第18話 役立たずの勇者 Ⅱ
勇者目線です
「あぁ、くそっ!」
その時勇者こと斎藤和也は薄暗い路地裏にいた。
そして薄暗く不衛生なその場所で機嫌悪げにそう吐き捨てていた。
今の俺は全てが気に入らなくて……
その原因、それはこの頃俺へと軽蔑するような視線を向けて来始めたこの王国の人間。
「くそっ!くそくそ!何で俺が、選ばれた俺が鍛錬なんかしなければならねえんだよ!」
そして何故か始まった訓練だった。
最初俺に対するこの国の人間の対応はまさに勇者に対するそんな態度だった。
だが、それは斎藤がたった一つの能力を持っていないと知られた瞬間に変わった。
今までうやうやしく自分へと頭を下げていた貴族たちの顔に軽蔑が宿ったその瞬間、それを斎藤は一ヶ月経った今でもはっきりと覚えている。
そしてその次の日からだった。
突然酷く辛い鍛錬が始まったのは。
「はっ!何が走り込みだ。そんなもんやらなくとも聖剣を持った俺は最強だろうが!今時修行なんて流行らないんだよ!」
聖剣の強化能力を使わず1日10キロ走れ、そう突然言われた時を思い出し斎藤は忌々しげにそう吐き捨てる。
当たり前だ。そんなことインドア派、というか今まで引きこもっていた自分が出来るはずなど無い、とそう正当化する
そしてそんな斎藤が素直に10キロ走るなど受け入れるわけがなかった。
そう、今斎藤が路地裏にいる訳、それは鍛錬を強制しようとする兵士らしき人間から逃げるためなのだ。
「ふん。俺には聖剣に最強の魔法があるから鍛錬なんて要らねえんだよ!そんなことする暇があれば、もっとカッコいい魔法を教えろと言っているのに……」
そして、嫌なことからは逃げるのが当然。
それでも自分は勇者で最強であると信じている斎藤は知らない。
異世界人である勇者が魔法を身に付けるのがどれだけ大変なのか。
そう、それこそ10キロを1日生身で走るとなどということなど比にならない程の苦痛が伴うことに。
そして斎藤が知らないのはそれだけではなかった。
同じ異世界人でありながら、魔法など比にならない魔力操作と呼ばれる技術を一ヶ月で身につけた人間がいること。
そしてその人間はかつて自分が嘲っていた転移者であったということを……
「まぁ、俺は勇者だし、魔法なんて直ぐに覚えられるだろうけどな!」
その全てを何も知ることなく、斎藤はそう笑う。
その笑いには未だ自分が勇者として召喚されたことに対する自信が浮かんでいて……
「とにかく今日も何処かで女の子でも捕まえるか!」
……そんな斎藤は未だ気づいていなかった。
「平民の女の子は勇者と言ったらそれだけで騒いでくれるしな。本当に貴族とは大違いだ!」
何を想像しているのか、下卑た笑みを浮かべる斎藤。
その顔は自分が勇者として敬われなくなる可能性など一切頭にないことを示していて……
「よし!今日も楽しまねえと!あ、でもまた怒られるか?」
……だからそんな斎藤が自分が貴族にどう認識されているのか気にすることはなかった。
「まぁ、いいか!何たって俺は勇者様なんだからなぁ!」
ーーー 自分が役立たずの勇者と呼ばれていることさえ。
こうして異世界から召喚された勇者は何も考えることなく破滅の道を進んで行く。
もし、この時に悔い改め自分を鍛えれることが出来ていれば……
「おっ、あの子いいな!」
そんな後悔を自分が抱くことを自分を勇者だと勘違いした勇者は知らない……




