プロローグ
探偵小説における【はじまりの事件の被害者】。
主人公の説明にほとんど費やされるシリーズの一作目に命を落とす不遇な役所。
しかしその多くは探偵となる主人公の身近な人物や著名人である。
探偵の名を世間に知らしめる重要な事件であり、一般的だった主人公を探偵として開花させるエピソードであったりする。
良きミステリーには魅力的な探偵と犯人、そして被害者が付き物。
そもそも被害者がいなければ物語自体が始まらない。探偵や読者は彼・彼女らにもっと敬意を持つべきではなかろうか?
なにを脇役よりもギャラの少なそうな死体役に肩入れして、そんなに熱弁しているのかとお思いの事だろう。
鹿討帽を被った名探偵とドクターの助手。数学者の黒幕。そんな心躍るキャラクター達さえいたら被害者なんて誰であろうと関係ない。と言いたいのはよく分かる。実際の所、俺もそういった思想を持っていた探偵小説オタクだ。
それでも声を大にして伝えたい。
彼らも人間であり、生きる権利がある。
探偵小説の作者が好き勝手して良いものではない。
もう一度考え直して、【探偵小説の被害者達】が生き残れる世界線を用意して欲しい。
探偵小説には【日常の謎】という素晴らしいジャンルがあるではないか。今から方向転換しても遅くはない思う。
少なくとも『初恋探偵シリーズ』の【はじまりの事件の被害者】だけでも助けてはいただけないだろうか。
──俺は知っている。
俺、つまりは星野一が【はじまりの事件の被害者】であることを知っている。
これを「転生した」と言っていいのか疑問ではあるけれど、小説『初恋探偵シリーズ』の主人公であり女子高生探偵として名を轟かすことになる遠藤奏多の憧れの先輩=星野一になっていた。
突然と別人(初恋探偵シリーズを読破したことのある探偵小説オタク)としての記憶が蘇ったと表現しても良い。
どちらも正解で間違っているような気もするけど、「転生した」。やはりこの言葉が一番しっくりとくる。
前世で車に轢かれそうになった子供を助けようと飛び出したら自分だけ逃げ遅れ……気が付いたら別人として目覚めた。
鏡で自分の容姿を確認すると驚愕する。
前世と同じ点と言ったら髪の色と国籍くらいだろうか。
瞳の色は紫。少し冷たい印象を受けるものの知的な好青年といった具合だ。
線は細く、運動はあまり得意ではなさそう。つまり非力。外でスポーツをしているよりもテーブルゲームが似合う気がする。
「ほほう、これはなかなかに」なんて見惚れているのも束の間。
……あれ、俺って殺人事件の被害者じゃね?
急いでカレンダーを確認する。
冬休み含んだ2週間後の1月6日(土曜日)。
推定死亡時刻:19時00分頃。
事件現場:通っている高校の図書室。
『初恋探偵シリーズ』はじまりの事件。
他殺の可能性が高い密室事件にも関わらず遠藤奏多は事件を解決に導き、探偵としての才能を開花させた事件。の被害者が星野一であった。
イケメンに転生させてもらったと思ったら死ぬ運命でした。




