第21話 認定書
「ぶはっ!あいつ馬鹿だ!」
「まさか、よりにもよってあのエイナに喧嘩ふっかけるなんて!」
元衛兵がエイナとそう呼ばれていたギルド職員に追い払われてから、黙っていたはずほ冒険者達は今までの態度が嘘のように笑い始めた。
あるものは膝を叩き、あるものは笑いすきで腹筋をつっている。
「……本当に悪趣味だな」
そしてその光景を見て、僕はぽつりとそう言葉を漏らした。
冒険者達が今まで黙っていたわけ。
それは決してギルド職員の女性、それもかなり容姿が整っているが困っている様子をみようという理由ではない。
そもそもギルド職員の強さを一番知っているは冒険者達なのだから。
だったら何故面白そうに騒ぎを見ていたのかというと、元衛兵がギルド職員に勝てないことを知っていたからだ。
つまり冒険者達は自分に過度な自信を持った元衛兵が、ギルド職員の美人にあっさりと鼻を叩きおられるのを見るためにこの場に集まっていたのだ。
そうでなければ元衛兵が冒険者達を落伍者と罵った時、反応しないはずがない。
冒険者達の殆どは短気なものが多い傾向にあるのだから。
「まぁ、今回のやつは本当に馬鹿だったけどな!」
「あぁ、何が衛兵だよ。あいつら雑魚だろ!」
「違いねぇ!」
そして僕は冒険者達の会話から、先程の元衛兵のような輩がこのギルドに来ることを悟る。
……そしてその鼻がギルド職員によっておられる様子をここにいる冒険者達が見世物にしていることも。
そのことに僕は思わず頬をひきつらせる。
しかし今はそんなことに驚いている場合ではないと僕は思い出して懐から認定書を取り出した。
「それにしてもタイミングが悪いな……」
これは正真正銘の本物だ。
シュライトさんの署名も入っていて、これを見せれば僕は無事Cランクに昇格できるだろう。
まぁ、もちろん一ヶ月は仮が頭には着くのだが。
しかし今この騒ぎの中、この認定書をギルド職員に見せるつもりは僕にはなかった。
あの事件があった後、本当に推薦を受けられる人間が出てくればかなりの騒ぎになる。
推薦されるものはそれだけ少ないのだから。
だが僕は騒がれるのをできるだけ避けたいと思っていた。
その理由はシュライトさんにある。
シュライトさんはAランク、最上位の冒険者だ。
恐らく引退している元冒険者なのだろうが、それでもAランクに至った人間は普通それなりの生活ができる。
けれどもそれをシュライトさんはしていない。
だとしたら不用意に僕が目立って、シュライトが目立つようなことになれば迷惑なのではないのかと僕は考えたのだ。
「少し待っているか……」
そしてそう考えた僕はこの騒ぎが収まるまで待ってからこっそりと認定書をギルド職員に見せようと考えて待合の椅子に座った。
それから側にあった様々な魔獣の図鑑を手に取り読み始めた……
◇◆◇
それから30分後、先程まで騒ぎ立てていた冒険者は依頼に行ったり、帰ったりと騒ぎはかなり下火になっていた。
そしてそのことを確認して僕は図鑑を閉じて立ち上がった。
正直、図鑑に示されていた魔獣の殆どを僕はシュライトさんの授業で知っていたのだ。
「……まさかこんな分厚い図鑑分の魔獣の知識を教えられていたとは」
僕はあの勉強がどれだけスパルタであったのかを悟り、震えながら受付へと進んで行く。
……そりゃあ、勉強で死にかけもするわけだ。
「どういたしましたか?先程からおられた様子ですが……」
そしてそんな僕に先程エイナ、と呼ばれていたギルド職員の女性が声をかけた。
一瞬僕はまさか見られていたとは思わず驚いたものの、直ぐに冷静さを装ってエイナそんに笑いかけた。
「いえ、実はあまり騒ぎになりたくないもので……なので今からは騒がないでくださいね」
「えっ?は、はい……?」
その僕の言葉にエイナさんは戸惑いながらも頷く。
そしてそのことを確認した僕は素早く認定書を取り出した。
「っ!」
その瞬間、今まで冷静そのものだったエイナさんの顔に驚愕が浮かぶ。
「……失礼しました。ご確認させていただきます」
「はい。お願いします」
けれどもそれは一瞬のものだった。
直ぐにエイナさんは冷静さを取り戻して僕の渡した認定書に目を通し始める。
そしてその姿に僕は思わず安堵の息を漏らした。
何せこの場面で大声でもあげられ、注目を浴びたりしたら今までの苦労がすべて水の泡になるのだから。
だからこそなんとか僕は何ともなく終われると笑う。
だがそれは早計であったことを僕は次の瞬間知ることになる。
「……えない」
「えっ?」
推薦者の欄で突然認定書を読むのをやめたエイナさん。
その態度に僕がただならぬ雰囲気を感じはじめ、言葉を聞き返した次の瞬間、彼女は僕を睨みつけて叫んだ。
「あの人が、シュライトさんが誰かの推薦などするなどあるはずがないでしょうが!」
「っ!」
………その瞬間、エイナさんの叫び声はギルド中に響き渡ることとなった。




