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冷酷王の愛娘  作者: 水無月 撫子
第四章 ティアと血塗られた花冠の儀
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    8話 断頭台へ

長らくお待たせいたしました。冷酷王、再始動です!


 私室を出た先に騎士の正装を身に纏ったセドがいた。


「本日もお綺麗です、ティア様」

「上手いこと言うのね、セルエド」

「本心ですよ。……さぁ、お手をどうぞ、我らが王太子殿下」


 差し出された手を取り、回廊を歩いて宮殿の入り口へ出る。


 四頭の白馬が引く純白の馬車は、正王族の(しるし)だ。

 その横に控える薔薇騎士(ローゼン・リッター)たちは、今日という日に一人の隊員も欠けることなく勢ぞろいしていた。


「「「我らが主君に栄光あれ!」」」


 統制の取れた美しい敬礼。薔薇騎士たちが握る剣につけられた宝石がキラリと光る。

 薔薇騎士たちは叙任される際、自身の剣に神石を埋め込み主君から直々に神力を注いでもらうのだ。

 騎士たちの神石には守りの加護が付与されており、自身の大切な騎士たちが死に面したとき、主の元へ飛ばされる仕組みだ。

 これは、影に渡している徴証と同じ役割を持つ。


「わたくしの騎士たちに神の祝福があらんことを」


 手のひらに神力を込め、騎士たちに祝福をかける。

 これをかけることで、些細な不運を避けることができたり、怪我をすることがなかったりする。

 決して強力なものではないが、王族が示す新愛の証のようなものだ。

 ちなみにお父様は一回もかけたことがないそうだ………。


 薔薇騎士たちだけではない。姿は見えないが、今もなお私のことを見守っている影たちにもかけておくことを忘れない。


 イシュアとは昨日の夜のうちに打ち合わせもしており、徴証も配布済みだ。


「参りましょう、ティア様」

「えぇ」


 セドと共に馬車に乗り込むと、薔薇騎士たちが周りを取り囲むように列をなした。


 全ての準備が整うと、御者の合図とともに馬車は王都広場に向けてゆっくりと動き出した。


 もちろん、目の前にはエスコート役のセドが座っている。


「ティア様、緊張されているんですか?」

「嫌だわ、セルエド卿。わたくしがこれしきの事で緊張するとでも?」


 威厳たっぷりに、かつ優美に微笑んで見せる。


 セドは驚いたように一瞬目を丸くしたが、すぐにいつもの笑顔に戻る。


「なんだか、昔を思い出したよ」


 懐かしそうに目を細めるセドに笑いかけ、会話をしているとすぐに王都広場へついてしまった。


 王都広場は、王城からまっすぐに降りた城下町にある広々とした場所だ。

 祭りの時期は広場を取り囲むように露店が立ち並び、中央に設置されている『愛の噴水』はリゼアイリアの観光スポットとしても有名だった。


 そして、今日もまた、王太子の母妃を殺した女の最期を一目見ようと多くの人々が集まっていた。


「……陛下はもうお着きになっているようですね」


 馬車の窓から外を見ると、広場に設置された壇上の横に群青色の薔薇が描かれた白い馬車が止まっていた。


「私はあそこから処刑台を見るのね」


 処刑台が一番はっきりと見える場所に、観覧席が設けられていた。まるで歌劇場の特別席のような場所に私は少し眉を寄せる。


「できれば、見たくないのに……」


「……俺が、マントで視界を隠してやろうか?」


 セドのいたずらっぽい声にハッと顔を上げる。


 目があった彼は、キザな男のように片目をパチンとつぶるとドヤ顔をしていた。


「ふはっ!あなた、そんなことをしたら陛下に殴り殺されるわよ」


「めちゃくちゃ痛そうだから勘弁してほしいな!いざとなればティア様に泣きつくから」


 自分の護衛が足元に縋り付いて泣いている姿を想像し、お腹の底から笑いがこみ上げてきた。


「口調が崩れているわよ、セルエド。さ、お姫様のご登場と行きましょうか」


 一歩先に馬車から降りたセドの手を取り、王族らしく、優雅に、美しく、そして華やかに馬車から降りる。

 まるで、今日という日が神々が贈られた祝福の日であるかのように。


「わーーー!王太子殿下ぁぁぁ!!」

「殿下ぁ!こっち向いてくださいーー!」

「きゃーーー!今日もお美しいわぁーー!」

「ねぇ、パパ!お姫様、可愛いね!」

「姫様がもうあんなに大きくなられて……。ほっほっ、時が過ぎるのは早いのう」


 老若男女問わず、多くの人々が私の登場に歓喜の声を上げる。

 民衆に笑顔を見せながら用意された席へと向かう。


 処刑台がよく見える位置に建てられた特設の豪華な物見台には、既にお父様が鎮座していた。


 よく見れば、お父様の目の下にはくっきりと隈ができていて、隠しきれぬ殺気が漏れている。後ろに控えるお父様の薔薇騎士でさえ、唇を噛み締めその威圧感に耐えていた。


「お父様」

「来たか。座りなさい」


 私は何も言わず隣に置かれた椅子に座る。


 これから一瞬で終わるであろう母の仇の処刑。憎々しいあの女の血で染まる断頭台をじっと見つめながら、私達二人は、運命の鐘の音が響くのを静かに待つのだった……。




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