⑪お友達ができました。
学園生活はなかなか刺激的で。
案の定、私は嫌がらせを受けている。
クラスは所属科に関わらず総合試験の成績順らしく、入学試験の成績が良かったお陰でアーチボルド様と同じクラスになった。
一般課程として全体で履修するものの他に、所属科独自の授業で学ぶ……という感じ。
それだけに、わかりやすい嫌がらせは淑女科の授業時間になると予想はしていたのだが。
「クームズ嬢、貴女はまだ姿勢がエレガントでないわね。 授業中は立っていなさい」
「はい」
意外にも嫌がらせは先生からだった。
陰口や嘲笑はあれど、他は今のところこれだけ。『教養』の講師であるバナマン先生の授業のみだ。
特に問題という程のことでもないので、とりあえず従っている。
「全く酷いですわ!」
ぷんすこと可愛らしく怒ってくれているチャーリー様を「まあまあ」と宥める。
ふたりの友人もできた。
どちらも淑女科でありながら、同じクラスの優等生である。
ひとりはアーチボルド様の友人のアリスター・ソーンダーズ子爵令息の婚約者、チャーリー・ダヴィッジ伯爵令嬢。
見た目は嫋やかな美少女だが、趣味が乗馬と弓射というなかなかのお転婆さん。
小説好きが高じ、ある作品のヒロインに憧れた結果だそうなので、見た目のイメージも強ち間違いでもない。
好みの方向性は違えど、歴史書から暗部や隠密に憧れて鍛錬した私とも気が合い、すぐに仲良くなった。
「ありがとうございます。 でもまあ大したことでもないですから」
健康自慢で田舎育ちの私は健脚。
別に数時間立ってたところで、どうということもない……なんなら立ってても寝れる人間である。流石に寝ないけど。
「得もしてますし問題ないですよ?」
「得? あら、なにかしら」
上品な仕草で小首を傾げるのはダイアナ・ジョンストーン侯爵令嬢。
ふたりめの友人である。
アーチボルド様とは『特に仲良くない幼馴染みのひとり』という関係らしく、そもそもは『番』の話を耳にして話し掛けてきたようだった。
楚々とした理知的な美少女の彼女だが実はミーハーな騎士好きで、一時王都騎士団にいた双子の兄達のファンのひとりらしく『やはり妹』と大歓喜。目的がスライドした。
普段はクールビューティーといった彼女の興奮した姿のお陰で、珍しい編入生であった筈の私の存在は霞んだが、それはそれで目立ちはした。
余談だが、意外にも地味な方であるエルドレッドのファンだそう。
──話を戻すと。
「講義中の座席は自由でしょう? 後ろで立ってるお陰で、同学年淑女科女性徒と派閥は凡そ把握できたと思います」
そんなわけで。
私にしてみれば特に問題はないのだが──
「マージ様ったら、まだ従うおつもりですの? しかもバンフィールド様にも仰らないだなんて……」
「なるほど」と微笑んでくれたダイアナ様と違い、チャーリー様はこの通り不満げ。
「『ざまぁ』は致しませんの? 私の放つ矢も唸りますわよ!」
彼女は案外好戦的らしく、弓を射る仕草でそう言う。
立たされてるだけなのに殺意が高過ぎる。
「やり過ぎは良くないわ、チャーリー。 『ざまぁ』は兎も角として、ね?」
淑女の笑みでそう言うダイアナ様の、最後の『ね?』に感じる圧。
おふたりは『ざまぁ』をご所望であらせられる模様。
高位貴族令嬢である彼女達に学ぶことは多いが、その全ての感情に共感を抱いたり、意見に賛同できるわけでもなく。
私の方はと言うと……
「怒ってくれるのは有難いんですが、正直『ざまぁ』には然程ノリ気じゃないんですよねぇ……」
「あら、どうして?」
母やチャーリー様に借りた小説のヒロインとは違い、私にはカタルシスとなるような不遇基盤がない。
生粋の田舎子爵令嬢である私は、傷つけられてどうのという矜恃や自尊心もないので、本当の窮地には他人に頼れるし、その相手も複数いる。
自己肯定感も高く、ついでに魔力量も多ければ精神も肉体もすこぶる健康だ。
甘いと言われればそうだが、どちらかというと、ざまぁされた側の今後の生活が気になってしまう。
「言ってしまえば弱者側は向こうなので、あまり強権を振るうのも気が引けるというか……」
特に困ってもいないだけに、理不尽に立たせた程度で職を失うとかになると、ちょっとなぁ……と思う。
「まあ! うふふ」
「強者の余裕ってワケですわね」
割と不遜な言葉になったかな~と思ったけれど、なんかふたりにはウケたらしい。
だが、ダイアナ様はこう苦言も呈してくれた。
「貴女が困ってないのは結構。 でもねマージ、外聞や体面は大事だわ」
「! 確かに……」
(ウチや私は兎も角、バンフィールドやアーチボルド様の顔に泥を塗るのはマズいか……)
そのあたりの自覚があまりないだけに、こういう言葉は大変助かる。
考えてみれば、あまり放置して余計に酷くなれば結局『ざまぁ』は酷いものになりそうだし。
「では私なりに対処してみます」
「私も力になりますわ!」
「いえ、お気遣いなく。 バナマン先生から立たせる理由を奪うのは簡単ですし」
「あら、簡単なの?」
「はい」
「マージ様、なにをなさるおつもりですの?」
ふたりは興味津々だが、そんなに大したことをするつもりでもない。
『ざまぁ』をご所望のふたりは聞いたらガッカリするんじゃないかな~、と思いつつも話すと何故か大ウケで、バナマン先生のところに一緒についてくることになってしまった。




