28 剣士じゃないよ?
自分の試合が始まるまで観客席で他の試合を見ていましたが、中にはそこそこ良い動きをする人も居ましたけど、現在の私達を相手にするにはちょっと力不足と思いながら見ています。
そんな事を考えていると、ふと声を掛けられたのですが誰でしょう?
「お前がシノアというユリウスの相手の娘で良いか?」
知らない人から、お前呼ばわりとは……。
ちょっと、悪戯してしまいますよ?
「貴方は、誰ですか? 私は、知らない人にお前呼ばわれされるのは好みません」
「おっと、それは済まなかった。気分を害したのなら、この通り謝るので許してくれないか? 俺はクロードというユリウスの兄貴なんだ」
第二王子でしたか……それが一体私に何のようなのでしょう?
「こちらこそ、生意気な事を言って申し訳ありません。貴方の弟と戦う予定のシノアです」
「面白い奴だな! ユリウスの奴が絶対に負けられないとか言っているのがどんな奴か会って見たかったんだ、がこんな可愛い娘だったとはな……見た目と違ってかなり強いな」
王子なのにその辺の冒険者みたいな人ですね。
私を見て侮らないとは。鑑定は持っていませんが、危機感知の技能は持っていますので、私を強者と感じたのですね。
そして、私の事を可愛い娘と言ったのは中々見る目があります!
私は、この人は良い人と認識しました!
「私は、見ての通りの小娘ですから、きっと期待外れですよ」
「お前……おっと、シノアと呼んで良いか? つい仲間と同じ感覚で話してしまうので、名前で呼ばせてほしいのだが?」
「いま知っている人になりましたので普通に話されても構いませんよ。では、私もクロード先輩と呼ぶ事にしますね」
「では、シノアよ。お前の噂は、俺達の方でも結構な話題になっているし、ダンジョンの最短記録保持者でも有名だぞ」
「私の学園での噂でしたら、きっと非難する事ですよね?」
私の3期生での噂とか何でしょうね?
悪い噂じゃなければ良いのですが、先ほどエルナにぼろ負けしたオリビアがあること無いことを噂にして流していますからね。
「学園の噂など当てにならないからな。ユリウスから聞いた話と冒険者の間での話を知っているだけだが、あれでユリウスの奴は真面目なので、お前を正当な評価で強敵と見ているぞ」
「ふむふむ……冒険者の方の噂とは、どんなものなのですか?」
「ランクGなのにあり得ない速度で攻略して行くし、3人で40階層を突破するとか使徒か熟練の冒険者じゃないと普通は無理だからな」
その頃から、知っていたのですか。
「いまは、ランクCになっていますよ。エルナとカミラも一緒に行っているので、現在は5人です」
「それでも、この間45階層も突破したし、エルナの成長度も凄まじいな……正直、俺は勝てる気がしないぞ。せっかくの俺の記録が2連覇で終了だ」
私達の事をよく調べてますね。
話していると王子とは、思えませんね。
「エルナは……ちょっと異常なのですが、私も正面から戦ったら、まず勝てないでしょうね。3連覇が掛かっているのにあまり悔しそうではありませんね?」
「別に拘ってはいないからな。ちょっと経歴に箔が付く程度なので、喜ぶのは俺の後見をしている伯爵だけだな」
「王子なのに王位を目指さないのですか?」
「あんなめんどい事なんてやっていられんよ。ユリウスが卒業したら、次期王の選定があるが、俺は辞退して気ままな冒険者になるつもりだ」
「面白い方ですね。可能性があるのでしたら、権力とか欲しいとか思わないのですか?」
「たまたま王子に生まれただけで、俺には向いて無いな。かと言って、騎士団に入るのもめんどいというか……俺は規則などに縛られるのが嫌いなだけだな」
「なるほど。それで私に会いに来た理由はそれだけなのですか? 他に用件があると感じましたが?」
「お前こそ、俺が王子とわかってもまったく気にして無いな! まあ、冒険者として何か合ったら、組んだりしないかという話が本命なんだよ。実力的には釣り合わないとは思っているが、学園で話が出来る内に一声掛けておきたかったんだ」
「生まれなんて、選べませんからね。それに偉いのは家や親であって、本人はまだ何の実績も示していなければ、ただの人ですよ?」
「お前は、本当に面白い奴だよ! だがその通りだ。だから、俺は自分の力で手に入れたいんだよな」
最初から権力持ちなのに、自らの力だけで上を目指すのは好感が持てますね。
確か、2組のパーティーで14階層と言っていましたので、私達とは進行度は違いますが、それをわかっていて話を持って来るのは、それなりに私達を評価しているのでしょう。
この人は、王子の癖に庶民的ですね。
実は、私は嫌な感じはしないのですよね。
「では、私は戦ってみてから決めたいと思いますので、それで良いですか?」
「おっ、それは俺のテストという訳だな。当たるのは準決勝になるが、当然勝ち上がって来るだろうな。ユリウスの奴も初戦とは運が無いな」
「彼は、自分から私を指名したので、くじではありませんよ?」
「そう言えば、お前達はすっぽかして、担任に引かせたらしいな! 他の奴らの反応は見物だったよ!」
「そろそろ、私の試合ですので、控室の方に行きますから、失礼しますね」
「おう! しっかりと試合は見させてもらうが、ユリウスの奴がお前の実力を少しでも見せる事を願うか。じゃないと俺と戦う時の情報が少なすぎるからな」
控室に行くと、シズクが衣装を出して待っているのですが、もしかして私のですか?
「お姉様、待っていましたよ! エルナお姉ちゃんとお揃いの服なのですが……着てもらえますか?」
「シズクが私の為に作ってくれたのですから、喜んで使わせてもらいますよ」
「ありがとうです! お姉様は、あまりこういう事に興味を示してくれませんので、着てもらえるか不安でした」
「私のは青色なのですね」
「エルナお姉ちゃんは、赤色にしたので、お姉様は青色にしてみました!」
着替えてみると、中々感触のいい着心地です。
エルナはロングスカートでしたが、私はミニですので、どの辺りがお揃いなのでしょうね?
もう一枚下着の上に穿いているとは言え、見る人によっては下着に見えるのでは?
「シズク、とても着心地も良いのですが、これは激しい動きをすると、私はあまり気にしませんが、見えてしまうと思うのですが? そして、エルナに見られたら私には説教が待っていますよ?」
「それは、スパッツと呼ばれるウェアなので、下着ではありません! ですから見えても良いのです!」
このパンツの延長のような物は、下着ではないのですか……私は、てっきり2重の下着かと思いましたよ。
「エルナはロングスカートでしたが?」
「お姉様の動きだと、長いスカートだと邪魔になるし、その方が似合っていて可愛いと思います!」
確かに私にも良い感じの服だと分かりますので、素直に喜んでおきますか。
しかし、お揃いの意味がわかりませんが、何かのアニメとか漫画のデザインなのでしょうね。
シズクの思考とか読み取ると、向こうの世界の娯楽でほぼ埋め尽くされています。
最近は、私を共感させる為に自分の考えている事をどんどん読んで欲しいとかお願いしてくるのですが、本人は私をオタクという物に染めたくて仕方ないみたいです。
私は知らなかったのですが、近くに居ると念話が使えるので、「いま考えている事を読んで下さい!」と、暇さえあれば念話で語り掛けて来るので困っています。
戦闘中は便利なのですが、私のプライベートは常にシズクのオタク知識に汚染されています。
今では、シズクの常識をほぼ把握してしまったので、私は向こうの世界が自分の世界だったと錯覚するぐらいになりましたよ。
「私も気に入りましたので、ありがとうね」
「その服には反射の付与がしてありますが、エルナお姉ちゃんの攻撃は防げないと思いますので、受けないで下さいね。普通の人の攻撃なら、軽い物は跳ね返せると思いますが、エルナお姉ちゃんの剣は重いから通ってしまうと思うのです」
「大丈夫です。私も正面からは戦うつもりはありませんし、決勝まで行かないとエルナとは戦う事はありませんよ」
「お姉様が負けるはずはありません! 他の人の試合も見ていましたが、注意するのは、クロードという人だけだと思います。剣術の腕なら、お姉様よりも上だと思います」
「私に剣術の技能はありませんからね。この世界では、技能があるだけでその恩恵は大きいみたいですので、クロード先輩の腕次第では剣での戦いは止めるつもりです」
「その方が良いと思います。お姉様は槍系の方が扱いなれていますのに、なぜ剣で戦うのですか?」
「なるべく私の技量などは、見せたくないのです。使徒もいますので、目を付けられたくはないのですが……手抜きとかすると、エルナに絶対にばれてしまうし、後の事を考えると適度に手札を切るしかありませんが、魔法さえ見られなければ大丈夫とは思っています」
「お姉様は、既に目立っていると思いますが……」
「何か言いましたか?」
「何も言ってません! そろそろ時間になりますので、私は観客席から見てますので頑張って下さいね!」
颯爽と行ってしまいましたが、しっかりと聞こえてますよ。
まあ、私が認めていないだけで、間違ってはいませんからね。
それでは、ユリウスの実力を見に行きますか。
しばらくすると、私の前の試合が終わったみたいですね。
「それでは、Aブロックの第8試合を開始致します」
こんな時間なのにまだ結構な観客が居ますね。
私なら、絶対に帰っていますよ。
初日に2組に分けているとは言え、初戦を全て消化しょうとするとか、スケジュールを組んだ人は何を考えているのでしょうか?
「東のゲートからは、2期生Sクラスのユリウス殿下です!」
女の子の声援が多いですね。
王子で、さらに美形ですから、人気はあるでしょうね。
「西のゲートからは、2期生Bクラスのシノアさんです」
なんか私の呼び方だけ、投げやりというか適当感が半端無いのですが……。
実況の人が女性なのですが、ユリウスのファンなのでしょうか?
普通に素で名前が呼ばれただけです。
「かなり出来る見たいだけど、必ず君に勝ってみせるよ!」
ユリウスの言葉を聞いて、観客の女性達は素敵ですとか色々と称賛していますが、私の事はさりげなくディスってます。
私は耳がいいので、チビとか絶壁とか髪の長い男の子だよとかしっかりと聞こえていますが……会場にいつかの戦略指定魔術を撃ち込みたい気分です。
私を応援しているのは、身内の人やBクラスのみんなと私に賭けていると思われる人達ですね。
「ユリウスは、人気者なのですねー」
「そんなことは無いが、君を一部の子が中傷していることは、僕が謝るよ」
彼は悪気は無いし良い人だと思いますが、私の心はちょっと……かなり傷ついているので、ユリウスには悪いのですが、ちょっとうっぷんを晴らさせてもらいますからね。
「それでは、試合を開始して下さい! ユリウス殿下の勝利を見届けましょう!」
はぁ?
今まで何試合か見てきましたが、この試合だけ、私が負ける前提のアナウンスですよ!
私は、いま実況席に『イグニス・フレア』を撃ちたくて仕方ありません!
あの女の顔は覚えました!
絶対に泣かせてあげます!
「済まないが……行くよ!」
ユリウスが型どおりの剣で斬りかかって来ましたが、私にはゆっくりに見えますね。
シズクの剣に比べたら、余裕で躱せますので、ぎりぎりで避けましょう。
私も剣は抜いていますが、相手は模範的な動きなので、既に何回か殺せる攻撃が出来ますけど、疲れるまで受け身に徹しますか。
20分ほど経った所で、もう息が上がってしまったようです。
途中からムキになって大振りになっていましたが、当たるように見せるのも結構めんどいですね。
「はぁはぁ……なぜ、攻撃をしてこないんだ?」
「していますよ? 気付きませんか?」
「僕には、君の剣が当たった感じは無いが……」
「見難いとは思いますが、鎧に薄っすらと傷が付いているのに気づきませんか?」
「まさか……」
ユリウスが斬り込んで来た時に鎧に軽く当ててただけなんですけどね。
決して、躱すのが飽きたから……まあ、嫌がらせで鎧に傷を付けていたとも言います!
「じゃ、君はいつでも僕を倒せたんだね……」
驚いていますね。
いつの間にか声援も無くなって、静かになっていますね。
これは、ユリウスを応援していた子達に後ほど嫌がらせでもされそうですね。
仕方ありませんので、最後に剣士らしく倒しますか。
「まあ、ちょっと気が晴れましたので、少しだけ相手をしましょう。ですが、私は貴方のように剣術の技能などはありませんので、参考にならないと思いますが。行きますよ!」
そのまま正面から斬り込むと見せかけて鎧の別の所を攻撃するなどの変則的な攻撃を繰り返すだけで、もう翻弄されていますね。
ちゃんと、私の剣を見て反撃しょうとしていますが、残念ながら、牽制程度の打ち合いしかしませんよ。
シズクやエルナの相手をしていたのでは、まともに斬り合うなんて出来ません。そのせいで、躱すか流す事に慣れてしまいましたからね。
真面目に戦ったら、シズクにはこっちの攻撃は当たらないし、エルナと打ち合うと腕が痛いだけです。
それに私の眼の動きも見ているようですが、私は相手の意識をそちらに向かせる為に意味も無く見ているだけですから、私の眼を追うのは失敗です。
私には、最近になってようやく意味があるようになった並列思考や魔力感知があるので、同時に二つの思考なら出来るようになったし、マナを感じる事で見なくても相手の動きがわかるのです。
特に、魔力感知はダンジョンなどで強い敵がわかるので、最短コースでボスにたどり着けるぐらいにしか思ってなかったのですが、魔力管理の件がありましたので、ちょっと検証してみたのですよね。
今までは、ただマナの強弱を感じ取っていただけですが、意識して周りのマナに集中すると流れがより細かくわかるのです。
ならばと、対戦相手に範囲を絞れば、予測も可能なぐらいにマナの流れを感じられたのです。
これに気付いてからは、シズクの相手が辛うじて出来る程度になりましたので、私にはありがたいです。
この戦い方ならエルナやシズクに対抗出来ます。私の体が動きに付いて行けないと攻撃をもらってしまいますが、それなりに戦えるのです。
シズクからは、「お姉様の動きは、不自然過ぎて読みにくいです」と、言われています。
私は、シズクと違って、剣術とかまったく知らないので、書物で読んだ定石に逆らった行動をしているだけなんですけどね。
ただ、エルナの様な勘で、攻撃してくるタイプが要注意ですね。
「これだけの事が出来るのに剣術の技能が無いなんて、信じられない……」
「そうですか? 私には、体術系の技能は初級の槍術と体術があるだけですよ」
「なら、本来は槍の使い手なのか! じゃ、なんで剣を使っているんだ?」
「ちょっと試してみたいのもありますが、試合をずっと見てましたらみんな剣を使っているからですよ?」
到着してからの試合は見てましたが、みんな剣を使っているので、ちょうど良いと思っただけですね。
「やはり強いな……『黒の暴風』の噂は本物なんだね」
ユリウスまで、その痛いパーティー名を知っているのですか!
「そんな事まで、知っていたのですか? 知らなくても良い事を…… 」
「君達の事を知らない人の方が少ないと思うけどね」
えっ……それって、学園の生徒もほぼ知っていることになるのでは?
目立たない様にしてたのにおかしいなー。
私が疑問に思っていたら、答えが来ましたよ。
「君は気付いて無いみたいだから教えるけど、冒険者の人達は別として、学園ではエルナさんが内緒と言いながら話しているから。後は調べればすぐにわかったよ」
犯人はエルナでしたか……目立ちたく無いので、話したりしないようにとお願いしておいたのに駄目ですね……。
「まあ、後でエルナを問い詰めるとして、どのような決着を望みますか?」
「一撃で良いから君に届かせてみたかったよ」
エルナに出した、宿題を思い出しますね。
「私は今から正面から攻撃します。見事防げば、私に一撃を入れれるかも知れません。では、行きますよ!」
私の狙いは、いつも通りに真横から首を狙いに行ってます。
やっぱり狙うなら、首ですよね!
これには、ユリウスも気が付いたので、剣で受けようとしますが甘いですね!
剣が打ち合った瞬間に彼の剣はあっさりと折れて、首の皮一枚で、剣を止めました。
止めるのに失敗してたら首が飛んでましたが、ミリアさんもいるし大丈夫でしょ!
「まさか、剣が折れるなんて……」
折れたのが信じられないと言っていますが、先ほどからシズクの真似をして同じ所しか当ててないので、破損率は8割以上になっていました。
打ち合う瞬間だけ、マナで剣の強度と威力を上げていましたからね。
私には触れた武器の状態がわかるので、次にマナを付与した攻撃で折ることが出来る所まで強度を削っていたのです。
考えてみたら、触れる事さえ出来れば相手の武器の状態がわかるとか反則ですよね?
これが神剣とか上位の武器だったら詳細がわからないのですが、中堅ぐらいの武器ならほぼ観る事が可能です。
ユリウスの剣は普通の剣でしたので、仕込むのは簡単でした。
「種を明かせば、私は、先ほどから攻撃をした時に貴方の剣の同じ所しか打ち込んでいません」
「同じ所だけ狙うのもすごいが……それだけで、折る事が出来るのか?」
「噂の内容は知りませんが、私の基本は魔術師です。なので、マナを剣に応用すれば剣の強度なども変えられます。これが魔剣とかでしたら、無理だったかも知れませんが」
最初は、疲れたところを首を刎ねてしまおうかと思っていましたが、実況の腹いせにその仕打ちは無いので、ここは剣でも折ってしまえば体裁良く負けを認めさせる事が出来ると思った次第です。
「これで魔術師が本職とか……君に負けた剣士は自信を無くしてしまうよ」
「基本とは言いましたが、本職とは言ってませんよ? 私より頼りになる前衛がいるから、後衛に徹しているだけで、普段は普通に戦います」
カミラは遠距離支援ですが、私とセリスしかまともに魔術が使えないとも言いますね!
欲を言えば、盾となる前衛の人がいると安心出来ると私は思っています。
回復に関しては、私とセリスはマナさえあれば何とでもなりますが、3人は致命傷などを受けたらお終いですから、私はいつも心配で仕方ありませんよ。
「それでも……いや、僕の負けだよ」
「対戦相手が敗北を認めたので、シノアお姉様の勝利です!」
あれ?
アナウンスの声が変わっていますがこれは、シズクですよ!
あの娘は何をやっているのでしょう!
「ユリウス選手も健闘しましたが、華麗に舞うお姉様の前には剣も折られて奮闘虚しく敗北しました!」
ちょっと、こんな所でお姉様とか止めて下さい!
この後の学園生活をどうするんですか!
「この解説は中々に的を得てるね」
「済みません。これは私の妹のような子なのですが、どうも勝手に何か言っているみたいなのです」
「いや、むしろはっきり言われてすっきりするよ。それに先ほどの人の方が君に対して失礼な事を言っていたしね」
「あの子は……後で、厳しく叱っておきます」
「良ければ怒らないで上げて欲しいよ。きっと、君の為にやった事だと思うしね」
前回のテストの時も思ったのですが普通だったら、王子様なんだから逆切れして権力でも振り翳すと思うのですけど。
最初は、ぽっと出の私の学力を疑いましたが、再テストの結果を素直に受け入れましたからね
顔も性格も良いし、しかも王子様とか完璧ではないですか……こんな出来た人が居るとは思っていませんでしたが、これは私がひねくれてるだけなのかな?
これなら、異性に好かれるのも当然ですね。
「一つだけですが、私が言うのは参考にならないと思いますけど、ユリウスの剣は教科書のお手本に忠実過ぎますので、読みやすいのです。実戦もしくは、熟練の方と経験を積んだ方が良いと思います」
「確かに、僕は学園で習った事しか無いが、そう言ってもらえるのは、少しは見込みがあるからなのかな?」
「それは私にはわかりませんが、努力すれば結果は裏切らないと思いますし、貴方は向上心があるので、強くなれると私が思っているだけです」
「君からそう言ってもらえるのなら、自信が沸いて来るよ」
負けたとはいえ、そんな事を言われたらその気になりそうですね。
「近い所で、クロード先輩に今日の結果も踏まえて、話をしてみるのも良いかと」
「兄上を知っているのかい?」
「試合前に友達になりましたよ。その辺の冒険者のお兄さんと思いましたね」
「クロード兄上は、王位よりも冒険者になって旅がしたいと言っていたからね」
「さて、ちょっと私は行く所が出来ましたので、失礼しますね。早く行って止めないと何を言い出すかわかりませんからね」
「良い勉強になったよ。ありがとう。明日から君のファンになった娘には、お姉様と呼ばれそうだね」
私は急いで実況席に向かっていますが、ユリウスの言った通りになったら、明日から最悪です!
目立たないように生活したいのに、エルナみたいな扱いになるのは勘弁してくださいよ。
全力で実況席の所に行くと、喜んでいるシズクと実況をしていた女性を縛り上げているセリスがいます。
「あっ、お姉様! お勤めご苦労様でした!」
お勤めとか、シズクの知識かぶれになっている私には、それはある所から出てきた人に使う言葉では……
「シズク! 何をやっているのですか! それにセリスまで一緒になって……」
「この人がお姉様をないがしろにするからですよ?」
「シノアさん、助けて下さい!」
「サラ様に許可は取ってありますので、シノア様は何も心配する必要はございません。まだ始末していませんが、私の主を侮辱したのですから、シノア様の御気分が晴れ次第に処理致します」
実況してた人が私に助けを求めてます。
すごく怯えていますが何を言われたのでしょうか?
他に2人居ますが、抱き合って震えていますよ……何が有ったのでしょうね……。
それとセリスが始末とか処理なんて言ってます。
サラさんに許可を取ってあるとか言ってますが、そこまでしなくても良いですよ!
「許可って……それに始末とか言い出すなんて、セリスまでどうしちゃったの?」
「あの開始の言葉の後、にシノア様からこの女性を許さないと言う強い思念が来たので、サラ様にお願いをしたら、好きに動いても良いと言われましたので、今に至ります」
「私もお姉様の心の声が聞こえたので、セリスお姉ちゃんと一緒に行く事にしました」
シズクには念話で聞こえていたと思いますが、セリスにまで影響するなんて……。
これは……私が強い感情を出すとセリスには私の感情が流れてしまうみたいです。
シズクは面白がってやっていますが、セリスまでこんな事をするとは思いませんでしたよ。
「さあ、シノア様。この無礼者に好きなだけ罰を与えて下さい。その後は、私が責任を持って始末致します」
あの時はちょっと思いましたが、いまはどうでもいいですよ!
まさかですが……始末って、殺すのかな?
いくらなんでもそこまでしないと思いますが……。
「もう、試合で気が晴れたので、もういいから、離してあげようよ?」
「良いのでございますか? わかりました。ちょっと森に連れて行って、私がお仕置きした後に処理して、捨ててきますね」
ちょっと、完全に殺す気ですよ!
お姉さんは、泣きながら謝ってます。
シズクの風の結界で音が外に漏れないのですが、最早どちらが悪人なのかわかりません。
「お願いします! どんな事でも従いますので、命だけは助けて下さい! 生きたまま魔物に食べられるなんて嫌です! 許して下さい!」
非常にわかりやすいお仕置きですね……私とセリスなら経験があるので、それは悲惨ですよ。
「ちょっと、セリス……もしかしてそれがお仕置きなのですか?」
「シノア様の気が晴れたら、縛って森に放置して死なない程度に回復はしてあげると言いました。もし死んでしまったら、そのまま捨ててくると教えてあげたのです」
「許して下さい! そんな死に方は嫌です! 助けて下さい!」
私やセリスと違って、場所が悪かったら、即死ですよ。
それに平然とそれを実行しょうとするなんて、昔のセリスからは考えられません。
「殺すのは止めましょうよ? ところで、お姉さんはどうして私だけ違う実況をしたのですか? ユリウスのファンとかですか?」
「私はオリビア様に貴女を非難するように頼まれていたのです……私はシュタイナー家のメイドでもありますが、特別手当をと言われたので……心から反省していますので、許して下さい!」
また、あの嫌味女ですか……ユリウスのポイントを稼ぎつつ私に嫌がらせと思ったのでしょうね。
他の観客の野次も同じ手の者なのかもしれませんね。
「貴女はお金の為に私の主を冒涜した訳ですね? これで十分に弁解の余地が無くなりましたので、安心して始末できます」
「そんな!!!」
「セリスお姉ちゃんは、必ず実行しますから……怖いですよ……」
「シズク、余計な事は言わないで、結界に集中していなさい。周りに気付かれたら、帰ったらお仕置きをしますからね」
……いくらなんでもやり過ぎです。
段々とセリスの私に対する行動が過剰になって行きます。
もう最初の頃の大人しいお姉さんのイメージなんて、どこにもありません!
何とかしないと本当に実行してしまいますよ。
「セリス、私が良いと言っているので、もう解放してあげなさい」
ちょっと命令をする感じで強めに言いましたが……
「シノア様、私はこのまま解放するなど出来ません。この者に償いをさせないのでしたら、今すぐに処分致します」
私の命令を聞いてくれないです……どうしてもこの人を殺すことがどうも決定しているようです。
仕方ありません、この人には悪いのですが私が誓約魔術を掛けてしまいましょう。
私の配下としてしまえば何とかなると思いますが、セリスの考え方がおかしいのはエレーンさんに一度相談した方が良いですね。
「わかりました。では、その人は私の配下にしますので、それなら良いですね? お姉さんには申し訳ないのですが、誓約魔術を受けてもらいます。どうしますか?」
「受けます! 私は貴女の奴隷でも何でもなりますので、助けて下さい!」
「この者をですか? シノア様の配下には相応しく無いと思いますが……それでしたら、仕方ありませんね」
セリスはかなり不満そうですが「後で、軽めのお仕置きでも……」とか、呟いています。
軽めって、どうなるのでしょうね。
「では、お姉さんの名前を教えて下さいね」
その後、アイリ先生と同じレベルの誓約を掛けましたがなんだか可哀想です……。
お姉さん(キャロさん)は、涙を流しながら、私に「この御恩は決して忘れません!」と、感謝をしていますが、罪悪感が……。
セリスが屋敷に連れて行く為にもサラさんの元に連れて行くみたいなのですが、私と離れたくないと目が訴えていますよ。
まあ、さっきまで自分を始末するとか言っていた人に付いて行くのは怖いですよね。
なんか見ていると死刑場に連行されている感じです。
シズクに彼女を守るように頼みましたが「セリスお姉ちゃんを止めるのは私には無理です……」と、言っていたので、もし帰った時にキャロさんが居なかったら、セリスを嫌いになると伝えるように言っておきました。
帰ったら、生きている事を祈りましょう。




