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あのね、それは幽霊のようなものなの。(後編)

 青は藍より出でて藍より葵だよ。


 てなわけで、今私と円ちゃんはゴーストガンの出所を調査中なの。

 この違法な銃器だけど、チワワとスカルマウスっていうギャングもどきに出回っててね。

 さっきチワワのメンバーを数人、肉片に変えた所。


「円ちゃん、この犬耳使えそうだね」


 チワワのメンバーは犬耳をつけていた。これがメンバーのシンボル。


 血だまりの中、拾い上げる。それは滴が垂れるほど、ぐっちょり赤く染まっていた。


「お、なんだ、姉御、私達もそれをつけるのか」


「メンバーは百を超えてるからね、上が全部把握してるかは微妙なところかな。うまくいけばすんなり溜まり場に潜入できるかもしれない」


腕を振って水分を飛ばす。ある程度乾いたら頭につけてみる。


「お、さすが姉御だ、すごく似合う、飼いたい感じだっ」


「うふふ、円ちゃんも良い感じだよ。今すぐ調教したいくらい」


 うまくいくといいね。

 どれ、早速拠点に向かおうか。



 数分後、男が言ってたようにすぐ近くにそれはあったの。

 でも・・・・・・。


「さっそく乗り込むのだっ! 皆殺しでいいな? いいのな?」


 円ちゃんは鼻息をフンガフンガさせてたけど、私はまだ頷かない。


 チワワの溜まり場は、想像通りの汚い雑居ビル。


「う~ん、ちょっと待って。これ、どこかおかしいね。周囲に人の気配がまるでない。私達がさっきやったように意図的に人払いされてるかも」


 ここから確認できるのは、黒塗りの車が一台。

 さらにその先の路地までゆっくり進むと、さらに数台の車。

 配置的に見て、やはり・・・・・・。 


「う~む。こりゃ先客がいるかもね。となると考えられるのは一つか」


 なんとなく読めたけど、この先の私達の行動しだいでは事が大きくなりそう。

 でも、ここまできてお預けも嫌だよぉ。


「円ちゃん、私についてきて。そして何があっても先に動いちゃ駄目だよ、私の真似をしてればいいから」


「ういうい、よくわからないけどわかったのだ」


 私達は犬耳をつけたまま、さらに先へと足を踏み入れた。

 途中、黒塗りの車を抜ける。窓にはスモーク、こちらからは全く中が見えない。

 

 何事もなく通れたって事はやっぱりそうなんだね。


 選ばされていた・・・・・・か。


 入り口から階段を上る。

 中はゴミが散乱していて、壁や窓の損傷も激しい。


 神経を研ぎ澄まし。

 奥の部屋まで来た。


 確実にある気配。この時点では三人だけど。


 ごく自然を装って私達は中に入った。


 そこで最初に目に入ったのは拘束された犬耳が3匹。

 多分リーダーと幹部かな。


 で、それを取り囲んでいたのが。


「動くな、両手を挙げて、そのままこちらの指示に従え」


 銃や大型のナイフを持つ四人の女性達。

 瞬時に私達の頭に銃口が突きつけられる。


「こいつらもチワワか」

「ここに出入りするって事はそれなりのポジション」

「沙羅、どうする?」


 私達は銃を突きつけられ奥へと追いやられる。

 

 驚愕する仕草で、体を震わせてみる。 

腰を抜かしたようにその場にへたり込んだ。


「話を聞くのはこいつらだけで充分だ、つーわけでこの女らは殺しちゃえ」


 言動を聞き、顔を伏せながらも、すぐ動けるよう標準を合わせる。

 まず、沙羅とかいうリーダーっぽいのを最優先かな。その間に円ちゃんが残り二人の喉を裂いているはず。4人中2人が長物の銃を持ってるのが幸い。この狭い室内でそれを使うとは思えない。ナイフを使う私達が確実に早い。

 とはいえ相手はどうみても一般人ではない。仮に蛇苺ちゃんレベルだとすれば、先手すらかわされる。その時は逃走する事に全力を注ごう。虚を突く道具の用意はある。


「ちょっち、ちょっち、待ってくれい。どうせ殺すなら私にくれい」


 4人の中で一番小さい女が前に出てきた。唯一ナイフを持っていた子だね。

この寒い中、フードがついたノースリーズの服。髪はモフモフの白いヘアゴムで一つに纏めて、耳にはインカム。


「・・・・・・またか。ほどほどにしちゃえよ。私達はこいつら連れて先に戻っちゃうから」


 沙羅は短く溜息をついた後、他の2人、そして拘束されていたチワワのメンバーを連れて部屋を出て行った。


「三十分だけ、それまで閉鎖しといてくれい、終わったら連絡いれる」


 大きなナイフを反対の手の平でペチペチ叩きながら私達に近づいてくる。


「役得役得、この仕事、好きに殺せる、楽しめる、あぴゃぴゃぴゃ」


 やっぱり同業だったみたい。

 そしてその考え。


「激しく同意するよぉ」


 顔を上げる。目を見開く。交差し。呑みこみ。引きずり込む。

 

「・・・・・・は??」


 意識を支配し。

 数秒の猶予は。

 私達に充分な時間を与えた。


「あぴゃぁぁぁぁあああ」


 円ちゃんのナイフが、ニーソとスカートの間、その領域を抉る。

 沈んだ体、その顔目掛けて私は思いっきり蹴りつけた。

 女の体が吹っ飛ぶ。その時インカムも耳から外れ、宙に舞った。


 顎を狙ったからね。鉄入りの靴で打ち付けられたら脳は無事ではすまない。


 頭を押さえ意識は不十分、ふらつきながら上半身を必死で起こそうとする女に近づく。

 見下げ、頭の先からつま先まで全身を眺める。


「三十分で私達になにする気だったのかなぁ?」

「ちなみに、私達なら、あれだ、こうすると思うのだ」


 私達の手にはすでにナイフが。


「え、な・・・・・・に、なに・・・・・・や、やめて、やめてくれいいい」


 やっぱりこの子、私達と似てたね。

 これからどうなるかよく分かってる。



 三〇分後。



「姉御、次は私だな、じゃああれだ、366で」


「・・・・・・61だから、7だね」


 私は駒を摘まむと、七マス進めた。


「じゃあ私だね、えっと、245で」


「245・・・・・・えっと小さいやつから割っていって・・・・・・う~ん、5、7、7だから・・・・・・そのまま7なのだ」


 今度は円ちゃんが駒を掴んで進ませる。


「あっ! また振り出しだっ! さっきからずっとだっ! 姉御、さてはズルしてる、してるのだ!」


 ランダムで数字を出し合って、それを素因数分解。最後の数を進む数にする。2桁なら前後を足して一桁に。


「うふふ、とっさにそこまで計算できないよぉ」


 まぁ、公式を使えばすぐ出る数字もあるけどね。素数もある程度は頭に入ってるし。


「私の番だね、さぁ出して。終わったらコンビニで肉まんを買おう」


「わっ、肉まん食べたいのだっ、えっとじゃあ711にするのだ」


「・・・・・・79だから、14、さらに足して5。はい、ゴールっ!」


 駒を動かして、ぴったり5マス。


「うがぁ、やられたのだっ! 負けたのだっ! でも肉まん楽しみ」


 (あ~だこだ~だしたあれ)を、開いていた口に放り込む。


 (あれをこーして)  

  途中、森や丘を越えて、ようやくあがり。


「さて、帰ろうか。そこのインカム拾って」


「ん、これか、どうするのだ?」


 私は女のインカムを手渡されると、スイッチをつけた。


「あ、私、終わったから閉鎖を解いてくれい、そんで急な案件が入った、後は1人で戻るから撤退してくれい」


 そう伝えて、再びスイッチを切る。窓からそっと外を確認。配置されていた車が動き出した。

 結構微妙な考えだったけどうまくいったよ。


「わっ、姉御、この女にそっくりだっ、真似できるのはレンレンだけじゃなかった」


 うふふ、これ結構使えるんだよぉ。


「さ、戻るよ。今回は蓮華ちゃんにうまく使われちゃったなぁ、文句いってやらなきゃだよぉ」


 無作為に渡られた仕事だったけど、蓮華ちゃんは私達がこれを選ぶようにしてたね。

とにかく私達は人を殺したかった。随分お預けをくらっていたから。

 そこを突かれたね。

 目的はなんだろう、私達とさっきの連中を鉢合わせる事だろうけど。


 どこから蓮華ちゃんの描いたルートを歩いてたのか。

 学園潜入からかも、それよりさらに前の可能性も。



 肉まんを買って、蓮華ちゃんの元に戻った。


「あぁ、おかえりなさい。それはそうと、なんです、貴方達、あれですよ、他の情報機関からクレームが来てますよ、まさか手を出したんじゃないでしょうね」


 蓮華ちゃんは、怒った口調で私達に小言をいってきた。顔は少しにやけてるけど。


「よく言うよぉ。手を出させたんでしょ? 一体なにが目的かなぁ」


「えぇ? なんの事ですか。なにはともあれ、これで情報機関ガラティアと表だって敵対する事になっちゃったじゃないですかぁ。そうなるとこれはしょうがないです、降りかかる火の粉は振り払わないといけません」


 あぁ、そういう事ね。つまり蓮華ちゃんにとってそのガラティアってのが目障りだったのか。 前々から情報を横取りされてるって言ってたからね、多分そこなのかも。


「あ、貴方達もこっぴどくやられたって事になってますから。で、痛み分けとはいえ、あっちの被害が大きいので、手打ちをしてそれなりの情報を提供する事にしました」


 ふむ、抜き取られてるとはいえ、いつものは蓮華ちゃんにとっては取るに足りない情報だよね。ここで、重要なものが流れるのも不自然。だから提供という形を取りたかった。


 で、その情報は、相手にとって猛毒たりえる、と。


「差し支えなかったら教えて欲しいなぁ、蓮華ちゃんは一体どんな情報を与えたのかな?」


 私の質問に蓮華ちゃんはにっこり微笑んだ。

 そして、本当に愉快そうに、声を出す。


「ある日忽然と消えたレベルブレイカー。最重要特級指定の逃亡犯で、通称血深泥殺人鬼、ヴィセライーター、カリバさんの居場所です」


 それを聞いて思わずあの3人に同情しちゃったよぉ。

 たしか、おば様の経歴などは、完全に抹消、および凍結されてて、謎の情報規制もかかってる。彼女を追う者は例外なく姿をくらまし、これを捕まえたとなればかなり注目されるだろうね。


 しかし、まぁ蓮華ちゃんはやっぱり怒らすと怖いねぇ。


 まさか同じ国家の枠組みにいる一組織の存在自体を消そうとするなんて。


 それも椅子に座ったままだよ。


 深緑深層のマーダーマーダーはあれだね。


 ここまで付き合ってよくわかった。

 態度には出さないから気づきづらいけど、この子は案外怒りっぽい。

 この続きで恐怖の館編を書くかもです。

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