6.呪いの魔女
「ぶ、無礼な。お前、産まれたばかりの妹に何を言うのだ!」
アリシア侯爵が青筋を立ててレゼフィーヌを怒鳴る。
「だって」
レゼフィーヌが戸惑っていると、どこからか声がした。
『大丈夫よ。私が十六歳まであの赤ん坊を守ってあげるわ』
先ほどレゼフィーヌが召喚した薔薇の精霊の声だ。
レゼフィーヌはその声を聴いてひらめいた。
(そうだ。精霊の力で守ってもらえばいいんだ)
「受け取って。これで赤ちゃんは十六歳までの命になるわ」
レゼフィーヌは精霊を赤ん坊に投げつけた。
「眩しい!」
「何だこの光は!」
周りの人々が口々に言い、目を抑える。
(良かった。これで赤ちゃんの命は助かったはず)
レゼフィーヌはほっと胸をなでおろした。
だけど周りの人々は勘違いしたままだ。
「何かを投げつけたぞ」
「呪いの魔法か!?」
「あの魔女をひっ捕らえよ!」
レゼフィーヌは首を傾げる。
どうして精霊魔法が呪いになるのだろう。
もしかしてこの人たちは光魔法と闇魔法の違いも分からないのだろうか。
「誰か、この者をひっ捕らえよ」
アリシア侯爵の声に、護衛の兵士がレゼフィーヌの腕をつかむ。
「この呪いの魔女を外につまみ出せ!」
どうしてだろう。
自分は赤ちゃんを――妹を助けようとしただけなのに。
だけれどもレゼフィーヌは弁解をする暇もなく護衛の兵士に体を引きずられ、大広間から退場した。
***
「何ということだ。こともあろうに妹に呪いをかけるとは!」
壁に穴が開きそうなほどの怒号が城にこだまする。
パーティーの後、レゼフィーヌは父親の部屋に呼びつけられ説教をされていた。
「別に私が呪いをかけたわけじゃないわ」
レゼフィーヌは慌てて弁解をした。
「でも赤ちゃんは本当に何かに憑かれてるの。黒いもやみたいなのが『赤ちゃんは死ぬ』って言ってた。早く何とかしないと」
全く悪びれる様子のないレゼフィーヌの言葉に、アリシア侯爵は頭を抱える。
「くだらない魔女ごっこはやめるんだ、レゼ。ゼンも赤ちゃんに異常はなかったと言っているぞ」
アリシア侯爵の言葉に、横にいた白いローブの男も神妙な顔でうなずく。侯爵家お抱え魔導士のゼンだ。
「はい。あの後私もポーラ姫様を調べてみましたが、特に異常はありませんでした」
「それは私が精霊の加護を与えたおかげよ。もっとちゃんと調べれば――」
だがアリシア侯爵はレゼフィーヌの言葉を聞くことなく、逆に鋭い目つきで睨みつけた。
あのパーティーには国王陛下や政府要人、貴族たちをたくさん招いていた。
余計なことをして自分の顔に泥を塗ったと、アリシア侯爵は怒り心頭だった。
「今のところ姫の体調には変わりはなく子供のいたずらということで済まされたが、祝いの場を踏みにじった罪は重いぞ。よってレゼ」
「はい」
「お前にはしばらくの間、謹慎してもらう。いばらの森のエマ婦人の元で暮らすがよい」
「いばらのもり?」
レゼフィーヌは首を傾げた。
それがどこだかは分からなかったけど、森の中で暮らせと言っているのだけは分かった。
「そして――お前には後々シルム王太子殿下に嫁ぐ婚約者にと考えていたが、その役目は妹のリリイにさせるとする。妹に呪いをかけようとするお前のような娘を王太子殿下と婚約させるわけにはいかん」
自分の権威を傷つけた出来損ないの娘に、自分の決定を冷たく言い渡すアリシア侯爵。
一方のレゼフィーヌは王妃なんて堅苦しいことは最初から望んでいなかったので、一切落ちこむことなくすました顔で頭を下げた。
「分かりましたわ、お父様。私、森の中で暮らします」
父親の決定には納得はできなかったが、これから森の中で暮らせるのだと考えると胸が高鳴った。
「そ、そうか。分かったならそれでよい」
アリシア侯爵は、てっきりレゼフィーヌが泣いて許しを請うと思っていた。
もしそうなら許してやらんでもないと思っていたところ、本人があっさり承諾したので拍子抜けしてしまう。
「それでは私は荷造りがありますのでこれで失礼いたします」
レゼフィーヌはオホホと笑うと颯爽と部屋を出た。
ニマニマ笑うレゼフィーヌ。
――ああ、なんて素敵なんだろう。
森の中に住むだなんてまるで魔女みたいよ!




