表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さよなら、婚約者様  作者: 雨傘 はる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/8

視線の先には

よろしくお願いします。


アデイラ・デミトリアスは、婚約者を溺愛する公爵令嬢である。


王弟の子であるクロードとの婚約は、五年前に遡る。

婚約が公表されて以来、アデイラは彼と他の女性が近づくことを極端に嫌い、あらゆる手段で排除してきた。


雑談を交わした令嬢を噴水に落としたこともあるし、クロードが腕を貸した令嬢のお茶に嘔吐剤を盛ったことも、ダンスを踊った令嬢のドレスを破ったこともある。


隠れた嫌がらせが主流の社交界で、アデイラは逃げも隠れもせず派手に立ち回る。

それは話題性があり、相手への攻撃性と同時に、アデイラへの瑕疵にもなった。


アデイラ自身、スタイル抜群の美女である。

加えて、醜聞を厭わない苛烈さと、周囲を黙らせるだけの権力を持っているため、わざわざ敵に回そうという者は激減した。


かといって、二人は親しい様子を見せるわけでもないため、アデイラの一方的な恋慕というのが社交界での認識だった。


実際、クロードからの手紙や贈り物は、ほとんどない。

夜会へのエスコートはしても、会場入りするとすぐにクロードは紳士たちとの交流に向かい、アデイラを放置する。

ダンスを踊ることも、談笑することもない。


二人の婚約は、アデイラがクロードの容姿を気に入ったため、というのが主流の噂だ。

事実かどうかなど、周囲には関係のないこと。もしかしたら、クロード自身もそう認識しているのかもしれない。


実際は、二人の父同士が幼馴染の親友であったため、息子を案じたクロードの父から申し出たものだ。

家格的にも年齢的にも、彼女以上の適任がいなかったため、本人たちの意思は除外されて決定した。


とはいえ、アデイラが婚約者の容姿を気に入ったのは事実。

彼女は最初から前のめりにアプローチしていたが、クロードの方は一切の興味を示さなかった。


執着心が強く、物事の好みがはっきりしており、口も行動も強いアデイラ。

基本的に物静かで、言葉も少なく至って穏やかなクロードとの相性は、いいとは言えなかった。


アデイラが好きなのはクロードの見目だ。

もちろん中身も好ましいが、寡黙な相手に言葉を尽くすより、見目を鑑賞する方を好んでいた。


クロードも、派手に立ち回るアデイラを諌めたり拒否するでもない。

ただ、ひたすら無関心を貫いていた。


「……ああ。そういうこと」


ガツンと額を殴られたような衝撃に、呻きながらアデイラは震える声を漏らした。


隣には、愛しいクロードの端正な横顔。

見ている者の胸が軋むような切なさと、焦がれてやまない哀れな憧憬とが複雑に入り交じる淡灰色の瞳を、為す術もなく眺めた。


彼の視線の先にいるのは、隣国から留学してきた王女殿下。

王族たちとは幼い頃から交流があり、現在は王宮に部屋を与えられ、社交界や王宮で学ぶ愛らしい姫君である。


ふわっと柔らかいのに、賢く頭の回転が早く、どこへ行っても場の中心になる。

アデイラは、挨拶程度しか交わしたことがないが。


ただ、既婚者である王太子以外の王子や、傍系の王族との婚姻が目的では、という噂は最初からあった。

年頃の姫が留学する理由など、たいてい婚姻相手を探すためだ。


クロードには自分がいるからと、今までは気にも留めていなかった。けれど。

ぐらっと揺れた視界に足をふらつかせるも、クロードは気づかない。


婚約してこれまで、クロードがどれほど無関心でも、こんなに動揺したことはない。

それはたぶん、素っ気ないながらも、彼によそ見をする素振りがなかったから。


────殿下には、想い人がいたのだわ……。


これまでは、目の前にいなかっただけで。

もしかしたら、ずっと昔からそうで、だからアデイラとの婚約も受け入れがたかったのかもしれない。


なぜだろう。こんな時、怒り狂って無理やり視線をこちらに向けさせるのが、アデイラだったのに。

ひたすら胸が痛んで、どうにも身体が動かない。


「……そう、なのね」


これが、恐怖か。恐れなのか。今までのアデイラが、誰にも何にも感じたことのない。

まさかクロードに与えられる最初のものがそれだとは、想像だにしなかった。


たとえ歪んでいても、間違いなく最愛と呼べるはずの男から、アデイラは初めて目を背けた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ