32 魔剣
エルナとのわけのわからない約束をした後に控室の方に来てますが、リンさんが別れ際に……。
「シノア様、宜しければエルナ様に一服盛りますか?」とか言ってきました。
「リンさん……そんな事をしなくても一応は勝算はあるので、止めて下さい……それに試合中に大変な事になったら、エルナが立ち直れなくなりますよ?」
この人、まじで怖いですよ!
いくら教育係も兼ねているとはいえ悪魔ですね。
「ちょっと言ってみただけで、冗談ですので気にしないで下さいね」
そのままエルナに付いて行きましたが、本当にやりかねないから怖いのですよ。
「セリス、ちょっとエルナの方に付いて行ってあげて下さい。リンさんが何かしようとしたら、阻止して下さい」
「わかりましたが、そのような事はしないと思いますよ?」
しっかりと聞いていたのですね。
「さっき、かなりお怒りでしたので、絶対とは言い切れないので……リンさんは姉妹のように小さい頃から仕えていたと聞いていますが、地味にエルナをいじめるのが好きですからね」
「確かに主従の関係よりも歪んだ愛で妹を可愛がる厳しいお姉さんの方が納得出来ますね。それでは、様子を見てきますね」
「セリス、お願いしますよ」
セリスも良くわかっていますね。
お説教とか言っていますが、リンさんからはとても楽しんでいる感情を感じます。悪意はまったくなく、純粋に楽しんでいますが、セリスの口から歪んだ愛とか出てくるとは……。
世の中の姉というのは、愛情表現が変わっていますね。
「では、お姉様には私が付いて行きますね!」
そのまま控室で、どう戦うかシズクと色々と話していましたが、シズクの案も結構過激でした。
「お姉様、リンさんの言う通りにエルナお姉ちゃんの手か足を斬ってしまいましょう!」
いきなり手足を切断しろとか言ってますよ!
「シズク……最近思うのですが段々と過激な発想になっていますね……私はシズクの将来が心配です……」
「私でしたら、速度に物を言わせて無力化してから、殺す……じゃなくて、降伏させます」
あちらの世界は平和なのにどうして、その発想になるのでしょうか?
シズクの無力化とは、衣服を全て切り裂くか手足を落とすの二択なのですよね……どちらを選んでも最悪なのですが……。
ダンジョンの魔物はともかく、キャロをいきなり斬りつけた時も、人を斬るのに躊躇いも無いようですが……。
今では、最初の印象などまったくありません。
この子が大人になったら、どんな子になるのでしょうね?
「私の将来はもう決まっていますので、問題有りません。それよりもエルナお姉ちゃんに半端な攻撃は通じないので、間違ってはいないと思いますよ? それにあちらは軽い攻撃は反射してしまうので、ダメージを与えるには強力な攻撃が必要なのです。手加減などは難しいと思います」
もう先の事は考えていたのですか……何となく危険なお姉さんになりそうですね。
「私の通常の攻撃では、届かないですか?」
「お姉様の攻撃はマナを乗せた強力な攻撃しか、ダメだと思います。せめていつもの槍でしたら、少しのマナを乗せれば十分に威力があると思いますが、使わないのですよね?」
「このまま、剣で行こうかと思っていますがこれがダメな時は考えます」
「エルナお姉ちゃんは、さっきのクロードさんよりは技術面で劣るので、いつも通りなら躱せるはずですが、まぐれ当たりが怖いかと思います。意外と勘が良いので、たまに私も焦る時があるのです」
うーん。
シズクって、身内にも厳しい事を言いますね。
半端に勝てるとか言われるより良いのですが、エルナの攻撃がまぐれ当たりとか言われてますよ。
私は元々こういうのには向いていませんので気にしませんが。
私が考えている間もダメ出ししまくりですね。
「お姉様は、魔物には容赦の無い攻撃をするのに、戦う相手が人になると怪我をさせないようにしょうとしますが、それは戦いにおいては欠点になってしまいます」
「だって、怪我とかさせたら痛いし……」
「はぁ……お姉様、敢えて言わせてもらいますが、それは戦う相手に失礼です。いつもの模擬戦と同じ事をしたら、きっとエルナお姉ちゃんは怒ると思いますよ? 普段はおっとりしていますが、剣を持っている時だけは目が真剣ですから。特に今回は本気で来ますよ」
「でも、エルナに怪我とかさせたくないので、何とか場外に落とせないかと考えているのですが」
「エルナお姉ちゃんは、力押しに見えますが地味に狙って攻撃しています。お姉様の考えは読まれてしまうので、そこを必ず突いて来ます。それに普段は何となくですが、力をある程度セーブして戦っている気がするのです」
何も考えていない脳筋と思っていたのにそんな計算をしていたのですか……どこまで猫被りなのでしょう。
「わかっていると思いますが、お姉様の行動や癖などは全て把握されていますので、いつも通りに戦ったら、もうエルナお姉ちゃんの勝利は確実です。控えているみたいですが、お姉様の強味は魔法なのですから、攻撃魔法以外は使うべきです」
もうシズクには、どんな戦いになって勝敗も見えているみたいです。
両親から、勝負の心構えなどは、物心が付いた時から厳しく叩き込まれていたらしいですからね。
その点では、両親の教育がこの世界で生きているので、ある意味で正しかったですね。
「わかりました。殺さないにしても戦闘不能に追い込むのを前提で、無力化出来るように努力します」
「それで、良いと思いますが一気に殺さないまで考えが変わるのですか……さっきまで、怪我させたくないとか痛いからとか言っていたとは、思えませんね……」
せっかくシズクの考えに賛同したのになんか非難されていますが?
「要するに殺さなければ良いだけですよね?」
「お姉様……私が言うのも何ですが極端ですよね?」
私には、殺すか殺さないかしか思いつかないだけなのですが?
シズクだって、似たような考えなのに……。
同じように怪我させるかさせないかだけと思うのですけどね。
「そう考えているのでしたら、お姉様が簡単に負ける事だけは無いと思いますので、勝ったら、そろそろ私のお願いを聞いて下さいね?」
「お願いですか? 何かありましたか?」
「お姉様の眷属にしてもらう話ですよ! 以前からずっとお願いしていますが、いつもあやふやにしてしまうではありませんか!」
人間を辞めてしまうから、ダメだと言っているのに!
普通に話せない内容なので念話で定期的に聞いて来るので、適当に話題をすり替えて逸らしていたのですが諦めていなかったのですね。
「あのね……人間を辞めてしまうので、もう成長とかしなくなってしまいますよ? それに以前も言いましたが二度と元には戻れなくなりますよ?」
「私はこの姿が良いので、問題ありません。前にも言いましたが、この世界で生きて行くと決めましたので。お姉様に一生付いて行くつもりです! それと、誓約魔術はそのままでお願いします」
シズクはその姿のままが良いのですか……私は成長したいですよ。
「シズクの気持ちは嬉しいのですが、今は良くてもきっと後悔しますよ?」
「お姉様が私の将来や成長の事を気にしてくれるのは嬉しいのですが、私は後悔はしません。それにこの話は誰もが望むと思いますよ?」
ギムさんも誰もが望むと言っていましたが……もしも、私が消滅とかしたら、一緒に消えてしまうのですよね。
私はセリスの事だけでも申し訳ないと思っているのですが……。
「仮に眷属にしたとして、誓約魔術は無くなった方が良いと思うのですが?」
それに私に支配権を全て預けたままが良いなんて、普通は解放されたいのでは?
「こんな素晴らしい繋がりが無くなるなんて、勿体ないです! それにお姉様は私の全てを自由に出来るのにそれを決してしないので、何も問題はありません。たまに悪戯される程度なので、姉妹のスキンシップと思えば楽しいぐらいです!」
「気が変わって、シズクに酷い事をしてしまうかも知れませんよ?」
「私もお姉様をずっと見てきましたが、絶対にしないと思います」
真っすぐな目で私を見ています。そこまで私をそこまで信用してくれるのは嬉しいのですが、果たしてこの子の時を止めてしまって良いのでしょうか?
セリスの心の変化の事を考えると何かいけないのではと思うのです。
安全面を考えると命の心配をしなくても良いのですが……。
「わかりました。そこまで望むのであれば考えておきますが、私にはその方法はわからないので今は無理ですよ?」
「ありがとうございます! 方法がわかったらお願いしますね!」
「ノアが方法を知っているので、会う事が出来たら聞いて下さい」
「わかりましたがノアさんを起こす方法はどうすれば良いのでしょうか?」
「ちょっと私にもわからないので、気付いたら入れ替わっているのですよ」
「そうですか……わかりました! 入れ替わった時に聞いてみますね!」
素直に信用してくれましたので、取り敢えずはこれで誤魔化せますね。
セリスとギムさんには口止めしてあるので、私が死なない限りはわからないでしょう。
これで、ノアが無理とか言ってくれれば諦めが付くと思いますが、私の本音は眷属にしたいと思っているので叶えてしまうでしょうね。
ねぇ?
いまの状況も見ているのなら、私の心境も配慮して欲しいです……ノア……。
そんな話をしている内に時間になったのでゲートの近くまで来ると、決勝だけあってすごい人ですね。
「それでは、私は観客席の方に行きますので。お姉様の御武運を祈っています!」
「出来るだけ頑張ってみますね」
わざわざ観客席まで戻らなくてもここから見れば良いのに、カシムさんがいるので律儀ですね。
毎回思うのですが、エルナのお古の洋服を改造した物なのにあの服装でどうやってあんなに速く動けるのでしょうね?
もしも職業の恩恵なのでしたら、私も忍者になりたいと思いますよ。
「それでは、学園最強を決定する決勝を行います!」
ちょっと、学園最強とか大げさな事を言っていますよ!
ただの学生の武術大会なんですから、恥ずかしい事を言わないで欲しいですね……これでは、勝っても負けても明日から目立ちまくりではないですか……。
私の目立たない生活がどんどん壊されていきます。
「今回は、なんと! Sクラスからでは無く、Bクラスのしかも同じクラスの女性による対戦になります!」
私が学園に来た時から、クラスの意味なんて無かったですからね。
「東のゲートから、2期生Bクラスのエルナ嬢です! 去年は参加をしていませんでしたが、今まで実力を隠していたのか特殊クラスを得て開花したのか相手をまったく寄せ付けない脅威の剣士です!」
ダンジョンで、私が無理難題を押し付けて死なない程度に戦わせていましたからね……いま思うとよくあんな悪魔のようなノルマをこなして短期間でレベルをあげたのは凄いですよ。
お嬢様なのに根性があるし不満も言わないから、調子に乗った結果にあの理不尽な職業ですからね。
戦力的にはあの職業は素晴らしいのですが、日常的には力で解決する恐ろしい職業なんですよね。
「西のゲートからは、同じ2期生Bクラスのシノア嬢です! 今年から、突如現れて学園のトップを塗り替える謎の転入生です! 話によりますとエルナ嬢の最近見つかった従妹との事ですが、その実力はまだ底が見えません!」
ちょっと!
普通に紹介して下さいよ!
これでは、明日から私は見世物になってしまいますよ!
てか、謎の転入生とか、シズクが喜びそうな設定ですね……後から、その手の話で汚染されそうです。
「今回、もう一つ注目されているのはお二人の衣装なのです。華やかなデザインなのにその機能は数多の選手の鎧を上回る性能を誇っています! 女性陣からは、自分にも欲しいと希望が寄せられていますが、ヴァレンタイン公爵家の者としか知らされてはいません! 正直、私もとても欲しいです!」
シズクのデザインは、こちらの世界より進歩した物ですから、ファッション性は高いですよね。
ただ、むこうの世界というよりもシズクの趣味に偏っていますが、発想は面白いのですよね。
「さて、シノア。今回は寸止めとかせずに全力で行きますので、私にも遠慮はしないで下さいね?」
「えっと、それは怪我させても良いと言う事ですか? 私は、なるべく避けたいのですが……」
「構いませんよ? 私は、シノアになら殺されても良いと思っていますので。簡単には取らせませんが、例え首を刎ねられても恨んだりはしません。生き返れるとしても体の一部が無くなるのだけは避けて下さいね?」
ミリアさんが居るので生き返れる事を前提に言っていますが、死ぬのが怖くないのでしょうか?
この世界には蘇生の魔術があるので、死に対しては危機感が薄れているのかも知れませんね。
「私にエルナを殺す事は出来ませんが、死に対して恐怖は感じないのですか?」
「勿論怖いですが、私はシノアを信じています。いつも私達が怪我をしないように見ている事も知っていますし、最初に貴女に出会った時に救われた命なのですから、この命は貴女の為だけにあります。この考えはどんな事が有っても変える気はありませんよ?」
私に対する思いはそこから来ているのですか……しかもダンジョンで軽い怪我なども内緒で打撲ぐらいに見えるように即座に治している事も気付いていたとは、脳筋という考え方は改めないといけませんね。
「わかりました。私も可能な限り全力で戦う事を約束しますが、私の為に命を使うのであれば、決して死なないと約束して下さいね。生き返れると言われても、エルナの死ぬところなど、私は絶対に見たくはありませんので」
「勿論ですよ。ここで勝てば、やっとシノアの隣に立てると自信が付きますので、絶対に負けませんよ?」
「私は既にシズクとエルナが前に居るから安心して、後ろで楽が出来ているのですけどね」
さあ、エルナの本気を受ける為にも私も可能な限りの手札を使う事にしましょう。
やっと私にもシズクの言っていた事が理解出来ます。
真剣な相手に手加減などをするのがどんなに失礼な事か。
相手は私の動きをほぼ全て把握していますので、シズクのいう通り魔法をフルに活用しないと技能の面で劣っている私は対処は無理ですからね。
「それでは、試合開始です! 力と技の勝負はどちらが勝利するのでしょう!」
実況さんも私達の事をよく見ていますね……感心しますよ。
開始と同時に間合いを詰めて大剣を振り下ろして来ますが。速いですね。
いつもの模擬戦の時と別人のようです。
「『ヘイスト!』」
初めから速度強化しないと避けれないとは。いつも通りでしたら、躱せていたのにちょっとまずいですね。
しばらくは受け流しつつも打ち合ったりしていましたが、やっぱりエルナの剣を受けると腕に負担が掛かります。
少しのダメージなどは即治癒してしまうのですが、逆にこの体の最大の欠点でもあります。
大きな怪我などは意識すれば治癒を遅らせたりも出来ますが、多少の痛みなどは無意識にマナが流れて治してしまうので、常にマナが減っていくのです。
私の攻撃はマナで強化しないと通じないのですから、こんな事を続けていたら動けなくなって倒れてしまいます。
「クロード殿下の時のようにもっと速度をあげないのかしら? あそこまで速いと私も対処が厳しすぎるのですが?」
「そうしたいのですがあれは、かなりマナを使うので、確実に勝負が決められる時じゃないと意味が無いのですよ」
速度を強化しても肝心の攻撃が通らないので、これ以上のマナは無駄遣いになってしまうのですよね。
無防備な頭を攻撃すれば良いのですが、魔物や悪意を持った相手ならともかくエルナにそんな事が出来る訳がありません。
現在も剣にマナを通していないとまともに打ち合えないので、ちょっとまずいのですよね。
お蔭で攻撃と防御に私のマナがダダ漏れ状態なので、長期戦になったら、確実に私の負けが確定です。
「大体、私の攻撃はいくつか通っているのにみんな反射で、弾かれていますがちょっと防御が厚すぎますよ!」
「シズクちゃんには感謝していますよ? この服のお蔭で私は怪我すらしないでいますので。本来でしたら、他の試合でも結構斬られてましたからね」
この衣装は正にエルナの為に考えられた防具と言っても過言ではありません。
職業のペナルティで、魔術が更に使えなくなったのですが、マナの保有量だけは常に増やしているので、保有マナの分だけ防御力が上乗せされている状態なうえに重くない攻撃は全て反射してしまうなんて、あり得ないですよね。
恐らくですが、この大会の参加者ではエルナにダメージを与えるのは無理だと思います。
私もマナを剣に流しながら打ち合っていますが、エルナの剣を受ける度に私の剣の破損率が増えるし、届いたと思ったら弾かれるので、この剣でまともに戦うのは無理なようです。
この大会には複数の武器を使ってはいけないなどのルールが無いので、折れてしまっても私には趣味で作った武器が収納にいくらでもありますから武器は尽きませんが、マナだけは減っていくので、マナ切れで倒れたりしたらお終いです。
この前、シズクを鑑定した時に『上級裁縫』と『中級防具作成』と『付与魔術』が増えていましたが、シズクの熱意の賜り物ですね。
ギムさんも「この子の熱意にはわしも勝てんなー」と呟いていましたからね。
感心していないで、流れを変えましょう。
「『ミラージュ・シェイド!』」
「おや? シノア選手は距離を取っていますがエルナ選手は、そのまま剣を振り続けていますがどうしたのでしょう? もしや幻影の魔法なのでしょうか?」
解説の人の説明通りです。
今のエルナは、私の幻影の相手をしていますからね。
この魔法は、相手の思い込みが強ければ強いほど目の前の幻覚を本物と錯覚する魔法なのです。
ダンジョンでテストした時は、私に襲い掛かって来る魔物に対してはよく効いたのです。他の人の相手をしている時にはまったく効果が無かったのですが、対戦相手にはちゃんと効くはずです。
エルナには悪いのですが、これで背後から意識を落とせるぐらいのマナを込めて倒れてもらいましょう。
私は、生粋の武人ではありませんから、これでも勝ちは勝ちです。
そのまま背後から斬り込もうとしたら、突然私の方に振り返って斬りかかってきました!
「そこです!」
そのまま私の剣を折って右腕ごと落とされてしまいましたよ!
腕の出血を止めないとマナの消費もそうですが不自然に回復する事を知られる事の方がもっとまずいです。
「『フリーズ・ゼロ!』」
咄嗟に単位凍結魔法を使って、腕の切り口を凍らせましたが久しぶりに痛いです!
焼いて血を止めようかと思いましたが、あれは激痛地獄なのでこっちの方が良いと思いました。血は止まっていますが、傷口自体が凍傷なので、こちらも地味に痛いです。
「エルナ選手の背後を攻撃しょうとした、シノア選手の右腕が斬り飛ばされてしまいましたが大丈夫なのでしょうか! 剣も折れてしまったようなので、これは勝負ありでしょうか!」
「シノアが後ろに居る気がしたのでそちらに振り下ろしましたが、今まで前に居たのは幻術だったのですね?」
「よく私が背後に居る事がわかりましたね? この魔法は相手の思いで、効果が変わるので、エルナなら絶対にわからないと思ったのですけどね?」
「シノアが後ろで振りかぶるまではまったく気付きませんでしたが、私の勘でシノアが後ろに居ると強く感じたのです」
警戒はしていたのですが、エルナの勘の良さはすごいですね。
さて、どうしましょうね。
「シノア、その……剣も折れてしまったし、腕も早く治療しないといけないと思うので降参して下さい。シノアが痛みには強いのは知っていますがもう両手で剣が持てなければ私の剣を受ける事も出来ないはずですよね?」
「そうですね……でも、私はまだ勝つ事を諦めていませんよ?」
「……では、不本意ですが、もう片方の腕か足を斬らせてもらいます。それで負けを認めてね?」
そう言うと膝を付いている私に斬りかかってきますが、私は魔術がメインなので、防御面の魔法は可能な限り試しているのですよ。
「我を守りし星の結界よ 我が剣と盾と成せ ヘキサグラム・シールド!」
私に斬り込もうとした攻撃が手前で受け止められて驚いてますね。
「初めて見ましたが、そんな防御魔法があったのですね」
私の周りに6枚のマナの盾が展開しています。
この魔法は、かなりマナを消費しますが術者を自動で守る事が出来ます。盾の許容量以上の攻撃を受けると消滅してしまいますが、かなりの耐久力があります。
本来でしたら、強敵と戦う時に使うためのものです。マナポーションで回復すればかなり使えるので、いつか使徒と戦う為に温存しておいたのですが、今の私にはエルナの攻撃を防ぐ方法がこれしか思いつかなかったのですよね。
「私の取って置きの切り札の魔法でしたのについ使ってしまいましたが、こんな使い方も出来るのですよ?」
私の防御に3枚残して、残り3枚で牽制の攻撃を開始します。
並列思考と併用しないと制御が難しいので、最初の頃は身を守る事しか出来なかったのですよね。
「これ攻撃も出来るのですか?」
「出来ますが魔法で倒す事は、ルールで禁じられていますので、ただの牽制ですので、勿論ですが剣で攻撃させてもらいますよ」
そう言って収納から、刀身が薄く赤見を帯びた一振りの剣を出しました。出来れば使いたく無かったですが。
「本命はこれで攻撃させてもらいます。私の時間も限られていますので、行きますよ」
「どんな剣かは知りませんが、いまのシノアでは私に攻撃は通りませんよ!」
私の盾を相手にしているので、私が近づいても何も出来ません。
片手で振る剣には威力が無いと思っているようですが、私はそのままエルナの腹部を刺し抜きました。
「えっ!? そのまま刺しただけなの反射しないなんて! それに刺されたのにどうして痛みが無いの?」
驚いて呆然としていますが段々と顔色が悪くなっていきます。
そして、エルナが大剣を持てなくなって落としたので、剣を抜くとエルナがその場で倒れます。
本人は何が起こったのかわからないまま、立ち上がる事が出来ません。
「体に力が入らないのですが何をしたのですか? それに頭痛と目まいがします……刺されたお腹は何も感じないのですが……」
「種明かしは後でしますが、私の勝ちで良いですね?」
エルナの首筋に剣を当てて負けを認めさせようとしていますが、どうかな?
「体に力も入らないし立ち上がる事も出来ません……私の負けです……私の御褒美が……あと少しで届いたのに残念です……」
この状態でご褒美とか言っていますが、そこまで望むのでしたら、たまにはしてあげますか。
「エルナ選手が敗北を認めましたので、勝者はシノア選手です! どうなるかと思いましたが、防御の魔法の盾と赤い刀身の剣はなんなのでしょう! 魔剣の類かと思いますが思わぬ切り札を用意していたようです!」
さっさと魔剣と折れた剣の両方を収納にしまって腕を拾って戻ると、セリスがいたので魔法で治してもらいました。
エルナの方は、リンさんと救護の人達が運んで行ったので、大丈夫でしょう。
「シノア様、大丈夫でしたか? 私は、マナが持つのか心配でした!」
マナポーションを飲んでから一息つけましたが、正直やばかったですよ。
「セリスが腕を繋いでくれたので、助かりましたよ。正直、回復にマナを回していたら、多分倒れていたでしょうね」
「先ほどの剣は何なのでしょうか? 私も初めて見ましたが。シノア様から何か吸収している感じがしたのですが……」
「あれですか、ちょっと危険な剣なのですが」
そう言って剣を見せると赤みが増してますね。
名称:魔剣アスタロード
登録者:シノア
効果:闇属性 防御無効 魔術無効 使用者と刃に触れた者の血を奪う
状態:使用者の血がある限り力を失わない 登録する為には自らの血を一定量を捧げる 蓄積した血を使う事で特殊魔法が発動可能
サテラさんから、貰った使えなかった剣の一つです。
最初に持った時に体が重くなっただけと感じたのは、体内の血を吸われていたからなのですよね。
少し前に剣の詳細がわかるようになったので登録はしておいたのですが、もの凄く血を吸われました。普通の人間だったら、死んでますよ。
先ほどもエルナに少しの時間だけ刺しただけで、倒れるぐらいですからね。
この剣の恐ろしいところは相手を刺したり斬ったりした事を感じさせず、傷口も残らないので、気付いたら貧血どころか死に至るまで吸い続ける事です。
しかも、使用者の血も同時に吸うので普通に使えません。
吸収の割合は刃に触れている方が倍以上吸われるので、絶対に相手に刺せる時でないと逆にこちらが倒れてしまいます。
その内にもっと血を吸わせて特殊魔法を使ってみたいですね。
「私のチャクラムに似ていますが、これは諸刃の剣ですね」
「鞘に収まっている時は無害なのですが、抜くと際限なく吸っていくので、出しておけないのですよ。そうだ、ちょっとだけこの剣を抜いてみてくれないかな? 危なかったら直ぐに手を放して欲しいのです」
そう言って、セリスに渡しましたが。
「シノア様……これは、もう私の血を僅かですが吸収していると思います。気分が悪くなりましたので……」
そして、抜いて少し手に待っていたのですがそのまま倒れてしまいました!
もしかして、登録してあると本人以外はやばいのかも!
「セリス! 大丈夫?」
剣を見ると真っ赤になっているのですが!
セリスの口がパクパクしていますが喋れないほど奪われたのかも。
そのまま、セリスに口づけして、全力で癒しましたが私のマナがごっそり減りましたよ!
「ありがとうございます。シノア様、これはシノア様以外が持ったら死んでしまいますよ。抜く前から、回復をしていたのですがまったく追いつきませんでした」
「ごめんなさいね。しかし、まじですか……これは、その辺に置いていたら、死体が無限増殖でもしそうですね」
「誰も触れないので、恐ろしい事になるかと思います」
「でも、この剣の事をきっと聞かれるよね?」
「特殊な魔剣とだけお伝えすれば良いかと思います。全てを語る必要はありません」
「エルナ達にだけは、教えて置きますか。もし偶然にも触れてしまったら、とんでもない事になりますからね」
それから直ぐにミリアさんが来てくれましたが、私の腕は完治していたので、エルナの方を早目に回復させてもらうようにお願いしました。
エルナがどんな状態かを聞いてきたので、ミリアさんにだけ小声で「血が足りないはずです」とだけ教えました。
後ほど色々聞きたいと言われましたが、どうしましょうね?




