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妖サポートセンター  作者: 銀月


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事件15.元勇者と元聖女とOJT/後篇の2

 うずくまった塊はやはり土地神と祟り神の二柱で間違いなかった。

 回収は白妙さんを待つとして、祟り神をどうするかが問題だ。プチっとやってしまうのもありと言えばありではあるが、この状況でそれはいらない禍根を残すことになるだろう。間違いなく。


「ねえねえ、落ち着いた? どうして祟り神になっちゃったの?」


 恐れ知らずなのかそれともこちらに害を与えるパワーもなさそうだと見越してか、キラリさんがするっと近づいて、よしよしとなだめるように塊を撫でる。

 聖女とはすごいなと感心する。私の目には相変わらず塊は塊としか見えないのに、話ができるなんて。

 私の目には、どこかふわふわした白い影が、渦巻く影っぽい何かを包んでいる……という塊にしか見えないのだ。なんと形容すればいいか……“まんじゅう”が一番ぴったり来るような?


 あくまでも警戒を解かずに見守る私の前で、キラリさんがゆっくりゆっくりと塊を撫でる。そのキラリさんの手の動きに合わせて、祟り神をしっかりと包んでいたふわふわが少し緩んだように見えた。


「何か話したいことがあるならちゃんと聞くよ?」


 キラリさんがにこにこと話し続ける。


「“蛇神斬り”、どんな感じ?」

『魔王ではなくなったみたいですよ』


 “蛇神斬り”が少し不思議そうに返す。パワーダウンしたから魔王じゃなくなったのか、キラリさんの浄化で毒気が抜けて魔王化が解けたのかはわからないけど、とりあえずの危険は去ったらしい。

 私はふうっとひと息吐いて、“蛇神斬り”を鞘に納めた。キラリさんは祟り神の塊から何かを聞いているらしく、うんうんとうなずきを返している。


「えー、なにそれさいてー!」


 いったい何の話をしているのか。時折キラリさんの声が上がる。

 というか、何が最低なんだ?


「ていのいい言い訳じゃんそれ、腹立つ!」


 そして、祟り神の声は私には聞こえない。祟り神といっても神格を得ているわけじゃないのかもしれない。つまり、祟り神と呼んでるだけで、相手は幽霊……。

 ゴクリと私の喉が鳴った。

 いや、アレなら“蛇神斬り”でサクッと斬れるし、どう見ても塊で幽霊じゃない。問題ない。大丈夫。


「うっわ、クズ! それ絶対クズ! クズオブクズの所業!」


 ――何の話をしているんだろう。


「そっか、わかった。つまりそこがずーっと引っかかってるんだね。

 大丈夫だよ。かわいいもきれいも作れるし盛れるから任せて。中学の時の友達がレイヤーでね、めっちゃくちゃすごいの。いつもはパッとしない顔なのにメイクするとめっちゃ美人になるんだよ。

 だからその子連れてくるね。一緒にスキル上げて見返してやろう!

 顔なんて皮一枚なんだよ。いくらでもかわいくできるから問題ない!」


 祟り神と話しているんだよね?

 キラリさんの返答の方向がまったくわからなくて眉が寄る。


 それでもじっと見ていると、塊はとうとう完全にほどけてふたつになった。

 ふたつの塊は、蹲って泣いている人影……のようなものと、それを見守るもこもこふわふわの狐へと変わる。


「その……キラリさん?」

「あ、アキさん、もう大丈夫! ふたりとも落ち着いたし、結界解くね!」

「え」


 止める間もなく、キラリさんは周囲を囲っていたキラキラ光る結界を消してしまった。そのすぐ外側に、唖然とする白妙さんとニコさんが立っている。

 白妙さんの唖然顔、珍しい。


「ニコさん、任務終了!」

「祟り神はまだそこにいるようですが……」

「大丈夫! もう祟らないって約束したから! あ、あとこれから友達呼んでタタちゃんにメイクのレクチャーしなきゃならないんだけど、交通費とか出る? 出るよね、必要経費だし」

「は? タタちゃん? レクチャー? 何の話ですか?」

「だからー、これからカワイイを盛るっていう乙女のだいじな講習会するの!」


 ニコさんに駆け寄ってあれこれを捲し立てるキラリさんを横目に、白妙さんがこちらへ来る。


「亜樹さん、いったい何がどうなったんですか」

「いや、私もよくわからないっていうか、聖女パワーすごいっていうか」


 はあ、と溜息を吐いた白妙さんが、もこふわ狐の篠沢さんへと向かった。

 白妙さんが警戒していないということは、本当に二柱とも鎮まったようだ。


「篠沢様、いったいどうまとまったのでしょう?」

「それが、(わたし)にも……まぶしい光に焼かれたと思ったら、心も凪いでいてねえ……この子もそうよ。おまけに、ずっとこの子を苛んでいたことも、あの娘の光が吹き飛ばしてくれたの。天津神のお使いなのかしらね」


 白妙さんと話す、篠沢さんの声が聞こえる。

 マジか。聖女パワーって勇者パワーとは違うベクトルですさまじい。


「あの娘は、この子の話もしっかりと聞いてくれてねえ……」


 とつとつと、心底感心したと語る篠沢さんの話を要約すると、こうだった。

 その昔、祟り神のモトになった娘と結婚した男は庄屋のどら息子で、キラリさん言うところのクズオブクズだった。

 働きもので気立てが良いからと男の親に請われて嫁いできた娘さんの器量が、今ひとつ以下であるととにかく不満だったらしい。嫁いだその日からあれやこれや雑に扱いまくって今で言うモラハラDVキメたあげく、隣村の評判の美人を娶りたくなってあれやこれや騙して陥れて云々のうえ、毒を盛って殺してしまったんだそうな。

 娘はなぜ自分がそこまで貶められて苦しめられなきゃいけないのか、死んでも死にきれず、怨霊となって男を祟り殺してしまったと――。

 昔話というより怪談にありそうな話である。


 ともかく、そのあれやこれやは酷すぎて末代まで祟る気持ちがわかるというか、よくまあそこまで我慢できたなという内容だった。

 累ヶ淵とか四谷怪談とかも真っ青なやつじゃん。

 主に容姿をこき下ろす時点でどうかと思うし、己がやらかした暴力で腫れ上がった顔をあげつらうあたりも人間の所業じゃない。


 篠沢さんは、もともと信心深くて自分へのお参りも欠かさなかったその娘さんのことを、ずっと、怨霊になってしまってからもずっと気に掛けていたんだとか。

 それこそ、当時通りかかった高僧に、彼女の鎮魂を頼むくらいには。


「あー、だから、カワイイを盛るのか。なるほど」


 娘さんは、ずっと今まで容姿がコンプレックスだったということか。

 働きぶりや気性を認められて結婚したはずなのに、容姿が悪いというだけで受け入れてもらえなかったことを、祟り神になってしまった後も、ずっと引きずっていたと、そういうことか。

 ――でも、カワイイ盛って浄化されるようなものなのだろうか。


「キラリさんは想定よりもずっと力を持っているということですね。うれしい誤算ですね」

「ん?」

「祟り神に堕ちたものがここまで浄化されることはなかなかありません。

 それこそ、歴史に残る高僧のような方が身命を削ってどうにか封じて、それでも周辺に影響をまき散らすのが祟り神という存在なんですよ」

「え、じゃあ、あの祟り神さんも、カワイイ盛れば浄化されるカジュアルな存在だったわけじゃないの?」

「当たり前じゃないですか。キラリさんの浄化で相当浄化されたおかげで、あそこまで持ち上がったんですよ」

「マジか……」


 聖女すごい。実は勇者よりすごいのが聖女なんじゃないのか。

 長ちゃんとか暁の女神も、勇者召喚するより先に聖女召喚すべきだったんじゃないのか。


 そのキラリさんは、ニコさん相手にレイヤーだという友達の交通費を交渉している。キラリさんのガンガン押しっぷりには、ニコさんが負ける未来しか見えない。


「今回は、ほとんど出番なかったなあ」

『魔王が消えたなら問題はありませんよ、勇者(マスター)

「ま、そっか」


 今後の出張案件が少なくなると手当も減るからアレだけど、忙しくなくなるのはいいかもしれない。


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