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5 メモリ

 本多さんから頂いた『密室殺人の手ほどき~トリック図鑑~』を自室の本棚に飾る。

プレミア本があるってだけでいつも目にしているはずの本棚が華やかに見えた。

 「ありがたやぁ、ありがたやぁ」と手を合わせて拝む。


 星野一の本棚はとても整理整頓されていて、図書館のミステリーコーナーに負けず劣らずの品揃え。

ざっと二千冊はある。コナン・ドイルはもちろん。江戸川乱歩、東野圭吾、綾辻行人。ミステリー要素が含まれていれば漫画まで。

並べ方はきちんと作者の名前順。この置き方では本の大きさ(文庫やハードカバー)のがたつきが出来てしまうのだが一番しっくりときた。


 本棚から漫画『僕街』を手に取り、ベッドを椅子替わりにして座った。

やはり現状を考えるにタイムリープ物に生き残るヒントを得るのが最善だと思ったから。

死に戻り系ラノベも用意したいところではあるけどあいにく本棚にない。


 しかし心構えはするとして、あの【はじまりの事件】は本当に起こるのだろうか。

探偵小説の世界といえど、前世の世界とほとんど変わりはないように感じる。

だとするならばそう簡単に殺人事件など起こるはずは……と現実逃避してみるも「あれ?またフラグ立ててない?」と頭を抱えた。


 「容疑者はしぼっておいたほうがいいな」


 未来の女子高生探偵:遠藤奏多が推理してくれた容疑者の一覧。

確かに奏多の推理力は覚醒していない現状でも大したものではあるれど、俺の記憶が曖昧過ぎて【小説のあらすじだけで推理】だ。


 ならばどうする。知人みんなに事情聴取でもするか。

ダメだ。12月23日(土)(明日)から1月4日(木)まで冬休みに入ってしまう。

事件は1月6日の土曜日。みんなにまた会えるのは5日の金曜日のみ。


 とりあえず虫食いだらけの記憶を頼りに自分なりに整理しよう。


────────────


 Q.星野一に恨みを持っていそうな人物は?

 A.学校の全員とそれなりに親交はあるが、恨みを持たれるほど親密ではない。(遠藤兄妹は例外)


 Q.事件日(1月6日)に意味がある?

 A.検索しても関係してそうな出来事はないし、星野一の人生にとってもなにかあったとかはないはず。


 Q.事件現場(図書館)に意味がある?

 A.暇な時によく顔を出すけどこれといった出来事はない。


 Q.奏多が言うように自殺の可能性は?

 A.まったくない。【Xデーまでになんらかの悲劇が起きてその結論に至った】という可能性もない。


 Q.探偵小説であるなら容疑者はすでに物語の序盤に登場している。怪しい人物に心当たりは?

 A.そもそも僕が転生している時点でこれは【if(イフ)ストーリー】だ。探偵小説のセオリーは意味をなさないかも。


────────────


 もしもの世界線、【同人作品】と言ってもいい。

探偵小説のセオリーが適応されないのであれば『知らない人物が突然に事件の犯人に変貌』という展開になってもなんらおかしくない。


 「……考えるだけ無駄、か」


 なんとも凡人な俺らしい結論。


 本当にお手上げになったら妹を連れて叔母に会いに行こう。

流石に犯人も海外までは追いかけてこないだろうし。叔母はおっとりしてるように見えて柔道黒帯。


 事件回避のヒントを得ようと読み始めた漫画だったけど面白さが勝って、無心に読みふける。

 手に汗握る展開、魅力的なキャラクター、主人公が事件を阻止して被害者が助かったシーンには「良かったねぇ」と自分のことのように嬉しくて泣いてしまった。

 やはり事件の被害者に感情移入していまうのは【星野一】に転生した影響なのであろうか。


 「ふぅ。面白かった」


 満足して最終巻を閉じ本棚に戻す。


 「……ん?」


 ある些細なことが気になった。

星野一の本棚に【ミレニアムシリーズ】は『ドラゴン・タトゥーの女』しかない。しかも『上』のみ。


 シリーズ物の小説であったら1巻しか買ってなく、あまり自分の好きなミステリーではなかったから読むのをやめたなんてそう珍しいことではない。


 けれど作家スティーグ・ラーソンによって生み出された【ミレニアムシリーズ】は『ドラゴン・タトゥーの女』から『眠れる女と狂卓の騎士』までの三部作。続編三部作もあるが読み飽きるとしても旧三部作は読むはずだ。少なくとも探偵小説オタクを自負しているのであれば。


 そもそも奏多のお気に入りシリーズであるならばチェックしていてもおかしくない。


 気になって『ドラゴン・タトゥーの女【上】』を手に取る。

 ページをめくる。


 「なんだ。これ?」


 どうやら記憶の虫食いはかなり深刻なようだ。

 自分が小説の中身を削って物を隠せるようにしていたなんて知らなかった。


 小説の中にピッタリと納まったUSBメモリ。


男子高校生だから家族に見られたくない秘蔵の画像データか、はたまた小説サイトに投稿しようと考えている厨二病全開なファンタジー小説データか。


 色は赤とオレンジのちょうど真ん中あたり。

 容量は4GB(ギガバイト)。どうやら秘蔵フォルダではなさそうだ。そういった用途で使うのであるならば最低でも16GBは確保しておきたい(※人による)。


 なにより気になるのは手書きで【Happy(ハッピー)Birthday(バースデー)】と書かれていること。


 簡単に推理するのであればこの作品が好きな奏多へのプレゼントだろうけれど、確か誕生日は7月だから違う気もする。

 恥ずかしくて渡せなかったのか?恋する乙女じゃあるまいし……


 とりあえずパソコンに挿してみる。


 「げっ。パスワード設定してやがる」


 記憶喪失の俺ではとてもじゃないけど開けられそうにないから小説にはめ込み、本棚にすっと戻しておいた。


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