なんなら軽くつねってみてもいいですよ?
どなたか評価ありがとうございます。嬉しいです。
「……って国外に追放されて無法者となってるじゃないですか」
そんなの撒き散らすなんてめっちゃ迷惑な集団じゃん。
サザンドリアが責任を持ってなんとかしろよ!
「山賊が活性化し始めたのは、魔王が討伐されてから大半の国が軍備を緩めていた時期です」
各国は山賊の討伐をしたいけど、既に軍は解体している。城の護衛には問題はないだろうが、少ない軍では地方の村が襲われるのを保護するのが難しくなっていたといいう。
「サザンドリアはその山賊を粛清するために、軍隊の派遣を行いました。それは甘言でしたでしょうね。勿論、他の国はその山賊がサザンドリアから遣わされているものだと知りません。いえ、どうでしょう。知っていてなおそこに頼らざるをえなかったのでしょうね」
……なんだ。良い国じゃないか。
といっても自分で蒔いた種を収穫するだけなんだろうけど。
「なら安心じゃないですか。その国が悪いんですし。その国に始末をさせましょう」
「勿論、サザンドリアはその山賊が自分達の元兵士だなんて口が裂けても言わないでしょう。だからこそ、その山賊退治の見返りを要求してきます」
現にドク城を訪れたサザンドリア大使は、その見返りをどれだけ貰えるかという交渉だったという。
「なんだか虫が良い話ですね」
結局その国の騒動に巻き込まれているだけだというのに。それでお金でもたくさんふんだくるつもりなんだろう。
「その交換条件は、山賊の討伐が終わるまでの軍隊の維持と収容です」
「……意外に悪くはないじゃないですか」
つまりは兵士にご飯を食べさせたり、布団を用意させたりっていうことだろう。それだけで山賊がいなくなるのであれば、まぁ最低限な落としどころというかそんな気もするけど。
「外交の初心者であるリリス様に分かりやすく、噛み砕いた表現にしましょうか」
「え、あ、はい」
そんな呆れたような顔をしなくてもいいじゃん。
私はそんな外交官とかじゃないんだから全然わかんないし、今だってこの会話にギリギリついてこれてる感じだし。
「山賊の討伐が終わるなんていうのは明確な定義づけがされていません。つまり、難癖をつけられてしまえばいつまでも居座ることが可能でしょう。更に自国ではない軍隊を常駐させてしまうというのは、仮にその国と戦争が始まったとすると、喉元にナイフを突きつけられている状態ではじめることと同義です」
つまりは維持するのにお金の掛かる爆弾を大事に抱えさせられている、とクローディアは説明をした。
その爆弾が爆発するもしないも、全てはサザンドリア次第なのだと。
「……恐ろしいですね」
「この持ちかけを聞いたときに我が城主様は、近々サザンドリアとの戦争は避けられないと覚悟し、軍備を強化しはじめました。しかし……」
山賊に頭を悩ませ、サザンドリアとの埋まらない軍事力に頭を悩ませて、という訳なのだろう。
結論としてドク城の城主はサザンドリア大使の持ちかけには乗らなかった。
それがきっかけでますます多くの山賊をドク領地に寄越すかもしれない。気に食わないこの城主の暗殺を企ててくるかもしれない。
だからこそ、城主は身を隠すことになったという。
「なるほど。色々と事情は分かりました」
どうして国の兵士ではなく、たかだか村人が山賊の見回りをしていたのか。
そしてこの国の兵士達がどことなくぴりぴりしているのか。
「そこで……リリス様のお力をお貸しいただければと思いますが……どうでしょうか。リリス様お一人の力でそこらの騎兵100人分に相当すると考えております。またかの伝説の僧侶様が軍に加わっていただけるだけでも軍の士気があがるというものです!」
「んー……」
いや、高く評価されているのは素直に嬉しいんだけど。
私の中で答えは決まっている。
「それってあれですよね。勇者にも頼んだんですよね」
「記録には残しておりませんが、そのはずです」
「なら私が今から言う答えも勇者と同じですかねー」
勇者ならきっとこう言ったことだろう。
「いやです」
「…………」
クローディアは口をぽかんと開けて、しばらく動かなくなっていた。
それからハッと何かに気付いた。
「そ、そうですよね! 失礼致しました! 確かにリリス様にとってのメリットがありませんよね。報酬ならそれなりの額を用意致します。また在軍中は厚遇いたしますのでぜひとも!」
すがる様にリリスの両手を握り締めるクローディア。それを見て心を痛めていないリリスではなかった。
「うーん、確かに不憫だとは思います。サザンドリアって国が悪いとも思います。それでも私達はどこかの国に肩入れする予定はないんです」
「な、なぜですか!」
「別にサザンドリアの兵士が悪いわけでもないですし、ドク城が正しいとも思わないからです」
「っ、そ、それなら少しの期間だけでもいいんです! お願いします!」
……、ふぅ。
あまり言いたくないんだけど。
リリスははぁ、とため息をひとつついてから、真摯にクローディアと向き合った。
「無礼が過ぎるのではないですか。私はかの地にて洗礼を受け、魔王討伐の任務を果たした大勇者を支えた伝説の僧侶ですよ。私達が社会的に負っている意味が分からないアナタではないと思いますけど」
一応、魔王討伐を果たした勇者を含む私達一行は伝説として語り継がれることとなっている。
その伝説の人物がどこかひとつの国に肩入れすることが、どんな意味をもたらすか。少なくともアンバランスをもたらすのは絶対だ。
だから私達は極力中立であることを義務付けられているのである。
ただ、自分で自分のことを伝説とか言うのは恥ずかしいので、あまり言わないようにしているのだけど。でもこうでも言わないと納得してくれなさそうだったから仕方がない。
「……やはりそうですか」
がっくりと肩を落とすクローディア。
最初から断られることは目に見えていたのだろう。落胆というよりも、やっぱりか、というニュアンスをどこか感じさせていた。
「その強い意志があったからこそ、アナタ達は最後まで魔王の討伐を完遂できたのでしょうね」
……そうかな。
ノーコメントで。
「うちの軍に来てくれれば、トマトも食べ放題なのになぁ」
クローディアは唇を突きつけながら、分かりやすい未練がましい台詞を述べる。
「かなり捨てがたいですけどね」
「ランタルトマトには美肌効果があるんですよ? 私のほっぺ触ってみますか? なんなら軽くつねってみてもいいですよ?」
クローディアはまるで妹に話しかけるような気さくさで、リリスに顔を近づけていた。
確かにそこにはシミとか肌荒れとか全く無関係の、温泉タマゴのような肌があった。
「…………、け、結構です」
まずい、本当にそれは捨てがたくなってしまう。
心が揺らいでしまう。
「いえ? 別にいいんですよ? 今からでも軍に入ってくれても」
顔を近づけてくるクローディア。
なんだろう、年齢とかは私と大差ないというはずなのに、このあふれ出るみずみずしさは。これがトマトの違いというのか。
「え、遠慮します!」
これ以上直視してしまうと、今度から鏡を見るのが怖くなってしまう。
リリスは分かりやすく視線をぷいっとそむけた。
……帰りにお土産として10個くらい買って帰ろう。




