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第8話 シュライト

 シュライトさんの口調、それにはまるで僕が勇者であってほしいと願うかのような響きがこもっていた。

 それはケしておかしなことではないだろう。

 城での反応、それを見ていれば勇者という存在がどれだけ重要視されているのかかいやでもわかる。

 そして恐らく民衆の勇者に対するイメージ、それは地球のアイドルのようなものなのだろう。

 文明のあまり発達していないであろうこの世界ならば、勇者という刺激に心を高鳴らせるのもわかる。

 見たことのない服で勇者だと決めつけられても仕方がないとお思える程度には。


 だけどその勘違いは目立つわけにはいかない僕にとってはあまりにも致命的なものだった。


 何せ、この辺境外に勇者がきているなんて噂が立てば、僕の存在をしっている人間なら誰だってここに僕がいるのがわかる。

 沿いしてそう考えた僕がとった行動、それはシュライトさんの意識を狩り騒ぎが起こるのを遅らせて、その間に出来るだけ遠くへと行くことだった。

 正直、罪悪感はある。

 相手はただ勇者という物珍しい存在に騒いだだけなのだ。

 なのに暴力を振るわれる目に遭うなんてあまりにもとっばっちりがひどすぎる。

 だけどこの状況では僕の頭にはほかの案など思い浮かばなくて、僕は内心謝罪の言葉を告げながら拳を振り下ろして………


 「突然なんだ?」


 「なっ!?」


ーーー だが、その僕の拳はあっさりとシュライトさんに受け流された。


その光景に僕は思わず言葉を失う。

確かにシュライトさんは冒険者の中でもそれなりに強い方だろう。

オークと呼ばれるそんな魔獣を殺せるという話でそのことは大体分かっている。


けれど、そのことを含めてもシュライトさんの動きは超越していた。


ゴブリンとはいえ、人間よりも力の強く頑丈な魔獣を軽く投げた石で粉砕した僕の力、それは明らかに異常だ。

そう身体強化を使っている今、僕は明らかに人間とは比較にならないだけの力を手にしているのだ。

そんなことはありえない先程のことはただの偶然だとと、僕は更に拳をシュライトさんへと振るう。


「この能力、勇者の力だろう」


けれども、シュライトさんはその僕の攻撃にまるで焦ることなく捌いてゆく。

その光景に今更ながらようやく僕は悟る。

シュライトさんは幾ら身体能力の差があろうが、それでも僕程度では叶わないぐらいの実力を有していることを。


「貴方は、一体……」


未だ全裸、なのに異様な迫力を纏うシュライトさんへと気づけば僕は、攻撃を止めてそう尋ねていた。

その口調には隠しきれない恐怖が込められているのが自分でもわかる。


「ん?それはおいおい話そう」


僕の質問に対するシュライトさんの返答、それはそんな思わせぶりな言葉だった。

そしてその返答を聞いて僕はシュライトさんはただの冒険者でないことに今更ながら悟る。

服を見ただけで僕が勇者の関係者であることを悟り、そして僕の能力での攻撃を受けてもなお、何のダメージを負わない。

そんな人間がただの冒険者だなんて信じられる訳がない。


「うわぁぁぁぁあ!」


「おぉ!?幾ら何でもそれは捨て身すぎや……なっ!」


そう判断した僕は喚き声をあげながら特攻するそぶりをみせて……


「っ!」


次の瞬間、シュライトさんに動揺が走ったその瞬間を確認して逃走を始めた。

後ろからシュライトさんの泡を食らったようなそんな声が聞こえる。

だが、直ぐにその声ははるか後ろのものとなる。

シュライトさんが何者なのか、それは僕は知らない。

だが様子を見る限り、恐らく勇者に好意的な人間、つまり王国側の人間だろう。

だとしたらここに僕がいたことが即座にバレる可能性があっても、それでも逃げに徹するべきだと僕は判断したのだ。


「本当に、お前思い切りがいいな。だが敵に背を向けるのは頂けない」


「えっ?」


だが、そこまでしてもシュライトさんを離すことはできなかった。

そしてそのことを悟った次の瞬間、僕はあっさりと意識を手放していた……

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