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罪人の末路 Ⅰ

マーサる目線です!

「はぁ、はぁ、」


ちょうど広場で歓声が上がっているその時、サラルスは騒ぎに紛れて逃げ出していた。

その肥えた身体を揺らしてサラルスは必死に走る。

サラルスの身体を見る限り、この貴族は一切運動をしてこなかったことがわかる。

けれども現在、サラルスはどれだけ息を切らしていて、どれほど走る速度が落ちていても止まろうとはしなかった。

当たり前だろう。

何せ、いくら広場から隙を見て逃げだすことに成功したとはいえ、こんな場所にいたら直ぐに捕まる可能性がある。

そして、捕まれば自分がどうなるのかをサラルスは分かっているのだ。


「はぁ、はぁ、や、やったぞ!逃げられた!これで精霊の羽を売れば私は……」


けれども、サラルスはとある大きな木が生えている場所に来た瞬間、何故か走るのをやめた。

確かにここまでサラルスは走ってきたとはいえ、この場所は決して広場から大して距離は開いていない。

なら、何故ここでサラルスが止まったのか?


それはこの場所に自分の部下に馬車か何かで迎えに来るように言っていたからなのだろう。


その考えは勝手な想像でしかないが、けれども貴族の顔に浮かんでいる安堵の表情を見る限り、その想像は決して間違ったものではないだろう。


「……本当に逃げられると思っていたのか?」


そして、そのことを悟った私、マーサルと他の精霊達はここまで待った甲斐があったと、サラルスの上空で、憎悪のこもった笑みを浮かべた。


サラルスが広場から逃げ出そうとしていることに、私達精霊は直ぐに気づいていた。

けれども、私達はその場でサラルスを取り押さえなかった。


ーーー それは全て、助かったと思ったその瞬間に、サラルスを地獄に落とすために。


「ようやく、その顔を絶望で染められる」


その言葉を最後に私達は飛翔の魔術を解き、地面へと降り立つ。


「っ!お前達は……」


そして次の瞬間、地面に降り立った私達の姿に、貴族の顔には隠しきれない恐怖が浮かんだ……








◇◆◇








私達が何者かを認識したサラルス。

その途端に、その脂ぎった顔からは安堵の表情は消えた。

あるのは隠しきれない恐怖。


「わ、私は大貴族だぞ!私に危害を加えればアルタイラを敵に回すのと同義だぞ!」


……けれども、貴族はその恐怖を隠して私達へとそう叫んだ。


「……そんなものを、今更私達が気にするとでも?」


……しかし、その言葉に対しての私達の返答は嘲笑だった。

アルタイラと精霊の関係、それは確かに今までは尊いものだっただろう。

しかし、それは無に帰った。

確かに精霊達は、アルタイラの民衆やマサラルのような個人に対しては好印象を抱いている。


……けれども、もはや私達がアルタイラという国に対して信頼を抱くことはない。


それがどれほど危険なのかを、目の前の男から私達は学んだのだ。


「そういえば王子から伝言だ」


「えっ?」


……そしてそのことに怒りを抱いているのは私達だけではなかった。

何故かその私の言葉に希望を顔に浮かべた貴族。

その顔に私は王子から貰った許可証を投げつけた。


「っ!」


貴族は私のその行動に苛立ちを覚えたのか舌打ちを漏らす。

けれどもそんなことよりも手紙を確認するのが大切だと判断したのか、慌ただしく貴族は手紙を広げた。


「………う、嘘だ!」


ーーー そして、その簡易の許可証の中には、精霊達が貴族サラルスをどうしようがアルタイラは何ら関与しない、そう書かれていた。


第二王子に見捨てられた、そのことに貴族は呆然と許可証を眺める。


「言っておくが、それは当然の結果だからな?」


「ひぃ!?」


その貴族のまるで、こんなことは予想できていなかったとでもいうような態度に、流石に呆れて私はそう声をかける。

幾ら大貴族であろうが、最終的に国を傾きかけたのにもかかわらず、何故未だ捨てられないと思えたのか、謎でしかない。

その声に貴族は我に戻り、それから今の状況に気づいたのか、その顔から血の気が引いた。


「こ、殺さないでくれ!悪かった!謝るこの通りだ!」


そして次の瞬間、貴族は額を地面に擦りつけて謝罪し始めた。

何度も何度も、貴族は情けをこうかのように謝罪を繰り返す。

……それは、何も知らない人間が見れば心が痛む光景だっただろう。

貴族は幾ら超えているとは言え、かなり老齢で、そんな人間がこんな風に恥も外聞も捨て謝罪を繰り返す光景に心が痛まない人間などいないかもしれない。


ーーー だが、残念ながら私達がその姿を見て覚えたのは激しい怒りだけだった。


目の前の男がしたこと、それは幾ら謝られるようが消えるわけがなかった。

何せ、囚われの身になった精霊達は一度死にかけることさえあったらしい。

それを聞いて、目の前の貴族を許すことなどできるはずがなくて。


「殺しはしない」


「っ!」


……けれども、私達には貴族を殺す気は無かった。


その私の言葉に、貴族は驚愕に顔を染め、しかし次の瞬間何を勘違いしたのか得意げな笑みを浮かべる。

恐らく、自分の能力を評価して精霊達の下男にでもされると思っているのか。


「ーーー そんなあっさりと終わらしはしない」


「………え?」


だが、そんな程度で私達が貴族を許すわけがあり得るはずが無かった。


「お前は知っているか?精霊樹の存在を。その素材の一つに人間を生き埋めにして、延命させ、その苦痛を吸い取ることで作る方法があるのだが……」


と、敢えて私はそこで言葉を切る。

そして貴族の方に改めて目をやると、貴族は何を言われるのか、理解が出来なくなったのかその顔は笑みのまま固まっていた。


「お前、良い素材になりそうだな」


「ーーーーーぁあ!」


しかし、笑みとともに告げたその私の言葉に貴族は我に戻り逃げ出そうとする。


「ぅぁ」


「一生苦しめ屑」


けれども、その貴族の最後の抵抗は振り下ろされた私の手刀によってあっさりと潰えた。





……それから少しして、アルタイラではこんな教訓が伝わるようになる。

精霊は高潔で、慈悲深い種族だが決して怒らせるな。

特に彼らを傷つければ、精霊全体が報復に来る。



そしてそんな愚かなことをした男の末路、それはとある精霊樹に刻まれている、と………

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