13.再会
レゼフィーヌはユジに別れを告げると、足早に店を出た。
いつものように人気のない暗い獣の道を歩き、家路を急ぐ。
異変に気付いたのは、いばらの森に入ってすぐだった。
(この感じは――間違いない。誰かにつけられているわね)
背中にほんの少しだけど視線を感じたレゼフィーヌは、相手に悟られないように素早く口の中で呪文を唱え、気配の主を確認した。
体格の良い男が一人、こちらをうかがっているのが分かった。
(相手は軍人? それとも騎士かしら)
上手いこと気配を殺してはいるけれど、探知魔法に抵抗する結界は張っていない。
(魔法に対する知識はなさそうだから、魔導士ではないわね)
レゼフィーヌは考えこむ。
とすると、ユジがパン屋で言っていた貴族たちだろうか。
ユジの話では相手は二人組だったはずだけど――。
(まあ、いいわ。相手が一人だろうと二人だろうと関係ない)
レゼフィーヌはくるりと振り返ると、冷静な口調で言った。
「誰? 後をつけているのは分かっていてよ」
レゼフィーヌが鋭い視線で睨みつけると、がさりと草陰が揺れた。
ゆっくりとした足取りで出てきたのは、銀髪に緑の瞳の背の高い美丈夫だった。
「やあ」
のんきな顔で右手を上げる男性。
彼の顔を見た瞬間、レゼフィーヌの胸がドクリと大きな音を立てた。
(まさか……でもそんなはずない)
レゼフィーヌが困惑していると、銀髪の男性が口を開いた。
「もしかして君……レゼかい?」
「シルム……」
レゼフィーヌは低い声で呻くように呟いた。
(な……なぜシルムがこんなところに!?)
「やっぱりレゼだ。懐かしいな。僕のことを覚えていてくれたんだね」
銀髪の男性――シルムが嬉しさを隠しきれない様子で尋ねてくる。
「……ええ。そりゃ……」
忘れるはずはない。
レゼフィーヌの元婚約者で幼馴染――それにこの国の王太子のシルムのことを忘れられるはずなどない。
だが――。
(な……なんでこんなところにシルムがいるのよ! リリアと結婚したはずじゃなかったの!?)
レゼフィーヌの頭の中は、まるで嵐のように混乱していた。
動揺するレゼフィーヌをよそに、シルムは、嬉しそうに美しいエメラルドの瞳を輝かせた。
「驚いたな。まさかかの高名なガヒの森の『いばら姫』が君だとは!」
「いえ……そんなことよりシルム……」
レゼフィーヌは大きく深呼吸をして息を整えると、キッとシルムを睨みつけた。
「あなたこの国の王太子でしょう!? それがなんでこんなところにいるのよ!」
シルムは現在のこの国の国王陛下の長男で第一王子。
将来はこの国の国王になるべき存在だ。それがなぜ護衛もつけずにこんな田舎の森の中にいるのだろうか。
レゼフィーヌが婚約者ではなくなったあと、リリアと婚約したのではなかったのだろうか?
レゼフィーヌの問いに、シルムは少し無言になった後、こう切り出した。
「実は、これから国で大規模な魔法学園を作る計画があるんだ」
「魔法学園?」
今、ここセレスト王国は魔力を秘めた鉱石――魔鉱石の採掘で財を成している。
魔鉱石は魔道具を動かすのに使ったり、杖や剣の材料として使ったりする材料として用いられる貴重な鉱石で、その価値は極めて高い。
そのため魔鉱石が大量に取れるセレスト国は周辺の国に比べ豊かな暮らしができている。
しかしその埋蔵量には限りがあっていつかは枯渇してしまうと言われている。
「そこで、大きな魔法学園を作って魔導士や魔女を育成し、魔法をこの国の産業にしようと思っているんだ」
シルムは両手を大きく広げ、子供のように目を輝かせて説明をする。
「魔道士だけでなく魔女も?」
レゼフィーヌは身を乗り出すようにして尋ねた。
今まで魔道士を養成する学校はいくつか存在していたが、入れるのは男性のみで魔女を養成する学校は存在していなかった。
「ああ。今までみたいに男性だけでなく女性にも魔法教育を施せばこの国の魔法使いの数は劇的に増えて、魔法学も発展すると思わないかい」
「なるほど、確かにね。でもそれと私と何の関係があるの」
「僕に課せられた任務は各地の高名な魔導士や魔女を魔法学園の講師として引き抜いてくることなんだ」
シルムは説明する。
魔法学園の建設はかなり前から進められており、建物自体は間もなくできそうなのだが、問題なのは講師となる人材だ。
男女問わず入学することができる学園を作るということで、シルムは講師の何割かにも女性を登用しようと考えている。
この地に凄腕の魔女がいるという噂は王都にまで届いている。
そこで高名な『いばら姫』を新しく作る魔導学院の研究員として勧誘しようと、シルムはこの地までやってきたのだ。
どうやらシルムはレゼフィーヌを講師として王都に招こうと勧誘しているらしい、そうレゼフィーヌは解釈した。




