手く行くと教えてくれました。
そして最後に、私にも公爵様の妾になれば安泰と、勧めてきました……。
私も売られるのが嫌で逃げ出した身ですが、お金を手に入れるとあんなに人が変わるのでしょうか?
それなら、私は生きて行くだけのお金がもらえれば十分だと思いましたが、彼女の場合はそれだけでは無いので、あのような考え方になってしまったのも仕方ありません。両親があの子を売らなければ、あの村で静かに暮らせていたのかも知れません。
しばらくして、オリビアお嬢様の身の回りをするようになったのです。半年ぐらい前から、学園に編入してこられた方が思い通りにならないので気に入らないからと、色々とするようになってからはお屋敷での機嫌も悪く、私の生活にも陰りが出てきています。
お話を聞く機会が有ったのですが、その方は実力があるのに上に来ようとはせずにいるので、上位クラスのお嬢様達は学園の笑い者にされているとの事です。
実は……お嬢様は、自分のクラスの下位の者と入れ替わって自分のクラスに来てくれる事を一番望んでいたらしいのです。
理由はわかりませんがシュタイナー家を始めとする実力のある貴族様は、ここ数年で実力のある者には積極的に声を掛けているようなのです。
自分の身近にいるのに話す機会も無く、更には自分達のクラスに来ない方を段々と疎ましく思い始めて苛立っているようでした。
そんな時にお嬢様のドレスに紅茶をこぼしてしまったのですが……横に居た子が足を踏んだのがわかっているのですが、お嬢様に叱責されていてそんな事を弁解する余地も与えられませんでした。
そのドレスの金額を聞いた時には、私には不可能な金額で呆然としていると……。
「明日の武術大会で、ユリウス殿下を称えて、対戦相手の方を貶める実況すれば不問にします」
私に拒否権などありません……申し訳ないと思いつつ言われた内容で、実況をすると放送席の扉が開かれると殺意に満ちた目で私を見るメイドの方と小柄な少女が現れたと思ったら……。
「忍法! 風の結界陣! 貴女達ですね? 私のお姉様を侮辱した罪人は? 例えお姉様が許しても私は許しません! その罪は貴女達の命で償ってもらいます!」
消えたと思った時には、私の両腕が切断されていました!
痛みで叫ぶよりも早く少女が次の動きをした時にもう1人のメイドの方が止めてくれましたが私の首に刃が少し食い込んでいる状態でした。
「シズク、殺してはいけませんよ……ただ殺すだけでは、私の気持ちは治まりませんので、その娘の周りの結界だけ強化して、死なない程度に切り刻みなさい」
「なるほど……拷問をするのですね。他の2人はどうするのですか?」
「シノア様を侮辱したのはその娘のようですから、その者だけにします。取り敢えず死んでしまってはまだ困るので首の怪我は癒します」
助けてくれたのかと思いましたが、その後は、治したら手足を斬り落とすの繰り返しで、私はこのまま一思いに殺して欲しいと懇願したのですが、主に伺いを立ててからと言われて試合が終わるまで続けられました……。
私の周りだけ風の動きが緩やかに流れているようで、浮いている血で赤く染まっていたのですが、地面はそのままなのが更に恐怖を引き立てました。
試合が終わって、少女が斬るのを止めて実況の続きをすると、もう1人の方が「シノア様の許可が得られたら、生きたまま森の魔物の餌にしますので、自分の過ちをその身に教えてあげます」と言われました。
私は見っともなく泣き叫びながら許しを請いましたが、2人には、まったく取り合ってもらえませんでした。
そうしている内に対戦相手だったシノア様が現れて、2人に止めるように言ってくれましたので、私には女神様に思えました。
いま思えば、公爵家の方と知らなかったとは言え、とんでもない事をしたと思います。
シノア様が説得しても、どうしても私を殺さないと気が収まらないと言っていましたので、このまま生きたまま魔物に食べられるかと思うとそんな死に方だけは絶対にしたくないと必死に許しを求めました、
そうしたら、シノア様が私を殺さない為に誓約魔術を掛けて自分の支配下に置くからもう手出し無用と言われました。その時に、シノア様は本当に良いのか聞いて来ましたが、私は喜んで受け入れる事にしました。
それから、バレンタイン家に引き取られる事になりましたが、シュタイナー家は私のような者は居ないので、好きにすれば良いとの事でした……初めから、私は捨てられる事が決まっていたようです……。
私は、殺意の目で見るセリスさんに従うように言われました。先ほどまで私を殺すつもりだった方から厳しく躾けをされて、何とか命だけは助かりましたが、これからの事を思うと不安でした。翌日からはまったく逆の生活が始まりました。
翌朝からは、セリスさんがとても優しい方に変わられたので、とても驚きました。
私を切り刻んでいたシズクさんは、同じ配下との事で、私に色々な服を作ってくれますが、昨日の恐怖が思い出される度に、この子には絶対に逆らってはいけないと心に刻みました。
シズクさんの作ってくれる服は斬新な物が多いのですが、とても着心地の良いので、欲しがる方はとても居るそうです。後から知ったのですが、私の着ている服だけでもかなりのの高額になるそうなのです。
公爵様やお屋敷の方もとても優しくて、仕事のお給金も高く、食事の方は残り物では無く日替わりメニューで食堂で好きな物が食べられるので、私は不敬に思いましたがあの事件のお蔭で幸せです。
シノア様のお付きのメイドにしていただいてから、しばらくすると……突然シノア様からダンジョンのお話を聞きましたが、私はただの田舎の娘ですから無関係と思っていました。
私を見るなり、渡された魔術のスクロールを使うように指示されましたが、これ一枚で私のお給金の3ヵ月です!
しかも籠めた魔法の内容次第ではいくらでも価値が上がるので、私は無駄にならないように祈りながら使わせていただくと習得出来ました。でも、私に魔術の才能が有った事に驚きました。
言われた通りにその魔法を使うと座り心地の良い椅子が石になってしまいました……あの椅子は私のお給金の……考えたくありません……。
シノア様は、何事も無かったように私にダンジョンに行かないかとお誘いになられました。私が役に立つとは思えないのですが、主たるシノア様が望まれるのでしたら、私は何でもするつもりです。
私が了承すると先ほどのスクロールをどんどん作り出して、私に使わせるのですが……私の金銭感覚が麻痺しそうです……。
シノア様の指示で皆さんが私を優先して戴いたお蔭で私が使える魔法がとても増えたのです。魔術のすごさをその身でしっかりと実感出来ましたが、マナポーションの飲み過ぎでお腹が……。
マナポーションはすぐにマナに変換されるので水分として吸収されないのですが、気分的に私は用が足したくなってしまって大変な事になりました……。
ダンジョンから戻ってから、セリスさんに金貨を沢山戴いた時は、手が震えてしまいました!
こんな金額は見た事もないし、私は怖くて辞退しょうとすると、シノア様がお決めになった事なので拒否はできないから、言いたいことがあるのなら直接聞いて来るように言われました。
私がその旨を伝えると、均等に分けているだけと言われます。私は持っている事は出来ないので、シノア様に預かってもらう事にしました。
シノア様は不思議なお方です。
誓約魔術で私を支配しているのに何もしないし、あのような事件を起こした私に優しく魔術まで教えて仲間と扱ってくれます。
お屋敷での待遇も他の貴族様の家に比べたら破格の待遇です。
私はこの幸せが続く様に祈っていますが、シノア様のご命令でしたら、何でもする所存です。
一度は死を覚悟しましたが、あの事件のお蔭で私はもう一生分の幸福を手に入れたと思っています。
今なら、あの子にお金では手に入らない幸せがあると胸を張って言える気がします。




