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第30話  そして日常

 レ・ヴィクナムの町に戻るミツヒ。

 検問所には、ミツヒを称えようと人が集まっている。

 ミツヒとアークデーモンが並んで討伐をしている所を、ナギア、カルバンを始め多数の冒険者が遠巻きながら見ていたからだ。

 ミツヒには感謝の言葉が飛び交って、恥ずかしそうにしている。

 先頭にいたカルバンが歩み寄り、ミツヒに握手をする。


「よくやってくれた、ミツヒ。お前はこの町の英雄だ。ありがとう」

「英雄だ、なんて、やめてください。恥ずかしいです」


 そして、笑顔のナギアも歩いて来る。


「ご苦労様、ミツヒ。あのアークデーモンを従えた姿は、格好良かったわ」

「ナギアも止めてよ、恥ずかしいから。でも、疲れたよ。今にも倒れそうだ。早く帰って寝たい」

「ええ、帰りましょう。カルバン、後の事はよろしくね。ひと段落したらギルドに行くから」

「ああ、ゆっくりして来い。今回の立役者だからな」


 ミツヒは、ナギアと並んで家に帰る。町中でも、ミツヒへの感謝の言葉が飛び交っていた。

 カルバン率いる冒険者達は、その後の状況を調べ、王都ガナリックを始め各所への報告をするためにギルドに向かう。

 ナギアとミツヒは、ミツヒの家に帰り、二人でベッドに横になる。瞬く間にナギアの隣で泥のように眠ったミツヒ。

 極限まで神経をすり減らし、恐ろしくも平静を装ってアークデーモンと会話をしていたのだろう。


 結局ギルドに行くのは翌日になった。ナギアもミツヒを起こす事無く、いつの間にか隣で一緒に寝てしまったからだ。

 ギルドに着くまでも、至る場所から町の住民に感謝の言葉を投げかけられ、恥ずかしそうに歩くミツヒ。対して、当たり前のように堂々と歩くナギア。

 ギルドに入るナギアとミツヒ。まだ感謝の言葉は冒険者からもかかっている。受付のマレレは、カルバンに言われていたのか。二人を部屋に通した。


「来たな、英雄」

「だから、止めてください、カルバンさん」

「ウフフ、いいじゃない、ミツヒ。本当の事なんだから」

「ナギアまで……ハァァ」


 その後の状況は、

 カルバン曰く、王国も王都ガナリックも反乱軍の討伐、撃退に成功。降参した者は捕虜として連行し、投獄。現在、帝国にも攻め込んでいる所だが、住民や役人が捕虜となっているので長引きそうだ。

 だが、戦況は逆転したので時期に陥落するだろう。各町は被害が出る前に、一番大規模に攻め込んだレ・ヴィクナムの町で全滅され、戦力が無くなったので無傷。

 ミツヒの貢献は王都ガナリックにも届いている。

 それは、アークデーモンが、騎士達に向かって、ミツヒによって召還された事を宣告し、さらに、偶然一部の負傷した騎士を救った形になって、反乱軍を殲滅させた事の影響が大きかった。

 これで、ほぼ反乱軍による戦争に終止符を打ち終戦を迎える事だろう。



 あれから毎日、ミツヒはポーション作りに励んでいる。

 無理なく楽しく作って、出来上がっては出荷し、出来上がっては出荷する毎日。出荷とギルドの陳列は、ナギアが手伝ってくれたお陰で、数日で軌道に戻った。

 何故なら、ナギアだから荷車など必要としない。堂々とマジックバッグに入れて持ち運びしたため、効率よく作業が早かったのだ。

 ミツヒの手伝いが出来て、嬉しそうなナギアだった。



 数日後、ミツヒはカルバンに呼ばれ、ギルドマスターの部屋に入る。


「ミツヒ、今回の件で、王都ガナリックより勲章が授与されることとなった」

「勲章ですか? 誰にですか?」

「何を言っているんだ、勿論ミツヒにだ」

「えぇぇ? 本当ですか? 何故?」

「何故も何も、あれだけ貢献しただろ。ミツヒ一人で、一つの軍隊と同じ規模のようなもんだ。それに俺からも推奨したからな」

「そんなぁ、嫌なんですよぉ、そう言うのはぁ。ひっそり暮らしたいって言ったじゃないですかぁ」

「マレレの口調に似て来たな」


 扉が開いていたので、呼ばれたと思ったのか顔を出すマレレ。


「お呼びですかぁ?」

「呼んでいないが、ついでだ。飲み物を持って来てくれ」

「はーい、畏まりましたぁ」

「ミツヒ、ひっそりも何も、今までの功績踏まえて、今では王都ガナリックでも十分有名人だよ。逃げられないぞ」

「……何でこうなった。ハァァ」


 諦め、ため息をつき、項垂れたミツヒだった。



 足取りも重く家に帰るミツヒ。居間の椅子にはナギアが当然のように座っている。


「お帰り、ミツヒ」

「ただいま」

「疲れてる? ん」


 軽いキスをして、隣の椅子に座るミツヒ。


「うん、ちょっとね。今回の事で、僕に勲章をくれるんだって」

「凄いじゃない、おめでとう、ミツヒ」

「そんなガラじゃないから、気乗りしないんだけどね」

「いいのよ。そういうのは遠慮なく貰っておけばいいの」

「ナギアは貰った事あるの?」

「え? ええ。あるけど……五個」

「それは凄いね。さすがナギアだ。あ、だから国王と面識があったんだね」

「うん。だから、ミツヒも貰っておきなさいね」

「う、うん。そうするよ」


 数日後、王都ガナリックで勲章を受けるミツヒ。

 他の功労者も並んでいる中で、一番前に立たされ、一番くらいの高い勲章を授与され受け取った。

 やはり予想通り、英雄扱いだった。検問所では、ナギアと同じ顔パスになっていた。

 王都に入った時も、城を出て行く時も至る場所から声援を受け、これでさらに有名になるミツヒ。

 式では他の者にも授与され、その中で、指揮官として、連絡、報告を怠らず、最後まで諦めないで活躍したカルバンも勲章を受けた。

 レ・ヴィクナムの町でも、お祝いムードが高まり、各所で宴が催されている。



 ミツヒの家では、食事はいつもミツヒが作る。簡単な料理ばかりだが、とても美味しそうな物ばかりで、毎回ナギアは絶賛している。

 料理の出来るミツヒに比べ、ナギアは全く出来ない。そう、剣技は凄いが、包丁はまるで駄目だった。

 だから、ミツヒが料理している時は、毎回ミツヒの横に立ち、優しく教えられながら見よう見まねで練習中だ。

 気にしなくてもいいよ、と言ってくれるミツヒに対し、申し訳なさそうにしているナギアを見て、今日の夕食は外に食べに行こう、と出かけ、マイウ亭に行く事になった。

 食事を注文し、褒賞の出来事など、談笑しながら食べ始める。

 他愛もない話しをしながら料理に舌鼓を打つ。食事も終わり、食後の飲み物を飲んでいる時にミツヒが店内を見渡す。


「ナギアと初めて食事したのがこの店だったね」

「ええ、今でも覚えているわ。せっかくの食事なのに、変なのが入って来たりして」

「ハハハ、そうだったね。それがナギアと僕の始まりでもあったね」

「うん、色々あったけど私、今は幸せ」


……沈黙


「ナギア、結婚しようか」


 待っていたかのように即答するナギア。


「はい、不束者ですがよろしくお願いします……ミツ、ヒ……」


 あふれ出る大粒の涙を幾つも流す、とても綺麗な笑顔のナギア。

 その言葉がいつか来るだろうと、心待ちに準備万端のつもりでいたのだが、耐えきれなくなったのか、徐々にその表情が崩れ始め、とうとう両手を顔に当て、号泣するナギア。

 店内に聞こえるナギアの嗚咽に、一時店内の客や店員から注目されたが、求婚だと知り、有名人である二人の事はみんな知っているので、拍手に包まれるナギアとミツヒだった。



 数週間後、レ・ヴィクナムの町の教会で、ささやかながら結婚式を挙げた。

 ミツヒが、ナギアの両親も呼べば、と言ったが、ナギアが断固拒否して、誰も呼ばなかった。

 同席したのは、カルバン、ラベルト、マレレ、小さい子供を連れたルビだけだったが、みんなの祝福を受け、忘れられない式となっただろう。

 その後すぐ、ナギアも借家を引き払い、ミツヒの家に引っ越しを始める。

 しかし、荷物も多く、入りきらない。仕方がないと、マジックバッグに入れて置いた。

 しばらくは、甘い新婚生活が続き、ナギアとミツヒも幸せそうに過ごしている。



 数か月後、ミツヒの家も増築して部屋を増やした。それにより、マジックバッグに入れて置いた荷物も全部収納出来ている。

 魔剣ギーマサンカとスティレットは、居間の壁に掛け飾ってあり、それ以外は、武器庫として一部屋に仕舞ってある。

 そして今は、ミツヒのポーションだけで生計を立てている。

 有名になったミツヒの作るポーションだ、と売り上げも、さらに良くなり十分に生活できているからだ。

 一方ナギアは、カルバンの声も虚しく冒険者を止め、依頼は受けていない。今は、ミツヒの家で、家事と少しづつ出来るようになった料理、そして、ポーション作りの手伝いをしている。

 何故か。それは今、ナギアのお腹には、二人の愛の結晶である、小さな命が宿っているからだ。

 ミツヒも、ナギアの体には過保護なくらい十分気を使っている。

 ナギアも育児が待っているので、これをきっかけに主婦業に転身した。



 1年後、相変わらずミツヒは、忙しくも楽しいポーションを作り販売している。

 薬草栽培も成功して、一定の量ではあるが、足りない時以外は、薬草採取に行く事も無くなった。

 生活の中で、違っている事が一つある。

 それは、椅子に座っているナギアの腕の中には、赤ん坊が、小さい寝息を立てて寝ている。

 子供を眺めるナギアの表情も、暖かく優しい母親の笑顔になって、幸せそうだ。とても美しい。

 ミツヒも嬉しいのだが、子供が出来て以来、ミツヒが独占していたナギアの何かが、占拠され少し悲しくなっている。

 そんな事を言うミツヒではないが、ナギアも察知したのか、子離れしたらまたミツヒの物よ、と、毎回なだめている。幸せそうな家族だった。



 数か月後、アルドール家一行が、ミツヒの家に来た。

 ナギアは、出て行けと怒り、怒鳴ったが、父カイレンの平謝りが続いた。

 ミツヒが両親を招いたことを知り、沈黙し、ミツヒが許すのであれば、と仕方が無く了承した。

 勿論ミツヒにも、正式に謝罪し許してもらった事は言うまでもない。

 孫を交互に抱き、嬉しそうな父カイレンと母メアルを見て、少しづつではあるが、わだかまりも薄れて行くだろう。しかし、あれだけの事をされたので、今はまだ許せていないナギアだった。

 次に来るときには、子供用のベッドを持ってくる事を約束し、帰って行く両親を見送るナギアとミツヒ。

 ただ、紋章を割ったナギアなのでアルドール家と繋がりは無くなっている。

 それは両親も了承し、ミツヒの姓になる予定だ。

 しかし、ミツヒは孤児なのでミドルネームなど無い。困ったミツヒは、カルバンに聞きに行く。答えは簡単だった。

 勲章を貰ったミツヒは、地位があるので名前を付けくわえられる。なので、すぐに決めるより、ゆっくり考える事にした。



 天も高く、澄み渡った青空が広がり、爽やかな風が吹く、いつもと変わらないレ・ヴィクナムの町。

 今日もミツヒは、ポーションを荷車に乗せ、運んでギルドに向かう。

 店の前で見送る幸せそうなナギアと、腕の中に抱かれて笑っている可愛い赤ん坊。

 ナギアに抱かれている可愛い子は、男の子か女の子か。それは皆さんのご想像にお任せするとしよう。

 

ミツヒとナギアと、期待に胸を膨らませ、成長する子供の幸せな日常が、このレ・ヴィクナムの町から始り、これからも続いて行く。






おわり

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。

感想、評価をいただければ嬉しいです。

よろしくお願いします。

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