4.パーティー潜入
レゼフィーヌが必死で魔法書を読み勉強に勤しんでいると、ドアが開いた。
「さ、レゼフィーヌ様、私とここでお留守番しましょうね」
入ってきたのは侍女のハンナだ。
ハンナが荷物からぬいぐるみや人形を取り出して猫なで声を出す。
「いえ、結構よ」
レゼフィーヌは冷たく拒絶すると、魔法書を閉じた。
代わりにクローゼットから真っ黒なワンピースに黒い魔女の帽子、それから杖を模した長い木の棒を取り出す。
「それより私と魔女ごっこしない?」
レゼフィーヌは鏡の前でくるりと回った。
この衣装はレゼフィーヌがいらなくなったドレスや帽子、古布を加工して作ったものだ。
子供が作ったものだから切り口はギザギザだし端はほつれてるが、それがまた魔女らしい味を出していて素敵だとレゼフィーヌは思っている。
「嫌ですよ。ああ、恐ろしい」
ハンナが身を震わせる。
レゼフィーヌは腰に手を当てて諭した。
「ハンナ、悪い魔女はごく一部なのよ。ほとんどは病人を助けたり干ばつが起きた場所に雨を降らせる良い魔女なの。だから怖がらなくても大丈夫!」
だがレゼフィーヌの熱弁にもかかわらず、ハンナは困った顔をして苦笑いを浮かべるばかりだ。
「そういえば、今日は誕生パーティーですから祝福の魔女が集まるんですよね。やだやだ恐ろしい。国王陛下も早くあんな風習早く無くせばいいのに」
ハンナが言う「風習」というのは、女子が産まれたら魔女が祝福の魔法を授けるというこの国に古くから伝わるしきたりのことだ。
レゼフィーヌが産まれた時も、魔女たちが集まって祝福を授けてくれている。
「そっか、そういえば今日は魔女を身近で見れるチャンスなんだ」
レゼフィーヌは海のように蒼い瞳を輝かせると、窓から身を乗り出し外を見た。
ちょうどタイミングよく、黒いドレスを着た魔女たちがぞろぞろと馬車から降りてくる。
わあ、魔女だあ。いいなあ。もっと近くで見れたらなぁ……。
魔女たちが城に入っていく様子を見届けたレゼフィーヌが部屋に視線を戻すと、ふと鏡台に紫色に光る指輪があるのが見えた。
「ん?」
レゼフィーヌは鏡台に駆け寄る。
ひょっとしたらこれは侯爵夫人の忘れ物ではないだろうか。
指輪を手に取った瞬間、レゼフィーヌの頭に妙案が浮かんだ。
(そうだ。この指輪をお継母様に届けに行ってあげよう)
指輪を届けたら、そのついでに魔女も近くで見られるかもしれない。
あくまでついで。それならきっと怒られないだろう。
「さ、レゼフィーヌ様、何をして遊びましょうか」
ハンナの問いに、レゼフィーヌはこっそりと指輪をポケットにしまい答えた。
「それじゃあ、かくれんぼをしましょう。ハンナが鬼ね」
「分かりました。いーち、にーい……」
ハンナがクローゼットのほうを向き、数字を数える。
レゼフィーヌは「まーだだよ」と言うと、こっそり部屋を抜け出しパーティー会場へと向かった。
パーティーが行われるのは城の一階の大広間だ。
レゼフィーヌははやる気持ちを抑えきれず、もつれる足もそのまままに、急いで螺旋階段を下りた。
レゼフィーヌが必死で走っていると、階段の下に見慣れた人影を見つけて慌てて身を隠す。
(あれは……国王陛下だわ)
ドキリと心臓が鳴る。
ここセレスト国の国王陛下はまだ年若いけれど、なめらかな銀髪と緑の目の美しい顔立ちをしており、遠目からでもかなり目を引く存在だ。
その横には、国王陛下と同じ銀の美しい髪と緑の瞳を持つ整った顔立ちの男の子がいた。第一王子のシルムだ。
シルムはレゼフィーヌよりも一歳年上で十一歳。
年も近く、レゼフィーヌの住む城にも何回か遊びに来たことがあったから知った顔だった。
婚約者なのだと嬉しそうに父親が話していたのをレゼフィーヌは覚えている。
レゼフィーヌにとっては年も近く、数少ない友達のうちの一人で嫌いな相手ではないが、結婚だなんてまだ何も考えたことはなかった。
レゼフィーヌがなりたいのは、お姫様でもお妃様でもなくて魔女なのだから。




