表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/167

なんか、息が白くなってきたみたい。

 葵円の話の途中ですが、リョナ子挟みます。

 深く息を吐き出して。

四角いステンレスの流しで手を洗う。

 透明の水の流れが赤く染まっていった。


 今日の仕事が終わる。

 手を拭いて携帯を確認すると着信を知らせるランプが点滅していた。



 従姉妹のナオちゃんからだ。

 今年結婚して、妊娠。出産予定日は今日であった。


「すごいね、本当にぴったりだ」


 病院に駆け込む。ナオちゃんは5歳年上。昔から仲良くて僕はこのお姉ちゃんの後ろをよくついて行っていた。

 僕に似て少し小柄なナオちゃん、産後の体調は大丈夫だったろうか。

 病室に入ると、その場が一気に温かい感じで包まれた。

 

 ナオちゃんの隣には小さな赤ちゃんがいて。それを優しい眼差しが囲んでいた。


「りっちゃん、来てくれたんだ」


「うん、何はともあれおめでとう! 体は大丈夫かな?」


 見た感じどちらも問題なさそう。赤ちゃんは目を開けていて、ナオちゃんの方を見ていた。 よく生まれたばかりは猿みたいだっていうけど本当だね。

 病室には旦那さんもいて、嬉しそうに微笑んでいた。

 赤ちゃんは3500グラムを越えてて生むのは大変だったみたい。ナオちゃんは二日間くらい頑張った。でもこうして元気に生まれてきてくれて本当に良かった。僕も嬉しいよ。


「りっちゃん、触ってみる?」

「う、うん」


 ほんの少し前に生まれた小さな命、僕は壊れ物に触るように恐る恐る手を伸ばしてのだけれど・・・・・・。

 

 ふと過ぎった。


 先ほどまで血に染まっていた僕の手で。

 この真っ白な命に触れて良いのか。


 穢れてしまうのでは。

 浸食するように。

 なにもかも真っ黒に。

 

 そう思い、僕の手が止まった。


「りっちゃん?」

「・・・・・・・・・・・・」


 そして、その手を僕は・・・・・・。



 数日後。

 今日も冷え切った仕事場で罪人を待つ。 


「・・・・・・・・・・・・」


 書類を確認、思わず机へ乱暴に叩き付けた。

 いけない、いけない、感情を動かしては駄目なのに。

 でも、タイミングが悪い。


「罪人、入ります」


 部屋に連れられてきたのは、まだ若い女の子。学生だった。

 罪状は、保護責任者遺棄致死罪。

 この子は、トイレで赤ちゃんを産んで、そして側溝に投げ捨てた。

 

 この凍えるような寒さの中、生まれてきた小さな命は、誰もいない汚水の中で消えていったのだ。


 女には目隠しをして両手を上に吊した。


「言いたい事はいっぱいあるけどね。このお仕事、それを言うのはあまりよくないとされている。だけど、一つだけはっきり言ってあげる」


 少女と向き合う。相手には僕は見えてはいない。


「君は人殺しだ」


 この子は若い。誰にも相談できなかった。どうしていいか分からない。相当悩んだだろう。その点に関しては、思うとこもある。妊娠したって事は相手がいるってことで。この子だけを責めるわけにはいかない。


「例え望まない妊娠で、中絶するしかない場合でも一時金や出産手当がでるはずだ。それに一度も検診をしないなんて、自分の体も危なくなる」


 少女は何も言わない。ただ体を震わせ泣いていた。


 罪人の衣服をはぎ取る。

 執行を始めよう。  


「本当は君にはもう子供を産んで欲しくない。でも、そうもいかない。だからせめて・・・・・・」


 〈躾け中〉



「い、いたっ、いた・・・・・・い、いいいたあ」


 勿論麻酔なんてしてないからね。そりゃ痛いだろう。

 縫合を終え、少女から離れた。

 その際、耳元で囁く。


「もしまた、ここに来るような事があったのなら・・・・・・次は赤々と熱した鉄の棒をねじ込むよ」


 書類には詳しく書いてなかったけど、相手の男は妊娠を知っていたのだろうか。知っていたのなら同罪だ。こういう場合は女の方が困るね、あっちはただ入れて出して終わり。だから、後先を深く考えないのかな。


 先日、皆の祝福を受け、愛情に包まれながら生まれてきた赤子を見た。

 そして、今日、極寒の中、汚く暗い場所でたった一人、その命を失った赤子を知った。


あぁ、なんだか、珍しく涙が出てきたよ。

 なんのために生まれてきたのだろう。

 それは、そんな場所で消えていくだけの命ではなかったはず。



 数日前。病室。

 僕は赤ん坊に触れようとしていた手を止めていた。


躊躇していた僕に、声がかかる。


「この子には、りっちゃんのように優しい子に育ってほしい。りっちゃんは昔からそう。道ばたで死んでた子猫の死体を、どかしてお墓を作って。みんな、可哀想と思っていても手を出そうとはしなかった。りっちゃんだけよ。すぐに動いたの。今でも覚えてる」


 止まっていた手が、その言葉で再びゆっくり動き出した。


「いいのかな。僕が触れても・・・・・・」


「うん、手に触れてあげて」


 小さな手が、僕の指を掴んだ。弱々しくも包んでくる。


 それを見下ろしながら。思い出す。そうだ、僕はこの子を、これから生まれてくる命も守っていかなくてはならない。 


これから悪意に満ちている世界で生きていくのだ。

 僕は、罪人に罰を与えて。二度と罪を犯さないように。

 見せしめによる、抑止力を。


 この手は穢れてはいるけれども。


 この子のためにさらに汚れてもいい。


 だから。


 明日も、明後日も。

 その先も。

 僕は。


 人を殺し続ける。

 本当は相手の男が、九相図、眼球ペアにボコボコにされるという後日談もあったですがカットしました。一応裏では顔を潰され報いは受けたという事で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ