第88話「すれ違い悪役令嬢と、白衣の天使」
【Side: Elizabeth & Mia】
卒業式を明日に控えた、学園の夕暮れ。 私とミアは、誰もいない屋上庭園で、茜色に染まる王都の街並みを見下ろしていた。
「……本当に、終わったのね」
私は風に髪を揺らされながら、ポツリと呟いた。 前世でプレイした『聖女と薔薇の騎士たち』の物語は、明日で完全にエンディングを迎える。 悪役令嬢として断罪され、死ぬはずだった私が、こうして生き残って夕日を見ている。
「はい。終わりましたよ、お姉様」
ミアが、手すりに寄りかかりながら私を見て微笑んだ。
「魔王も、システムの強制力も、もうありません。これからは、誰かのためのシナリオじゃなくて、お姉様自身の人生を生きていいんです」
「……私の、人生」
私は自分の両手を見つめた。 これからはもう、死ぬためではなく、生きるために時間を使えるのだ。
「私ね、領地に戻ったら、新しい法律を作ろうと思うの。書斎で優雅に紅茶を飲みながら、領民のための完璧な法整備と医療制度を構築するわ」
「素晴らしいです! では私は、お姉様がデスクワークに耐えられるよう、毎朝の10キロマラソンと筋トレのメニューを組みますね! 執務室には特注のダンベルとサンドバッグも設置しておきます!」
「……は? 私は優雅に紅茶を飲むと言ったのよ。すでに最高級のふかふかなソファを発注済みなんだけれど」
「ふかふかなソファは腰を痛めます! すでに私がキャンセルして、バランスボールに変更しておきました!」
「勝手なことをしないでちょうだい!」
私たちは、夕日の中でピタリと動きを止めた。 そして、どちらからともなく、肩を震わせて吹き出してしまった。
「あははっ! ……ええ。本当に、呆れるくらい意見が合わないわね。見ている未来の方向が、ここまで見事に『すれ違う』なんて」
「ふふっ。でも、この意見の相違は、絶対に不幸には繋がりませんから」
ミアが私の手を取り、悪戯っぽく笑う。
「私は、お姉様の健康のためなら、これからも全力で追いかけ回してみせます」
「ええ。私も、貴女の理不尽な健康管理から全力で逃げ回りながら、最高の領地を作ってみせるわ」
私たちは固く手を握り合った。 根本的な価値観や、思い描く平和な日常の形は、相変わらず噛み合わないまま。 けれど、互いを大切に想うそのベクトルの強さだけは、完全に一致している。対等な、最高のバディとして。
「……かつては本気で『死刑』を望んでいた、哀れな悪役令嬢だったのだけれどね」
「私が『白衣の天使』である限り、お姉様のことは『絶対に死なせてくれません』から」
二人の笑い声が、夕暮れの空に溶けていく。 沈みゆく夕日が、私たちの影を長く伸ばし、一つに重ねていた。
悪役令嬢は死刑を望むが、白衣の天使が絶対に死なせてくれない。 そんな私たちの、騒がしくて愛おしいすれ違いの物語は、これからもずっと続いていくのだ。
卒業式を明日に控えた夕暮れの屋上。
これからは自分自身の人生を生きる……と優雅なデスクワークを夢見るエリザベートですが、ミアによって執務室のソファはバランスボールに変更され、毎朝10キロのマラソンが決定していました(笑)。
相変わらず価値観も日常の理想もすれ違ったまま。けれど、互いを大切に想う強さだけは完全に一致している、最高のバディ。
『悪役令嬢は死刑を望むが、白衣の天使が絶対に死なせてくれない』。
二人の騒がしくて愛おしいすれ違いの物語は、これからもずっと続いていきます!
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