小話 辺境伯と弟子からの手紙
「あんのやろう!!」
俺はウルセウス・グロッター。
リゼアイリア王国の南部を任されている辺境伯だ。
俺がグシャリと握りしめたそれは、淡い黄色の可愛らしくも上質な紙、手紙だ。
「一体何を騒いでいるんだい?」
「おぉ、リーシャ。」
扉を開け、執務室に入ってきたのは愛しの妻、エリゼリーシャ。
丁寧に結い上げられている赤紫色の髪に、キリリと凛々しい橙色の瞳。
男らしい勇ましさが漂う美女だ。
ちなみに、髪の色からわかる通り、彼女はクロイツの縁者だ。
よって、彼女は相当強い。
まぁ、そこに惚れたんだが。
「で?どうしたんだ。」
おおっと、すまない。
記憶が思い出の彼方に…。
っと、いかんぞ、これ以上は、リーシャが睨んできたからな。
「あ、あぁ、それが、ティアが動くようだ。」
「ティア様が!?動くと言えば、あれか?」
「…みたいだなぁ、さすがにバカが相手だからイラついてるみたいだけどな。」
「そうなのか。」
「そう言えば、オルセイムは元気そうだぞ?」
オルセイムは私たちの息子だ。
いつか、辺境伯を継ぐために騎士団で修行をしている。
腕は、確かにたつのだがなぁ…。
「書いてあるのか?」
「あぁ。頼むからどうにかしてくれ、とな。」
「ははは!!!いいぞ、それでこそ我が息子だ!!」
「全く、よりによってティアだぞ?高望みが過ぎるんだ。」
「そうか?いいと、思うがな。」
「そもそも、クロイツの人間はこれ、と決めた者から決して手を引かんからな。」
「まぁ、そうだな。アルバートのやつも存外焦っているのではないか?」
「…はは、はははは。」
可哀想に、アルバート。
乾いた笑いしか出てこんが、許せ。
「久々にティアが顔を出すようだ。」
「ほぅ、それじゃはじめるのかい?」
「みたいだな。」
「良かったじゃあないか!!久々に弟子に会えるぞ!!」
「うむ、まぁ確かに。」
ティアは俺が見てきた剣士の中で最も強い。
あの、紅の騎士団長よりも、冷酷王よりもはるかに強い。
だが、それを知っているのは俺と国王だけ。
ティアが王やアルバートに勝てるくらいの実力があることは近くにいる人間ならば気づくだろう。
だが、その本当の力は人間という基準をはるかに越える力、神力。
彼女には本来の力を出さないように薔薇乙女の指輪がつけられている。
薔薇乙女の指輪は王の女児に宿る神力を押さえる為のもの。
だが、現代まで神力を持った王女はティアと初代の一人娘だけ。
それは、国王によりひた隠しにされているため、俺だってそれ以上を知らない。
「辛いみたいだな。」
「……それが、国王となるものの宿命だ。」
「俺はな、つくづく思うぞ?王家に生まれずに良かったと。王とは孤独なものだ。血に染まり、隠された物事をつめた玉座には自分しか、座れない。王の血を引くそのもののみだ。」
「そうだな。いくら、最愛の伴侶がいようとも最終的に手放すことになるものも多くいた。」
「知ってるか?リーシャ。ティアが剣を握る前に呟く言葉。」
「いや?知らんな。」
それはな…
『血塗られた王には、血塗られた剣を。我が血の剣は国のためにありし。』
…だよ。




