33 私に嫌な設定が……
その後に、エルナが立てるまで回復してから、改めて会場で私を学園最強と称えるわけのわからないお披露目をして、無事に閉幕しましたが……明日から、ひきこもりたくなりましたよ。
エルナは、負けたのに「私のシノアなら、当然の結果です!」とか言って、もう自慢しまくっています。
クロード先輩からも「おいおい、あんなすげー魔法を使っていたら、俺はあっさり負けていたぞ?」と言っていますが、私は見せたくなかったですよ。
大体、速度強化だけでも戦士系の人から見たら、詐欺みたいな魔法と思います。
私は特に通常よりも速くなれるので、私の身体能力で残像を残せるなんて、大概おかしいのですよ。
もし、この体が疲労を感じるのでしたら、まず不可能なのですけどね。
まあ、目立ちたくは無かったのですが、色んな人に応援されたり褒め称えられるのも悪くないですね。
帰り道でカシムさんから聞いたのですが、私のお蔭で恐ろしく儲かったらしいです。
カシムさんは、私が絶対に勝つと信じて自分の資産の半分を賭けていたらしく、近い内に最高のお持て成しをするので必ず店に来て下さいと言われましたので、ぜひ行かせてもらいましょう!
普段は娯楽施設の方に行こうとすると必ず誰かが止めるので行けなかったのですが、カシムさんを紹介していますので、晴れて行けるようになりました。
シズクも「これで、無一文にならなくて済みます!」と言ってますが、無一文ってなに?
私も手持ちのお金が増えたので良かったです。
セリスにお金の管理は全て任せているので、私の手持ちはあんまり増えていなかったのですよね。
まともにお金を分配して渡しているのはカミラだけなので、セリスはお金持ちです。
エルナは要らないと言うし、子供に沢山渡すのはいけないとの事で、シズクにはセリスが適度にお小遣いをあげているみたいです。
お屋敷に帰ってからが大変でしたが。
「シノアちゃん、優勝おめでとう! エルナちゃんも頑張ったので、お疲れ様ね!」
お屋敷に戻ると、サラさんがお祝いの準備をして待っていました。
大広間で用意していたので、お屋敷の人がほとんどいます。ちょっと照れますね。
「我が家から優勝者が出るなんて、お義父さん以来だったからね。サラも自分の事のように嬉しいと思うよ」
レートさんがおじいちゃん以来と言っていますが、サラさんなら優勝していそうなのですが?
「サラさんなら一度くらいは優勝してると思うのですが、他に強い方が居たのですか?」
「学生の時にたまにしか現れない子がいてね。その子はEクラスなんだけど、大会の時だけ別人のように強くて在籍中は3連覇をしているので、サラはいつも2位だったんだよ」
「そんな強いのにEクラスとかおかしいのでは?」
「その子は、学問の方はやる気ゼロで模試はいつも白紙で、授業に来ても昼寝かお茶しているだけで、武術の授業も遊んでいるか友達にだけ構っているだけだったね」
そんなのは普通は退学とかになるのでは?
「よく、そんな子が在籍出来ましたね……来る意味なんて無いのでは?」
私も書物を読む為だけに行っているので、あんまり否定は出来ませんが。
「勿論、生徒からも教師達からも学園に相応しくないと抗議があったけど、当時の学園長が全て不問にしてしまったのだよ」
「どんな方だったのですか?」
ちょっとすごく気になるのですが……まさかね……。
「それが……あんなに目立つ子だったのに、どうしても思い出せないんだよね。サラもあの子に勝つためにひたすら剣術を励んでいたけど、卒業してからあの子の名前すら思い出せないんだよ?」
何となくわかりました。それはきっとエレーンさんに決まっています。
忘却の魔法とか言っていましたので、自分の存在を忘れさせているのですね。
今度、私にも教えて欲しいのですが、多分覚えられないでしょうね……私は魔法習得のスクロールでは習得出来ないので、自力で使えるようになるしかありません。
製作は出来るのに自分に使えないなんて理不尽ですが……私の知らない魔法なんて殆どないのですよね。
「でも、公式の記録などには残っているのでは?」
「それが全て名前を削除されていて、その生徒が居たという事実だけになっているんだよ」
そっちの方面も残さないとは、完璧ですね。
「では、実力の方はどんな感じでしたか? 私のように魔法を使っているとか?」
「魔法は使わずに純粋に剣術のみなのだけど、魔法で開始前に身体強化をしているサラがそれでもあしらわれていたしね。そう、シノアくんがユリウス殿下と戦った感じに近いよ」
「それは、私と同じ魔力感知で、ギリギリの間合いで当たるか当たらないかで躱していたのですね」
「ふむ、その技能があればあんな芸当が出来たのか……それで、いつもあと少し届かないと言っていたのか……」
あっ、ついネタ晴らしをしてしまいました!
「レートさん、いまのは内緒にしておいて下さいよ? この事を知ったら、サラさんのプライドを傷つけてしまうかも知れないので」
「勿論言わないが、そうなると完全に格上だったんだね。別れ間際に何か話し合っていたから、知っているかも知れないけどね」
そうなるとエレーンさんは、学園で何をしていたのでしょうね?
しばらく料理を堪能しまくっていると、ふらふらしながらエルナがこっちに来ます。なんかワインの瓶なんて持っていますが……私じゃあるまいしまさかね……。
「うぅ……シノア……私はいつから貴女のメイドになれば良いのでしょうか……」
「では、明日……いえ、明後日からお願いしますが大丈夫ですか? エルナは余りアルコールには強く無いのですから、飲み過ぎると朝が大変な事になってしまいますよ?」
「いいんですよ!……さっき、リンから最後に楽しんで来て下さいねとか言われましたのよ! ……私の3日間はもう約束されているのですから、酔って忘れたいのですよ! お母様もそういう時がありましたから、許可はもらっています!」
酒癖の悪いお嬢様ですね……。
私の真似をしてラッパ飲みまでしていますが、これはまずいのではありませんか?
リンさんもそうですが、サラさんも止めていないのは過去に同じような経験でもしたので、目を瞑っているのかも知れませんね。
ロイさんに聞いたのですが、結婚してお辞めになったサラさんの教育係のメイドさんは、リンさんが可愛く思えるくらいの人だったらしく、それは厳しかったそうです。
噂では、サラさんが何とか結婚相手を見つけてきて退職してもらったとの話なのです。まさかとは思いますが、相手の男性に賄賂でも贈って落とさせたのでしょうか?
そのメイドさんは完璧に猫被りだったらしく、普段はとても優しいお姉さんを演じていたらしいのですが、サラさんと2人になると正反対の性格になるのに誰も信じてくれなかったとサラさんが愚痴っていましたね。
そう言えば、カミラはどうしたのでしょう?
エルナと一緒に居たはずなのですが……。
「ところで、カミラはどうしたのですか? さっきまで、一緒に居たはずなのに姿が見えませんが?」
「カミラでしたら、私と一緒に飲ませていたのですが……私をおいて倒れてしまったのですよ! 酷いと思いませんか! 今日はずっと一緒に飲んでくれると約束したのに……明日は、お仕置き決定です!」
……なんて理不尽な仕打ちなのでしょう……カミラって、ワインとか食前酒ぐらいしか飲んだ事がないはずですから、可哀想に……。
よく見れば、隅のソファーで倒れていますね。
あの様子では、明日は悲惨そうですね……。
エルナが今日の事を忘れている事を祈ってますよ。
「ねぇ……シノア……私に耐えきった後の御褒美を下さい……シノアは知らないかも知れないのですが、リンのお説教はいじめを通り越して虐待に近いのですよ! 私が主なのにどうしても反論が出来ないのです!……うぅ……」
酒臭い酔っ払いが私に縋り付いて泣きながら何か言っていますが、どうすれば良いのでしょう?
リンさんは、離れたところから満面の笑顔でこちらを見ていますが、この出来事もきっとお説教のネタにするに違いありません。
仕方ありませんね。
「エルナ、もうこれ以上は飲まないのでしたら、毎日はしませんがご褒美をあげますよ?」
「ホントですか!!! はい、もう飲みません! それを希望に3日間耐えて見せます!!! やっぱり、シノアは私を愛してくれているのですね!」
一気に復活しました。愛とか言っていますが、一度だけでいいのでエルナの頭の中を見てみたいです。
「でも、最後に一口だけ口移しで飲ませて欲しいのです……それがあれば私は恐れる物などありません!……ダメですか?」
いま、もう飲まないと言ったのに意味がわからないのですが……。
下目遣いで目がお願いと言っています。男性でしたら、こんな表情で迫られたら、即墜ちそうですね。
普通に見てもかなりの美少女で、貴族のお嬢様ですからね。
周りのメイドの子達は赤くなってずっとこっちを見ていますし、近くの執事見習いの子がこちらを見てうつむいていますが……仕方ないですね。
早く済ませないとギャラリーが増えそうなので、エルナの手から瓶を奪ってさっさと済ませましたが、首に手を回して離れてくれないし、口も離してくれません!
力負けしているので振りほどけないのですが、どこでこんな事を覚えて来たのやら……ちょっと気持ちがいいと思ってしまった私が怖いです!
「はぁ……とても美味しかったです……私はもう満足です……」
「それは、良かったですね……」
やっと放してくれましたが満足そうに涎を垂らして眠ってしまいました……。
すかさずリンさんが現れて、お姫様抱っこをして連れて行きますが。
「こんな所ではしたないですね。気持ち良さそうに眠っていますので、お部屋に連れて行きます。シノア様はごゆっくりして下さい」
すごく嬉しそうに抱きかかえていますが、生贄でも捧げている気分です。
「あの……今日は優しくしてあげて下さいね?」
「大丈夫ですよ? 着替えと体だけ拭いて今日はそのままお休みさせますので、ご心配なく」
「出来れば、明後日からも優しくして上げて下さいね?」
「それはお約束出来ませんが、お約束の日が楽しみなので、いまは我慢しますね」
うん、ごめんねー。
私にこれ以上の助太刀は不可能です。
エルナが連れられて行くのと入れ替わりにセリスが話しかけて来ますが。
「シノア様、ミリア様から少しお話がしたいとの申し出がありますが、如何なさいますか?」
エルナと一緒に来て、そのまま参加していましたからね。
サラさんと何か話していたのは知っていますが、私には魔法の事だけの質問に終われば良いのですが。
「わかりました。お会いしましょう。その前に、シズク、一緒に来てくれますか?」
念話で呼んでおいたので、気付けばすぐ背後にいます。
「はい、ここに控えています!」
しかし、声を掛けるまでは目の前で色々と食べ歩いていたのに、呼んだらわざわざ姿を消して背後に回るとか無駄な設定ですよね。
服装は改造したドレスなのですが、片膝を着いたポーズで漫画の設定になりきっていますよ。
思わず、「パンツが見えますよ」と突っ込みたいのですが、スカートが不自然な動きをしてギリギリで隠しています。器用に魔法を無駄に使っていますね。
「ミリア様達は、隣の別室で待っています」
「シズク、部屋に入ったら、気付かれないように結界を張れますか?」
「お任せください! 会話が漏れなければ良いのですね?」
通路に出た時にお願いしましたが、よくわかっていますね。
風魔術なので私にも使えると思っていたのですが、他の魔法もそうなのですけど、何故か私には使えないのです
シズクが使っている風の結界陣とは、本来『サイレンス・フィールド』と言う中級魔法なんですが、どうも私には適性が無いみたいなのです。
私は、恐らく全ての魔法を知っていると思うのですが、知っているだけで、初級にも使えない魔法があって半端なのですよね。
最初は出来なかったのですが、今では使えなくてもスクロールだけは作れるようになったので助かっています。
「そうです。特に護衛のガルドという使徒に気を付けて下さい。あの人からは、友好的な感情は一切感じないので、用心した方が良いでしょう」
「使徒というとお姉様の敵になる存在ですね? 暗殺してしまいましょうか?」
もう殺す事を考えるとは怖い子ですね!
「まだ、敵とは決まっていませんのでダメですし、私達より高レベルなので今は戦いは避けたいですね」
「私の見た感じでは、カインさんは出来ると思いますが、もう1人の人は何となく私なら倒せると思います」
シズクがそう感じるという事は、やはり技能でレベルの不利は埋められるという事なのかも知れませんね。
私の場合は、距離さえ取れれば魔法で倒せると思っていますからね。
セリスに案内されて入ると護衛の騎士と一緒に居ます。変に疑わなれないで何事も無い事を祈ります。
「ミリアさん、お待たせしました。試合の後にエルナを治療してくれてありがとうございました」
「私の大事な孫なので当然ですし、最初は貴女の方がどう見ても重症かと思ったのですが、見事に治療をされていましたので驚きましたよ。改めて、優勝おめでとうね」
「ありがとうございます。セリスが戻ったら直ぐに癒してくれましたから、私としてはエルナの方が心配でしたよ」
「あれは、シノアちゃんが最後に使っていた剣の力なのですか? エルナちゃんのお腹に刺したはずの傷口が無かったのですが、怪我もさせないで相手を倒す事が可能な剣は聞いた事がないのです。差し支えなければ教えてもらいたいのです」
「あれは、森で偶然手に入れた剣なのです」
「見せてもらっても良いかしら?」
「構いませんが、私以外が触れる事はお勧めしませんよ? むやみに触れるとエルナ以上の事になってしまうので」
そう言って収納から出しましたが、やっぱり気になりましたか。
もし、この剣がまともに使えたら相手の防御無視なので恐ろしいのですが、対価が抜いた瞬間から払われるので、私やセリスならともかく、普通の人は登録出来ても5分で貧血か体調不良で倒れてしまいますから、人間には使えないでしょうね。
「何となく禍々しい力を感じますが、シノアちゃんは大丈夫なのですか?」
「私も長くは使えません。5分ぐらいが限界です。この剣は持ち主のマナを常に吸い続けるので、それ以上使うと倒れてしまいます。効果はあの時に教えた通りになります」
私の失った血を直ぐにマナで補っていますので、間違ってはいませんね。
「恐ろしい剣ですね……これは他の人は使う事が出来ないのですか?」
「知らない内に私が登録者になっていたのでわかりませんが、無理かと思います」
「ミリア様、私が少し試しても良いでしょうか? 娘よ、異論は無いな?」
何を言っているんだみたいな感じですが、ちょっとムカつく口調ですね。
「どうぞー。ただし、どうなっても私は知りませんので自己責任でお願いしますよ」
「ふん。使徒たる俺なら大丈夫だろう」
そう言って乱暴に奪って剣を抜いたら、顔が真っ青になってすぐに手放しましたよ。
「はぁはぁ……なんだこれは! 抜いただけなのに体に力が入らん……娘よ! どうなっているんだ!」
警告を聞かないからですよ。
そのまま死ねば良かったのにねー。
シズクなんか、半端な強さの典型的な悪人のやられキャラとか思ってますよ。
ミリアさんが急いで回復させてますが、アホですね。
実証出来たので、さっさと鞘に戻してしまいましたがめっちゃ睨んでますよ。
「だから、言ったのに」
「娘よ……こうなる事がわかっていたのではないだろうな?」
セリスで実証済みなので知っていましたが、レベルの分だけ直ぐには倒れませんでしたね……つまらないです。
「言っても貴方は絶対に信じませんよね? それならば、自らで検証した方が早いと思ったのですよ?」
「なんだと……貴様……使徒たる俺になんて無礼な!」
うわぁ……シズクが思った通りの典型的な自分は特別と思っているアホと認識しました。
チャンスがあったら、闇討ちでもして力を奪って殺してしまいましょう。
「ガルド、もう貴方は黙っていなさい! 彼女は私の孫同然なので、これ以上の暴言は私も黙ってはいませんよ!」
「しかし!」
「貴方は、ちょっと部屋の外で待機していなさい」
無言でそのまま部屋を出て行きましたが目が私を許さんと言っていますよ。
近い内に何か一波乱あるかも知れませんね。
「部下が失礼な態度を取って、ごめんなさいね」
「私は気にしませんので、気にしないで下さいね」
「彼は貴族の枠から使徒になったので少しプライドが高いのです。問題はあるのですが仕事は完璧ですから……」
それでも中々の技能を持っています。少しは鍛えていると思いますので、元のレベルは多分70ぐらいと思いますが、それなりに実力はありそうですね。
「では、次に魔法なのですが、この国に一般に広めていない魔法と私の知らない魔法を知っているようなのですが、どこで学んだのですか? 良かったら教えてほしいのですが」
「初めから、私には使えただけです」
どこかで学んだとか言うと絶対にぼろが出ますから、この方が良いでしょう。
セリスの例もありますので、ある日使えるようになったで通しましょう。
「シノアちゃんには、魔術の才能があるのですね。これは、私個人のお願なのですが、最後に使っていた魔法を教えてもらう事は出来ますか? 私も魔術が専門なので、あの魔法は魅力的でした」
あれが有ったら、魔術師の防御面は格段に上がりますからね。
「申し訳ありませんが、それはお断りさせてもらいます。それにミリアさんには使えないですよ? あれは闇魔術ですから、習得が出来ないと思います」
「ギムから私の事は聞いているのですね。そうですか、ちょっと残念ですね」
意外にあっさりと諦めました。てっきり習得用のスクロールに転写して欲しいとか言うと思っていたのですが?
「知らない魔法はこっちに教えろとでも言われて、ここに来ているのだと私は思っていましたよ?」
「勿論、他に観戦していた者達には言われましたが、権力を使って学生から聞き出すなんて恥知らずだと罵っておきました。それに私の孫なのですから、手出しするなら私も相手になると警告をしておきました」
この辺りはサラさん達と同じで助かります。ミリアさんの敵が増えてしまいますが……大丈夫なのでしょうか?
「ミリアさんの立場が悪くなってしまうのではないのですか?」
「一部の者は女神様に報告していましたが、私に全て任せるとの事なので、後は、適当に誤魔化して無理でしたと報告すればお終いです」
私の為にここまでしてくれるとは……出来れば、ミリアさんとは戦いたくないです。
それに意外とこの国の女神は良い人なのかも知れませんね。
「最後に聞きますがシノアちゃんは、腕を斬り落とされたのに悲鳴一つ上げなかったのですが……いくら痛覚遮断が有っても年頃の娘の貴女があそこまで冷静に行動出来るのでしょうか?」
駆けつけてくれた時も息を切らせて来てくれましたし、本気で心配してくれたのですよね。
「ミリアさんの事を信じてお話ししますが、私には痛覚遮断などの技能はありません。もの凄く痛かったのですが、私はエルナ達と出会うまでは魔狼王の森で暮らしていたので、痛みに慣れてしまったのですよ」
「慣れてしまったって……あの森は魔物の強さがばらばらなので、暮らすのは厳しいと思いますが……まさか1人ではないですよね?」
「私の育ての親と暮らして居たのです。亡くなった時に降りて来たらエルナ達と出会ったのですよ」
「そうですか。貴女を育てていた方は余程の強者だったのですね。それなら、シノアちゃんの強さにも納得が出来ます」
嘘なのですがこの設定で通していますからね。
本当の事はおじいちゃんにしか話していませんが、絶対に他言しないと思います。
「その方の名前は教えてもらっても良いですか?」
名前……まったく考えてなかったのですがどうしましょうね……。
(お姉様、ムラマサ師匠と言って下さい!)
私が悩んでいるとシズクが念話で伝えてきたのですが誰?
「ムラマサさんという方で、普段は師匠と呼んでいました」
「変わった名前の方ですが、シノアちゃんを見ていると武術と魔術に精通している方だったのですね」
納得していますが、私に師匠など居ないし、むしろ女神様に体一つで放置されて苦労しましたよ。
(ところで、ムラマサ師匠って、誰? シズクに作ってあげた刀が同じ名前だった気がするのですが?)
(ムラマサ師匠は、漫画の操ちゃんのスーパー師匠です! 100歳のおじいちゃんなのに伝説の鍛治士と最強の忍びを兼任するマッスルおじいちゃんなのです!)
(……シズクからの知識を思い出したら、わかりましたが……こんなおじいさんは絶対にいないと思います……こんな筋肉ムキムキで、デコピンで頭を粉砕するとか、もう忍者とか関係ないのでは?)
(操ちゃんが絶体絶命のピンチになると現れる最強の忍者です! かっこいいですよ!)
……これがかっこいい?
私の感性も大概おかしいですが、シズクの感性も異常だと認識しました。
シズクが直ぐに殺しましょうとか言うのは、きっとこの漫画の影響に違いありません。
この漫画は、悪人に対しては情け容赦無く斬り殺していくのですが、結構えぐい殺し方もしています……こんなのを平和な世界で広めても良いのでしょうか?
こんなのを見ていたら、手足を斬り落とすのは優しいぐらいですね。
むしろ情報を聞き出す拷問の方が恐ろしいです。
大体、向こうの世界の飛び道具を筋肉で跳ね返して相手を倒すとか変です。ここから反射のアイデアを取り入れたのでしょうね。
この世界にこの銃なんて武器が有ったら、革命が起こりますよ。
高速で飛んで来て威力もあるものをこんな簡単には躱せないと思うのですが……。
必ずピンチになったら現れるという事は、いつも見ているはずなので、最初から一緒に居れば良いと思うのは私だけなのでしょうか?
「有意義なお話も聞けたので、私はそろそろお暇しますね。この後に城に戻って報告するようにと言われていますので」
「また、お時間が有ったら来て下さいね」
「ふふっ、シノアちゃんにお誘いを受けたので、来る理由が出来ましたよ」
嬉しそうに部屋を後にしました。この国に対しては、取り敢えずはこれで何とかなりそうですね。
「シノア様に師匠が居たのですね。さぞ、お強い方とお見受けいたしますが」
セリスはいまの話を信じたようですが、あんな化け物が師匠とか絶対に嫌ですよ!
「あれは違います。ただのシズクの設定なので、私に師匠などいませんよ」
「そうでしたか」
「しかし……これからも過去の生い立ちを聞かれたら、この話で通すしかありませんね……」
「お姉様の師匠がムラマサ師匠とか素晴らしい設定だと思います!」
「どのような人物設定なのですか?」
セリスが真面目に聞いていますが……。
「世界最強のマッスルおじいちゃんです!」
味方としては頼もしいのですが、関わり合いたくないのです。すごく嫌過ぎるのですが……。
「まっするとかよくわかりませんが、世界最強というのはシノア様に相応しいと思います」
変な事を納得し始めましたよ……ちょっと私を過大評価し過ぎだと思うのですが……大体、私は弱っちいとか言われているんですよ?
思い出したら、切なくなって来ました……私に眠っているこの使えない力が増えるのは……自分の能力を見る度に目の前に餌がぶら下がっている気分になるのですよね。
「あの……セリスは、シズクの影響を受けて欲しくないのですが……私はいまのセリスが好きなので、絶対に染まって欲しく無いです」
「シノア様がそう仰るのでしたら、そう致します」
私が好きと言ったので、とても喜んでいるみたいです。
「せっかくセリスお姉ちゃんが興味を示してくれたのに、止めないで下さい! 今夜にでもお話しをしますので、絶対に聞いて下さいね!」
私だけでは飽き足らずにセリスまで汚染する気ですか……まあ、この様子なら、セリスは興味など示さないと思うので大丈夫でしょう。
それにしても明日の朝は、どうなるのでしょうね?




