3.レゼフィーヌの野望
「そうそう、リリア。今日はポーラの誕生お披露目パーティーだから姉であるあなたもうんとおめかししなくちゃ」
侯爵夫人はピンクと水色の二着のドレスを出してくる。
「さ、リリア、どっちが似合うかしら」
どちらのドレスにも何層にも重ねられた繊細なレースが施されていて、まるで絵本に出てくる妖精のお姫様ようだ。
リリアがドレスを前に悩み始める。
「やだぁ、可愛い。どっちにしようかなぁ?」
「リリアならどっちも似合うわよ」
「そうよね。迷っちゃう!」
レゼフィーヌはその様子を見つめながら考える。
ドレスは二着あるから、先にリリアに選ばせて、余ったほうを自分に着せるに違いない。
いつもボロばかり着せられていたレゼフィーヌだったが、血は半分しかつながっていないとはいえ彼女ももリリアと同じくポーラの姉。
今日は王族をはじめとする大事な来賓もたくさん訪れるし、さすがに主役の姉にボロを着せるわけにはいかないだろう。
(リリアの燃えるような赤毛には寒色よりも暖色のドレスほうが似合うし、ピンクが好きだからきっとピンクを選ぶに違いないわ。そうしたら自分は水色のドレスを着ることになるのかしら)
なんてことを考えながらレゼフィーヌが二人を見つめていると、急に侯爵夫人は眉間にしわを寄せ顔をしかめた。
「何を見ているの、レゼフィーヌ。あなたには関係ないから早くどこかへ行って。あなたはここで荷物番をしてるのよ!」
侯爵夫人は野良犬か何かを追い払うかのように手を振り、レゼフィーヌを遠ざけた。
「さ、リリア。水色とピンク、どちらがいいかしら? 今日のために特別にしつらえたドレスよ。あなたは可愛いくて上品だからどちらも似合うわよね」
侯爵夫人は嬉しそうに二着のドレスをリリアに押し当てる。
(まさかパーティーにも出席させてもらえないだなんて)
さすがに驚いたレゼフィーヌだったが、いつものことだと気持ちを落ち着かせ、すぐに冷静になり、魔法書に向き直った。
別にパーティーなんて出なくても構わない。
レゼフィーヌは実際、綺麗なドレスにも宝石にも興味がなかった。こだわっていたのは母親の遺品だからだ。
本当に興味があるものは他にあった。
レゼフィーヌは手元にあった茶色い革表紙の魔法書をそっと撫でた。
レゼフィーヌが本当に興味を持っているもの――それは魔法だ。
「侯爵夫人、ポーラ様の準備が整いました」
リリアがピンクのドレスに着替え終わると、侍女が赤ん坊を抱いてやってきた。産まれたばかりの末娘、ポーラだ。
白いレースの服で丁寧にドレスアップされているポーラを見て、侯爵夫人の顔がぱあっと輝く。
「まあ、可愛い! ほらリリア、見てごらんなさい、まるで天使みたいよ」
「本当ね、お母様。ウフフ」
侍女の腕に抱かれた赤ちゃんを見てはしゃぐ侯爵夫人とリリア。
レゼフィーヌはすっかり蚊帳の外といった感じである。
「それじゃあ、私たちはパーティーに行ってくるから、アンタはここで大人しくしているのよ」
侯爵夫人が赤ちゃんを抱き、リリアと共にバタバタと部屋を出ていく。
「はい、いってらっしゃいませ」
レゼフィーヌは無理やり笑顔を作って三人を見送ると、再び魔法書に視線を落とした。
(別にかまわないわ。私はパーティーなんて全然興味ないんだから)
レゼフィーヌは、昔から本を読むのが好きだった。
お姫様に王子様、勇者に魔王。妖精に人魚。海賊やモンスター。 本の中には、狭い城の中とは違う自由で色鮮やかな世界が広がっていた。
本を読んでいる時だけは侯爵令嬢のレゼフィーヌとは違う自分になれた。
その中でも特にレゼフィーヌが好きなのは魔女の物語だった。
この国では、宮廷魔導士や騎士など魔法を使った職に就けるのは男性だけに限られる。
そこで魔法職に就けない女性たちはどうするかというと、普通は自分の力を隠して結婚したり普通の婦人として市中で働いたりしている。
しかし中には森にこもり、自分の工房を開いて魔法や怪しげな薬の研究をする人たちがいる。そのような女性たちのことを、この国では魔女と呼んでいる。
魔女たちは時には呪いや疫病を振りまくとして恐れられ、また時には病を治す妙薬を作ったり占いをしたりするとして敬られていた。
「はあ、魔女っていいなあ。森の中で暮らすだなんて、なんて素敵なんだろう」
レゼフィーヌは魔法書を抱きしめると、うっとりと天井を見上げた。
こんな狭い城で堅苦しい暮らしをするのはもうたくさん。
自分もいつか、魔女のように自由に魔法の研究をして暮らすんだ。
今はまだ十歳だから一人暮らしをするのは無理だけど、もっと大人になったら絶対に一人暮らしをして魔女になってやる、そうレゼフィーヌは考えていた。
そのために、レゼフィーヌは城の書庫にある魔法書や魔女に関する書物を読み漁っている。毎日魔法の鍛錬も欠かさない。
(今に見てるといいわ……)
今に立派な魔女になって、絶対に皆をあっと言わせてやるんだから!
レゼフィーヌの心はメラメラと燃えていた。




