第52話「確信」
【Side: Mia】
花束と子供たちに囲まれ、呆然と立ち尽くすエリザベート様。 その光景を高台の下から見上げながら、私の胸の中で、ある一つの「点」と「点」が、太くはっきりとした線で繋がった。
(……間違いないわ)
彼女は、ただの不器用な人ではない。 「本当は優しいけれど、素直になれないツンデレ」というだけでもない。
なぜ彼女は、あんなにも「誤解を招く言い方」しかできないのか? 普通に「堤防を作りました」「雇用を生み出します」と言えば、誰もが彼女を称賛する。 それなのに、わざわざ「搾取する」「利益を独占する」「パンがなければお菓子を食べろ」という、最も憎まれるであろう言葉を、あえて選んで口にしている。
その理由は、彼女の性格が悪いからではない。 **『そう言わなければならない制約』**があるからだ。
私の脳裏に、『真実版』の設定資料集の記述がフラッシュバックする。 『魔女の呪いに縛られた人柱は、自らの善意を口に出すことを禁じられる。彼女の言動は常に呪いによって歪められ、周囲から悪として認識されるように仕向けられる』
これだ。 今の彼女の状況に、完璧に合致する。 彼女は自分の意思で悪ぶっているのではない。ゲームのシステム(呪い)が、彼女に「悪役としてのセリフ」しか許容していないのだ。 だから彼女は、言葉で善意を伝えることができない。 代わりに、圧倒的な「結果(行動)」でしか、領民を守る手段を持たなかったのだ。
(なんて残酷な呪いなの……)
私は自分の口元を両手で覆った。 自分がどれだけ国を豊かにしても、民を救っても、口から出るのは傲慢な暴言だけ。 誰からも理解されず、嫌われ、憎まれるためだけに存在させられている。 先日のダンジョン実習で、魔物から私を庇った時もそうだった。 『獲物を横取りしたかっただけよ』と言いながら、その手は私を守るために血を流していた。
彼女は、世界のバッドエンドを防ぐために、一人でこの呪いと戦っているのだ。
「……見つけたわ」
私はポツリと呟いた。 これまでのすべての違和感。 彼女の顔色の悪さも、震える手も、教科書に書かれた『出ていけ』というSOSのサインも。 すべては、彼女が『真実版』の犠牲者(人柱)であるという、強烈な状況証拠。
もちろん、これはまだ私の推測(見立て)に過ぎない。 彼女の体内に本当に瘴気が封じ込められているという、物理的な検査結果(決定的な証拠)を得たわけではない。
(でも、それを証明できる日が必ず来るわ)
秋に行われる学園の重要行事、『聖女選定の儀』。 強大な聖なる光を浴びるその儀式で、もし彼女の体が光に対して物理的な「拒絶反応」を示せば……それこそが、彼女が体内に魔王の瘴気を宿しているという、言い逃れのできない確定診断になる。
それまでは、私のこの勘を信じて動く。 仮診断が下った。 対象:エリザベート・フォン・ローゼン。 病名:魔女のシステム(呪い)による重度の精神的・社会的孤立。 治療方針:私(聖女)による、完全なる肯定と保護。
もう、迷わない。 彼女がどれだけ酷い言葉を吐こうと、どれだけ私を拒絶しようと、それは彼女の本心ではない。呪いのせいだ。 なら、私が彼女の「翻訳機」になればいい。 彼女が悪ぶるたびに、私がその裏にある「優しい本音」を、世界中に向けて証明してみせる。
「エリザベート様!」
私は高台へと駆け上がり、花束に埋もれてフリーズしている彼女の腕を、ガシッと強く掴んだ。
「ひゃっ!? ミ、ミアさん? 何よ、急に……」
「素晴らしい演説でした! 貴女のその海よりも深い慈愛、このミア・ゼン・シャーカン、しかと受け止めました!」
私は満面の笑みで、彼女の目を見つめた。 エリザベート様はビクッと肩を震わせ、顔を真っ赤にした。
「なっ……! 慈愛って何よ! 私は搾取するって……!」
「はいはい、分かっていますよ。照れ隠しですね」
「照れてない! 私は本気で……!」
「ええ、本気で領民を愛していらっしゃるのですね。感動しました」
「あーもう! 話が通じない!」
彼女は私の手を振り払おうとしたが、私は絶対に離さなかった。
(逃がしませんよ、お姉様。貴女が背負っているその重たい荷物、今日から私が半分持ちますからね)
「さあ、領民の皆様が待っています! 笑顔で手を振ってあげてください!」
「嫌よ! なんで悪役の私が愛想よく……ちょ、腕を引っ張らないで!」
私は半ば強引に彼女の腕を上げさせ、広場の領民たちに向けて手を振らせた。
「おおーっ!」「領主様ー!」
という歓声がさらに大きくなる。 エリザベート様は「もう最悪……」と涙目で呟きながらも、領民たちからの純粋な好意を前に、どこか照れくさそうな、どうしていいか分からないような、人間らしい顔をしていた。
私はその横顔を見ながら、固く決意した。 この夏休みで、彼女の孤独を完全に終わらせる。 そして秋の『聖女選定の儀』で、彼女が背負っている真実を、私が必ず暴いて(証明して)みせる。 ゲームの強制力が彼女を殺そうとするなら、私が医療と愛の力で、そのシナリオを書き換えてみせる。 私たちの、本当の意味での「共闘」が、ここから始まるのだ。
【確定診断イベント「聖女選定の儀」まで──残り、90日】
エリザベートのツンデレ名君ぶりを見たミアの「超解釈フィルター」が、ついに一つの真理(?)に到達しました。
「悪ぶった言い方しかできないのは、魔女の呪い(システム)のせいなんだわ!」
エリザベートの不器用さを「システムによる言論統制」と解釈し、自ら翻訳機になることを決意するヒロイン。
「仮診断:魔女の呪い」「治療方針:完全なる肯定と保護」。
医療と愛の力でシナリオを書き換えるための、ミアの「主治医」としての覚悟がガンギマリした瞬間です。
※「ミアの解釈が斜め上すぎる(笑)」「ツンデレ=呪いは草」と楽しんでいただけましたら、ぜひページ下部からブックマーク・評価での応援をお願いいたします!




