7話 心の支え
遅くなりました。:゜(;´∩`;)゜:。
申し訳ございません!!!(土下座)
「呪い……」
「今やリゼアイリアだけでなく、ファンべルツィアの後継者と認められたお前は、人一倍、神々の祝福が強い。これに懲りたら無闇矢鱈に危険に首を突っ込むな。……いいな?」
「………はい、お父様」
軽率なことをした、そう思った。
今まで、自分の判断が正しくないことなどない、いつでも私は公正で的確な判断ができるのだと思いこんできた。
だが、そんなことがあるわけがないのだ。
人間は誰しも間違いを侵す。
今や私はその地位に胡座をかき、そんな当たり前のことすら忘れていたのか……。
愕然とした。自分が自分で情けない。
幼い頃に初めて戦場に立ち、多くの騎士を率いたことも数多くあった。
そんな中で命を落とす騎士は少なからずいたのだ。
私がどんなに強かろうと、救えぬ命は数多くあった。家族が、待っている人が沢山いたであろう彼らを……、私の判断一つで死に追いやったのだ。
戦争とは、多くの人間の命を奪う。私は、平和な世を謳い、机上の空論だけを述べ、綺麗事にまみれたその口で、自身の判断は絶対的に正しいと疑うことをしなかった。
最低だ。なんて、愚かなのか。
「ティア様?こんな所でどうした?」
ロズマリン宮殿の王城庭園にボーッと突っ立っていた私は、背後から声をかけられた。
ひどく安心する、柔らかい低音。
「……………アル」
「ひどい顔色だな。本当にどうしたんだ?」
「少し、自己嫌悪していた所なの。………騎士たちは、理想だけを語る私のことをどんな風に思っているのかしら……」
騎士団長に聞くことではなかったかもしれない。
アルの顔を見てみると、驚いた顔をしていた。
「……ティア様が、俺たち騎士のことをどう思ってるかは俺には分からないが、騎士たちのことを大切に思って、考えてくれていることをみんな知ってる」
「………」
「ティア様は騎士たちの誇りで目標だ。多くの騎士たちがティア様の背中を追いかけているんだ。騎士団長の俺なんかより、ずっと、人気がありますよ」
アルは、ニカッと笑ってみせた。
私の指導係をしていた頃と変わらない、なにも飾らないそんな笑顔。
「アル、最近、誰に何て言われたかは知らないけれど、あなたはあなたのままで良いのよ」
「………ティア様に近づきたい奴なら腐るほどいるんだよ。俺なんかよりよっぽど釣り合いの取れるやつも沢山控えてる」
アルは寂しそうに目を細めた。
「あなたは、そんな気持ちで最側近に名を連ねたの?」
「!?………どうしてそれを」
「それぞれの家門で既に後継者が決まったことくらい把握しているわ。………アル、これから先、何があっても私は『クロイツ』をアル以外に譲る気はないわよ。叙任式は明後日。よく考えて決めなさい。………それと、今日はありがとう」
それだけ言うとアルを振り返らず自室へ戻った。
部屋には、私のことを心配して待っていてくれたミオナがいた。
「ティア様!」
「心配かけてごめんなさい。今、帰ったわ」
安心させるように手を握ってあげるとミオナはホッと息をついた。
「本当に心配したんですからね!それから、そろそろ支度に取り掛からなければならない時間です」
そうして、大人しくミオナに付いて入浴やら着付けやらをされていった。
「ミオナ様。お飾りはどういたしますか?」
「そうねぇ。ティア様の威厳が際立つようなものが良いわね」
「それでしたら、このサファイアなどはいかがですか?」
「いえ!それよりもこっちのダイアモンドのほうが!」
順調に進んでいるようだったが、なぜだか、支度を手伝ってくれている侍女たちがお飾りをどれにするかで討論を始めてしまった。
お飾りなんてどれも同じような気がするけれど……。
「!そうだわ、ミオナ。アレがあるじゃない!」
「アレ………。もしかして、アレのことですか!?」
「えぇ、今日という日にピッタリではない?」
「すぐに取ってまいります!」
アレは、私にとって非常に思い出のある物である。
速攻で外に出ていったミオナは数分もしないうちに、ベルベットの箱を抱えて戻ってきた。
「ティア様、ご確認ください」
カパリと開けられた大きめの箱の中には、ネックレス、髪飾り、イヤリング、ブレスレットがきちんと整理されて仕舞われていた。
「まぁ、なんて美しいんでしょう……」
侍女たちが感嘆のため息をつく。
箱の中に仕舞われている装身具には、全て同じ宝石が使われていた。
「………これは、お母様の形見。エルフの瞳よ」
美しいルビーよりも遥かに濃い赤色の宝石。
ファンべルツィアの『王の印』を引くものであり、精霊と心を交わした精霊術師のみが生み出せる特別な精霊石。
この装飾品は、お母様が生前、お祖母様に習って作り上げたものだと聞いた。
ファンべルツィアの王城で保管されていたものを、以前、ファンべルツィアに訪問した際に譲り受けたのだ。
「精霊石には術者の強い思念が残っているの。あの女は、『精霊の呪い』を受けているからわたくしが近づくことはできないの。きっと、断頭台と用意された席の距離感でも具合が悪くなるわ。……国民の前で情けない姿は見せられない。お母様の残してくれたこのエルフの瞳があれば………」
「……大丈夫です。ティア様ならきっと立派に成し遂げて見せるはずです」
「そうです!ティア様!」
侍女たちがうんうん!と力強く頷き、私を励ます。
柄にもなく目頭が熱くなるような気がした。
「あぁ!ティア様、ないちゃダメですー!メイクが落ちちゃいますから!」
「あっ、そうだったわね!うっかりしてたわ」
そうして、最後のお飾りも無事につけ終わり、本日の装いは完璧になった。
毎度、女神のような王女に仕上げてくれる侍女の手腕には感服してしまう………。
今日は、喪を顕す黒いシックなドレスだ。派手な装飾はなく、胸元から腕にかけて黒い繊細なレースで覆われている。ふわりと広がるシフォンスカートには銀糸の刺繍が施されており、まるで晴天の星空のような仕上がりである。
肩には純白のマントをかけ、更にその上から重みのある金の飾緒を付けていく。
「ティア様、終わりました」
「………ありがとう。みんな。しっかりと見届けてくるわ」
「「「いってらっしゃいませ、ティア様」」」
皆に見送られ、私は部屋を出たのだった。




