分かります!
リリスは杖を取り出した。
もしかして既に手遅れかもしれない。
ここは敵の城の中であり、まんまとこの部屋まで誘導されていたのである。魔法を無効化するくらいの罠を張る時間はたくさんあったと言える。
「何が目的ですか」
リリスの刺々しい質問にもクローディアは素知らぬフリで答える。
「目的も何も……取り敢えずその杖をしまいましょう」
相手はあの上級魔法を封殺した使い手である。今更何が出来るのかわからないが、精一杯抵抗するつもりである。
「これでも修羅場はいくつも乗り越えてきたんです。そう簡単にやられてやりませんからね」
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・
クローディアが あらわれた!
リリスはマジックカウンターを となえた!
リリスの 目の前に 光の壁が 展開された!
クローディアは にこにこしている!
「…………え、何! 馬鹿にしてるの!?」
「馬鹿にするも何も、私には戦う気はありませんよ?」
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「ど、どういうこと?」
てっきり何かの陰謀に引っ掛けられたものだと思ってたんだけど。
私の勘違い?
「城主様はご健在であられますよ」
「え、だって答えられないって……」
「居場所をお教えすることはできません」
あぁ、そういう。
なんだ、もうてっきり城主をこの目の前の人が暗殺でもしたのかと思ったよ。1年間も訪問者がいないのは城主が殺されてるからとか、意味もなく推理しちゃったよ。
顔から火が出るほどの恥ずかしさを誤魔化すためにリリスはあはは、と笑っていた。
「にしてもどうして1年間も訪問者がいないの? 勇者はその期間の間にここを訪れてるはずだし、記録するのをやめたの?」
「……そうですね。全て順番にお話します。ただし、お約束がいくつかありますが……よろしいでしょうか?」
にこやかな相貌を崩して、クローディアは真面目な表情をしてみせた。
この人真面目な表情もするんだなぁ。でも結構演技派なところもあるからなぁ。
この真意をどう受け取ろうか悩んでいたリリスを無視してクローディアは、
「約束というのは、誰にも口外しないこと。そしてできれば我がドク城に協力してほしいという点です」
勝手に話を進めていた。なにこれ、強制イベントなの?
「山賊が最近増えているというのはご存知ですか?」
「そうですね。今朝丁度ホンモノの山賊を見てきましたよ」
「実はアレ、隣国から遣わされているんですよ」
「……は?」
山賊って普通の市民からモノを盗む人たちだよね? 悪い人たちってことだよね?
なに、近くに悪い人たちばかりで構成された悪い国でもあるのだろうか。
でもそんなのがあったら、各国で協力して討伐しているはずだ。それこそが魔王の城が辿った結末だし。
全体に対して都合の悪い存在であるならば、他の全体で協力して討伐されてしまうというのは自然のことだ。
「といっても証拠はありません。ただ、山賊の大半はサザンドリア国製のナイフや剣を持っていました。簡単に尋問したところ、ドク城の領地内で悪さをすればサザンドリア国からお金が支給されるだなんて馬鹿げたことを言っている輩もおりました」
…………。
もはや戦争じゃないですか。
というか戦争の一歩手前だ。このままでは本当に国同士の争いが始まってしまう。
「でも、それが本当とは限らないでしょ? それにサザンドリアも損しかしないじゃないですか」
ただの山賊の妄言という可能性だって全然あるし。
それに山賊を派遣して何のいいことがあるのか。
「……サザンドリアは軍事に多く費用を投資しており、莫大な軍力を抱えております」
「えっと、兵士がいっぱいいるってことですよね? 確かにあそこは魔王の討伐に一番力を入れていましたね」
なんかバトルトーナメントなんて名目で兵士達を戦わせて、兵士達の質を上げているとか。上位に入賞すればそれなりの金額が支給されるし、こぞってサザンドリア国の兵士を志願する人達が多かったと聞いている。
勇者が飛び入りで参加し、優勝をもぎ取っていったのは良い思い出だ。
「ですが魔王の討伐がなくなった今、サザンドリアは軍力を持て余しています」
「……まぁ平和ですからね」
強いて言うなら各地に残っている魔物の討伐とか、最近はびこっている山賊の処理とかに使うのかな?
「魔王が討伐された直後なんかは、魔物の残党を狩るのに使われていましたが、その機会も段々と減ってきてからは顕著になってきました」
そして残ったのは、軍に掛かる莫大な維持費と、膨大な数の兵士達。
きっとサザンドリアも頭を悩ましたことだろう。むしろ魔王の討伐に国力を注いでいた分、魔王を自分達以外の手で討伐されたくなかったことだろう。
「いや、でもフツーに解体すればいいんじゃないですかね」
「私も同意見です。そしてサザンドリアも同じことを思ったのでしょう。持て余していた兵士達にはある命令を与えてから、国外に追放しました」
命令? というか国外にやったの?
「ちょっと待って、どうしてそんな分かるんですか。もしかしてクローディアさんってそのサザンドリアから逃げ出してきた兵士とか言うつもりじゃないですよね?」
「私は生まれも育ちもドク城です。私の体の半分は美味しいランタルトマトで作られてますよ」
ランタルトマト。それはこの地域の有名な特産物である。
「あ、丁度私お昼バブルコ牛のランタルトマト煮食べました。すっげー美味しかったです」
「分かります! あれすごくおいしいんですよねぇ」
ってそうではなく、とクローディアは何か見えないものを他所に置くしぐさをしていた。
「ここ最近出没している山賊。彼らこそがサザンドリアの元軍人なんです」




