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破戒聖女と処刑聖女のありがたい説法(ざまあ) 〜腹の底から「ごめんなさい」が聞こえませんが、まだ文句あんの?〜  作者: 水藤紗弥
第1章【古井戸の怨霊と豚男爵】 編

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ミリアさんのおざまぁタイムその1

◇◆◇


 トモエが飛び出していってから、わずか数分後。


「ちょっと! なんなんですかあなた、急に部屋に入ってきて……きゃあっ! 離してください! 誰か――」

「だって話しても信じてもらえないと思ってさ。いーじゃん、井戸までだし」


 トモエに腕を掴まれ、ずるずると地面を引きずられてきたのは、姉によく似た面影を持つ少女――ミリアの妹、ユリアだった。

 どうやらトモエは端っから交渉を諦めて、ユリアを引っ張ってきたらしい。

 強引すぎるが、これを予測できなかったユラハの落ち度とも言えるだろう。


 井戸の前に放り出されたユリアは、冷たい夜露に濡れた草の上で尻餅をつき、乱れた髪を押さえながらトモエを睨み上げようとする。

 だが、その視線の先に浮かぶ半透明の姉の姿を認めた瞬間、血の気がサーッと引いていった。


「ひっ……! 姉さん!? う、嘘でしょ……!?」

 ユリアは一瞬顔を真っ青にさせて震えたが、すぐに気を持ち直して、逆にトモエの手を掴み返した。

「あなたたち、姉さんの死をいたずらに弄ぼうとしているのね!? 許せない、姉さんを冒涜するなんて! どこの誰だか知らないけど、このことは父と男爵様に報告させてもらいますから!」

 しかし、トモエはふんっと鼻を鳴らしただけで、動じる気配はない。

「どうやらあんたにも、自分のお姉さんの姿が見えるみたいじゃん? うん、ならちょうどいい。ミリアが、どうしてもあんたに言いたいことがあるみたいなんだよね。腹割って心ゆくまで話し合いなよ」


 すると、ミリアの半透明な身体から、ドロリとした黒い怨念が噴き出す。

「ユリア……」

 ヒタッ、と一歩踏み出したミリア。生前は美しかったであろうその顔には、水に濡れた髪がべったりと張り付き、陰惨さが現れていた。


 目元すら半ばまで隠れており、前も見えづらいだろうに払いのける様子もない。

 幽霊だから見えづらいとか邪魔とかそんな感覚はないのか、あるいは鬱陶しくても憤怒が勝っているのか、とにかくミリアの様子には鬼気迫るものがあった。

 

「よくも、男爵様と……! 二人を信じていたのに……! どうして? またいつものように人のものが欲しくて仕方がなかったの?」

「ち、ちがうの、姉さん……私、男爵様を断り切れず……」

 すっかり腰を抜かして震え上がる妹に、ユラハの冷ややかな声が突き刺さった。


「ミリアさんには男爵と二人でいちゃつきながら『愛し合っています』って言ったんじゃないんですか? 今度は『断り切れなかった』って、どういうこと? 保身にしてももうちょっとまともな謝罪とか思いつかなかったの?」

「思いついてたらリスクの方がでかいって分かってるし、最初っから払いのけるでしょ。あるいはよっぽどイケメンだったか……まあまあ、ミリア。ステイステイ」

 トモエがツッコミを入れつつ、すっかり怯えきったユリアの前に立ってミリアの突撃を軽く手で牽制する。


「……ユリアァ……! いつもいつも、人のものばかり欲しがって……わがままを言っても許される特別な存在だと、そうやって思い上がってきたのね。そんな浅ましい性根で、わたくしを死に追いやった罪まで口先だけで許してもらえると思っていたなんて……もう、絶対にユルサナイ……!」

「ひっ……ひぃ、姉さん、ごめんなさい、ごめんなさいぃっ……お願い、許して」


 腰が抜けたまま、尻で地面を擦るようにして後ずさるユリア。

 大粒の涙を流しつつ、何度も何度も、念仏のように『ごめんなさい』を呟いて、ミリアの溜飲を下げようとしているようだ。


「謝って済むなら悪役令嬢のカテゴリはここまで大人気にならないんですよ! ここからが大事なところなんだから黙ってお前は罪を受け入れろ!!」

「ちょっとユラ。何言ってんの? とにかくさ、ミリアぶち切れてるしこのまま妹を道連れにしそうだけど」

 すると、ユラハはトモエの目を見つめながら首を横に振る。

「だめだよぉ~。一人で罰を受けるなんて、そんな優しいことさせないよ? 今からここに愛しの男爵も呼び出すから、トモエちゃん、手を貸してね!」

 優しい口調でとんでもないことをのたまっている。


「うっそ。顔も知らんのに? ていうか、呼び出すって……そんなことできんの?」

「トモエちゃんも水が浄化できるでしょ? やってみなくちゃわからない、って言ってたじゃないですか。奇跡の力でなんでもできるかな、って……。とにかく――オルアァァ、男爵ゥ! とっとと……出てこいやァ!」


 ユラハが高らかに怪しげな呪文――いや、もはや呪文ですらないただの煽り文句を叫び、トモエの手をぎゅっと握りしめて虚空へかざす。


 二人から青白い閃光が激しくスパークし、挙げた手から空に光が放たれた次の瞬間――ボトッ! と鈍い音を立てて、空間から何かが一瞬で落ちてきた。

お読みいただきありがとうございました!


おザマァタイムはもうちょっと続くんじゃ。

---


本作は毎日【18:10】に更新していきます。

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