第42話「追跡者の影」
【Side: Mia】
「……一人で別荘に引き籠もるですって!?」
私は王立学園の寮の自室で、思わず立ち上がって叫んでいた。 情報源は、帰省前にクラスメートたちが噂していた「公爵令嬢の夏の予定」だ。 なんでも、エリザベート様は美しい湖畔の別荘で、一ヶ月もの間、誰とも会わずに一人で静養するらしい。
「優雅な避暑ね」とクラスメートたちは羨ましがっていたが、私の脳内ではけたたましいエマージェンシー・コールが鳴り響いていた。
(ダメ! 絶対にダメ! 一人にするなんて危険すぎる!)
ただでさえ、彼女は「魔女のシステム」に精神を蝕まれ、事あるごとに自傷行為(自爆や魔力暴走)に走ろうとする危険な患者だ。 学園にいる間は、私が目を光らせていたから未然に(?)防げていたものの、誰も止める人がいない別荘で一人きりになったらどうなるか。
『私はここで消える運命なのよ……』と、孤独に耐えきれずに湖へ身を投げたり、一人で禁術に手を出して魔力回路を焼き切ったりするかもしれない。 一人きりの環境は、精神状態を悪化させる最大の要因だ。 うつ病や希死念慮を抱えた患者を、外界から隔離して放置するなど、医療過誤以外の何物でもない。
「私が行かなきゃ。私が、彼女の命を繋ぎ止めなきゃ……!」
だが、私は一介の男爵令嬢。 公爵家の、しかもプライベートな別荘に、何のアポもなく押し掛けることなど、身分制度が厳格なこの国では不可能に近い。 門前払いを食らうのがオチだ。
「……いいえ、私にはこれがあるわ!」
私は机の引き出しから、一枚の羊皮紙を取り出した。 それは先日、ダンジョン実習の直後にクリストファー殿下から直々に手渡されたものだ。 王家の紋章が輝く、『特別警戒対象者の保護および管理に関する王命』──という名目の、絶対通行手形。
殿下は『エリザベートには君のような存在が必要だ。何かあったら、この許可証を使いなさい』と、ひどく優しい、どこか尊いものを見るような生温かい瞳で私にこれを託してくれた。 きっと殿下も、彼女の孤独な戦いや心の危うさに気づいているのだ。だからこそ、私を「彼女の心のケア担当(精神科医)」として見込み、この絶対的な権限を与えてくれたに違いない。
「これさえあれば、公爵家の私兵だろうが別荘の管理人だろうが、私を止めることはできないわ」
私は素早く荷造りを開始した。 着替えはそこそこに、空間収納バッグ(マジックバッグ)の中に、ありったけの医療キット、各種ポーション、包帯、そして彼女の不摂生を正すための「特製栄養青汁パウダー」を詰め込んでいく。
彼女はきっと、私が来たら「帰れ! 出ていけ!」と怒り狂うだろう。 罵倒され、物を投げつけられるかもしれない。 それでも構わない。 彼女が世界を滅ぼす魔女になろうとも、私の命を狙おうとも、彼女が生きている限り、私は彼女の「専属医」であり続ける。
「待っていてください、お姉様。貴女の孤独なバカンスは、私が終わらせてみせますから」
決意に満ちた瞳で鞄の口を締め、私は王家の許可証を胸ポケットにねじ込んだ。 目指すは「静寂の湖畔」。 患者の命を救うための、強引な「訪問看護(夏休み出張編)」が、今幕を開けようとしていた。
一方のミア視点。エリザベートが別荘で一人になると聞き、医療者フィルターが「隔離による自傷行為(魔女化)の危険性大!」と緊急アラートを発令します。
殿下からもらった最強のカード(絶対通行手形)を胸に、医療キットと「特製青汁パウダー」を詰め込んで強襲訪問看護の準備は万端。
「貴女の孤独なバカンスは、私が終わらせてみせます」
……もはやヒロインのセリフではなく、凄腕のターミネーターか取り立て屋の凄みがあります。
※「ミアの行動力がカンストしてる」「青汁パウダーの圧(笑)」とクスッときた方は、ぜひ下部の星(☆☆☆)から評価をお願いいたします!




