9話 宿命
ゴーン____
ゴーン____
夕空の下、塔の鐘の音が重く鳴り響いた……。
「只今より、罪人ヴェレーノアの処刑を開始する!!!」
騎士の声が響き渡り、民衆たちの視線はその奥に向けられた。
「ヴゥ……、ゥヴ…………」
うめき声をあげながら騎士二人に両脇を抱えられ連れてこられたヴェレーノアは、その茶色のような傷んだ髪を揺らしながら処刑台へあげられた。
(ウッ………)
呪いの影響かはわからないが、胸の奥がムカムカとする。
威厳を崩さぬために決して声には出さなかったが、お父様やセドには気づかれてしまったらしい。お父様は無言で私の手を握り、セドは侍女に冷たい水を用意するよう頼んでいた。
「お水です」
「ありがとう」
嫌悪感とともに水を流し込む。じんわりと広がる胸の冷たさに幾分か気分は落ち着いた。
処刑台の上を見ると髪を首が見えるほどまで切られたヴェレーノアが不敵に笑っているのが見えた。彼女は特別抵抗もせず、ただ笑い続けながら執行人によって断頭台に首をかけられた。
そして、運命の瞬間はあっさりとやってくる。
……お父様が片手を軽く上げた瞬間、執行人がロープを引いたかと思えば、スパンッとヴェレーノアの首は転がり落ちた。
(これで……終わった…………)
「この悪女がーー!!」
「クソ女!!」
「死んで当然だ!!」
住民たちの罵声が飛び交う中、私は席を立とうとした、だがその瞬間、背中に悪寒が走ったのだ……。
体を少し傾けた状態でバッとヴェレーノアの首が転がる処刑台を見やると、そこには先程まで反対側を向いていたヴェレーノアの頭部がこちらにグルンと回転し、まるで悪魔のように避けるほど口を開き、けたたましい笑い声を響かせた。
『キャハハハハハハハハハッ!!!』
「なんなの……アレは」
「落ち着くんだ!ティア!」
「ううっ!!」
金切り声が広場中に響き渡たり、私はあまりの不吉な空気に押しつぶされそうになる。
「ティア。アレは、悪魔だ…」
「悪魔……?」
「あぁ。昔、戦ったことがある。その時のヤツと特徴が重なる。別の個体だろうが、アレは間違いなく悪魔だ」
「だけど、何故こんなところに!?た、民は!」
観客たちはすでに、騎士たちの誘導によって、避難をし終わっていた。とりあえずは一安心ではあるが、このままだと近隣の民家に被害が出る。
「ティア、ここは危険だ。一旦下に降りるぞ」
そう言ってお父様は私を腕に抱え、櫓から飛び降りた。
着地すると私をそっと下ろし、すぐにヴェレーノアに向かって剣を構えた。
広場にはどこからともなく黒い霧立ち込め、断頭台付近でくるくると旋回している。
『風と水の精霊よ。大気を包み民を守る盾となれ結界!』
黒い霧を抑え込むように結界を張り閉じ込めはしたが一体あの霧が何なのかも分からない状況。
嫌な気配のせいで、少しでも気を抜けば吐いてしまいそうな程に気持ちが悪いが、私は足にしっかりと力を入れ、あたりを警戒する。
「断頭台のあの女ごと結界内に入れた」
「つまり、どこから何が来るかわからないから警戒しろと…」
「分かりきったことを述べるのは時間の無駄だ。探知魔法でわかっているだろうが、私達以外は完全に閉め出した。……何が来ても、絶対に生き残れ」
お父様の芯のある言葉に笑顔で頷いた。
「随分楽しそうだなぁ」
耳元でノイズが混じったような気味の悪い声が響いた。
「ッ!」
すかさず後ろに飛び退くが、視認できないほど早く動く黒い塊はこちらを追いかけてくる。
「付与魔法展開!移動速度上昇!動体視力上昇ッ!!」
普段は滅多に使うことのない付与魔法を移動しながら展開する。
黒い霧がまるで刃のような形になって飛んでくる。それを太ももに隠し持っていた短剣で受け止めながら跳ね返していく。
「ッ!さすがに短剣じゃ厳しい…」
【キャハハハッ!!!苦しめ!苦しむがいい!!神の娘よ!そなたが得た幸せの何倍もの絶望を噛みしめればよいのだっ!キャハハハハハハハハハ!!!】
黒い霧に包まれてお父様とは離れ離れになったが右側で剣で刃を弾く音が聞こえるからそのあたりにいるようだ。
短剣じゃ埒が明かない、と思い、私は右手を横に突き出して力強く詠唱した。
「空の精霊よ。空気を切り裂き、時を止めよ。民を守る剣を我が手に!」




